俺の番が見つからない

Heath

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59. 夜会 3-1

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ご覧いただきましてありがとうございます。
この「夜会 3」は5話クリスマスに向けて、1話ずつ連日公開します。
どうぞ、よろしくお願いいたします♪( ´▽`)
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その夜、ツィリル連合共和国の地方都市ミラヌスの民家の灯りが少なく入り組んだ街並みにある酒場に、セオドアの密命を受けた特務部隊の獣人ヴィズはいた。ガルドゥーン帝国軍のエドゥア准将が一人でこの酒場に来たからだ。

部隊での二つ名『沈黙の狼シティル』を遺憾なく発揮し、ヴィズはどこにでもいるようなくたびれた感じの中堅冒険者となって空気に溶け込んでいる。

今夜の相手を見定めようと鼻の下を伸ばした他の男たちに混ざってエールを飲みながら、腰をくねらせ誘うように踊る女を見ていた。

この雑多な薄暗闇で気配を消していては誰にも気取られていないが、覗き込むようによく見ればその整った面立ちに胸をときめかしただろう。

視線で女、口でエール、を楽しんでいるようにしていても鋭い聴覚はこのホール中の小さな囁きまで捉えている。

酒場ここは治安の良くないスラム街にありながらも店内の状態がいい。店構えから想像するよりも広く、ちょっとした舞台もある。客も多く、時折、流しのリュート弾きがリクエストを受けて薄汚れた爪で弾いている。

客の合間を上手にすり抜けて、受けた注文を運ぶ女たちは皆、若く美しい。それだけでこの酒場の客層がわかるというものだ。

冒険者や商人、文官っぽいもの、明らかに軍人など、様々である。

ヴィズやターゲットのように一人で静かに飲む男もいれば、男女で来ている者たちもいる。そして、その横を踊り子の手を取り階上の部屋へしけこむ男が通る。

種族も人族、獣人、魔族と混じり合っており、そこに特段の差があるようにも見えない。

カオスでありながら秩序が保たれている。

まるで、華やかさと薄暗さを持ち合わせるミラヌスという街を象徴しているかのようだ。

ターゲットは焦っているのか、カウンターで一人で飲んでいる男の動きを気にしている様子がヴィズの視界の端に入る。

大きいモーションでエールをグイッとあおりつつ見れば、どうやらその男も只者ではなさそうだ。

それはその男への強い視線がこの酒場内に複数感じられることから、護衛らしいものが三名、それだけでなくこの酒場で働く者の中にも息がかかっていそうな、仲間が紛れているとみた。

旅商人らしい服装が似合っているのにその雰囲気は中産階級のもの、というだけでも十分に興味深いのだが、その眼差しには修羅場を潜り抜けてきた者が持つ如才なさも感じさせるのだ。

しばらく様子を伺っていると、人族の形を取ってる猫が魔族らしい艶めかしい美女に絡まれた。美女の露骨な誘いを迷惑そうに躱している。

「キワ、いい加減にしとけよ。もう、止めろよ」

連れらしい爬虫類系獣人の男が止めに入る。この美女へ熱い視線を送る男も相当数いるのが分かる。

「煩いわよぉ、タイチ。アタシはこの人が良いの💓 獣の香りが堪んないワ」

途端に猫の周りの空気が歪む。
ほぉ、あの女、猫の人化を見破ったのか、と運の悪いに少しばかり同情する。

かなり飲んでいるだろう美女は連れの男に世話を焼かれながら場所を変えた。

「あら?  アナタ名前わぁ?  ねぇ、あっち二階の部屋でアタシと飲み直ししない?」

ヴィズの視線は弾き始めた流しのミュート弾きに向けつつ、会話を拾う。

美女は別の男に声をかけ成功したらしくトカゲ男を残して階段を上がって行った。

「ったく。姫様に先手を打たれたからと言って、他にやることがあるだろうに……」

トカゲ男は苛立たしげに頼んだエールを一息で飲み干し、酒場を出ていった。

それと入れ違いのように黄砂色のガンドゥーラを頭から被り、その裾で顔を隠すように巻き、目だけを出した男が入っってきた。砂漠の民がよくする格好だが、違和感を感じないほどそれは自然だった。


酒場に入って迷うことなくカウンターに座る、そう、猫の睨めつけてる男の隣だ。猫の視線に力が入る。

エールを追加注文する動作の中でヴィズはその二人を見た。
交わす視線に親し気な雰囲気がある。

猫が気にしている男が先んじて話しかける。

「イーバ、久しぶりだな?元気そうでなりより、ってか顔が渋いぜ、また面倒な仕事か?」

そう言いながら、男は来たばかりの男の分のエールを注文する。

「ああ、俺はいつだってそういう役回りだ。同じ日陰育ちでもアルは自由で良いな」

イーバと声をかけられた男は顔に巻いているガンドゥーラを少し緩めて返事を返した。

「はは、その代わり、しっかり稼がねーと死に駒にされちまうわ」

「お前が駒というなら、俺はお利口な犬ってことかな」


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