59 / 64
58. 夜会 2-4
しおりを挟むその男は胸に右手を当て礼をとったかと思うと、直ぐさまソフィの手を取り、左手でソフィの背を軽く押して、音楽が流れる空間へ誘い出した。
皇妃ユディトはそれを見て、眉をひそめ、横に座す夫の皇帝アスランに視線を送る。
送られたアスランも面倒なことが起きたと、周りを見回すが、これを制することができるのは自分だけかと、楽しかった気分がどこかへ吹き飛んでしまった。
すぐに、それまでのアップテンポな曲からゆったり目の、しかし甘すぎない曲を演奏するように指示を出す。
どうやって入り込んだのか、わからないこの曲者に、まだソフィに対して自信が持てていないギデオンは、忌々しげにソフィに差し出したはずの右手を握りしめた。
ソフィは踊ったことがない曲に合わせてを踊れるはずなどないのだが、パートナーのダンススキルが相当あるのか、軽々とステップを踏んでいる、そんな自分が信じられなかった。
「まだ、名乗っておりませなんだな。私はレオナルド、貴女の花婿となる者です。貴女のお名前をお教えください」
耳元で労わるように囁かれ、ソフィは驚いて相手の顔を凝視した。
「おお、美しい瞳だ。けぶる睫毛からして、この髪はウィグであろうか?」
まだ、伸びきらぬみっともない散切り頭を隠すために、皇妃ユディトの計らいで持ってきていたウィグよりも上質のアッシュブラウンの落ち着いたものになっていた。
それでも、睫毛や眉毛の色から、頭髪の色がわかるのだろう。
「それは、私を避けるためにしているのだろうか?」
そう言って、悲しげに見つめてくるこの男性は、今、何といったのだろう?
レオナルドと名乗り、私の花婿だと言った。
ならば、この方は先の皇帝レオナルド様なのだろうか?
お歳は80歳を超えた方だとお聞きしていたのに、
この方はどう見てもアスラン皇帝陛下よりお若い?!
信じられない思いで、レオナルドを見つめてしまうが、
もしそうならば『不敬』であろうかと、瞳を伏せ俯く。
すると、レオナルドと名乗る人物はダンスをリードしつつ、器用に右手でソフィの顎を持ち上げ、顔を近づけた。
反射的にソフィは顔を反らそうとしたのを見て、ギデオンはカッとなり二人の元へ向かった。
「ソフィ嬢が嫌がっておろう!」
「ソフィ……、我が花嫁の名はソフィ嬢というのか、何と美しい響きであろう」
レオナルドはうっとりとソフィを見つめ、ソフィの名を呼ぶ。
ギデオンは苛立ちを隠そうともせず、レオナルドの肩をつかみ、ソフィと引き離そうとした。
「何をする! これはティルブルフ王国と我が大公国との盟約ぞ! ソフィ嬢の怪我も随分と良くなっておるようだ。このまま、ハンナバル(大公領土)で静養されればすぐに良くなられるに違いない。明日にも出立いたそう。これ以上邪魔立てすれば……」
と、そこまで言えば、ザッとレオナルドの侍女たちがギデオンとの間に立ちはだかった。
気がつけば、レオナルドの信奉者である騎士たちに守られるようにティルドルフ使節団のハマス伯爵とラウレア子爵も視野に入った。
チッとギデオンは舌打ちした。
盟約など守るつもりなどないだろうに、ただ、一線を退いて、暇を持て余し、遊んでいるに過ぎない。ギデオンは忌々しげにレオナルドを睨みつけた。
レオナルドはそんな攻撃的な態度も心地良さげに大袈裟な所作で続けた。
「ソフィ嬢、そなたのために我が領土に離宮を用意してある。どうか、私の手を取ってくだされ、我が麗しの乙女よ」
大きな声でギデオン殿下を恫喝した時の迫力と、この甘ったるい声色との差にソフィはガタガタと全身の震えが止められず、レオナルドの差し出した手のひらに、すぐには応えることができなかった。
* ** * ** *
お付き合い下さいまして、ありがとうございます!
