96 / 154
95 見てる
しおりを挟む
グレイルは己を真っ直ぐに見つめるその黒曜の瞳から目を逸らせずにいた。
昨日武具屋で初めて会った時から、その存在にまるで従属させられたかのようにずっと見つめていたのに、今初めて華の方からまともに見られて、再び感じていた。
ーーー捕らわれた。
と。
『アルベルトさん!おかえり!』
『ハナ、ただいま。いらっしゃい』
前日と同じく3人揃っての帰宅で賑やかなエントランスで、華はルナリアの夫と息子を紹介された。
『ハナ、こっちがルナリアの夫でラインハルト』
『よろしく、ハナさん』
『千田 華です。よろしく、です』
『それで、そっちがその息子のグレイルよ』
『よろしく、です』
『………』
華が家にいることはグレイルも知っていたはずなのに、むしろ会えるのを楽しみにそわそわしていた癖に、2階から降りてきた華を見たとたんに口を開けて固まってしまっている。
(?すっごい見られてる…。なんか変?…このワンピース、もしかして寝間着じゃないよね?)
『グレイル?』
『え!?なに』
見かねたラインハルトが声を掛けがてら、華から見えないようにグレイルの背中を殴った。
『センダ ハナさんだそうだ。なんだお前、もしかして知り合いか?』
『えっ。あ!そ、そう!そうだ』
『……』
『………』
『……………』
「?」
ラインハルトがサポートするも後が続かないグレイルにその場の全員ががくりと項垂れ、華は首を傾げた。
(“しりあい”…知る?知ってる人?日本人…?確かに黒髪だけど瞳は緑色だしお顔立ちが日本人じゃないよね。ていうかここの息子さんだし……あれ?)
『え~と、さ。グレイル。ハナと何処で会ったの?』
言葉も忘れてただただ華を凝視するグレイルに居たたまれなくなったシアが既に知っているが聞いてやる。
『武具屋!ラジネの店で!槍、探してっ』
『なんであんたが片言なのよ…』
(そうだそうだ!ちっちゃい槍を出してきた店員さん!ファーナさんのお孫さんだったんだ~。凄い偶然!)
「その節はお世話になりました」
ぺこりと頭を下げる華に、グレイルの事を辛うじて覚えていたのだとほっとする一同。
しかしほっとしたルナリアは華にも聞いてみたくなり、聞いてしまった。
『ハナさん、グレイルと会ったことがあるのね?』
『はい!グレイルさん。ラジネさん、お店…え~と、てんいんさん!』
思い出し、いい笑顔で話す華に、全員が黙って笑顔で頷くしかなかった。
やはり店員だと思われていたらしい。
その後、食堂での晩餐となり、華は隣に座ったシアから料理や食材の名前を聞きながら、斜め向いに座るグレイルからの視線に困惑していた。
(さっきからすっごい見てるよね…。なんでだろう)
グレイルの手はほとんど動いておらず、ラインハルトやルナリアに注意されてフォークを持つも、ずっと華を見ていてまったく食事が進んでいない。
始めの方こそ、何でしょう?と首を傾けたりしていた華だったが、変わらず見てくるだけなので、隣からシアが話しかけてきてくれるのをいいことに、以降一切グレイルの方は見ていない。というか、何だか見られないでいる。
それでもずっと視線は感じているのだが、敵意は感じない。どちらかというとーーー。
もちろんシアはグレイルからの視線に困惑する華を助ける為に頻りに話し掛けている。
(怖い……。これは怖い…)
ほんのり笑みを浮かべて話し掛けるでもなく、ただひたすら華を見ているグレイルの方を見ないようにしながら華に話し掛けるシアの声が震えそうだった。
『あ、ハナ。このお肉、昨日の魔獣だよ。バルミラだって』
『まじゅう!ばるみら?』
『そうそう。昨日の大きな魔獣の名前。バルミラ』
シチューの中に入っている肉が、昨日の大型魔獣だという。
昨日は誰もが口々に魔獣だ大型魔獣だとは話していたが、その名前までは聞かなかった。
『きのう、シアさん、弓、かっこいい!』
『えへへ、ありがと。そこは、かっこ良かった、かな』
『かっこよかった!』
(かっこよかったと言えば…)
華は昨日の魔獣討伐で、もどかしい思いをして見ていたことも思い出していた。
(あの指揮官の人…。来てあっという間に荷車のお婆ちゃん達を助けてくれたよね。……あれっ?)
華はふと気が付いて、見ないようにしていた視線の来る方向、グレイルを見た。
昨日武具屋で初めて会った時から、その存在にまるで従属させられたかのようにずっと見つめていたのに、今初めて華の方からまともに見られて、再び感じていた。
ーーー捕らわれた。
と。
『アルベルトさん!おかえり!』
『ハナ、ただいま。いらっしゃい』
前日と同じく3人揃っての帰宅で賑やかなエントランスで、華はルナリアの夫と息子を紹介された。
『ハナ、こっちがルナリアの夫でラインハルト』
『よろしく、ハナさん』
『千田 華です。よろしく、です』
『それで、そっちがその息子のグレイルよ』
『よろしく、です』
『………』
華が家にいることはグレイルも知っていたはずなのに、むしろ会えるのを楽しみにそわそわしていた癖に、2階から降りてきた華を見たとたんに口を開けて固まってしまっている。
(?すっごい見られてる…。なんか変?…このワンピース、もしかして寝間着じゃないよね?)
