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 グレイルは己を真っ直ぐに見つめるその黒曜の瞳から目を逸らせずにいた。

 昨日武具屋で初めて会った時から、その存在にまるで従属させられたかのようにずっと見つめていたのに、今初めて華の方からまともに見られて、再び感じていた。

 ーーー捕らわれた。

 と。





『アルベルトさん!おかえり!』

『ハナ、ただいま。いらっしゃい』

 前日と同じく3人揃っての帰宅で賑やかなエントランスで、華はルナリアの夫と息子を紹介された。

『ハナ、こっちがルナリアの夫でラインハルト』

『よろしく、ハナさん』

『千田 華です。よろしく、です』

『それで、そっちがその息子のグレイルよ』

『よろしく、です』

『………』

 華が家にいることはグレイルも知っていたはずなのに、むしろ会えるのを楽しみにそわそわしていた癖に、2階から降りてきた華を見たとたんに口を開けて固まってしまっている。

(?すっごい見られてる…。なんか変?…このワンピース、もしかして寝間着じゃないよね?)

『グレイル?』

『え!?なに』

 見かねたラインハルトが声を掛けがてら、華から見えないようにグレイルの背中を殴った。

『センダ ハナさんだそうだ。なんだお前、もしかして知り合い・・・・か?』

『えっ。あ!そ、そう!そうだ』

『……』

『………』

『……………』

「?」

 ラインハルトがサポートするも後が続かないグレイルにその場の全員ががくりと項垂れ、華は首を傾げた。

(“しりあい”…知る?知ってる人?日本人…?確かに黒髪だけど瞳は緑色だしお顔立ちが日本人じゃないよね。ていうかここの息子さんだし……あれ?)

『え~と、さ。グレイル。ハナと何処で会ったの?』

 言葉も忘れてただただ華を凝視するグレイルに居たたまれなくなったシアが既に知っているが聞いてやる。

『武具屋!ラジネの店で!槍、探してっ』

『なんであんたが片言なのよ…』

(そうだそうだ!ちっちゃい槍を出してきた店員さん!ファーナさんのお孫さんだったんだ~。凄い偶然!)

「その節はお世話になりました」

 ぺこりと頭を下げる華に、グレイルの事を辛うじて覚えていたのだとほっとする一同。
 しかしほっとしたルナリアは華にも聞いてみたくなり、聞いてしまった。

『ハナさん、グレイルと会ったことがあるのね?』

『はい!グレイルさん。ラジネさん、お店…え~と、てんいんさん!』

 思い出し、いい笑顔で話す華に、全員が黙って笑顔で頷くしかなかった。
 やはり店員だと思われていたらしい。





 その後、食堂での晩餐となり、華は隣に座ったシアから料理や食材の名前を聞きながら、斜め向いに座るグレイルからの視線に困惑していた。

(さっきからすっごい見てるよね…。なんでだろう)

 グレイルの手はほとんど動いておらず、ラインハルトやルナリアに注意されてフォークを持つも、ずっと華を見ていてまったく食事が進んでいない。
 始めの方こそ、何でしょう?と首を傾けたりしていた華だったが、変わらず見てくるだけなので、隣からシアが話しかけてきてくれるのをいいことに、以降一切グレイルの方は見ていない。というか、何だか見られないでいる。
 それでもずっと視線は感じているのだが、敵意は感じない。どちらかというとーーー。

 もちろんシアはグレイルからの視線に困惑する華を助ける為に頻りに話し掛けている。

(怖い……。これは怖い…)

 ほんのり笑みを浮かべて話し掛けるでもなく、ただひたすら華を見ているグレイルの方を見ないようにしながら華に話し掛けるシアの声が震えそうだった。

『あ、ハナ。このお肉、昨日の魔獣だよ。バルミラだって』

『まじゅう!ばるみら?』

『そうそう。昨日の大きな魔獣の名前。バルミラ』

 シチューの中に入っている肉が、昨日の大型魔獣だという。
 昨日は誰もが口々に魔獣だ大型魔獣だとは話していたが、その名前までは聞かなかった。

『きのう、シアさん、弓、かっこいい!』

『えへへ、ありがと。そこは、かっこ良かった、かな』

『かっこよかった!』

(かっこよかったと言えば…)

 華は昨日の魔獣討伐で、もどかしい思いをして見ていたことも思い出していた。

(あの指揮官の人…。来てあっという間に荷車のお婆ちゃん達を助けてくれたよね。……あれっ?)

 華はふと気が付いて、見ないようにしていた視線の来る方向、グレイルを見た。
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