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過去を乗り越えて

ゴブリン攻防戦〜12〜

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 俺とワンダは合図とともにゴブリンネクロマンサーをめがけて突っ込んでいく。案の定ネクロマンサーを守るように冒険者のゾンビが立ちはだかる、その中でもバットは圧倒的な存在感を放っている。
 相手がゾンビということで俺は考えていた魔法を試してみる。「セイクリッドサークル!」試したことはなかったが綺麗で澄んだ汚れを振り払う空間をイメージして、魔法を発動する。
 見事魔法は成功した。俺は天才かもしれない、俺の魔法で効果範囲内のゾンビ達の動きが悪くなる。さてバットとゴブリンネクロマンサー、どちらをどっちが倒すか。バットとネクロマンサーどちらが強いかといったらバットの方が強そうだな。

「ワンダ、俺がバットを引き付ける、お前がネクロマンサーを殺れ!」

「了解だ!」

 ワンダが了承したので俺は動きの悪いゾンビを躱しながらバットへとたどり着く。

「久しぶりだな、お前の相手は俺がする。」

「おばぇは、、、こじぎんちゃく、、、。」

 おかしい、ゾンビに知能はなく、ただの操り人形という話だったんだけどな。俺が相手をすると言った以上、少し話と違ってもやるしかない。話せるということは少しは知能が残っているのだろう、それなら挑発も効くはずだ。

「あんなに人をコケにしてたお前がこのざまか。ジルのことが嫌いだったみたいだが、今のお前を見ればジルの方が凄かったことがわかるな。しょせんお前はジルと違って、Bランクの実力もなかったんだよ!」

「なんだどぉぉぉぉー!!!」

 怒りをぶつけるようにバットが思いっきり振った長剣が俺へと襲ってくる。あわよくば反撃をと思ったが俺は無様に避けることしかできなかった。バットはゾンビ化の影響とセイクリッドサークルの影響で生前より弱体化してるはずなのにさすがBランク冒険者である。今の俺ではこいつは倒せない、だが今回の目的はこいつじゃなくネクロマンサーを倒すことじゃない。このままひきつけてワンダが倒すのを待とう。

 俺はバットの攻撃を全力で躱しながら、隙あれば反撃を狙う。ジルとの特訓では躱すのすら難しいスピードでジルは攻撃してくるのでそれに比べるとバットの攻撃は避けることができる。だが反撃を当てるがダメージを与えれている気がしない。そしてたまにバットの攻撃はフェイントを交えながら飛んでくるからナイフでなんとかいなしている。
 そしてまたフェイントを交えた攻撃が飛んでくる、俺はなんとかナイフで攻撃を受けるが今回は感触が違った。ナイフはバットの攻撃に耐えきれずにヒビが入り、根本から砕ける。なんとかバットの剣の軌道を逸らすことができたが武器がなくなってしまった。
 ヤバイ替えの武器がない、これだと戦えないぞ。そんな俺にバットはチャンスとばかりに波状攻撃をしかけてくる。俺は必死に避ける。そして避けるのが難しくなってきたタイミングで致命的なミスをする、見事にバットのフェイントにひっかかり足がもつれて転倒してしまった。バットは千載一遇のチャンスにわずかに頬を緩ませた気がするそしてバットは剣を振るう。
 
 俺の命運もここまでか、この世界に転移してきて短い命だったな、まだまだやりたいこともあった。どうせここで終わりなら苦しまずに一思いに殺して欲しい、俺は目を瞑ってバットの攻撃を待つがなかなか痛みがやってこない。俺は恐る恐る目を開くと、バットの剣は俺の目の前で止まっていた。

「コウさん、バットさんをひきつけてもらってありがとうございました。なんとかネクロマンサーを倒すのが間に合ったようですね。」

 ワンダの言葉で俺は周りを見渡す、俺の目に写ったのは魂が抜けたように動きが止まったゾンビ達だった。どうやら紙一重で任務を達成できたようである、ワンダ様々である。それにしてもバットは強かったな。俺はBランクにはまだまだ手が届かないようである。
 なんとかネクロマンサーを倒せたので俺は動けなくなった冒険者達の遺体を収納していく。彼等は皆、命を賭して戦ったのだ、安らかに眠らせてやらないといけない。全ての冒険者と倒したネクロマンサーを収納した俺達は任務を達成したが国軍の討伐の様子を少し見ていくことにした。俺達はゾンビが動かなくなり、混乱したゴブリン達を尻目に安全地帯へと避難し、国軍の陣地へと戻る。

 国軍の陣地は疲労で疲れた奴隷が地面に座りこみ、休んでいた。貴族達はというと優雅に椅子に座り、寛いでいる。どうやらゾンビが動かなくなったことでゴブリン達の攻撃の手が止んだことで休息をとっているようだ。奴隷はボロボロになっているのに対して貴族の鎧はピカピカだ。いかにここの貴族達がクズなのかがよくわかる光景だった。

