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第44話 統括官室での話し合い

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 急な報告を受けて駐屯所本部の統括官室の前まで行くと、丁度カウンさんも同じタイミングで現れた。

「兄者、賊徒がこの街に向かっていると聞きましたぞ」

「うん、そのようだ。これからその事についての話し合いがあるらしい」

 ドアを開けて部屋の中に入ると、レイモン統括官の他には第二部隊長のタイン・モウトさんがおり、その後ろには第二部隊副隊長と参謀の人が既に来て待っていた。

「統括官、お待たせしました。第三部隊長のエリオ並びに副隊長のカウン、そして参謀のラモンです」

「うむ、ご苦労。急な召集で悪いが緊急な案件なのでな。君達はそこの椅子に腰掛けたまえ」

 俺は先に来ていた第二部隊長のタインさん達と目配せをしながら挨拶をする。統括官に促され、大きなテーブルの横に並んだ椅子に腰掛ける。部屋の中を見渡すと、まだ第一部隊長のカモン・セルーゾさんが来ていないようだ。細かい話は全員揃ってから始めるようだな。

 暫く待っていると、統括官室のドアが無造作に開けられて、そこには真っ赤な顔をしたカモン第一部隊長が姿を見せ、それに続いてこちらも具合が悪そうな副隊長と参謀らしき人達も入ってきた。

「悪い悪い、少し遅れてしまったようだ。皆待たせたな」

 口とは裏腹に悪びれる様子もなく、空いている席にドカっと腰を下ろす三人組。そして、彼らからはお酒の匂いがプーンと漂ってきている。

 統括官も苦虫を噛み潰したような顔をしているが、自分が部隊長の採用を決めた手前何も言わずに傍観しているようだ。もしかしたら、採用前まではこんな人間だとは知らなかったのかもしれない。カモンさんは良くも悪くも有名そうだから武技と実績だけ見て抜擢したのかな。

「ゴホン、ゴホン。それでは皆揃ったようだからこれから賊徒の件についての会議を始めさせてもらう。こちらに報告を元にした資料があるので目を通してくれ」

 統括官付きの事務官から配られた資料を見てみると、その内容の大方はさっきラモンさんに説明された内容とほぼ同じものだった。今現在、コウトの北にある場所を拠点にしており、支配地域を拡大しようとこのコウトの街へ向けてほぼ全軍で進んでるとの報告だった。

「それで君達の忌憚のない意見を聞きたい」

 その言葉を受けて最初に発言したのは第一部隊長のカモンさんだ。

「街の中さえ荒らされなきゃいい。街の中で蓋を閉じた貝のように閉じ籠もっていれば奴らも簡単には手を出してこないだろう。但し街の外の畑や家畜がどうなろうが、賊徒が略奪や周辺住民を殺したり女を凌辱しようが俺は知ったこっちゃないさ。この街さえ助かれば周辺地域の住民が賊徒の仲間になってこの街以外の地域が全て賊徒に支配されたとしても俺には関係ないしな。いざとなったら俺はこの街を捨て賊徒の隙を突いてどこか別の場所に行くだけだ」

「他にはないか?」

 次に手を上げて発言したのは第二部隊長のタインさんだ。

「そうですね。街に閉じ籠もってやり過ごすのが無難でしょうが、それだと根本的な解決にはなりません。おそらく賊徒はコウトの街は後回しにしてこの領内の他の村や集落に行き、住民達への殺戮や略奪、女性への凌辱を繰り返すでしょう。これをどうにかしないと我々の住民達からの信頼は大きく失われます。住民達からは我々はまるで頼りにならないと大きく失望されて、我々を見放した住民達が賊徒に加入するなどして賊徒の拡大と増長を招く結果になるでしょう。これ以上賊徒の規模が拡大したら私達の手に負えなくなるのは確実。周辺地域を規模が大幅に拡大した賊徒に全て支配されてしまうと、自由な交易も出来なくなり街に食料や塩も入ってきませんのですぐに生活が立ち行かなくなるでしょう」

「第三部隊長の意見はどうだね?」

 俺に質問が振られたので、俺の考えや大まかな作戦を述べていく。最初はそれはどうなんだみたいな感じで皆は聞いていたが、上手くいけば成功するのではと考え始めた統括官や第二部隊の面々は俺の話す言葉を真剣に聞いてくれた。

 カモン第一部隊長には「おまえらがそれをやりたければ勝手にやれ」と言われた。

 統括官と第二部隊長と幹部からは俺の作戦を支持してくれる確約を得た。やはり統括官やタインさんも、この街だけ助かっても周囲の村や集落が全て賊徒の手に落ちてしまっては意味がないと考えていたのだろう。

 俺もこのコウト周辺に賊徒の勢力がこれ以上広がらないように、まだ規模がこれくらいのうちに賊徒を完全に叩いておく必要があると考えている。なので、俺の部隊には申し訳ないが一番大変な役割をしてもらおうと思っている。勿論、俺自身が自ら先頭に立って戦うつもりだ。

 会議は解散になり、俺達はそれぞれの所属部隊に今回の会議の内容を伝えに向かった。既に全隊員に招集命令が出され、今頃は専用施設の大会議室に皆が集まっているはずだ。部隊専用施設へ向かっていく道すがら、ラモンさんとカウンさんが俺に話しかけてきた。

「エリオ殿、先程提案された策はなかなか奇抜なものですな。段取りや細かい詰めの作業はお任せを」
「兄者よ、確かにリスクは大きいですがこれが上手く嵌まれば数の差などものともしませんぞ」

「ああ、上手くいけばね。それには街の人や部隊の皆の協力も重要になってくる。どうなるのかやってみないとわからないけどね」

「きっと上手くいくはずですエリオ殿」
「それがしもそう思うぞ兄者よ。兄者にかかれば成功してしまうような気がするからな」

 専用施設の大会議室に到着すると、会議室内は招集された第三部隊の隊員が詰めかけていて、隊長である俺の到着を今か今かと待っていた。

 俺はカウンさんとラモンさんと一緒に壇上に上がり隊員達と向き合う。俺の登場でしんと静まり返った隊員達を一通り眺めた後、俺は隊員達に向けて語り始めた。

「隊長のエリオだ。急な招集を受けて集まってもらった君達に緊急な報告がある。賊徒がコウトの北にある街を襲った後、このコウトを目指して向かっているとの報告が届いた。もし、賊徒がこの街を目標にしているのなら戦闘は避けられないだろう。俺達はこの街と周辺地域を守る為に存在しているのだからとうとう出番が来たという訳だ。今はまだ細かい作戦内容は言えないが、三つある部隊の中で俺達の部隊が戦闘の最重要任務と役割を担う事になった。厳しい戦いになるかもしれないが、俺が自ら先頭に立って進んで行くのでどうかこの俺を信じてついてきてくれ!」

「「「応!!」」」

 よし、部隊の士気は申し分ない。
 これならきっと上手くやれるはずだ。
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