俺の番が見つからない

Heath

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58. 夜会 2-4

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その男は胸に右手を当て礼をとったかと思うと、直ぐさまソフィの手を取り、左手でソフィの背を軽く押して、音楽が流れる空間へ誘い出した。

皇妃ユディトはそれを見て、眉をひそめ、横に座す夫の皇帝アスランに視線を送る。

送られたアスランも面倒なことが起きたと、周りを見回すが、これを制することができるのは自分だけかと、楽しかった気分がどこかへ吹き飛んでしまった。

すぐに、それまでのアップテンポな曲からゆったり目の、しかし甘すぎない曲を演奏するように指示を出す。


どうやって入り込んだのか、わからないこのに、まだソフィに対して自信が持てていないギデオンは、忌々しげにソフィに差し出したはずの右手を握りしめた。


ソフィは踊ったことがない曲に合わせてを踊れるはずなどないのだが、パートナーのダンススキルが相当あるのか、軽々とステップを踏んでいる、そんな自分が信じられなかった。

「まだ、名乗っておりませなんだな。私はレオナルド、貴女の花婿となる者です。貴女のお名前をお教えください」

耳元で労わるように囁かれ、ソフィは驚いて相手の顔を凝視した。

「おお、美しい瞳だ。けぶる睫毛からして、この髪はウィグであろうか?」

まだ、伸びきらぬみっともない散切り頭を隠すために、皇妃ユディトの計らいで持ってきていたウィグよりも上質のアッシュブラウンの落ち着いたものになっていた。

それでも、睫毛や眉毛の色から、頭髪の色がわかるのだろう。

「それは、私を避けるためにしているのだろうか?」

そう言って、悲しげに見つめてくるこの男性は、今、何といったのだろう?

レオナルドと名乗り、私の花婿だと言った。

ならば、この方は先の皇帝レオナルド様なのだろうか? 
お歳は80歳を超えた方だとお聞きしていたのに、
この方はどう見てもアスラン皇帝陛下よりお若い?!

信じられない思いで、レオナルドを見つめてしまうが、
もしそうならば『不敬』であろうかと、瞳を伏せ俯く。

すると、レオナルドと名乗る人物はダンスをリードしつつ、器用に右手でソフィの顎を持ち上げ、顔を近づけた。

反射的にソフィは顔を反らそうとしたのを見て、ギデオンはカッとなり二人の元へ向かった。

「ソフィ嬢が嫌がっておろう!」

「ソフィ……、我が花嫁の名はソフィ嬢というのか、何と美しい響きであろう」

レオナルドはうっとりとソフィを見つめ、ソフィの名を呼ぶ。

ギデオンは苛立ちを隠そうともせず、レオナルドの肩をつかみ、ソフィと引き離そうとした。

「何をする! これはティルブルフ王国と我が大公国との盟約ぞ! ソフィ嬢の怪我も随分と良くなっておるようだ。このまま、ハンナバル(大公領土)で静養されればすぐに良くなられるに違いない。明日にも出立いたそう。これ以上邪魔立てすれば……」

と、そこまで言えば、ザッとレオナルドの侍女たちがギデオンとの間に立ちはだかった。
気がつけば、レオナルドの信奉者である騎士たちに守られるようにティルドルフ使節団のハマス伯爵とラウレア子爵も視野に入った。

チッとギデオンは舌打ちした。
盟約など守るつもりなどないだろうに、ただ、一線を退いて、暇を持て余し、遊んでいるに過ぎない。ギデオンは忌々しげにレオナルドを睨みつけた。

レオナルドはそんな攻撃的な態度も心地良さげに大袈裟な所作で続けた。

「ソフィ嬢、そなたのために我が領土に離宮を用意してある。どうか、私の手を取ってくだされ、我が麗しの乙女よ」

大きな声でギデオン殿下を恫喝した時の迫力と、この甘ったるい声色との差にソフィはガタガタと全身の震えが止められず、レオナルドの差し出した手のひらに、すぐには応えることができなかった。


* ** * ** * 

お付き合い下さいまして、ありがとうございます!

この先はまた見直しでき次第公開させていただきます。

その際はどうぞ宜しくお願い致します。
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