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33. なんで? なんで? なんで? 4
しおりを挟むこの街に到着してすぐ、ロップは迷うことなく街の中心地にほど近い中堅どころの宿「あなぐら亭」に滞在を決めた。そこは名前に相応しく薄暗い雰囲気で雑多な感じで、どちらかといえば魔族よりの者が多いようなところだった。しかし、入ってみれば、見た目よりも随分と規模が大きいようである。
荷物というほどの荷物ではなかったはずだが、いつの間にかトランクが2個ほどに増えている。荷物を部屋に入れ、食事を摂り、久々に風呂に入った。さすがに街の規模が違うためか、風呂もあったのだ。
セラフィムの隙をついて、ロップがカラカルに近づき小さな声で話しかける。
「いつまで一緒にいるんですか? あんたならもう少し上手くご主人様の目を掻い潜って逃げ出すと思ったんですけど、それとも金目のものでもご入用です?」
相変わらずロップは憎々しげな表情を隠さない。しかもお金の入ったらしい小袋を差し出してくる。
「へぇ、良いんだ。(逃げ出せないように)見張ってたんじゃなかったの?」
「この街に用があるので、しばらく滞在する予定です。とっとと消えてくださいね」
まるで、カラカルが自分から離れないような口ぶりにムッとしたものの、差し出された小袋をにっこり微笑みながらありがたく受け取った。
「任せて、きれいに消えるよ。そん時はご主人様が追っかけてこないように首に縄つけといて♡」
ロップは不愉快そうに、しかし余裕を見せて言う。
「そうそう、一つお教えしましょうか、(ご主人様に)眠らされる前に寝ちゃうといいんですよ」
「なるほど、それもそーだ!」
これは良いことを聞いたぞ、とカラカルは思った。確かにそうすれば、自分の起きたい時間に自分の意思で起きれそうだ。
その夜の夕食時や部屋の中では、もうすぐおさらばできるとカラカルの中に余裕もできてきて、意趣返しにロップの嫌がりそうだと思われる ” セラフィムに甘える " をしてやった。案の定、ロップはイライラした様子で腕を組みブッブッブッと何やら低い音が聞こえてきて、カラカルは『ざまぁ』とこれまでの鬱憤を少しばかり晴らしたのだった。
翌朝、カラカルは具合の悪い振りをして宿屋に残るように仕向けたところ、ロップが一瞬のうちに理解したようで、嬉しそうにセラフィムを引っ張って街の雑踏に消えていった。
カラカルは部屋に鍵と結界をかけ、恐々と獣化する。もうマシェリ不足が限界だったのだ。少し離れたところで、ゴロンと寝転び床に背中を擦り付けるように腹を見せる。チラッと横目で俺のマシェリ♡ を見る。
しっぽをピン♡ とあげて、とてとてとて♡ と近づいてくるぅ♡
『今だ!』徐に自分の尻尾を不規則に動かす。ペシッと床を叩くように、また、尻尾を自分の胸元へ、を繰り返す。マシェリ♡ がお目々をキラキラさせて前足を大きく上げて♡ 2本足♡ になり動く尻尾に跳びかからん♡ としてるぅ♡♡♡
一頻りマシェリを堪能♡すると小さい♡ マシェリ♡ は4半刻もすれば、まったりと♡ してくる。そうして、ようやっと♡ 本当にようやく♡ カラカルは念願の毛づくろい♡♡♡ をした。マシェリ♡ が目を細める。俺の毛づくろいを受けている♡♡♡ た、た、たまらん♡ けしからん♡ 可愛いさ♡ に俺もう逝っちゃいそう♡♡♡
しばらく、マシェリのあちら♡ こちら♡ を舐め続けて、脳みそトロん♡ トロん♡ 俺♡ あぼーん♡ マシェリ♡ うとうと♡ となっていたが、窓から差し込む陽の光が大きくなってきたのが視界に入り、正気を取り戻した。このラブラブチュッチュ♡ の日々を俺だけのものにするのだ! とウトウトしてるマシェリ♡ を起こさないように、最大限注意をして出かける用意をした。
よく見ると、カラカルの荷物の中にご丁寧にも目立たない茶色のカツラまで用意されていた。カラカルはこれもありがたく使わせてもらう。長い銀髪を帽子上になったカツラに仕舞い込み、更にフードを深目に被る。そして俺の♡ 大事な♡ 可愛い♡ マシェリ♡ を懐へ入れ、宿を出た。
この都市に来たことがないわけではないが、通過地点として通ったことがある。大凡、街の様子がわかっておりスムーズに人混みを抜けていく。
街の中心広場では市場が立っており活気があり、結構な人出である。
歩く人たちの様子や屋台に並ぶボリュームのある食べ物などから労働者が多いことが感じられる。ただ、それだけではなくきちんとした騎士も多いようだ。これは治安が悪いのか、良いのか、判断が難しいところだ。
まずは、逃走のための情報を仕入れに午前中一杯使い、いくつかの乗合馬車の集合している広場や馬の値段などを確認して周った。
昼食は酒場を兼ねているような定食屋にしようと、大通りから1本裏に入ったところへ足を向ける。そこには多くの食べ物屋が並んでおり、目移りしそうだ。カラカルはその中でも地元民が通っていそうな定食屋を選んだ。
この街は山に囲まれているため、魚料理ではなく肉料理や麺類がメニューに並ぶ。周りの客は思った通り、気安く店主と話している。カラカルは目立たないが話が聞こえるテーブル席につき、他の客が頼んでいる野菜が沢山盛られている麺類を頼んだ。食べてみると味付けが濃いめで結構美味い。
この街の情報が入らないかと思ったが、ローカルな話ばかりで思うようなものはなかった。アタリは美味い昼メシだけか、と思っていたところへ、興奮気味に客と店主が話しているのが聞こえた。
「……って、聞いたか?」
「おお! 聞いた聞いた! イエアベトラ教国の神子姫様のことだろ?」
「おおよ! 滅多に国を出ることなんぞ、ないんだろ? これで死んじまった奴らも浮かばれるってもんよ」
「本当になぁ、炭鉱が3つ、ダンジョンが1つ崩れて、村が2つも飲み込まれたんだ」
「だなぁ、今の神子姫様になって初めてじゃないか? ありがたいこった」
「それによ、神子姫様の祈りは鎮魂だけじゃねぇ、災厄もお鎮めになるそうだ」
「なら、これでもうこの街も安泰だ! 活気が戻るってもんさ」
なるほど騎士が多い理由に思い至る。この神子姫様のご来訪とあれば街の騎士も総動員であろうし、それに加えてイエアベトラ教国の僧騎士もいるということだ。そりゃ、身なりの良い騎士が多いわけだ、とカラカルは独り言ちた。
しかし、そこではそれ以上の情報はなく、やはり冒険者ギルドの酒場が一番かと勘定をして定食屋を出る。
冒険者ギルトはこの街に2つあったが、カラカルはその内の近い方へ行ってみようと思った。
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