3 / 3
街にニンゲンがやってきた!
しおりを挟むあたしラミ!種族は羊、花も恥じらう14歳の乙女よ!
さっそくだけどビックニュース!
なんとなんと街に新しくニンゲンがやってきたの!
そりゃ過去何人かニンゲンって見たことあるけど、実は私ニンゲンってあんまり好きじゃなかったの。
この街に過去住んでたニンゲンは二人。
一人はスペンサーさん。腰の曲がったおじいちゃん何だけどいつもよくわからない研究に没頭してた。悪い人じゃないと思うんだけどオドオドしてるのに眼だけはギョロギョロしてて私は苦手だった。そのスペンサーさんも三年前に亡くなっちゃった。
もう一人はアイシャさんという女の人。
ニンゲン用の住居を建て替えてる時に来た人で仕方なくこの街に滞在することになったみたいなんだけど、私達獣人を見るたびに悲鳴を上げて家に駆け込んじゃうから結局彼女の姿を見ることはほとんどなかった。それに街からもすぐにいなくなっちゃったの。
そうして久しぶりにこの街にやってきたのがキサキさんという名前の男の人。
このキサキさんという人、なんていうか、あの、すごく、素敵なの!
私、スペンサーさんとアイシャさんしか知らなかったからニンゲンという種族は細くて小さくてすぐ弱っちゃいそうなイメージだったんだけど、キサキさんは全然違った!
私のお父さん、というか草食種の獣人の皆よりも普通に背が高いし、作業着のツナギを着てても均整のとれたスタイルをしてるってことがわかる。
そして何より、顔がすっっっごくかっこいいの。なんていうのかしら?甘い顔立ちなんだけどセクシーっていうか、声も低くてちょっと掠れてて。今日なんか挨拶したら「おはよう。あれ?いつもとリボンの色違う?それも似合ってるな」だって!!そんなの言われた事ない!すてき!!!
今は自警団団長のアトラスさんの家にお世話になってるみたいだけど、うちの家で暮らしたりしてくれないかなあ。部屋だって余ってるし。そう思ってお母さんに提案してみたんだけど、
「あらあらそんなのアトラスさんが許さないわよ~」
「なんでえ?アトラスさんってお仕事忙しそうだしうちで暮らした方がキサキさんだって楽しいと思うのに」
「ふふふ。まあアンタもそのうちわかるわよお」
「ええー?」
お父さんにも聞いてみたけど「アアアアトラス団長に睨まれるようなことだけは勘弁してくれ!」と何故か怯えてて、取りつく島もなかった。
アトラスさんってかっこいいけど苦手。やだ、別に怒られたりした事があるわけじゃないのよ?
元々肉食種の人達は身体も声も大きくて苦手なんだけどその中でもアトラスさんは一番こわい。
自警団の団長さんだし、この街の治安維持はアトラスさんがいるから安心だって皆言ってる。それはわかるわ。だけどあんまりにも眼光が鋭いしその分迫力も凄くて、私達草食種が普通に関わるにはきっと難しい。多分お父さんもアトラスさんにビビってるのね。確かに凄まれたらそれだけで怖くて死んじゃうかも。
だから尚更キサキさんが心配!あんなにおっかないアトラスさんと二人で暮らしてるなんてキサキさんだって息がつまると思うの。二人って家でどんな会話してるのかしら?そもそも会話、あるの?どうしてもアトラスさんが和やかに人と話してる想像が出来ない。あ~気になるな~~!
そんなことを考えて過ごしていたら何と何とアトラスさんの家を訪ねるチャンスがやってきたの!
「ミートパイ焼き過ぎちゃったんだけどアトラスさんとキサキさん食べるかしら?お母さんちょっと差し入れしてみようかな」
お母さんの言葉に私はチャンスとばかりに手を挙げた。
「私持って行ってみる!キサキさんって夕方には帰ってるしこの時間ならもう家にいると思うわ!」
「アンタよく知ってるわね。まあいいわ、じゃあお願いね」
キャー!やった!もしかしたらキサキさんの私服姿が見れちゃうかも!
アトラスさんの家はうちの家から歩いて約15分くらい。逸る気持ちを抑えながらルンルンで歩いたらあっという間に到着!
