上 下
71 / 154

70 火矢作戦

しおりを挟む
『後は頼んだぞ、ナッシュ!』

 開いた門からグレイルとアラン、商会の護衛であるアレックスとエドワードが騎馬で飛び出ていく。
 それぞれの馬には町の住民に集めさせた古い油の樽が括ってある。
 門前に集まった野次馬達に集めさせた物だが、充分な量とはならなかったので商会からも運んでいる。

 グレイルは野次馬を解散させずに手伝いに使っていた。
 安全は保証しない、避難を勧める。とした上で、手伝う気のあるものは捨ててもいい古い油を集めて欲しいと。

 もちろん討伐に使うもので、火矢の前にバルミラを油まみれにしてしまおうと集めた物なのだが、大型魔獣にどうやって油をかけるかが問題になり、結局油を汲む為の柄杓をそのまま使用する事になった。樽の中身が少なくなれば、せーので樽ごと魔獣にぽいする予定であり、それを火矢をつがえる合図とした。もちろん柄杓もぽいである。

 門から出た4騎は縦列になり暴れている魔獣に向かう。騎馬であれば数百メートルの距離などあっという間だ。縦列のまま3頭の魔獣の周りを逆時計回りに回りつつ柄杓で油を掛けていく。

『終わりだ!』

『こっちも!』

『俺も終わった!』

『よし!離脱!!』

 四人が一斉に樽と柄杓をバルミラに投げつけた。





『よし!弓構えー!…射て!!』

 火矢班の指揮はロイが執った。
 兵の中でまともに弓を扱える者が10人もおらず、更に塀の上でとなると矢を番えることが出来ない者もいて、結局火矢班の射手役の兵士は5人になってしまった。
 塀の上で行動でき、弓のタイミングが分かるものが兵士達の中にはいないため、仕方なしにロイが指揮を執る事になってしまった。もちろんロイ自身も射手だ。

 商会のロイ、シア、マールと射手役の兵士達とでバルミラに火を放つ。

『当てようとか考えなくていい!兎に角届かせろ!』

 バルミラまで3、400メートル。始めは兵士達の矢は殆んど届いていなかったが、何射かしていると全員の矢が届くようになる。

(めっちゃ狙ってる!)

 マールが、シアの矢が一番遠い1頭のバルミラの頭を集中的に狙っているのが判ったのは、そこまで矢が届く兵士が殆んどいないからだ。
 なので気付いたのはもちろんマールだけではなく、見ている者殆んどだったのだが、そろそろ火矢が尽きるかというとき、シアの放った矢がバルミラの眼に命中した。

『っし!』

 シアの大変嬉しそうな顔にロイは苦笑した。





 油を掛けられている間は気にもせずまとわり付いて離れない魔蜂を振り切ろうと暴れていたバルミラは、矢を、しかも火矢を射掛けられ己の体が燃え始めると、さすがに魔蜂どころではなくなり、火矢が飛んでくる方に向かって突進しようとしていた。

 火矢のお陰でまとわり付いていた魔蜂は、焼けたり撤退したりしているのだが、撒かれた油のせいで火はバルミラの体にどんどん燃え広がっていく。

 グレイルたちは町に向かおうとするバルミラの足を火矢を掻い潜り切り付けていく。町の反対側から攻撃すればバルミラの体が盾になり、火矢は殆んど届かないのだが。

 そろそろ火矢も終わりかと思われたとき、1頭のバルミラの眼に火矢が命中し、他の2頭と大きく離れた。

『あれから行くぞ!』

『『『おうっ!!』』』


 グレイルの掛け声で、4騎が一斉に片眼を射られたバルミラに攻撃を始めた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

虐げられた令嬢、ペネロペの場合

キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。 幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。 父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。 まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。 可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。 1話完結のショートショートです。 虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい…… という願望から生まれたお話です。 ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。 R15は念のため。

三年目の離縁、「白い結婚」を申し立てます! 幼な妻のたった一度の反撃

紫月 由良
恋愛
【書籍化】5月30日発行されました。イラストは天城望先生です。 【本編】十三歳で政略のために婚姻を結んだエミリアは、夫に顧みられない日々を過ごす。夫の好みは肉感的で色香漂う大人の女性。子供のエミリアはお呼びではなかった。ある日、参加した夜会で、夫が愛人に対して、妻を襲わせた上でそれを浮気とし家から追い出すと、楽しそうに言ってるのを聞いてしまう。エミリアは孤児院への慰問や教会への寄付で培った人脈を味方に、婚姻無効を申し立て、夫の非を詳らかにする。従順(見かけだけ)妻の、夫への最初で最後の反撃に出る。

〈完結〉妹に婚約者を獲られた私は実家に居ても何なので、帝都でドレスを作ります。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」テンダー・ウッドマンズ伯爵令嬢は両親から婚約者を妹に渡せ、と言われる。 了承した彼女は帝都でドレスメーカーの独立工房をやっている叔母のもとに行くことにする。 テンダーがあっさりと了承し、家を離れるのには理由があった。 それは三つ下の妹が生まれて以来の両親の扱いの差だった。 やがてテンダーは叔母のもとで服飾を学び、ついには? 100話まではヒロインのテンダー視点、幕間と101話以降は俯瞰視点となります。 200話で完結しました。 今回はあとがきは無しです。

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

処理中です...