上 下
68 / 171

第68話 真夜中の侵入者

しおりを挟む
 拘束して捕まえた四人に対する取り調べが進み始め、少しずつ事件の真相解明に近づいてきたと手応えを感じてきていた。だが、それは収監していた四人全員が毒殺されてしまうという予期せぬ事態のせいで、全く先行きが読めなくなってきてしまった。

 それでも、本部の監察官達が一生懸命調査を続けており、むしろ歩みは遅くなろうとも、必ずこの事件を解決させようという強い意気込みを示す者ばかりで彼らの士気が落ちる事はなかった。

 俺は執務室で椅子から立ち上がって監察官から受け取った報告書を読みながら、次に相手はどんな手を繰り出して来るのだろうかと眉間に皺を寄せながら考えている。そんな俺の様子を見かねたのかリタがいつもの明るい声でそんな俺に向かって話しかけてきた。

「エリオ、気を落とすなよ。確かにエリオ達が捕まえた連中は誰かに殺されちまったけど、裏を返せばそれだけ黒幕の連中も焦ってる証拠だと思うよ。それに優秀な監察官達が今も調査を進めてるからきっと進展するはずさ。ほら、難しい顔ばかりしてるとせっかくのイケメンが台無しだよ。あんたの元気が出るようにあたしがエリオを抱きしめてやるよ」

 そう言うと、リタは俺の体に手を回してぎゅっと抱きついてきた。全くリタは何を考えているのだか。まあ、飛び切りの美女に抱きつかれて悪い気はしないので暫く抱きつかせてあげた。でも、これって俺を励ますというよりもリタの欲求をそのまま出しているだけのような気がするんだが。

 抱きつくのに満足したのかリタは俺から体を離して自分の席に戻っていく。何だかんだでリタに元気も貰ったしありがとうな。

 この件について統括官と話す為に俺はラモンさんと一緒に本部に足を運ぶ事にした。収監中の男達が毒殺されたというのだから現場の最高責任者として統括官と話し合わない訳にはいかないからな。本部の統括官室に到着すると事前に連絡をしておいた事もあってレイモン統括官が俺の来訪を出迎えてくれた。

「レイモン統括官、エリオ第三部隊長です。既にお聞きの事と思いますが、収監していた男達が何者かによって毒殺されました。この失態は特別監察執行官の俺にも責任があります」

「エリオ部隊長、とりあえず席にかけなさい。この度の件は私も監察官から報告を受けて驚いている。やはりこの毒殺は口封じの可能性が高いのかね?」

 俺とラモンさんは統括官に促され席に着席する。

「はい、ここだけの話ですがあの男達は全て第一部隊に所属しておりました。男達の供述では第一部隊長の関与も仄めかされています。決定的な証拠はまだありませんのでまだ表立って動けませんが、本部付きの監察官達が調査を続けています」

「そうか、全ての調査権限と執行権限は君に委ねてある。今回の件は不幸だったが君が責任を感じる必要はない。対象が誰であれ君はその職務を遂行したまえ。必要ならば気にすることなく私も調査対象にしてくれてもよいぞ」

「ありがとうございます。今だから明かしますが、最初はレイモン統括官殿も疑っていました。ただ、俺に全権を委ねてくれた事でその疑いもほぼ消えていますけどね」

「さすがに私もそこまで馬鹿ではないよ。商会から金を脅し取るなんて考えた事もないよ。ただ、私も疑われる立場なのは仕方ないと思っていた。だから、その疑いを晴らす意味もあって君に全権を委任したのだ。そしてそれは良い決断だったと思っているよ。私もおそらく第一部隊長の関与の可能性が高いと睨んでいる。本部の監察官にも調査に手を抜くなと発破をかけておくよ」

「よろしくお願いしますレイモン統括官」

 そこで話を切り上げ俺とラモンさんは統括官室を後にした。あれだけ統括官に信用されてるなら何としても解決させないとな。ただ、収監していた男達を纏めて毒殺するような相手だ。俺も気を引き締めていくべきだろう。

「エリオ殿、本部の監察官達とのやり取りは私に任せてください」

「頼むよラモンさん」

 食事の配膳に毒を入れた人物もまだ見つかっていないので、調査やら検分やらで厳戒中の本部を出た俺とラモンさんは第三部隊に戻って勤務を再開した。その日は幸いな事に夕方まで何事もなく、勤務が終了して仕事を終えた俺は従魔を連れて自分の借家に帰ってきた。

 先に自分達の家に帰宅していたリタとミリアムが俺の住む家に来て料理を作っていつでも食べられるように準備をしてくれていた。俺がいつものように感謝の言葉を述べると、二人はコルとマナを相手にモフ分補給をたっぷりしてすぐ斜め前にある自分達の家に戻っていった。俺の後回しにされるラモンさんとロドリゴには申し訳ない気持ちでいっぱいだ。

