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上が無能だと下は大変です〜3〜

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 え、まさかのタイミングでカイルへのスカウトがやってきた。いつかこんな日がくるのは分かっていたが、こんなに早くくるとは思っていなかった。
 カイルが認められるのは嬉しい。だがカイルと離れるのは寂しいし、カイルのご飯が食べれなくなるのは嫌だな。やんわりとお断りしよう。

「大変申し訳ないんですが、そのお話はお受けできません。」

 俺がきっぱりと断ると、ラルの妹は白い目で俺を見る。

「貴方には話していません。私はカイルさんにお話ししているのです。奴隷の了承と購入金の2倍払えば上書きできるので、貴方の許可はいりません。他に何か言いたいことはありますか?ないのなら黙っていてください。」

 えっ、そんなルールがあるの!?俺は驚愕で目を見開き、ラルを見る。ラルにはそんな俺の心の声が届いたようで、あるぞというように頷いた。そうか、あるのか、、、それなら俺の断りは用をなさない。カイルの気持ち次第である。

「カイルさん、貴方の料理は人の心を動かすことのできる尊いものです。こんな不特定多数の人に魔眼を行使するクズの元から離れて、私の専属料理人になってください。」

 もう俺にできるのは祈ることぐらいである。どうか今までの時間が嘘じゃないように。そう祈りながら処刑所に立つ死刑囚のような気持ちでカイルの答えを待つ。

「コウ様は魔眼持ちなのですか?」

「ええ、間違いないわ。私は魔眼持ちだから、影響はないけどお兄様やカイルさんは騙されているの。あのいけ好かない勇者のような魅了の魔眼に違いないわ。そうでしょ?」

 魔眼?魔眼、、、あっ、そういえば不快の魔眼とかいうデメリット特典も貰ってたな、すっかり忘れてた。

「ああ、持ってるぞ。ただ俺の魔眼は勇者の魔眼のように上等なモノじゃなく、不快の魔眼ってやつだけどな。」

 俺の言葉にラルの妹は驚いた顔をしたが、すぐに怒りの表情となる。

「嘘をつくならもっとマシな嘘をつきなさい。そんな魔眼なんてある訳ないでしょ!」

 えー、あるから言ってるのに。だけど証明する方法もないし困ったな、、、。
 俺が途方にくれているとラルが口を開いた。

「リリー、コウの言ってることは本当だ。ゼル爺が鑑定して親父も知っている。嘘だと思うなら親父に確認しろ。」

 わー助かったとは素直に喜べない。やはり貴族、どこの馬の骨とも分からない人間への対策はバッチリだったんですね。鑑定された可能性が高いのはラルの別宅でラルの親父さんと会う前とかだろうな。
 ていうか妹の名前はリリーっていうんだね。自己紹介がないから始めて知ったよ。貴族では挨拶はコミュニケーションの基本じゃないの?

「お兄様、本当ですの!?」

「本当だ。リリー、コウ達が迷惑がっているのがわからないのか?」

「まだカイルさんのお答えを聞いていませんわ!」

「はー、、、カイルはどうなんだ?どうしたいんだ?」

「私はまだコウ様の所で勉強したいです。ですのでお誘いは嬉しいのですが、お断りさせていただきます。」

「そうですか、、、ですがカイルさんのお店がこんなにガラガラなのはこの人のせいです。こんな人が店主として立っていると本来来るはずだったお客さんもやって来ません。私がカイルさんのお店を人気店にしてみせます!まずはコイツを店から遠ざけましょう。私はもっと多くの人にカイルさんの料理を食べて欲しいんです!」

 確かに魔眼のことといいリリーの言ってることは的を射ている。そうなるとやっぱり俺のせいなのか?リリーの言ってることが否定できないから、リリーの提案を一蹴できない。俺もカイルのご飯を多くの人に食べて欲しいって気持ちもあるからな。

「リリーちゃんだったっけ?俺もカイルの料理を多くの人に食べて欲しい。だからリリーちゃんの言う通りにしよう。」

「そうですか!それでは私も頑張りますので、ホットドックを100個、そして有るのならワッフルを有るだけもらうわ。」

「ワッフルは1つ銀貨1枚で20個あるけど大丈夫か?」

「もちろんよ。銀貨21枚ね。」

 リリーは躊躇うことなく銀貨を取り出し、支払いを行った。流石お嬢様金の使い方が凄まじいな。ただ俺も流石に大金だから銀貨1枚まけて20枚もらうことにした。

「ラル、今日はわざわざありがとうな。」

「いや、美味しいホットドックを食べれてよかったぞ。本当はリリーの奴がワッフルを作った料理人に会わせろって煩かったから連れてきたんだけどな。」

 ラルは肩をすくめながら、おどけて見せる。だがリリーと仲が良いんだろうなということは伝わってきた。

「当たり前です!こんな料理を作れる料理人に会いたいと思うのは当然です。今日はカイルさんにお会いできて光栄でした。私の力でカイルさんをもっと輝かせてみせます。それではカイルさん、またお伺いいたしますわ。」

 リリーは当然だとばかりに胸を張り、自分の正当性を主張する。そしてカイルのプロデュースを高らかに宣言した。

「ありがとうございます。そこまで言っていただけると本当に嬉しいです。」

 カイルも相手が貴族だと思って少し硬いが、本当に嬉しそうだ。料理を作る喜びは相手の笑顔だからな。
 こうしてラルとリリーは帰っていった。この日の売り上げはこの2人の売り上げのみだったが、売り上げだけでいうと大成功の1日だった。
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