154 / 154
153 安心安全
しおりを挟む
猛獣に遭遇する心配がないらしいので、最短距離で山脈へ向かう華たち。
森の中を突っ切って奥へ奥へと進んで行くわけだが、本当に魔獣や猛獣に一切出くわさない事に華は感心していた。…はじめのうちは。
(安全なのはいいことだけど…)
草原地帯には大小の森が点在している。
森を抜け、また次の森を抜けと、山脈に向かって進んでいると、時折退避し損ねたらしい小動物が怯えて木の陰でふるふる震えているのを見掛けるようになった。
どうやら伊吹の言う「動物や魔獣を来なくしている」というのは、その存在感を出しまくってひれ伏せさせているようなのだ。
(大名行列みたい)
先程から華の脳裏では「下にー。下ーにー」と言いながら馬印を掲げている伊吹の幻影が見えている。
何だか申し訳ない気持ちになって、森に住む動物達の為にもとっとと森を抜けようと歩みを速める華だった。
「ほら。手を出せ」
「ありがとう」
「ひよっ」
疲れて休憩すると、華が両手で作ったお椀に伊吹が水を出してくれる。
それを月子と一緒に飲む。
最初の休憩で例によって土器を作ろうとした華だったが、草原や森の中では粘土っぽい土はなかなか見付からない。地面を掘ればあるのかもしれないが、今の華はスコップひとつ持っていない。改めて装備を確認するまでもなく、華の持ち物はラジネ作の刀と薙刀のみ。手拭いひとつ持っていないのだ。
そして武器を持っていても戦う相手がいない。
「どこかに川とかがあればいいんだけど…」
「なんだ。…俺の水が飲めないっていうのか?」
「ううん。伊吹くんのお水、とっても美味しいよ!そうじゃなくて」
華はどこかの酔っぱらいみたいな事を言うなあと思いながら、川底をさらって黒曜石みたいなのがあれば木を削ってお椀のようなものが作れるかもしれないし、お魚が獲れれば食料になるし、ついでに水浴びも出来る事を伊吹に話した。
「伊吹くんはあの川でお魚を獲ってたんじゃないの?」
「俺は魚は食べない」
では普段何を食べているのかと訊くと、なんと伊吹は食事をしない事が判明した。
「大気に含まれるチカラの素…魔素と呼ばれるものを自然と取り込んでいるからな。木の実や果物なんかは食べたことがあるが、まあそれだけだ」
川へは水浴びや滝を眺めに行っていたのだと言われて、華はふと思い出す。
「あ、でも、北斗は干し肉とか好物でよく食べてたよ?」
正直華が持て余していた大量の干し肉をいい感じに消費していた北斗を思い出す。
「それは干し肉の中の魔素が良かったんだろうな。魔獣の肉だったんじゃないか?」
「そう!よく分かったね!?」
華のところの干し肉は正に魔獣肉だらけだった。落ち化蛇に岩熊に大きな猫…闇豹。魚の干物もあったが魚はだいたい華が食べてしまう。
「魔素とは世界を循環するものだが、それが淀み溜まると魔獣が生まれる。…動物とかが魔素を体に必要以上に溜め込むと魔獣になるんだ。だから魔獣の肉なら他の動物の肉や木の実よりも含まれている魔素が多いんじゃないかと思ったんだ。…俺は食べないがな!」
「ひよひよ~」
伊吹が力強くお肉食べない宣言をしたとき、いつの間にか何処かへ出掛けていたらしい月子が何か大きな葉っぱをくわえてぱたぱたと飛んで戻ってきた。
華の顔より大きな葉っぱを二枚、華に受け取らせると、自分もその上にぽとりと落ちた。大きな葉っぱを運んで疲れたようだ。
「おかえり。この葉っぱを採りに行ってたの?大きいねえ」
「ひよ~。ひよひよひよっ」
華に持たせた天狗の団扇のような青々とした大きな葉っぱの端をくわえて月子が何かをしようとしているのを見守っていると、伊吹の通訳が入った。
「ああ、なるほど。…その葉っぱで水を入れる器を作ればいいんじゃないかってさ。確かにな」
「あ!なるほどー!月子ちゃん賢い!」
「ひよひよっ」
偉いね賢いねと褒め倒すと、ふわふわの毛をさらにふっくらさせて超絶可愛らしい毛玉になった月子を見て華が感動した時。
パシッ、バチッ。
「きゃあっ」
「あっ、こら…!」
興奮し過ぎたのか、月子が軽く放電した。
「ひよ~」
大きな葉っぱの上だったので大した被害は無いが、葉っぱを少し焦がしてしまった月子がしょんぼりする。
「だ、大丈夫だよ!月子ちゃん、焦げたの端っこだけだから!ほらっ、見てて」
華は月子を葉っぱに乗せたまま、折ったり寄せたりしてお椀を形作っていく。二枚あるので二重の丈夫なお椀があっという間に出来た。
「ひよ…」
「ほら、月子ちゃんが探してきてくれた葉っぱで素敵なお椀が出来たよ。これで一緒にお水飲も?」
「ほら」
「ひよっ」
月子が慌ててお椀から出て縁に止まると、伊吹が魔法で綺麗な水を出した。
