俺の番が見つからない

Heath

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54. 夜会 1-9

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風になびくような長い髪と驚いた表情のそれは両手を少しばかり前に差し出したようなポーズで、他の美術品のもつ優美さに少々欠けているように思えた。

それを見てカルロッタはそのガラスの像について語りだすと、コンラートは初めてカルロッタの存在を認めた様子を見せた。

カルロッタは王弟ハイネ公爵の注意を引けたことが余程嬉しかったのか、頬を染めた。

「これはカシュパル建国前のものと言われておりまして、創世神ジェネシスの『寵愛を受けた乙女』というものですの」

「これにオリジナルはあるのかい?」

少女像から視線を逸らさず、コンラートは尋ねる。

「え?  ええ、もちろんこれは複製でございまして、カシュパルの宝物殿にはオリジナルがあると聞いております」

コンラートの瞳はその像に釘付けになったままであったが、ロレンツォはカルロッタの澱みのない一連の説明にカシュパル派の広がりとその深さを感じていた。

コンラートの注意が引きたかったのか、カルロッタはその棚のガラス戸を開け、隣にあった楕円形のプレートを手に取った。


「これも複製ではありますが、魔道具でございまして発動させますと、この『寵愛を受けた乙女』が浮き上がるのです」

コンラートは驚いて、カルロッタを見て訊いた。

「どうすれば発動できるんだい?」

ハンサムなコンラートに見つめられて、カルロッタは恥じらうような姿を見せる。


「これはカシュパル皇家の血で動くのだそうです。一度見せていただく機会がございましたが、残念ながら私では動かすことはできません」

とカルロッタはさも残念そうに答えた。

「私が持ってみても良いだろうか?」

カルロッタが頷き、コンラートは躊躇いがちに受け取り、そのプレートを上下左右あらゆる角度から見ている。

そこへトレアール公爵がセオドアたちを案内してきた。

「コンラート殿、それが気になられるのかな?」

どれどれ、と言いながらトレアール公爵がプレートを手にすると、途端にウォンと小さな音がしてプレートが光り、そこにガラスの乙女と同じポーズの色付きの立体像が浮かび上がる。


どういった仕組みなのか、足元からは純潔の象徴である白百合がみるみる育ち、少女の顔を彩るように幾つも咲いた。

それに目を奪われているうちに、濃い緑のヘデラツタが地面を覆い尽くし少女と白百合を絡め取り、その濃い緑の葉の合間を縫って柔らかな黄緑色のツルを伸ばし、白い小さな花を幾つも付けてゆく。

皆、息することも忘れたかのように目を見開き、それを見つめる。トレアール公爵は一同の関心が引けて満面の笑みを浮べた。


ロレンツォもその美しさに魅入られたかのように一時、息を止めた。
がしかし、すぐに正気に戻ることになった。

なぜなら、その乙女が消えてしまったからだ。
そう、コンラートの手の中で。

トレアール公爵の手にあったプレートに手を伸ばし、受け取ってしまったのだ。

コンラートは悔しげにプレートを見つめている。

トレアール公爵は愉悦を隠しきれない様子で、では、と、そのプレートをコンラートの手からセオドアに差し出し、その手に乗せた。

ウォンと音がすると再び、乙女が浮かび上がった。

「ほっほう、カシュパルの血が、なるほど、セオドア殿下は濃いようですなぁ」

感心するようにトレアール公爵が言い、そのプレートを棚に戻した。



ロレンツォは帰りの馬車内で、来る時はにこやか出会ったコンラートが急に無口になった理由を考えていた。

鋭い視線でトレアール公爵を見ていた。

しかし万人が認める天才も、人の心の機微を推量るにはまだ若過ぎた。

納得の行く答えが思い浮かばず、思考は解けぬ表情のなぞから、あのプレートの仕組みの解析に移行していた。


同じ馬車内の女性たちは、トレアール公爵邸の美術品について話をしていた。

アンナマリアの美術品における見識は高く、カルロッタ嬢やトレアール公爵の講釈よりも、自慢につながる話が挟まれないだけ、わかり易かった。プリシラのみならず、コンラートとセオドアも聴き入るほどである。

何千年も前の異国情緒あふれる薄いベール状の布を身体に纏い、紫がかった長い銀髪を左右に編んで垂らし、紫の瞳が驚きにみひかれた様子の『寵愛を受ける乙女』

その付けられたタイトルにどうしても違和感を感じてしまう。

それは、まるで神に愛されることを拒み、悲しげに怯える美少女のようであったからだ。

アンナマリアは世界中から集めたカンビオ家の書庫にそれらしい神話があり、その本の中には挿絵も多くあったと話した。それに強く興味を惹かれた同乗者たちを見て、アンナマリアはその写本を早急に作成し、王立図書館とコンラート個人に贈呈することを約束したのだった。


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11/27(金)より連日で4話公開予約済みです。
お付き合いいただけますと幸いです。
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