俺の番が見つからない

Heath

文字の大きさ
上 下
54 / 64

53. 夜会 1-8

しおりを挟む

 英雄王、その名に相応しく多くの貴族出の側室や、愛人がおり、多数の庶子がいた。

そこからもそれを許容した正妻として、賢妻としても国民からの尊敬を今でも集めている。が、しかし、どうやらそれはオーガスタの計画の一つであったようだ。

王位継承権争いの激化で、国の存亡さえ危ぶまれた中、国内の貴族をまとめ上げる戦略。

側室や愛人に子供ができるとその子をすぐ庶子と認め、破格の恩賞を与え、そしてその子をその一族の跡取りにする。そうしてジークベルト派を着々と増やす。

貴族としても教育を受けた女性であったとしても、側室や、愛人がいることに良い思いを持つことはないだろう。かくいう母アンナマリア・ルイーザもその一人である。

ロレンツォはまだ年若いとはいえ、知識の一つとして知っている。

王立アルケイディア学院でも、王宮内でも、魔術院ですら、愛だの、恋だの、浮気しただの、されただの、聞きたくなくても入ってくる。

そんな中に身を置くなど、自尊心の強い母には許せないに違いない。


では、オーガスタはどうだったのだろう?
 
剣のようなマーク『†』が主語になっている文がある。これは騎士であったジークベルトではないのか? 側室を意味しそうな花のようなマーク『🌺』に矢印が向けられており『もっと上手くやれ!』と書かれてあったり、『!』のついた『🌺』の前後の文が大きく崩れ、「❌」がつけられていたりする。

戦略とはいえ第二王妃みならず、側室、愛人さえおり、対抗心に満ちた態度や嫌がらせがあったと想像するのは簡単だ。

完璧な賢王妃の文字の乱れにロレンツォはそこはかとない可愛らしさも感じたのだった。


アデライト第二王妃の望み(唯一の王妃になること)は叶うことがなかったが、最終的に息子二人を公爵にすることに成功している。

それがトレアール公職家とグーゼンバウワ公爵家であるが、そこへカシュパルの皇族に近い血筋の令嬢が嫁している。そしてそれ以降も続々とカシュパルの血が入り続けている。

ノイベルト王も王子時代になかなか妃が決まらなかったと聞いたが、セオドアの婚約者も決まっていない。

このアデライトの『聖血』信仰とも言える思いが子を通して濃度を上げて受け継がれ、ティルドルフ王国をカシュパル神皇国へ奉納せんとしているのではないかと危ぶむのである。

トレアール侯爵の尊大な態度を見れば、カシュパルの聖血を持つ自分こそが王に相応しいと考えても可笑しくない。

王直属のはずの陰の一族オスティアスの記録にはトレアール公爵らしい王族からのオーダーを匂わせるものもあった。


ロレンツォは宮廷夜会のおり、トレアール公爵がセオドアにコレクション自慢をした話を聞き、先手必勝、まずは相手を知るべしとその翌朝、その日夕刻に訪問する旨の連絡を入れたのだった。

その時はまだ主賓となるセオドアと護衛のマークと自分だけで行くつもりであったが、この話にコンラート殿下が乗り気になり、また、母のアンナマリアが面白がって、プリシラを誘い、少々派手なことになってしまった。


トレアール公爵に最初に案内されたのは公爵が招いているものたちの集うサロンであった。

短い滞在であることは連絡してあったが、トレアール公爵の余りにもあっさりとした人物紹介に、後で館に張り付かせている密偵に本日の参加者リストを提出させなければとロレンツォは思った。


その後、あちこちの豪華な部屋を経由して、漸くご自慢のコレクションルームへ案内された。

そこは広いホールになっており、一代で集めたものとは言えないほど多くの美術品が並んでいた。

壁には様々な絵画がかけられており、中には英雄叙事詩のシーンが描かれたものから、ご先祖様たちといった個人的なものまである。

また、ブロンズや大理石でできた剣を持つ騎士像や神話の女神たちの優美なポーズの美しさが目を惹く。

陽の差し込む窓の反対側にある飾り棚の中には古めかしいな宝飾品や伝説の聖剣を模したもの、馴染みのない小ぶりの武器類、コンパスや望遠鏡、そして魔道具などが並べられている。

その中には用途が分からないものもあり、セオドアとアンナマリアは熱心に公爵の説明を聞いていた。

飾り棚ごとにコレクションはまとめられているようだったが、コンラートがとある飾り棚の前に立ち止まっているのをロレンツォは不思議に思い近寄った。

エスコートしていたカルロッタ嬢がここぞとばかりに、進み出てコンラートにその棚のコレクションの説明をし始める。

「この棚にあるものは、カシュパルに受継がれている神話をモチーフにしたものですの。

なんと言いましても3千年の歴史がございますので、その時代ごとの、特色が大変興味深いのです……」

ロレンツォはコンラートが一心に見つめているものを見ると、それは水晶を模したようないびつなガラスの中に浮かびあがる少女像であった。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

愛するオトコと愛されないオンナ~面食いだってイイじゃない!?

ルカ(聖夜月ルカ)
恋愛
並外れた面食いの芹香に舞い込んだ訳ありの見合い話… 女性に興味がないなんて、そんな人絶対無理!と思ったけれど、その相手は超イケメンで…

異世界着ぐるみ転生

こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生 どこにでもいる、普通のOLだった。 会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。 ある日気が付くと、森の中だった。 誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ! 自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。 幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り! 冒険者?そんな怖い事はしません! 目指せ、自給自足! *小説家になろう様でも掲載中です

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

偉物騎士様の裏の顔~告白を断ったらムカつく程に執着されたので、徹底的に拒絶した結果~

甘寧
恋愛
「結婚を前提にお付き合いを─」 「全力でお断りします」 主人公であるティナは、園遊会と言う公の場で色気と魅了が服を着ていると言われるユリウスに告白される。 だが、それは罰ゲームで言わされていると言うことを知っているティナは即答で断りを入れた。 …それがよくなかった。プライドを傷けられたユリウスはティナに執着するようになる。そうティナは解釈していたが、ユリウスの本心は違う様で… 一方、ユリウスに関心を持たれたティナの事を面白くないと思う令嬢がいるのも必然。 令嬢達からの嫌がらせと、ユリウスの病的までの執着から逃げる日々だったが……

契約結婚!一発逆転マニュアル♡

伊吹美香
恋愛
『愛妻家になりたい男』と『今の状況から抜け出したい女』が利害一致の契約結婚⁉ 全てを失い現実の中で藻掻く女 緒方 依舞稀(24) ✖ なんとしてでも愛妻家にならねばならない男 桐ケ谷 遥翔(30) 『一発逆転』と『打算』のために 二人の契約結婚生活が始まる……。

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

皇帝陛下は身ごもった寵姫を再愛する

真木
恋愛
燐砂宮が雪景色に覆われる頃、佳南は紫貴帝の御子を身ごもった。子の未来に不安を抱く佳南だったが、皇帝の溺愛は日に日に増して……。※「燐砂宮の秘めごと」のエピローグですが、単体でも読めます。

処理中です...