それにしてもアトラスさんって元々一人暮らしなのに五人家族のうちん家よりずっと大きな家に住んでるのよね。これだけ大きな家だもの、もしかしたらキサキさんとアトラスさんはそんなに会話もなく食事とかも別々で生活してるのかも?下宿って言うの?わかんないけど。
ああでも今はそんなことより、早くパイを届けなきゃ!
ドキドキしながら恐る恐る呼び鈴を鳴らす。
だけど、誰も出て来る気配はない。
明かりは点いてるわよね?うーん大きな家だから、聞こえてないのかも。そ、それか、もしかしたらお風呂に入ってたりして!?キャー!!じゃなくて!
とにかく、ちょっと残念だけどもう一度呼び鈴鳴らして出て来なければ、置き手紙をしてパイは玄関の前に置いて帰ろうっと。
「キサキさ~ん、いませんか?私こばとの森二丁目のラミです!あの、お母さんがミートパイ焼き過ぎちゃって、お裾わけにきたんですけどー」
あんまり意味ないと思いながら呼び鈴と一緒に呼び掛けてみる。すると予想外に反応があった。
扉の向こうからガタタタッ!!ゴッ!ドタン!!!と大きな音がしたと思ったらガチャリとドアが開いた。んだけど……、
「ッ、ラミ?こんばんは。どうした、こんな時間に……」
出て来てくれたキサキさんに挨拶しようと思ったんだけど、私としたことが全く言葉が出て来なかった。なんていうか、キサキさんが、セ、セクシー過ぎて……
赤く染まった目許は泣く前みたいに潤んでるし、唇も濡れてていつもより艶々してる。それどころか肌もしっとりと上気してて、も、もしかして本当にお風呂に入ってたのかしら……サイズの大きなシャツを着てるせいで普段見えない鎖骨まで丸出しになってるし、って、あれ?虫刺され?あんなにたくさん?肌が弱いのかな、ん?キサキさんが着てるシャツの襟元の刺繍……これ自警団のシンボルマークよね?じゃあこのシャツはキサキさんのじゃなくて、
「オイ、お前奥入ってろ」
「アトラス」
「ひッ!」
いつもと様子が違うキサキさんを凝視していたら、突如キサキさんの後ろから大迫力のアトラスさんが現れて冗談抜きで呼吸が止まるかと思った。なんでもう帰ってるの!!早過ぎるわー!!
「何だ、ランプんとこの娘か?どうしたこんな時間に。家で何かあったのか?」
地を這うような低い声に今度は緊張で言葉が出て来ない。こここ怖!!!!はくはくと口を開閉させながらブルブルと震え出した私を見兼ねてか、アトラスさんを押し退けて再びキサキさんが前に出て来る。
「お前顔怖ェんだから出て来んなよ。ラミ、どうした?何か用があった?」
「あんだと?」
「その顔だっつの」
「あああああの、お母さんが、ミートパイ焼き過ぎちゃって……」
死ぬほど吃りながらカゴに入れたパイを差し出す。あ~んキサキさんの前でこんなみっともない姿見せるなんて!私もっとはきはき喋れるのにい!
「ミートパイ?わ、本当美味そう。貰っていいの?」
うまく喋れない代わりにブンブンと首を縦に振る。うぅ逃げ出したい。いやでももっとこのセクシーなキサキさんを目に焼き付けていたいような……
「ありがとな。ラミ、一人で来たのか?」
「外はもう暗い。送ってく」
キサキさんの後ろに控えていたアトラスさんから予想外の申し出があって反射で首を全力で横に振った。無理無理無理無理!