 リタとミリアムが作ってくれた料理を食べて食器を洗って片付けた後、俺もコルとマナを撫でてモフ分補給をする。二匹を思う存分撫でた後、少し調べ物をしてあとは寝床に入るだけだ。寝間着に着替えてベッドの中に入り、明日の事を考えながらいつの間にか俺は眠りに落ちていた。


 だが、その眠りも深夜に突然破られてしまう。

『主様、起きてください!』
『エリオ様、早く起きてください!』

 従魔が俺を呼んでるような気がする。しかも、体の上に何か乗ってるのか圧迫感があるぞ。目を開けると俺の眠るベッドの上にコルとマナが昇って俺をがしがしと踏みつけている。窓を見るとカーテンの隙間から見える空はまだ暗いから朝ではないようだ。半分寝ぼけながら上半身を起こした俺は二匹の従魔に問いかけた。

『おい、まだ夜中じゃないか。何でこんな時間に俺を起こすんだよ?』

『主様、侵入者です』
『エリオ様、侵入者は気配を抑えながらこの家の敷地に入ってきました』

 何だと……こうしちゃいられない。
 俺は枕元に置いてある短剣を手に取り慌てて侵入者に備えた。

『コルとマナは脇に控えていてくれ』

 そしてそのすぐ後、全身黒ずくめの何者かが窓を蹴破り俺の寝室に侵入してきたのだ。部屋が暗い中、俺の白い寝間着を目標に駆け寄ってくる。その手には短剣が握られていた。

 鋭い突きが俺の体に向かって突き出される。鋭い突きだが侵入を予期していたので体を捻って躱す事に成功する。

 体勢を立て直し、そいつと向かい合う位置へと素早く移動する。不意打ちの一撃目を躱された侵入者だがまだ諦める気はないようだ。体をこちらに向けながら俺に襲いかかるタイミングを探っている。侵入者は目を除いて顔が覆面にすっぽりと覆われているので表情はわからない。

 コイツは俺を殺しに来たのか。おそらく一連の事件に絡んでいると見て間違いない。俺の命を奪う事によって事件を有耶無耶にしたいのだろう。だが、そうはいかない。俺を襲った事を後悔させてやるからな。存在気配遮断のスキルを使おうかと思ったが今から発動しても効果があるかどうかわからない。そこである考えが頭に浮かんだのでそれをやってみよう。

「せっかく深夜に襲撃をかけたのに一撃で俺を殺せなくて残念だったな」

「………」

 俺の投げかけた言葉が引き金になったのか、黒ずくめの侵入者はさっきよりも速度を上げて変則的な動きをしながら俺に突っ込んでくる。その動きを見ると相当な腕の持ち主なのがわかる。けれど、侵入者にとって大きな誤算があった。

『コル、マナ、そいつを倒せ!』

『『はい!』』

 俺の指示を受けて従魔の二匹は侵入者の速度よりも速く動いてその体の上下に強烈な体当たりする。そう、俺にはとんでもなく強い従魔が二匹もいるのだから俺が相手をするまでもなかった。予期していなかった従魔の上下への体当たり攻撃に見事なまでにバランスを崩して短剣を手放しもんどり打って倒れる侵入者。従魔が追い打ちをかけて前足や後ろ足で体中を殴りすぐに起き上がれないようにその体を押さえつける。

「動くなよ。もうおまえの負けだ」

『主様、どうします?』
『エリオ様、痛めつけて動けないようにしましょうよ』

 そうだな、下手に動かれても面倒だ。動けないように体中痛めつけて気絶させておこう。

 侵入者の手首や足首を強く踏みつけ両手首や両足を使えないようにしておく。短剣を手放して無手になった侵入者に対して体術を駆使して痛めつける。コイツは俺を殺しに来たのだから文句は言わせない。まかり間違えば今頃は俺が殺されてここに倒れていたのだからな。

 一通り痛めつけて気絶させた後に侵入者が被っている覆面を引っ剥がすと、そこには以前見た覚えがある顔があった。そう、俺を襲った侵入者は第一部隊の参謀の男だったのだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ノーアビリティと宣告されたけど、実は一番大事なものを 盗める能力【盗聖】だったので無双する

名無し
ファンタジー
 16歳になったら教会で良いアビリティを貰い、幼馴染たちと一緒にダンジョンを攻略する。それが子供の頃からウォールが見ていた夢だった。  だが、彼が運命の日に教会で受け取ったのはノーアビリティという現実と不名誉。幼馴染たちにも見限られたウォールは、いっそ盗賊の弟子にでもなってやろうと盗賊の隠れ家として噂されている山奥の宿舎に向かった。  そこでウォールが出会ったのは、かつて自分と同じようにノーアビリティを宣告されたものの、後になって強力なアビリティを得た者たちだった。ウォールは彼らの助力も得て、やがて最高クラスのアビリティを手にすることになる。

