星占の姫

ちょこぼーらー

文字の大きさ
上 下
4 / 5

三、怪しい仕事

しおりを挟む
「藤吉の紹介で来た」

 通用門で声をかければ扉はすんなりと開いた。

「……入んな」

 如何にも牢人といった風情の壮年の男に促されて中へ入ると、少し奥まったところに茅葺きの立派な屋敷が見える。



 口入屋では結局、辻斬り騒動が収まるまでは今まで請け負っていた普請場での手伝いや商家の荷運びの仕事も貰えないだろうということになった。雇う側が構わなくても周りが構うだろうということもある。牢人などそこらにいるが、それが自分と同じ場所で働いているとなれば、「こいつが辻斬り犯人ではないのか」と具体的な犯人像にされかねない。

 今後のためにもここは蓮志が気を遣うべきだろうと口入屋を出た。
 母の着物を質に入れた……というより売った金で親爺に揃えてもらった相応の衣装のお陰で、町を歩いていても遠巻きにはされないが、やはり牢人だと避けられがちである。

 これでは当分は仕事にありつけないかと改めて思う。

 大名家の中間などの仕事があればいいが、そんな仕事があるのならばそこらに牢人があぶれていたりはしない。
 改易に次ぐ改易で主家を、仕官先を失った牢人がとにかく多いのだ。
 士分である故にただの使用人である中間仕事は誇りが許さんなどと考える牢人者は多いだろうが、なりふり構っていられないという者もまた多い。
 それどころか糊口を凌ぐために士分を売る者まで出始める始末だった。裕福な町人や農民と養子縁組をして謝礼を貰うのである。

 武士であること、その身分を金で売るなどと世も末だ。
 などと蓮志の父ならば言いそうだが、蓮志からすると人様の厄介になっているにも関わらず働きもせずに、特に最近は酒に溺れてしまっている父こそが終わっている。

 今は亡き母縁の寺で父子で厄介になっている身である。
 敷地の隅にある庵に厚意で住まわせてもらっているのを申し訳ないと思わないのか、それとも申し訳ないと思うから酒に逃げるのか。大して飲めもしないくせに。
 直参ではなく大名の家臣であるため又家来と呼ばれ幕府からは認められてこそいないが、石高で言えば大名だった御家が無くなったのだから腐るのはわかる。妻を亡くして気が落ちるのも。
 わかるがしかし、もうそろそろ前を向いて欲しいと思うのは冷たいだろうか。

 なんにせよ生きるのであれば金がいる。
 江戸市中には選り好みしなければ日銭仕事はそこそこあって、たとえば中間仕事であってもたしかに武士の仕事ではないが、仕える武士の事を知っている蓮志には却って良い仕事だと思えるし、最近は仕官先が無ければもうこのまま寺男として寺の雑用をして過ごすのもいいのではないかとも思っている。

 当面はこのまま寺の世話になりつつ騒動が収まるのを待って、金が尽きたらまた母の着物や小物を売るか……。
 などと考えつつ行く宛もなく町をうろついていると顔見知りに声を掛けられたのだ。

「屋敷の警護の仕事がある」

 腕の立つ者を集めているのだと。

 蓮志の脳裏に一瞬、大火の前にあった事件がよぎったが、危うければ断ればよいかとのこのこと指定された場所までやって来てしまった。

 明らかに怪しげな仕事であるのにも関わらずーー。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

ヴィクトリアンメイドは夕陽に素肌を晒す

矢木羽研
歴史・時代
カメラが普及し始めたヴィクトリア朝のイギリスにて。 はじめて写真のモデルになるメイドが、主人の言葉で次第に脱がされていき…… メイドと主の織りなす官能の世界です。

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

就職面接の感ドコロ!?

フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。 学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。 その業務ストレスのせいだろうか。 ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

【18禁】「胡瓜と美僧と未亡人」 ~古典とエロの禁断のコラボ~

糺ノ杜 胡瓜堂
歴史・時代
 古典×エロ小説という無謀な試み。  「耳嚢」や「甲子夜話(かっしやわ)」「兎園小説」等、江戸時代の随筆をご紹介している連載中のエッセイ「雲母虫漫筆」  実は江戸時代に書かれた書物を読んでいると、面白いとは思いながら一般向けの方ではちょっと書けないような18禁ネタや、エロくはないけれど色々と妄想が膨らむ話などに出会うことがあります。  そんな面白い江戸時代のストーリーをエロ小説風に翻案してみました。  今回は、貞享四(1687)年開板の著者不詳の怪談本「奇異雑談集」(きいぞうだんしゅう)の中に収録されている、  「糺の森の里、胡瓜堂由来の事」    ・・・というお話。  この貞享四年という年は、あの教科書でも有名な五代将軍・徳川綱吉の「生類憐みの令」が発布された年でもあります。  令和の時代を生きている我々も「怪談」や「妖怪」は大好きですが、江戸時代には空前の「怪談ブーム」が起こりました。  この「奇異雑談集」は、それまで伝承的に伝えられていた怪談話を集めて編纂した内容で、仏教的価値観がベースの因果応報を説くお説教的な話から、まさに「怪談」というような怪奇的な話までその内容はバラエティに富んでいます。  その中でも、この「糺の森の里、胡瓜堂由来の事」というお話はストーリー的には、色欲に囚われた女性が大蛇となる、というシンプルなものですが、個人的には「未亡人が僧侶を誘惑する」という部分にそそられるものがあります・・・・あくまで個人的にはですが(原話はちっともエロくないです)  激しく余談になりますが、私のペンネームの「糺ノ杜 胡瓜堂」も、このお話から拝借しています。  三話構成の短編です。

処理中です...