俺の番が見つからない

Heath

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41. 交渉 2

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 興味深げに振り返った男は20代後半のがっちりとした体型の青い髪とはっきりとした目鼻立ちにオリーブ色の瞳を持ち、派手なコートに上質なシャツを少しばかり着崩して身につけている。

「ん? こいつと似たヤツを知ってるのか?」
「いえ、そういうわけでは、ご無礼を致しました。お許しください」

「良いんだよ、そんなことは。それより、誰に似てるって?」

ゆっくりだがロップの鼻先まで顔を近付けてきて、目を細めながら口角を上げ聞いてくる。

「……」

「だんまりかぁ?」

ロップは獰猛な肉食獣にでも会ったような恐ろしさを感じて身を強張らせる。
それを分かってか、男は殺気じみた気配を柔らかいものに変え、気さくに話し始めた。

「まぁ、いいか、俺はアルーゼ・グリーディってんだ。商売人でな、今回の競市の半分は俺の出品モノだ。買いに来てるなら、仲良くしといたほうが良いぜ?」

欲しいモノがあるんじゃないのか? という含みを込めて、少し離れたところで係りの者と交渉しているウーノスに視線を送る。

「そんなに似た人に興味があるんですか?」
「そうだなぁ、興味がある! 俺は長年探しモノをしててな、こいつよりちょっとばかり背が高くって、体は細い、かな? でもって、銀髪で紫眼の可愛い子ちゃんだ」

ロップの眼を射抜くように見つめてくる。

「……」

「ほう、知ってるな、お前」

無言になったのを見て取ってアルーゼはにんまり笑う。

「対価次第です」

「お、教えてくれるんだな? どこへ行けば良い?」
「ですから、対価次第です」

「お前は何が欲しい?」
「一先ず、5人の奴隷……ですかね」

「お、それだけで良いのか? 勿体ぶった割に随分安いじゃねーか」
「ですから、、と申し上げました。価値があるとお思いなら、今後も奴隷をお譲りいただけませんか」

「へぇ、子供のくせに、奴隷商人でもなるつもりか?」
「まぁ、そんなところです」

「おい、これをやる。俺の前からとっとと消えな」

アルーゼは連れていた女に向かって言い、財布らしいものを渡した。

急な話の流れについていけない女は突き出されたそれを受け取ったが、これが別れの言葉だと理解した途端に、すがりつくように騒ぎ出した。

アルーゼの従者だろうか、屈強な男たちが主人の気持ちに沿うようにあっという間に女をその場から連れて行った。

「これで、静かになったな。商談の続きと行こうじゃないか」


 領主館からの帰り道、ロップは目障りシェヘラの厄介払いができて、あの男が約束を守り奴隷を譲渡するのなら、ダブルで旨い話に内心ホクホクしていた。

すでに、シャへラが宿にいなかったとしても、ロップが失うモノは何もない。
欲しかった奴隷はすでに仮売買契約を済ませた。あの男ではないが本当に欲しいモノではなかったが、やらなければならないことだった。

垂れ耳ウサギ族の獣人として、あの襲撃で失ったモノを取り戻す責任が唯一逃げ延びた自分にはあるのだから。

シェヘラも訳ありだと思ってはいたが、この男から身を隠していたのか、とこれまでの可笑しな行動の理由に納得できてしまう。ご主人セラフィス様もあの女に誑かされていたが、あのアルーゼと言う男も相当拗らせていているようだった。

あんな銀髪だけ似ている女を大事そうに連れ回っていたんだから。
ああいうのを悪女尻軽というのかも知れない。

まぁ、あの執着ぶりを見たら、逃げ出したくなるのもわかるような気もするけれど。などと、回想しつつ、待ち合わせ場所に指定をした「あなぐら亭」の向かいにある酒場の窓際の席で待っていると、冒険者風に変装をしたアルーゼが1人でやってきた。

「よう? 待たせたか?」
「いえ、待つのはこれからですよ」

「そりゃそーか」
「ええ、宿の部屋にいないことは確認済みですし、荷物も残っていましたから戻ってくると思うのですが……」

あそこサロンじゃ、聞けなかったが、どうやって知り合った? で? お前と2人なわけか?」

「……僕はとある方に仕えておりまして、その方がお困りのシェヘラさんをお助けになられたのです」

「へぇ、シェヘラねぇ、で、ある方ってのは男だよな?」

「嫉妬ですか? 僕のご主人様は清廉な方です。あなたの様に欲にまみれた方ではありませんよ。数日、馬車でご一緒しただけで部屋には僕も泊まっておりました」

「へぇ、数日ねぇ、はっ清廉潔白な男ってか、そんな男は見たことも聞いたこともないがなぁ」

アルーゼは顎に手を当て、首をひねってみせ、ロップの酷い言いように怒ることもない。どちらかというと軽口を叩くような話振りである。ただ、眼がおどけた口振りと真逆にギラギラさせ、話を続ける。

「でな、もうちょっとばかり、儲けねぇか?」
「どういうことです?」

「その可愛い子ちゃんが俺の可愛い子ちゃんだったとして、だ。あいつは簡単に捕まってくれねぇんだよ」

な? わかるか? わかるだろ? というニュアンスでロップの返事を待っている。

「そうですねぇ、人族には珍しく魔術も使えるようですし、他にも事情がありそうですしねぇ」

意味ありげにアルーゼに視線を送る。傍目には冒険者とその護衛対象の商家のお坊ちゃんという感じだが、話している内容が内容なだけに、いずれが狸か狐か、といったかしあいの様相を呈している。

「お前、歳はいくつだ?」

感心したように聞く。

「僕は16歳(成人済み)ですが? 何か?」
「ふぅん、14、いいとこいって15ってところか」

歳をぴたりと当てられて、ロップは顔が赤くなるのを感じた。

「ま、俺はどっちだっていいんだけどな、お前俺んところへ来ねぇか? 
なぁに危険なことはさせねぇよ」

胡散臭い話にロップの眉間にシワがよる。

「給料も弾むぜ。それに俺んところへ来る奴隷も好きにできる。まぁ、僕ちゃんには早いかも知れねぇが、俺は娼館もあちこちに持ってる。そこにいる奴らも好きにしていい」

どうだ? と視線が語る。
条件の良さにロップがゴクリと唾を飲む。もう一押しと踏んだアルーゼが畳み掛けるように、しかし声を落とし、ゆっくりと話始める。

「……3年ほど前だったか、とある領地が略奪を受けてな、領主一族が犠牲になったらしい。領民の若いやつだけを狙って、他は皆嬲り殺し狩られただったってな。証拠が残らないように火を放つ、そりゃぁ酷いやり方だったらしい。その所為か、今もその地には誰も住みつかないってな」

ロップは見る見る蒼白になっていき、テーブルの上にあった手の先が震えていた。



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