全て逆にするスキルで人生逆転します。~勇者パーティーから追放された賢者の成り上がり~

名無し
ファンタジー
 賢者オルドは、勇者パーティーの中でも単独で魔王を倒せるほど飛び抜けた力があったが、その強さゆえに勇者の嫉妬の対象になり、罠にかけられて王に対する不敬罪で追放処分となる。  オルドは様々なスキルをかけられて無力化されただけでなく、最愛の幼馴染や若さを奪われて自死さえもできない体にされたため絶望し、食われて死ぬべく魔物の巣である迷いの森へ向かう。  やがて一際強力な魔物と遭遇し死を覚悟するオルドだったが、思わぬ出会いがきっかけとなって被追放者の集落にたどりつき、人に関するすべてを【逆転】できるスキルを得るのだった。

あらゆる属性の精霊と契約できない無能だからと追放された精霊術師、実は最高の無の精霊と契約できたので無双します

名無し
ファンタジー
 レオンは自分が精霊術師であるにもかかわらず、どんな精霊とも仮契約すらできないことに負い目を感じていた。その代わりとして、所属しているS級パーティーに対して奴隷のように尽くしてきたが、ある日リーダーから無能は雑用係でも必要ないと追放を言い渡されてしまう。  彼は仕事を探すべく訪れたギルドで、冒険者同士の喧嘩を仲裁しようとして暴行されるも、全然痛みがなかったことに違和感を覚える。

ハズレスキル【分解】が超絶当たりだった件~仲間たちから捨てられたけど、拾ったゴミスキルを優良スキルに作り変えて何でも解決する~

名無し
ファンタジー
お前の代わりなんざいくらでもいる。パーティーリーダーからそう宣告され、あっさり捨てられた主人公フォード。彼のスキル【分解】は、所有物を瞬時にバラバラにして持ち運びやすくする程度の効果だと思われていたが、なんとスキルにも適用されるもので、【分解】したスキルなら幾らでも所有できるというチートスキルであった。捨てられているゴミスキルを【分解】することで有用なスキルに作り変えていくうち、彼はなんでも解決屋を開くことを思いつき、底辺冒険者から成り上がっていく。

なんだって? 俺を追放したSS級パーティーが落ちぶれたと思ったら、拾ってくれたパーティーが超有名になったって?

名無し
ファンタジー
「ラウル、追放だ。今すぐ出ていけ!」 「えっ? ちょっと待ってくれ。理由を教えてくれないか?」 「それは貴様が無能だからだ!」 「そ、そんな。俺が無能だなんて。こんなに頑張ってるのに」 「黙れ、とっととここから消えるがいい!」  それは突然の出来事だった。  SSパーティーから総スカンに遭い、追放されてしまった治癒使いのラウル。  そんな彼だったが、とあるパーティーに拾われ、そこで認められることになる。 「治癒魔法でモンスターの群れを殲滅だと!?」 「え、嘘!? こんなものまで回復できるの!?」 「この男を追放したパーティー、いくらなんでも見る目がなさすぎだろう!」  ラウルの神がかった治癒力に驚愕するパーティーの面々。  その凄さに気が付かないのは本人のみなのであった。 「えっ? 俺の治癒魔法が凄いって? おいおい、冗談だろ。こんなの普段から当たり前にやってることなのに……」

外れスキル【転送】が最強だった件

名無し
ファンタジー
三十路になってようやくダンジョン入場試験に合格したケイス。 意気揚々と冒険者登録所に向かうが、そこで貰ったのは【転送】という外れスキル。 失意の中で故郷へ帰ろうとしていた彼のもとに、超有名ギルドのマスターが訪れる。 そこからケイスの人生は目覚ましく変わっていくのだった……。

外れスキル【削除&復元】が実は最強でした~色んなものを消して相手に押し付けたり自分のものにしたりする能力を得た少年の成り上がり~

名無し
ファンタジー
 突如パーティーから追放されてしまった主人公のカイン。彼のスキルは【削除&復元】といって、荷物係しかできない無能だと思われていたのだ。独りぼっちとなったカインは、ギルドで仲間を募るも意地悪な男にバカにされてしまうが、それがきっかけで頭痛や相手のスキルさえも削除できる力があると知る。カインは一流冒険者として名を馳せるという夢をかなえるべく、色んなものを削除、復元して自分ものにしていき、またたく間に最強の冒険者へと駆け上がっていくのだった……。

回復力が低いからと追放された回復術師、規格外の回復能力を持っていた。

名無し
ファンタジー
回復術師ピッケルは、20歳の誕生日、パーティーリーダーの部屋に呼び出されると追放を言い渡された。みぐるみを剥がされ、泣く泣く部屋をあとにするピッケル。しかし、この時点では仲間はもちろん本人さえも知らなかった。ピッケルの回復術師としての能力は、想像を遥かに超えるものだと。

処理中です...