『グレイル?』
『え!?なに』
見かねたラインハルトが声を掛けがてら、華から見えないようにグレイルの背中を殴った。
『センダ ハナさんだそうだ。なんだお前、もしかして知り合いか?』
『えっ。あ!そ、そう!そうだ』
『……』
『………』
『……………』
「?」
ラインハルトがサポートするも後が続かないグレイルにその場の全員ががくりと項垂れ、華は首を傾げた。
(“しりあい”…知る?知ってる人?日本人…?確かに黒髪だけど瞳は緑色だしお顔立ちが日本人じゃないよね。ていうかここの息子さんだし……あれ?)
『え~と、さ。グレイル。ハナと何処で会ったの?』
言葉も忘れてただただ華を凝視するグレイルに居たたまれなくなったシアが既に知っているが聞いてやる。
『武具屋!ラジネの店で!槍、探してっ』
『なんであんたが片言なのよ…』
(そうだそうだ!ちっちゃい槍を出してきた店員さん!ファーナさんのお孫さんだったんだ~。凄い偶然!)
「その節はお世話になりました」
ぺこりと頭を下げる華に、グレイルの事を辛うじて覚えていたのだとほっとする一同。
しかしほっとしたルナリアは華にも聞いてみたくなり、聞いてしまった。
『ハナさん、グレイルと会ったことがあるのね?』
『はい!グレイルさん。ラジネさん、お店…え~と、てんいんさん!』
思い出し、いい笑顔で話す華に、全員が黙って笑顔で頷くしかなかった。
やはり店員だと思われていたらしい。
その後、食堂での晩餐となり、華は隣に座ったシアから料理や食材の名前を聞きながら、斜め向いに座るグレイルからの視線に困惑していた。
(さっきからすっごい見てるよね…。なんでだろう)
グレイルの手はほとんど動いておらず、ラインハルトやルナリアに注意されてフォークを持つも、ずっと華を見ていてまったく食事が進んでいない。
始めの方こそ、何でしょう?と首を傾けたりしていた華だったが、変わらず見てくるだけなので、隣からシアが話しかけてきてくれるのをいいことに、以降一切グレイルの方は見ていない。というか、何だか見られないでいる。
それでもずっと視線は感じているのだが、敵意は感じない。どちらかというとーーー。
もちろんシアはグレイルからの視線に困惑する華を助ける為に頻りに話し掛けている。
(怖い……。これは怖い…)
ほんのり笑みを浮かべて話し掛けるでもなく、ただひたすら華を見ているグレイルの方を見ないようにしながら華に話し掛けるシアの声が震えそうだった。
『あ、ハナ。このお肉、昨日の魔獣だよ。バルミラだって』
『まじゅう!ばるみら?』
『そうそう。昨日の大きな魔獣の名前。バルミラ』
シチューの中に入っている肉が、昨日の大型魔獣だという。
昨日は誰もが口々に魔獣だ大型魔獣だとは話していたが、その名前までは聞かなかった。
『きのう、シアさん、弓、かっこいい!』
『えへへ、ありがと。そこは、かっこ良かった、かな』
『かっこよかった!』
(かっこよかったと言えば…)
華は昨日の魔獣討伐で、もどかしい思いをして見ていたことも思い出していた。
(あの指揮官の人…。来てあっという間に荷車のお婆ちゃん達を助けてくれたよね。……あれっ?)
華はふと気が付いて、見ないようにしていた視線の来る方向、グレイルを見た。
0
お気に入りに追加
44
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
虐げられた令嬢、ペネロペの場合
キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。
幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。
父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。
まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。
可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。
1話完結のショートショートです。
虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい……
という願望から生まれたお話です。
ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。
R15は念のため。
三年目の離縁、「白い結婚」を申し立てます! 幼な妻のたった一度の反撃
紫月 由良
恋愛
【書籍化】5月30日発行されました。イラストは天城望先生です。
【本編】十三歳で政略のために婚姻を結んだエミリアは、夫に顧みられない日々を過ごす。夫の好みは肉感的で色香漂う大人の女性。子供のエミリアはお呼びではなかった。ある日、参加した夜会で、夫が愛人に対して、妻を襲わせた上でそれを浮気とし家から追い出すと、楽しそうに言ってるのを聞いてしまう。エミリアは孤児院への慰問や教会への寄付で培った人脈を味方に、婚姻無効を申し立て、夫の非を詳らかにする。従順(見かけだけ)妻の、夫への最初で最後の反撃に出る。
〈完結〉妹に婚約者を獲られた私は実家に居ても何なので、帝都でドレスを作ります。
江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」テンダー・ウッドマンズ伯爵令嬢は両親から婚約者を妹に渡せ、と言われる。
了承した彼女は帝都でドレスメーカーの独立工房をやっている叔母のもとに行くことにする。
テンダーがあっさりと了承し、家を離れるのには理由があった。
それは三つ下の妹が生まれて以来の両親の扱いの差だった。
やがてテンダーは叔母のもとで服飾を学び、ついには?
100話まではヒロインのテンダー視点、幕間と101話以降は俯瞰視点となります。
200話で完結しました。
今回はあとがきは無しです。
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる