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三、怪しい仕事
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「藤吉の紹介で来た」
通用門で声をかければ扉はすんなりと開いた。
「……入んな」
如何にも牢人といった風情の壮年の男に促されて中へ入ると、少し奥まったところに茅葺きの立派な屋敷が見える。
口入屋では結局、辻斬り騒動が収まるまでは今まで請け負っていた普請場での手伝いや商家の荷運びの仕事も貰えないだろうということになった。雇う側が構わなくても周りが構うだろうということもある。牢人などそこらにいるが、それが自分と同じ場所で働いているとなれば、「こいつが辻斬り犯人ではないのか」と具体的な犯人像にされかねない。
今後のためにもここは蓮志が気を遣うべきだろうと口入屋を出た。
母の着物を質に入れた……というより売った金で親爺に揃えてもらった相応の衣装のお陰で、町を歩いていても遠巻きにはされないが、やはり牢人だと避けられがちである。
これでは当分は仕事にありつけないかと改めて思う。
大名家の中間などの仕事があればいいが、そんな仕事があるのならばそこらに牢人があぶれていたりはしない。
改易に次ぐ改易で主家を、仕官先を失った牢人がとにかく多いのだ。
士分である故にただの使用人である中間仕事は誇りが許さんなどと考える牢人者は多いだろうが、なりふり構っていられないという者もまた多い。
それどころか糊口を凌ぐために士分を売る者まで出始める始末だった。裕福な町人や農民と養子縁組をして謝礼を貰うのである。
武士であること、その身分を金で売るなどと世も末だ。
などと蓮志の父ならば言いそうだが、蓮志からすると人様の厄介になっているにも関わらず働きもせずに、特に最近は酒に溺れてしまっている父こそが終わっている。
今は亡き母縁の寺で父子で厄介になっている身である。
敷地の隅にある庵に厚意で住まわせてもらっているのを申し訳ないと思わないのか、それとも申し訳ないと思うから酒に逃げるのか。大して飲めもしないくせに。
直参ではなく大名の家臣であるため又家来と呼ばれ幕府からは認められてこそいないが、石高で言えば大名だった御家が無くなったのだから腐るのはわかる。妻を亡くして気が落ちるのも。
わかるがしかし、もうそろそろ前を向いて欲しいと思うのは冷たいだろうか。
なんにせよ生きるのであれば金がいる。
江戸市中には選り好みしなければ日銭仕事はそこそこあって、たとえば中間仕事であってもたしかに武士の仕事ではないが、仕える武士の事を知っている蓮志には却って良い仕事だと思えるし、最近は仕官先が無ければもうこのまま寺男として寺の雑用をして過ごすのもいいのではないかとも思っている。
当面はこのまま寺の世話になりつつ騒動が収まるのを待って、金が尽きたらまた母の着物や小物を売るか……。
などと考えつつ行く宛もなく町をうろついていると顔見知りに声を掛けられたのだ。
「屋敷の警護の仕事がある」
腕の立つ者を集めているのだと。
蓮志の脳裏に一瞬、大火の前にあった事件がよぎったが、危うければ断ればよいかとのこのこと指定された場所までやって来てしまった。
明らかに怪しげな仕事であるのにも関わらずーー。
通用門で声をかければ扉はすんなりと開いた。
「……入んな」
如何にも牢人といった風情の壮年の男に促されて中へ入ると、少し奥まったところに茅葺きの立派な屋敷が見える。
口入屋では結局、辻斬り騒動が収まるまでは今まで請け負っていた普請場での手伝いや商家の荷運びの仕事も貰えないだろうということになった。雇う側が構わなくても周りが構うだろうということもある。牢人などそこらにいるが、それが自分と同じ場所で働いているとなれば、「こいつが辻斬り犯人ではないのか」と具体的な犯人像にされかねない。
今後のためにもここは蓮志が気を遣うべきだろうと口入屋を出た。
母の着物を質に入れた……というより売った金で親爺に揃えてもらった相応の衣装のお陰で、町を歩いていても遠巻きにはされないが、やはり牢人だと避けられがちである。
これでは当分は仕事にありつけないかと改めて思う。
大名家の中間などの仕事があればいいが、そんな仕事があるのならばそこらに牢人があぶれていたりはしない。
改易に次ぐ改易で主家を、仕官先を失った牢人がとにかく多いのだ。
士分である故にただの使用人である中間仕事は誇りが許さんなどと考える牢人者は多いだろうが、なりふり構っていられないという者もまた多い。
それどころか糊口を凌ぐために士分を売る者まで出始める始末だった。裕福な町人や農民と養子縁組をして謝礼を貰うのである。
武士であること、その身分を金で売るなどと世も末だ。
などと蓮志の父ならば言いそうだが、蓮志からすると人様の厄介になっているにも関わらず働きもせずに、特に最近は酒に溺れてしまっている父こそが終わっている。
今は亡き母縁の寺で父子で厄介になっている身である。
敷地の隅にある庵に厚意で住まわせてもらっているのを申し訳ないと思わないのか、それとも申し訳ないと思うから酒に逃げるのか。大して飲めもしないくせに。
直参ではなく大名の家臣であるため又家来と呼ばれ幕府からは認められてこそいないが、石高で言えば大名だった御家が無くなったのだから腐るのはわかる。妻を亡くして気が落ちるのも。
わかるがしかし、もうそろそろ前を向いて欲しいと思うのは冷たいだろうか。
なんにせよ生きるのであれば金がいる。
江戸市中には選り好みしなければ日銭仕事はそこそこあって、たとえば中間仕事であってもたしかに武士の仕事ではないが、仕える武士の事を知っている蓮志には却って良い仕事だと思えるし、最近は仕官先が無ければもうこのまま寺男として寺の雑用をして過ごすのもいいのではないかとも思っている。
当面はこのまま寺の世話になりつつ騒動が収まるのを待って、金が尽きたらまた母の着物や小物を売るか……。
などと考えつつ行く宛もなく町をうろついていると顔見知りに声を掛けられたのだ。
「屋敷の警護の仕事がある」
腕の立つ者を集めているのだと。
蓮志の脳裏に一瞬、大火の前にあった事件がよぎったが、危うければ断ればよいかとのこのこと指定された場所までやって来てしまった。
明らかに怪しげな仕事であるのにも関わらずーー。
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