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124 騎士壊れ…
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フラウベルはもちろんグレイルの一方的な片恋だと馬車の中で聞いていて、敢えて勘違いしているかのように振る舞っている。
(だって本当のところは本人に訊いてみないと分からないじゃない)
奇襲を以てグレイルの本音を聞き出す作戦なのだ。
『お嫁さん…っ!?』
しかし当のグレイルは叫んだきり、動きを止めてしまった。
フラウベルが顔の前で手を振っても瞬きひとつしない。息もしていないのではないだろうか。
どうやら奇襲どころか、怒れる龍が吐くと云われている激しい炎を浴びてしまったかのようだ。
『……どうやら息子には刺激の強すぎる言葉だったようです』
『お嫁さんが!?』
『ぐふっ…!』
ラインハルトがグレイルの腹を殴り呼吸と再起動を促した。
途端に息を吹き返したグレイルに詰め寄られるフラウベル。
『違います!!彼女はただの付きまといの被害者です!!!!』
『『『は?』』』
『常日頃から私が事あるごとに周囲よりそう言われております!間違いありません!!付きまとっているつもりはありません!自宅にも行っておりません!しかし彼女のあの小さく可憐な姿を見るとどうしても吸い寄せられるようにくっついてしまうんです!!』
グレイルが何を言っているのか分からない客人達に、ラインハルトがいちいち補足している。
『自宅に行っていないのは自宅を知らされていないからです』
とか、
『本人は見ているだけのつもりらしいです。一応、付きまといが迷惑行為だと言うことは認識しているようです』
とか。そして、
『祖母ファーナよりグレイルには彼女…ハナに対する行動に制限が掛けられております。グレイルはハナと二人きりでは会えませんし、挨拶以外のハナに対するアプローチを禁止されています』
実際、華が嫁に来たらどんなに良いだろうとは家族全員が思っているが、グレイルの異常行動がすべてを台無しにしている。
『…騎士としてそれはどうなのだ』
『それは私を含め、全員が思うところではあるのですが…。現在のところ、その少女を前にすると異常を来しますが、普段は…』
そう言えば『壊れると報告があった』と馬車の中で話していたなと思い出す老公達3人だが、まさかこれほど本格的にぶっ壊れる等と想像もしていなかった。
(ごめんなさい…っ。下らない事を言って申し訳なかったわ…)
こんな風になっているのに聞けばグレイルはまだ数度しかその少女に会ったことがないらしい。フラウベルはからかい半分に訊いた自分の発言を酷く後悔した。
(“御寛恕下さい”……なるほどな)
これを騎士にしておいて良いものかと疑問に思った侯爵と老公ではあったが、思えば先ほどまで…フラウベルがおかしな発言をするまでは立派な、実直さが滲み出るような騎士振りだった。なのでより残念さが際立つのだが、異常行動が少女に関することのみだと言うのであれば口出しはせずに様子を見よう、と静観を決めたのだった。
何時までも外で話し込んでいる訳にも、と言うことで別邸の応接間に移動ししてひと息ついたところで代官邸からアルベルトがやって来た。
アルベルトはもちろん前の大公の御出座しを聞いておらず、驚きはしたものの、分かっているぞといった風にニヤリと笑った。立場は違えど親戚ならではの気安さがここにもあった。
貴族の少ない大公国では親戚婚、特に従兄弟婚が多い。
アルベルトとファーナ、ラインハルトとルナリアそれにロットバルトとフラウベル。皆従兄弟同士での婚姻だった。
大公家では当主は帝国皇族の血族の姫を妃にすることが慣例となっているが、その姫の娘が侯爵家へ嫁ぐ事がある。アルベルトや前侯爵アースバルトの母メイリーンがそれであり、ピエールの祖父の妹姫…大公国では内親王と呼ばれる存在であった。
『ニホン…と言ったのか』
『はい。東の果て、極東の島国だそうです』
勉強会がひと息ついて、客人の出迎えと言って抜けて来たアルベルトだったが、代官邸では休憩を挟み勉強会が再開されていることだろう。
『聞いたことがないな…』
『私も寡聞にして存じません』
老公や侯爵も聞いたことがない国ではあるが、ここで一番の年長であり、長年妻の行商に付き合って大陸中を旅するアルベルトも知らないとなると…。一応謙遜した言い方ではあるが別に嫌味ではなく形式的なものだというのは分かっているので、アルベルトすら知らないということが分かればよかった。
『彼女自身は学生らしいのですが、紙やゴムの知識は特別なものではないそうです。ニホンではありふれたモノだと』
『なんと…』