それを月子と華とで交互に飲む。
「おいしいね」
「ひよひよっ」
「よかったな」
そうして見付けた木の実をかじったりして休憩もしながら丸1日歩いても、山脈まではまだまだ距離があるようだった。
夜は伊吹が柔らかな草のベッドを作り、その上で三人引っ付いて眠る。
華は武器以外何一つ持たないで放り出された割りにはそれほど苦労してない事に感謝しながら、伊吹の毛皮に包まれたお腹を枕に目を閉じた。
森の中を突っ切って奥へ奥へと進んで行くわけだが、本当に魔獣や猛獣に一切出くわさない事に華は感心していた。…はじめのうちは。
(安全なのはいいことだけど…)
草原地帯には大小の森が点在している。
森を抜け、また次の森を抜けと、山脈に向かって進んでいると、時折退避し損ねたらしい小動物が怯えて木の陰でふるふる震えているのを見掛けるようになった。
どうやら伊吹の言う「動物や魔獣を来なくしている」というのは、その存在感を出しまくってひれ伏せさせているようなのだ。
(大名行列みたい)
先程から華の脳裏では「下にー。下ーにー」と言いながら馬印を掲げている伊吹の幻影が見えている。
何だか申し訳ない気持ちになって、森に住む動物達の為にもとっとと森を抜けようと歩みを速める華だった。
「ほら。手を出せ」
「ありがとう」
「ひよっ」
疲れて休憩すると、華が両手で作ったお椀に伊吹が水を出してくれる。
それを月子と一緒に飲む。
最初の休憩で例によって土器を作ろうとした華だったが、草原や森の中では粘土っぽい土はなかなか見付からない。地面を掘ればあるのかもしれないが、今の華はスコップひとつ持っていない。改めて装備を確認するまでもなく、華の持ち物はラジネ作の刀と薙刀のみ。手拭いひとつ持っていないのだ。
そして武器を持っていても戦う相手がいない。
「どこかに川とかがあればいいんだけど…」
「なんだ。…俺の水が飲めないっていうのか?」
「ううん。伊吹くんのお水、とっても美味しいよ!そうじゃなくて」
華はどこかの酔っぱらいみたいな事を言うなあと思いながら、川底をさらって黒曜石みたいなのがあれば木を削ってお椀のようなものが作れるかもしれないし、お魚が獲れれば食料になるし、ついでに水浴びも出来る事を伊吹に話した。
「伊吹くんはあの川でお魚を獲ってたんじゃないの?」
「俺は魚は食べない」
では普段何を食べているのかと訊くと、なんと伊吹は食事をしない事が判明した。
「大気に含まれるチカラの素…魔素と呼ばれるものを自然と取り込んでいるからな。木の実や果物なんかは食べたことがあるが、まあそれだけだ」
川へは水浴びや滝を眺めに行っていたのだと言われて、華はふと思い出す。
「あ、でも、北斗は干し肉とか好物でよく食べてたよ?」
正直華が持て余していた大量の干し肉をいい感じに消費していた北斗を思い出す。
「それは干し肉の中の魔素が良かったんだろうな。魔獣の肉だったんじゃないか?」
「そう!よく分かったね!?」
華のところの干し肉は正に魔獣肉だらけだった。落ち化蛇に岩熊に大きな猫…闇豹。魚の干物もあったが魚はだいたい華が食べてしまう。
「魔素とは世界を循環するものだが、それが淀み溜まると魔獣が生まれる。…動物とかが魔素を体に必要以上に溜め込むと魔獣になるんだ。だから魔獣の肉なら他の動物の肉や木の実よりも含まれている魔素が多いんじゃないかと思ったんだ。…俺は食べないがな!」
「ひよひよ~」
伊吹が力強くお肉食べない宣言をしたとき、いつの間にか何処かへ出掛けていたらしい月子が何か大きな葉っぱをくわえてぱたぱたと飛んで戻ってきた。
華の顔より大きな葉っぱを二枚、華に受け取らせると、自分もその上にぽとりと落ちた。大きな葉っぱを運んで疲れたようだ。
「おかえり。この葉っぱを採りに行ってたの?大きいねえ」
「ひよ~。ひよひよひよっ」
華に持たせた天狗の団扇のような青々とした大きな葉っぱの端をくわえて月子が何かをしようとしているのを見守っていると、伊吹の通訳が入った。
「ああ、なるほど。…その葉っぱで水を入れる器を作ればいいんじゃないかってさ。確かにな」
「あ!なるほどー!月子ちゃん賢い!」
「ひよひよっ」
偉いね賢いねと褒め倒すと、ふわふわの毛をさらにふっくらさせて超絶可愛らしい毛玉になった月子を見て華が感動した時。
パシッ、バチッ。
「きゃあっ」
「あっ、こら…!」
興奮し過ぎたのか、月子が軽く放電した。
「ひよ~」
大きな葉っぱの上だったので大した被害は無いが、葉っぱを少し焦がしてしまった月子がしょんぼりする。
「だ、大丈夫だよ!月子ちゃん、焦げたの端っこだけだから!ほらっ、見てて」