「俺が送ってくるよ」
「お前はンなエロ顔でホイホイ人前に出ようとすんな。部屋戻ってろ」
「ッ、誰のせいだと」
「俺だな」
な、何かしら今の会話……?あら、そういえばこの二人意外とというか普通に仲良いのね……?仲良いって言うか、なんか……
「ラミ~」
何かに気付きそうになった刹那背後からよく知った声が聞こえてバッと振り返る。
「お父さん?!」
「ああ、間に合って良かった。母さんがカボチャのスープも持っていけって言うから追いかけて来たんだ……って、アアアアトラス団長!ご在宅でしたか!!」
お父さんが鍋を持ったままアトラスさんに物凄いスピードで頭を下げている。……私が言えたことじゃないけどビビり過ぎでしょ。
「ランプか、久しぶりだな。いいのかこんなに貰って。お前たちの家の晩飯が少なくなるんじゃないか?」
「そんな滅相もないですよ!!うちの家内が二人にお裾わけしたいって張り切っちまって!逆に大丈夫ですかい?!持って来といて何ですが好き嫌いとか、」
「好き嫌いはない、有難う。奥方にも礼を言っといてくれ」
「そそそそそんな!」
ビビってたと思ったらお礼を言われてめちゃめちゃに照れている。……我が父親ながら何か、ていうかアトラスさんよりお父さんのが年上なのに威厳のかけらもないわね……。
だけどお父さんが来たことによりアトラスさんに送って貰うという恐怖イベントを回避出来たわ。ナイスよ。
二人揃ってペコペコ頭を下げながらアトラスさんの家を後にする。
「いや~初めてアトラス団長のとこのニンゲン見たけど男前だなあ。ありゃあ街の女の子がキャーキャー言うのもわかるね」
「ニンゲンじゃなくてキサキさんって呼んでよね!」
「お前もファンなのか……」
お父さんと並んで歩きながら、名残惜しくアトラスさんの家をこっそり振り返って一時停止。カーテンの向こう、二つのシルエットが近付いたかと思うと、重なり合い……そのまま部屋の奥へと姿を消した。
「……へ?」
「どうした?何か忘れ物かー?」
「なななな何でもない!!!」
んんんんん?何かしら今の??もももしかしてもしかしてあの二人って????!!
何とか動揺を落ち着かせようと夕食後に無心でお皿を洗っていたら、背後から突如お母さんに話し掛けられて危うくお皿を落としそうになった。
「ね、どうだった?」
「どどどうって?」
「やあねえ、アトラスさんとキサキさんよ!どんな雰囲気だったの?」
「ど、どんなって、キサキさん何でか知らないけどアトラスさんのシャツ着てて、」
「え!それでそれで?!」
「そうだ、キサキさんの首元に虫刺されの痕がいっぱいあったの。今度軟膏か何か持っていってあげた方がいいんじゃないかしら」
「おっふ!そ、そうなの……」
「お母さん?そのあとね、アトラスさんが出て来たんだけどあの人すごい迫力で」
「えー!アトラスさんもいたの?!二人どんな会話してた?!」
「お前は出てくるなってアトラスさんがキサキさんに注意してた。けど思ってたより二人仲よさそうだったわ。帰りもね、」
「うんうん!」
脳裏に二つのシルエットが重なる瞬間が思い起こされる。
「やっぱり何でもない!!」
「ちょっと教えなさいよ~!!あーあ次は木苺煮詰めてパン焼いてお母さん自分で持って行こうっと」
「だめよ!次も私が持っていくったら!」
なんだか新たな扉を開けてしまいそうな予感。
その後、親娘揃ってアトラスさんとキサキさんの家に差し入れを持っていくのが日課になるのはまた別のお話。
end
10
お気に入りに追加
43
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
異世界に転移したショタは森でスローライフ中
ミクリ21
BL
異世界に転移した小学生のヤマト。
ヤマトに一目惚れした森の主のハーメルンは、ヤマトを溺愛して求愛しての毎日です。
仲良しの二人のほのぼのストーリーです。
異世界転移した男子高校生だけど、騎士団長と王子に溺愛されて板挟みになってます
彩月野生
BL
陰キャ男子高校生のシンヤは、寝て起きたら異世界の騎士団長の寝台に寝ていた。
騎士団長ブライアンに求婚され、強制的に妻にされてしまったが、ある日王太子が訪ねて来て、秘密の交流が始まり……騎士団長と王子の執着と溺愛にシンヤは翻弄される。ダークエルフの王にまで好かれて、嫉妬に狂った二人にさらにとろとろに愛されるように。
後に男性妊娠、出産展開がありますのでご注意を。
※が性描写あり。
(誤字脱字報告には返信しておりませんご了承下さい)
くっころ勇者は魔王の子供を産むことになりました
あさきりゆうた
BL
BLで「最終決戦に負けた勇者」「くっころ」、「俺、この闘いが終わったら彼女と結婚するんだ」をやってみたかった。