この先はまた見直しでき次第公開させていただきます。
その際はどうぞ宜しくお願い致します。
0
お気に入りに追加
114
あなたにおすすめの小説
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
私が美女??美醜逆転世界に転移した私
鍋
恋愛
私の名前は如月美夕。
27才入浴剤のメーカーの商品開発室に勤める会社員。
私は都内で独り暮らし。
風邪を拗らせ自宅で寝ていたら異世界転移したらしい。
転移した世界は美醜逆転??
こんな地味な丸顔が絶世の美女。
私の好みど真ん中のイケメンが、醜男らしい。
このお話は転生した女性が優秀な宰相補佐官(醜男/イケメン)に囲い込まれるお話です。
※ゆるゆるな設定です
※ご都合主義
※感想欄はほとんど公開してます。
旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜
ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉
転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!?
のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました……
イケメン山盛りの逆ハーです
前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります
小説家になろう、カクヨムに転載しています
軽い気持ちで超絶美少年(ヤンデレ)に告白したら
夕立悠理
恋愛
容姿平凡、頭脳平凡、なリノアにはひとつだけ、普通とちがうところがある。
それは極度の面食いということ。
そんなリノアは冷徹と名高い公爵子息(イケメン)に嫁ぐことに。
「初夜放置? ぜーんぜん、問題ないわ!
だって旦那さまってば顔がいいもの!!!」
朝食をたまに一緒にとるだけで、満足だ。寝室別でも、他の女の香水の香りがしてもぜーんぜん平気。……なーんて、思っていたら、旦那さまの様子がおかしい?
「他の誰でもない君が! 僕がいいっていったんだ。……そうでしょ?」
あれ、旦那さまってば、どうして手錠をお持ちなのでしょうか?
それをわたしにつける??
じょ、冗談ですよね──!?!?
マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました
東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。
攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる!
そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。
二度目の人生は異世界で溺愛されています
ノッポ
恋愛
私はブラック企業で働く彼氏ナシのおひとりさまアラフォー会社員だった。
ある日 信号で轢かれそうな男の子を助けたことがキッカケで異世界に行くことに。
加護とチート有りな上に超絶美少女にまでしてもらったけど……中身は今まで喪女の地味女だったので周りの環境変化にタジタジ。
おまけに女性が少ない世界のため
夫をたくさん持つことになりー……
周りに流されて愛されてつつ たまに前世の知識で少しだけ生活を改善しながら異世界で生きていくお話。
男女比がおかしい世界にオタクが放り込まれました
かたつむり
恋愛
主人公の本条 まつりはある日目覚めたら男女比が40:1の世界に転生してしまっていた。
「日本」とは似てるようで違う世界。なんてったって私の推しキャラが存在してない。生きていけるのか????私。無理じゃね?
周りの溺愛具合にちょっぴり引きつつ、なんだかんだで楽しく過ごしたが、高校に入学するとそこには前世の推しキャラそっくりの男の子。まじかよやったぜ。
※この作品の人物および設定は完全フィクションです
※特に内容に影響が無ければサイレント編集しています。
※一応短編にはしていますがノープランなのでどうなるかわかりません。(2021/8/16 長編に変更しました。)
※処女作ですのでご指摘等頂けると幸いです。
※作者の好みで出来ておりますのでご都合展開しかないと思われます。ご了承下さい。
後宮の棘
香月みまり
キャラ文芸
蔑ろにされ婚期をのがした25歳皇女がついに輿入り!相手は敵国の禁軍将軍。冷めた姫vs堅物男のチグハグな夫婦は帝国内の騒乱に巻き込まれていく。
☆完結しました☆
スピンオフ「孤児が皇后陛下と呼ばれるまで」の進捗と合わせて番外編を不定期に公開していきます。
第13回ファンタジー大賞特別賞受賞!
ありがとうございました!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる