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115 遭遇その5

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『ハナ~』

 藤棚さんの外からシアが呼ぶ声がして華はカバンを肩に掛けて槍を持って外に出た。今日は背負子は無しだ。

『おはよう、シアさん』

『おはようハナ!服新しくしたのね!夏らしいね、可愛い!』

『えへへ…“衣替え”』

『コロモガエ?この服の事?じゃなくて…服を替える事、かな』

 季節に合わせた服に替える事の言い方を華に教えたシアは、藤棚さんの中を覗き込んで亀を見た。探すほどの広さは藤棚さんにはない。

『ホクトは独りで大丈夫?』

 町に亀の北斗は連れて行かないのでお留守番が決定している。
 シアに返事をするように左前足を挙げて、のそのそと外に出る為に二人のいる扉に近付いて来る。

『…ねえハナ。ちょっと前から思ってたんだけど。…ホクト、大きくなってない?』

 二か月前に初めて見た時には華の身幅ほどだったのが、今は華の肩幅くらいあるようなのだ。
 亀はこれほど急に成長するものなのだろうか。

『ほしにく食べたから?』

『あはは、そうかもね。そのうちフジダナサンの扉を通れなくなっちゃうかもね?』

 軽口を言うシアへの抗議なのか、北斗は扉の前にいるシアをぐいぐい押してそのまま外に出る。

「もういいの?閉めちゃうよ」

 華が北斗に日本語で確認する。
 華が町に行っている間、北斗は外で過ごすらしい。
 藤棚さんの扉は開けておけないが、竹垣の扉は開けたままにしておくことにしたので、北斗なら何処にでも行けるだろう。

 北斗は藤棚さんの外に吊るしてある幾つかの干し肉を確認すると、華に左前足を挙げて見せた。扉を閉めても大丈夫そうだ。

「じゃあ、行ってくるね」

 華が藤棚さんの扉を閉めて北斗に行ってきますを言うと、北斗は左前足を挙げて見送った。

 今日は配達も探索もなく、華のお迎えだけなのでシアだけが藤棚さんまで来たが、いつもの配達メンバーは街道沿いの休憩場所にいるらしい。
 下りは馬に乗らずに歩いて休憩場所まで行く。

 休憩場所に着いた途端にマールが北斗の心配をした。
 元は野良なので心配することは何も無いのだが、マールは北斗の事が大好きらしく、心配らしい。最初は食うとか言っていたのに、今は北斗も連れて行けば…とか言っている。

『ほしにく、ある。だいじょうぶ』

 干し肉を連ねた紐を藤棚さんの外に吊るしてあると華が言うと、マールは悔しそうにした。

『吊るした干し肉を食べるホクトが見たかった…』

 華の同居亀の北斗は、なんと壁や木を登ることが出来るのだ。
 普通の亀が木登りするものなのかどうかは分からないが、それでよく日中は藤棚さんの茅の屋根に上って甲羅干しをしている。
 吊るした干し肉を食べる何て事も出来るのだ。

『じゃあ行くか。ハナ、シアの馬に乗って』

 しょんぼりするマールに構う事なくロイが出発を告げる。
 シアの後ろに乗った華はシアのお腹に手を回して抱き着いた。槍は背中に背負っている。





『狼だ』

 二時間ほど進んだ所で先行するロイが戻ってきて、止まれと言った。

『群れで見たところ5匹』

『魔獣か?』

『いや、普通の山犬とか言われているやつだ。街道をうろうろしてやがる』

 このまま進むと狼の群れに遭遇してしまうが、山の中の一本道だ。待っていても仕方が無いので突っ切る事になった。

『ハナ、しっかり掴まっていてね…って、ハナ!?』

『こら、ハナ。それ仕舞え』

「?」

 華が背中に背負った槍を手に持ってシアに抱き着くと、ロイが槍を仕舞えと言う。

 狼の群れに突っ込むならば槍の出番では無いだろうかと華は思ったのだが、ロイは突っ切る・・・・つもりだったので、戦闘にさせる気はなく華の思い違いだった。むしろ槍を手落とされる事の方が困るのだが…。

『まあ、いいか。万が一もあるしな』

 護衛対象の華を中心にして4騎で一塊になって駆け抜ける。
 1騎でも離れたら別だが、殿は安定のエドワードだ。馴れたこのメンバーで駆け抜ければ深追いもしてこないだろう。
 追われたとしても華に戦わせる気は更々無いのだが、槍を持っていれば華が取り乱さないで落ち着くことが出来るのであれば持たせたままでもいいかと、華の頭を撫でて言い聞かせる。

『いいか、ハナ。シアにしっかり掴まって、絶対に槍は落とすなよ』

『はいっ!』

 華はぎゅっとシアにしがみついた。
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