一話でやりたいことをやりつくした感がありますが、時間があれば続きも書きたいと考えています。
21.03.10
ついHな気分になったので、加筆修正と新作を書きました。大体R18です。
21.05.06
なぜか性欲が唐突にたぎり久々に書きました。ちなみに作者人生初の触手プレイを書きました。そして小説タイトルも変更。
21.05.19
最終話を書きました。産卵プレイ、出産表現等、初めて表現しました。色々とマニアックなR18プレイになって読者ついていけねえよな(^_^;)と思いました。
最終回になりますが、補足エピソードネタ思いつけば番外編でまた書くかもしれません。
最後に魔王と勇者の幸せを祈ってもらえたらと思います。
23.08.16
適当な表紙をつけました
俺の伴侶はどこにいる〜ゼロから始める領地改革 家臣なしとか意味分からん〜
琴音
BL
俺はなんでも適当にこなせる器用貧乏なために、逆に何にも打ち込めず二十歳になった。成人後五年、その間に番も見つけられずとうとう父上静かにぶちギレ。ならばと城にいても楽しくないし?番はほっとくと適当にの未来しかない。そんな時に勝手に見合いをぶち込まれ、逃げた。が、間抜けな俺は騎獣から落ちたようで自分から城に帰還状態。
ならば兄弟は優秀、俺次男!未開の地と化した領地を復活させてみようじゃないか!やる気になったはいいが………
ゆるゆる〜の未来の大陸南の猫族の小国のお話です。全く別の話でエリオスが領地開発に奮闘します。世界も先に進み状況の変化も。番も探しつつ……
世界はドナシアン王国建国より百年以上過ぎ、大陸はイアサント王国がまったりと支配する世界になっている。どの国もこの大陸の気質に合った獣人らしい生き方が出来る優しい世界で北から南の行き来も楽に出来る。農民すら才覚さえあれば商人にもなれるのだ。
気候は温暖で最南以外は砂漠もなく、過ごしやすく農家には適している。そして、この百年で獣人でも魅力を持つようになる。エリオス世代は魔力があるのが当たり前に過ごしている。
そんな世界に住むエリオスはどうやって領地を自分好みに開拓出来るのか。
※この物語だけで楽しめるようになっています。よろしくお願いします。
運悪く放課後に屯してる不良たちと一緒に転移に巻き込まれた俺、到底馴染めそうにないのでソロで無双する事に決めました。~なのに何故かついて来る…
こまの ととと
BL
『申し訳ございませんが、皆様には今からこちらへと来て頂きます。強制となってしまった事、改めて非礼申し上げます』
ある日、教室中に響いた声だ。
……この言い方には語弊があった。
正確には、頭の中に響いた声だ。何故なら、耳から聞こえて来た感覚は無く、直接頭を揺らされたという感覚に襲われたからだ。
テレパシーというものが実際にあったなら、確かにこういうものなのかも知れない。
問題はいくつかあるが、最大の問題は……俺はただその教室近くの廊下を歩いていただけという事だ。
*当作品はカクヨム様でも掲載しております。
雪狐 氷の王子は番の黒豹騎士に溺愛される
Noah
BL
【祝・書籍化!!!】令和3年5月11日(木)
読者の皆様のおかげです。ありがとうございます!!
黒猫を庇って派手に死んだら、白いふわもこに転生していた。
死を望むほど過酷な奴隷からスタートの異世界生活。
闇オークションで競り落とされてから獣人の国の王族の養子に。
そこから都合良く幸せになれるはずも無く、様々な問題がショタ(のちに美青年)に降り注ぐ。
BLよりもファンタジー色の方が濃くなってしまいましたが、最後に何とかBLできました(?)…
連載は令和2年12月13日(日)に完結致しました。
拙い部分の目立つ作品ですが、楽しんで頂けたなら幸いです。
Noah
【R18】満たされぬ俺の番はイケメン獣人だった
佐伯亜美
BL
この世界は獣人と人間が共生している。
それ以外は現実と大きな違いがない世界の片隅で起きたラブストーリー。
その見た目から女性に不自由することのない人生を歩んできた俺は、今日も満たされぬ心を埋めようと行きずりの恋に身を投じていた。
その帰り道、今月から部下となったイケメン狼族のシモンと出会う。
「なんで……嘘つくんですか?」
今まで誰にも話したことの無い俺の秘密を見透かしたように言うシモンと、俺は身体を重ねることになった。
ぼくは男なのにイケメンの獣人から愛されてヤバい!!【完結】
ぬこまる
BL
竜の獣人はスパダリの超絶イケメン!主人公は女の子と間違うほどの美少年。この物語は勘違いから始まるBLです。2人の視点が交互に読めてハラハラドキドキ!面白いと思います。ぜひご覧くださいませ。感想お待ちしております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる