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第75話 サゴイに向けて出航
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サゴイの街へ出発する日が来た。
家で身支度を整えているとリタが来て、船の上で食べるようにと具が挟んであるパンを紙の包みに入れて持ってきてくれた。
「いってらっしゃいエリオ。船旅中は河に落ちないように気をつけてね」
「ああ、河に落ちないように気をつけるよ。パンを作ってくれてありがとな」
リタに貰ったパンをバッグに入れて家を出発だ。
『コル、マナ、出発だ。行くぞ!』
『『はい!』』
弾んだ返事が返ってくるところを見ると、従魔もお出かけする事にウキウキしてるようだな。俺も従魔を連れての一人のお出かけは久しぶりだから気分が少し高揚している。確か最初に賊徒を撃退したコウトの街の手前の集落に従魔を連れて到着した時以来だもんな。
そんなこんなの出来事もついこの間だったような気もするし、遠い昔のような気もする。俺の人生はこの短期間で劇的な変化を遂げているから時間の経過も早く感じるんだ。
家を出て街の出口に向かい、昨日のうちに届いた乗船券を持ってガリン河の船着き場がある場所に歩いていく。ガリン河はコウトの街の南側にある。周りには船を利用する人なのか、荷馬車を引いた商人風の人や旅姿の人達が俺と同じ方向に向かっているからそうなのかもしれないな。
朝一番の第一便の船は既に出航していて俺が乗るのは第二便の船だ。ガリン河の桟橋に着くと俺が乗り込む予定であろう第二便の大きな船体が桟橋に横付けに停泊していた。桟橋と船の間には板が渡してあって荷役作業の人達がせっせと船に荷物を積み込んでるぞ。
『コル、マナ。俺はおまえ達に会う前は、河と陸の違いはあるがあのような荷役作業の依頼も受けてたんだ』
『そうなのですか主様?』
『エリオ様もあのような荷物を運んでいたのですね』
『ああ、きついけど結構金になる仕事でな。商会に依頼されて荷馬車に荷物を積んだり下ろしたりしてたんだ』
そんな話を二匹の従魔としながら船着き場の小屋に着く。ミリアムが予約しておいてくれたので俺のギルドカードと乗船券を見せれば船に乗り込めるはずだ。小屋の前には数人の人達が並んでおり俺もその後ろに並ぶ。そして俺の順番が来たので小屋の係のおっちゃんにギルドカードと乗船券を提示した。
「はい、エリオさんだね。えーと、予約済みで乗船リストに載ってるね。場所は従魔連れ用の臨時場所だから行けばすぐにわかるはずだよ」
「ありがとう、従魔連れ用の臨時場所だね」
「ああ、そうだ。良い船旅を!」
暫くの間待っていると、停泊している船への荷物の積み込みが完了したようで乗船許可が下りた。コルとマナを連れて船べりにいる船員に乗船券を見せながら尋ねる。
「小屋のおっちゃんに聞いたら従魔連れは臨時場所って言われたんだけど。どこに行けばいい?」
「従魔連れの臨時場所は甲板の先の方に大きなテントが張ってあるあそこだよ。船倉は荷物でいっぱいで乗客の乗る場所が限られてるんで荷物の隙間に雑魚寝になっちまうのだが、あんた達は貸し切りであのテントを使ってくれ」
言われた場所を見てみると大きなテントが船の前方の甲板の上に張ってある。狭い船倉で窮屈に過ごすよりも、外だけどテントで雨風がしのげるのならいいか。
「わかったよ。あそこのテントだね」
「そうだ。ところでその黒ずくめの装備に加えて二匹の従魔を連れているが、あんたもしかして漆黒のエリオと呼ばれてないか?」
その二つ名、ここにまで広まってるのか。黒ずくめの装備は地味に見えて意外と目立つのかな。まあ、変な二つ名じゃないから気にはならないけど。
「ああ、そう呼ばれる時もあるよ。さすがに自分ではその二つ名を名乗ってないけどね」
「やっぱりそうか。あんた青巾賊を撃退して大活躍した隊長さんだろ。ここら辺ではあんたは結構有名なんだぜ。街を守ってくれてありがとうよ。俺達船乗りもあんたの味方さ」
「俺は俺としての仕事をやっただけさ。協力してくれた人や一緒に戦ってくれた連中も立派な貢献者だよ」
俺の言葉を聞き終わった船員は「確かにそうかもな。でも、そう言えるあんたはやっぱり凄いや」と言って笑顔を見せながら自分の仕事に戻っていった。さて、あのテントに行ってみるか。
俺達に用意されたテントは黒い布で出来ていた。まさか俺の為にこの色を用意した訳じゃないよなと少しだけ疑心暗鬼になりそうだ。テントの中に入ってみるとふわふわの敷物が敷かれていて座り心地はとても良い。コルとマナも早速その敷物に寝そべって自分の位置を確保している。
『主様、快適に過ごせそうです』
『エリオ様、テントの中は結構広いですね』
『ああ、最初はどうかと思ったけどこういうのもいいもんだな』
テントの入口は船首側にあるので開けっ放しにしていれば景色も見えるし心地よい風も入ってくる。雨に降られると入口をしっかりと閉めないといけないので大変そうだけど、幸いにして今日は晴れているし暫く雨は降りそうもないので絶好の船旅日和だ。
そんな感じでコルとマナとお喋りをしていたら、桟橋と船を渡していた板が取り除かれた音がしてすぐその後に鐘がカンカンカンと叩かれた。
「出航!」