 俺達も少し休憩をしようと思って休んでいると、森を震わせるほどの聞いた者を恐怖で竦み上がらせる雄叫びが聞こえてきた。俺達は慌てて戦闘態勢に入る、国軍の方は奴隷達は起き上がり戦闘態勢に入るが貴族達は先程の雄叫びで震え上がっている。
 そして森からゴブリン達がやってきた。前回のゴブリンの行軍と違い、上級ゴブリンの数が多い。ゴブリンナイトやゴブリンファイターの部隊がゴブリンに混じって国軍へと襲いかかった。なんとか奴隷達はゴブリン達に対峙しているが、先程とは違い討ち漏れが多く、そのゴブリン達が貴族達を襲う。貴族達はゴブリンに襲われたことにより、パニック状態になる。貴族達は我先に逃げようとしている。そんな中、森からゴブリンと比べものにならない3m位の強烈なプレッシャーを放つゴブリンがやって来た。あれがボスだ間違いない、それ程の雰囲気を持った魔物だった。その魔物は目の前の奴隷をゴミを振り払うかのように大剣でなぎ払った。あれがBランクか嘘だろ、あれがBランクならBランクの壁が高すぎだろ。俺は鑑定で強さを確かめる。

ゴブリンエンペラー
レベル26
物理攻撃力         410
物理防御力         376
魔法攻撃力             0
魔法防御力         320
敏捷性        340
器用値           312
HP               425
MP                           0

 強い、俺では勝てないな、レベルが低いことだけが救いだな。だが俺が倒すのは無理だ、それだけはハッキリ分かる。そんなことを考えながら戦況を見ていたら、ゼスパーの奴隷がゴブリンエンペラーに立ちはだかる。その後の攻防は見事だった、ゴブリンエンペラーの攻撃に臆することなく奴隷は攻撃を避けながら、時に小楯で軌道を逸しながら反撃を行う。今の俺にはできない、高レベルの攻防だった。戦いに見惚れていると、カイルに声をかけられる。

「コウ様、ゼスパー子爵や他の貴族の皆さんがピンチですがお助けしないで大丈夫ですか?」

 俺は仕方なく貴族達を見る。貴族達はゴブリン達にいいようにやられ、すでに何人かは殺られていた。ゼスパー子爵も複数のゴブリン達に囲まれてそろそろヤバそうだ。カイルが助けるかと聞いてきたが助ける訳ないだろ。ここで助けても邪魔にしかならないし、俺の安全を脅かしてまで貴族達を助ける価値がない。だがゼスパーの剣だけは欲しい、遺体位は拾っていってやろう。

 程なくして貴族達は全滅し、奴隷達が逃走へと移りだした。そんな中、ゼスパーの奴隷は周りの状況を把握し周りに命令を出す。

「この軍は指揮官が亡くなり、戦線を維持するのは不可能だ!俺はこいつを引きつけるから命ある者はなんとしても生き延びろ!」

 そういうと今までなんとかゴブリンと戦っていた奴隷は一目散に逃げ始めた。最初の出会いで横柄な奴だと思っていたが、どうやらこの奴隷は助けないといけない男のようだ。

「皆、そろそろ逃げる準備をしてくれ。俺はちょっと魔法を使って行ってくる。戻ってきたらすぐに逃げるぞ。」

「ちょっと、コウさん待ってください!」

 俺はティアナさんの静止を振り切り、練習していた魔法を使用する。

「影移動!」

 俺は魔法を発動し、まずはゼスパー子爵の遺体へと移動する。影から移動した俺にゴブリン達はとっさに反応できない。俺はゴブリン達を尻目にゼスパー子爵の遺体と剣を収納する。そしてまた魔法を発動する、移動先はゴブリンエンペラーと対峙する奴隷の所だ。奴隷は仲間への合図を送るさいにスキをみせたせいでいい一撃を貰い、大きなダメージを負いながらなんとか踏ん張っている。俺は奴隷がなんとかエンペラーの攻撃を避けた瞬間を見計らい移動し、奴隷を捕まえる。奴隷は俺に驚いた顔をし、エンペラーの方も驚いている。俺はチャンスと奴隷ごと魔法を発動する。仕事ができる俺はそこでお土産を忘れない。収納から出せるだけの巨石や岩をゴブリン達へとプレゼントしてやる。そして魔法で皆の元へと戻った。なかなか魔力を使ってしまった、これ以上魔法わ使ったら間違いなく倒れるな。

「コウさん、さっきの魔法は何ですか?」

 ティアナさんに詰め寄られるが今は時間がない、ワンダに奴隷を運ぶのを頼み、急いでゴブリンに見つからないように逃げ出した。

 こうして俺達は命からがらラル達の元へと戻ったのである。
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