俺の番が見つからない

Heath

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40. 交渉 1

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拙作をお読みいただきまして、ありがとうございます。
前回から場所が変わり、更に新しい人物がぁ(´Д` )
これからもお付き合いいただけると嬉しいです。
* ** * ** * ** * ** * ** * ** * **


 ツィリル連合共和国の中規模都市モンテスで最初の朝を迎えたシェヘラカラカルは具合が悪くベッドから起きられなくなっていた。ロップはすぐにカラカルの意図に気付き「長旅の疲れでしょうか?」とさもそれは一大事という体を作り、いそいそとセラフィスをあなぐら亭から連れ出した。

ロップの行く先は決まっている。この街の中心地にある格調高い宿である、その名もズバリ「ラ・ミラヌス」である。この「あなぐら亭」に到着した時に宿の者から渡されたメモに書かれた場所であるからだ。


大通りにある「ラ・ミラヌス」の受付でロップは約束の人物を呼び出してもらう。現れたのは上品な服装の人族にしては大柄な中年男性である。美しい白金の髪を後ろになでつけた髪型に青い瞳が印象的な紳士で、従者を2人連れて現れた。

「セラフィス様、お待たせしまして、大変申し訳ございません。ロップもご苦労だった」

セラフィスは見知った顔に少し眉が動いたように見えたが、しかし、言葉を返すわけでもない。

「いえ、無事来れて良かったです。ご丁寧にありがとうございます。今回もどうぞ宜しくお願い致します」

「ああ、そうだな。まず、行くところがある。そちらに行ってから、細かな話をしよう」

紳士がそう言うと、従者が手配していた馬車に向かう。

随分立派な馬車である。ロップはこの人物が貴族であることは風態からしても明らかであったが、何者であるかは知らない。この紳士から聞かされているのはマスティマ・ウーノスと言う名前と、ウーノスのご主人筋になるらしいセラフィスの身の回りの世話をすることであり、その引き換えにロップはロップにとって大きな報酬を受け取ることになっていた。

馬車で少し景色が変わる程度の距離を移動する。乗合馬車と違って、なんとも乗り心地が良い。もう少し乗っていても良いぐらいであった。

そして、着いた先は規模の大きなイエアベトラ聖教会であった。
ウーノスとロップが、セラフィスを挟むの形で建物の中を進む。

護衛騎士たちが幾重にも守っている建物の奥深いところにある扉の前に誰何もなく到着する。ここまででも結構な人数の僧騎士と、高位思われる聖職者たちとすれ違い、ウーノスは挨拶を受けていた。ロップは『どういうことだろう?』と訝しげに思いながらも付いていくと、2名の厳しい僧騎士が守っている扉の前に到着する。そしてウーノスが名乗るとあっけなく通された。再び、長い回廊となり、その先には尼僧が扉の前で控えており、取り次いでもらい豪華な部屋へ入る。

そこにいたのは真っ白な髪、白い肌、薄いピンク色の瞳、白い清楚なドレスに身を包む可憐な美少女であった。

それは噂通りの姿。
イエアベトラ教国から出ることのないと言われる神子姫。

ロップはこんな大物に会うことになろうとは思ってもみなかったため、一瞬、驚きに息が止まる。が、すぐに両膝を付き頭を下げる。

神子姫様はそれに一瞥もくれず、ただ、一点だけを見つめていた。

「お久しぶりでございます。神子姫様」

「ああ、ようやく、ようやくでございます。セラフィス様。ご無事で何よりでございます」

神子姫様がセラフィス様にお声をかけた瞬間にセラフィス様の動きが急に緩慢になった、とロップは思った。

「神子姫様、ご紹介しておきましょう。この者ロップがセラフィス様のお側を務めております」

神子姫はウーノスに視線を向けることもなければ、ウーノスの言葉に反応も示す素振りもなかった。

「ご苦労でした。下がって良いわ」

「神子姫様! 無茶はなさいませんように!」

「マスティマは相変わらず心配性ねぇ」

ようやく、神子姫は振り返る。

「ええ、ええ、よーく存じ上げておりますからね。良い加減になさったら……」

「バカなことをいうものではないわ! 何のために、こんなことをもしてると思うの?」

『え?』

「早く、お行きなさい! でないとその子にお前の小さい時に泣き虫で、随分大きくなるまでおねしょをしていたことをバラすわよ」

ウーノスは手で赤面した顔を押さえつつも、やれやれといった顔をして言葉をひねり出す。

「はい、はい、では、夜にお迎えに参ります」

「来なくて良いわ。セラフィス様にいていただくために何人の神官を連れてきたと思うの?」

ロップは神聖な神子姫に拝謁しているという事だけでなく、その神子姫様とウーノスのやり取りの理解ができず、混乱していた。

まるで神子姫の方が中年のウーノスより年上であるかのような話しぶりであったからだ。しかし聡いロップはそんな疑問を噯気にも出さない。何しろ、これから報酬についての取り決めを行わなければならない。


 セラフィスを残し、教会を後にしたウーノスとロップは馬車を走らせる。向かう先はミラヌス領主の持つ館であった。道中、馬車の中でロップは報酬について切り出す。

「何人でも良いのでしたね?」
「ああ、構わない。何人でも欲しいだけ買えば良い」
「ありがとうございます。その言葉を聞けて安心致しました」

ミラヌス領主は鉱山採掘の労働者確保のため、この街の管理という名目で奴隷市を采配していた。この領地はかなり恵まれていて、鉱山やダンジョン群などから生み出されるお金に加え、定期的な奴隷市の開催、娼館、カジノなどの運営で大変潤っていた。特にこのカジノ運営は労働の対価として支払った金銭を吸い上げる役割を果たしていた。

どこを見てもキンキラ眩しくて仕方がない屋敷の中にウーノスとロップは案内される。通された先はシガールームや遊技場が隣り合っているサロンである。

すでに何人かの招待客がおり、既に商品を見たのだろう、何やら値段などの話をしているようだった。奴隷市はまだ始まってもいないのに、とロップは気が焦りウーノスを見上げてしまう。ウーノスは頷いて、係りの者を呼んでくれ、早くも商品検分ができることとなった。

商品が記載されているカタログを見る。美術品や宝飾品、珍しい武器や魔道具などの後に、名前や性別、年齢、種族など数十人分の情報が記載されたページがあった。

係りの者は二人を地下室へ案内する。階段を降りた先には薄暗い牢のような部屋が8つほどもあり、その一つ一つに、10人程度ずつ入れられているようだ。係りの者がリストを読み上げると、呼ばれた者が扉にある小窓の方へとのっそりと寄ってくる。ロップは顔を見せる人物だけではなく、その牢の隅々まで目を凝らして見ていた。

「どうだったかね?」
「……探していた者はおりませんでしたが、購入したい者は5人ほどおります」

「……そうか、わかった。報酬の準備をしよう、気を落とすな」

ウーノスに促され、ロップは階段を上がり、サロンに戻った。

気持ちを切り替えねば、と頭をあげると、そこには目の前に男にしなだれかかった長い銀髪の後ろ姿があった。

「シェヘラ?! なんでここに?」

思わずロップの声が出る。

「よお、坊主、俺の女になんかようでもあるのかい?」

銀髪女の腰に手を回している男が面白い物でも見つけたかのように話しかけてきた。



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