船長の掛け声と共に舫い綱が解かれ、錨を上げた船は桟橋を離れてガリン河の流れにその船体を押し出していく。コウトからサゴイの街へ向かって俺と従魔の船旅が今始まったのだ。
家で身支度を整えているとリタが来て、船の上で食べるようにと具が挟んであるパンを紙の包みに入れて持ってきてくれた。
「いってらっしゃいエリオ。船旅中は河に落ちないように気をつけてね」
「ああ、河に落ちないように気をつけるよ。パンを作ってくれてありがとな」
リタに貰ったパンをバッグに入れて家を出発だ。
『コル、マナ、出発だ。行くぞ!』
『『はい!』』
弾んだ返事が返ってくるところを見ると、従魔もお出かけする事にウキウキしてるようだな。俺も従魔を連れての一人のお出かけは久しぶりだから気分が少し高揚している。確か最初に賊徒を撃退したコウトの街の手前の集落に従魔を連れて到着した時以来だもんな。
そんなこんなの出来事もついこの間だったような気もするし、遠い昔のような気もする。俺の人生はこの短期間で劇的な変化を遂げているから時間の経過も早く感じるんだ。
家を出て街の出口に向かい、昨日のうちに届いた乗船券を持ってガリン河の船着き場がある場所に歩いていく。ガリン河はコウトの街の南側にある。周りには船を利用する人なのか、荷馬車を引いた商人風の人や旅姿の人達が俺と同じ方向に向かっているからそうなのかもしれないな。
朝一番の第一便の船は既に出航していて俺が乗るのは第二便の船だ。ガリン河の桟橋に着くと俺が乗り込む予定であろう第二便の大きな船体が桟橋に横付けに停泊していた。桟橋と船の間には板が渡してあって荷役作業の人達がせっせと船に荷物を積み込んでるぞ。
『コル、マナ。俺はおまえ達に会う前は、河と陸の違いはあるがあのような荷役作業の依頼も受けてたんだ』
『そうなのですか主様?』
『エリオ様もあのような荷物を運んでいたのですね』
『ああ、きついけど結構金になる仕事でな。商会に依頼されて荷馬車に荷物を積んだり下ろしたりしてたんだ』
そんな話を二匹の従魔としながら船着き場の小屋に着く。ミリアムが予約しておいてくれたので俺のギルドカードと乗船券を見せれば船に乗り込めるはずだ。小屋の前には数人の人達が並んでおり俺もその後ろに並ぶ。そして俺の順番が来たので小屋の係のおっちゃんにギルドカードと乗船券を提示した。
「はい、エリオさんだね。えーと、予約済みで乗船リストに載ってるね。場所は従魔連れ用の臨時場所だから行けばすぐにわかるはずだよ」
「ありがとう、従魔連れ用の臨時場所だね」
「ああ、そうだ。良い船旅を!」
暫くの間待っていると、停泊している船への荷物の積み込みが完了したようで乗船許可が下りた。コルとマナを連れて船べりにいる船員に乗船券を見せながら尋ねる。
「小屋のおっちゃんに聞いたら従魔連れは臨時場所って言われたんだけど。どこに行けばいい?」
「従魔連れの臨時場所は甲板の先の方に大きなテントが張ってあるあそこだよ。船倉は荷物でいっぱいで乗客の乗る場所が限られてるんで荷物の隙間に雑魚寝になっちまうのだが、あんた達は貸し切りであのテントを使ってくれ」
言われた場所を見てみると大きなテントが船の前方の甲板の上に張ってある。狭い船倉で窮屈に過ごすよりも、外だけどテントで雨風がしのげるのならいいか。
「わかったよ。あそこのテントだね」
「そうだ。ところでその黒ずくめの装備に加えて二匹の従魔を連れているが、あんたもしかして漆黒のエリオと呼ばれてないか?」
その二つ名、ここにまで広まってるのか。黒ずくめの装備は地味に見えて意外と目立つのかな。まあ、変な二つ名じゃないから気にはならないけど。
「ああ、そう呼ばれる時もあるよ。さすがに自分ではその二つ名を名乗ってないけどね」
「やっぱりそうか。あんた青巾賊を撃退して大活躍した隊長さんだろ。ここら辺ではあんたは結構有名なんだぜ。街を守ってくれてありがとうよ。俺達船乗りもあんたの味方さ」
「俺は俺としての仕事をやっただけさ。協力してくれた人や一緒に戦ってくれた連中も立派な貢献者だよ」
俺の言葉を聞き終わった船員は「確かにそうかもな。でも、そう言えるあんたはやっぱり凄いや」と言って笑顔を見せながら自分の仕事に戻っていった。さて、あのテントに行ってみるか。
俺達に用意されたテントは黒い布で出来ていた。まさか俺の為にこの色を用意した訳じゃないよなと少しだけ疑心暗鬼になりそうだ。テントの中に入ってみるとふわふわの敷物が敷かれていて座り心地はとても良い。コルとマナも早速その敷物に寝そべって自分の位置を確保している。
『主様、快適に過ごせそうです』
『エリオ様、テントの中は結構広いですね』
『ああ、最初はどうかと思ったけどこういうのもいいもんだな』
テントの入口は船首側にあるので開けっ放しにしていれば景色も見えるし心地よい風も入ってくる。雨に降られると入口をしっかりと閉めないといけないので大変そうだけど、幸いにして今日は晴れているし暫く雨は降りそうもないので絶好の船旅日和だ。
そんな感じでコルとマナとお喋りをしていたら、桟橋と船を渡していた板が取り除かれた音がしてすぐその後に鐘がカンカンカンと叩かれた。
「出航!」
船長の掛け声と共に舫い綱が解かれ、錨を上げた船は桟橋を離れてガリン河の流れにその船体を押し出していく。コウトからサゴイの街へ向かって俺と従魔の船旅が今始まったのだ。
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