『現にあの馬車のゴムタイヤは彼女…ハナは詳しくなく、出来上りがこういうもの、と教えてもらって商会で0から研究をしたものです。実際の出来上りを見てハナ自身が驚いていましたから』
(だって本当のところは本人に訊いてみないと分からないじゃない)
奇襲を以てグレイルの本音を聞き出す作戦なのだ。
『お嫁さん…っ!?』
しかし当のグレイルは叫んだきり、動きを止めてしまった。
フラウベルが顔の前で手を振っても瞬きひとつしない。息もしていないのではないだろうか。
どうやら奇襲どころか、怒れる龍が吐くと云われている激しい炎を浴びてしまったかのようだ。
『……どうやら息子には刺激の強すぎる言葉だったようです』
『お嫁さんが!?』
『ぐふっ…!』
ラインハルトがグレイルの腹を殴り呼吸と再起動を促した。
途端に息を吹き返したグレイルに詰め寄られるフラウベル。
『違います!!彼女はただの付きまといの被害者です!!!!』
『『『は?』』』
『常日頃から私が事あるごとに周囲よりそう言われております!間違いありません!!付きまとっているつもりはありません!自宅にも行っておりません!しかし彼女のあの小さく可憐な姿を見るとどうしても吸い寄せられるようにくっついてしまうんです!!』
グレイルが何を言っているのか分からない客人達に、ラインハルトがいちいち補足している。
『自宅に行っていないのは自宅を知らされていないからです』
とか、
『本人は見ているだけのつもりらしいです。一応、付きまといが迷惑行為だと言うことは認識しているようです』
とか。そして、
『祖母ファーナよりグレイルには彼女…ハナに対する行動に制限が掛けられております。グレイルはハナと二人きりでは会えませんし、挨拶以外のハナに対するアプローチを禁止されています』
実際、華が嫁に来たらどんなに良いだろうとは家族全員が思っているが、グレイルの異常行動がすべてを台無しにしている。
『…騎士としてそれはどうなのだ』
『それは私を含め、全員が思うところではあるのですが…。現在のところ、その少女を前にすると異常を来しますが、普段は…』
そう言えば『壊れると報告があった』と馬車の中で話していたなと思い出す老公達3人だが、まさかこれほど本格的にぶっ壊れる等と想像もしていなかった。
(ごめんなさい…っ。下らない事を言って申し訳なかったわ…)
こんな風になっているのに聞けばグレイルはまだ数度しかその少女に会ったことがないらしい。フラウベルはからかい半分に訊いた自分の発言を酷く後悔した。
(“御寛恕下さい”……なるほどな)
これを騎士にしておいて良いものかと疑問に思った侯爵と老公ではあったが、思えば先ほどまで…フラウベルがおかしな発言をするまでは立派な、実直さが滲み出るような騎士振りだった。なのでより残念さが際立つのだが、異常行動が少女に関することのみだと言うのであれば口出しはせずに様子を見よう、と静観を決めたのだった。
何時までも外で話し込んでいる訳にも、と言うことで別邸の応接間に移動ししてひと息ついたところで代官邸からアルベルトがやって来た。
アルベルトはもちろん前の大公の御出座しを聞いておらず、驚きはしたものの、分かっているぞといった風にニヤリと笑った。立場は違えど親戚ならではの気安さがここにもあった。
貴族の少ない大公国では親戚婚、特に従兄弟婚が多い。
アルベルトとファーナ、ラインハルトとルナリアそれにロットバルトとフラウベル。皆従兄弟同士での婚姻だった。
大公家では当主は帝国皇族の血族の姫を妃にすることが慣例となっているが、その姫の娘が侯爵家へ嫁ぐ事がある。アルベルトや前侯爵アースバルトの母メイリーンがそれであり、ピエールの祖父の妹姫…大公国では内親王と呼ばれる存在であった。
『ニホン…と言ったのか』
『はい。東の果て、極東の島国だそうです』
勉強会がひと息ついて、客人の出迎えと言って抜けて来たアルベルトだったが、代官邸では休憩を挟み勉強会が再開されていることだろう。
『聞いたことがないな…』
『私も寡聞にして存じません』
老公や侯爵も聞いたことがない国ではあるが、ここで一番の年長であり、長年妻の行商に付き合って大陸中を旅するアルベルトも知らないとなると…。一応謙遜した言い方ではあるが別に嫌味ではなく形式的なものだというのは分かっているので、アルベルトすら知らないということが分かればよかった。
『彼女自身は学生らしいのですが、紙やゴムの知識は特別なものではないそうです。ニホンではありふれたモノだと』
『なんと…』
『現にあの馬車のゴムタイヤは彼女…ハナは詳しくなく、出来上りがこういうもの、と教えてもらって商会で0から研究をしたものです。実際の出来上りを見てハナ自身が驚いていましたから』
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