華は月子を葉っぱに乗せたまま、折ったり寄せたりしてお椀を形作っていく。二枚あるので二重の丈夫なお椀があっという間に出来た。
「ひよ…」
「ほら、月子ちゃんが探してきてくれた葉っぱで素敵なお椀が出来たよ。これで一緒にお水飲も?」
「ほら」
「ひよっ」
月子が慌ててお椀から出て縁に止まると、伊吹が魔法で綺麗な水を出した。
それを月子と華とで交互に飲む。
「おいしいね」
「ひよひよっ」
「よかったな」
そうして見付けた木の実をかじったりして休憩もしながら丸1日歩いても、山脈まではまだまだ距離があるようだった。
夜は伊吹が柔らかな草のベッドを作り、その上で三人引っ付いて眠る。
華は武器以外何一つ持たないで放り出された割りにはそれほど苦労してない事に感謝しながら、伊吹の毛皮に包まれたお腹を枕に目を閉じた。
0
お気に入りに追加
44
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(1件)
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
美しい姉と痩せこけた妹
サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――
冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判
七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。
「では開廷いたします」
家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
虐げられた令嬢、ペネロペの場合
キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。
幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。
父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。
まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。
可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。
1話完結のショートショートです。
虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい……
という願望から生まれたお話です。
ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。
R15は念のため。
三年目の離縁、「白い結婚」を申し立てます! 幼な妻のたった一度の反撃
紫月 由良
恋愛
【書籍化】5月30日発行されました。イラストは天城望先生です。
【本編】十三歳で政略のために婚姻を結んだエミリアは、夫に顧みられない日々を過ごす。夫の好みは肉感的で色香漂う大人の女性。子供のエミリアはお呼びではなかった。ある日、参加した夜会で、夫が愛人に対して、妻を襲わせた上でそれを浮気とし家から追い出すと、楽しそうに言ってるのを聞いてしまう。エミリアは孤児院への慰問や教会への寄付で培った人脈を味方に、婚姻無効を申し立て、夫の非を詳らかにする。従順(見かけだけ)妻の、夫への最初で最後の反撃に出る。
悲恋を気取った侯爵夫人の末路
三木谷夜宵
ファンタジー
侯爵夫人のプリシアは、貴族令嬢と騎士の悲恋を描いた有名なロマンス小説のモデルとして持て囃されていた。
順風満帆だった彼女の人生は、ある日突然に終わりを告げる。
悲恋のヒロインを気取っていた彼女が犯した過ちとは──?
カクヨムにも公開してます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
面白かったです!華ちゃん、かわいいですね。
しかも何気に強い…^ ^;
続きお待ちしています
月子もふりたいです!(欲望(〃ω〃))
フロランタン様、感想ありがとうございます!
しばらく放置していてすみません(;>_<;)
思いの外長編になってしまっていますが、折り返しには来ているので完結したいところです。
華さんは大和撫子の皮を被った脳筋です。
月子ちゃんはめっちゃ速く走ります。
すずめとか小鳥って足速いですよねえ。
イメージは黄色いシマエナガさんなのですが、華はシマエナガを知りません。
まだ全然書きたまっていませんが少しずつでも投下していきたいと思います。
その際はぜひお立ち寄りください~。