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44 遭遇その3
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約束の日の朝。
華は街道沿いの下に生えている八朔のような実を採ろうと奮闘していた。
ここ数日、昼間は竹藪の道から街道へ下りる階段を作っていた。
そんなに立派なものでなく、華が通れる程度の段差だが、階段を作ったことで格段に登り下りがしやすくなった。
その階段作りの最中、何度かこの木の実をおやつに採って食べていたが、当たりはずれがあるのだ。
当然の事ながら、日のたくさん当たっていた実の方が甘くて味が濃く美味しい。
華が狙っているのは南側の高いところに生っている実なのだが、南側は山の斜面の下側で、足場も悪く華の背では届かない。
届かないので、貰った槍で何とかならないものかと奮闘しているのだが…。
「あっ」
槍の先端を実の上部に突き刺して落とすことには成功したが、落ちてきたのをキャッチする予定が実を弾き飛ばしてしまった。
「あぁ~」
ころころと斜面を転がっていく実を見送って、もう一度、と槍を構えたとき、実が落ちた斜面の下から何かが突進してきた。
咄嗟に木の陰に移動したが、相手を見たとたん、ここでは駄目だと思い直し、すぐ上にある街道へ登って槍を構えた。
(熊に見える…けど、熊ってあんな大きな牙あったかな)
華は上野の動物園に行ったことはあるが、行った記憶がうっすらあるだけで、何の動物を見たとかは覚えていない。兄が小さな頃に行ったので華はもっと小さかったからだ。
初めて見る生熊だが、何となくあちらの世界の熊とこの世界の熊は別物な気がした。
突進してくる熊を観察していられたのは僅かな時間だった。
下から登って来るというのに、熊はあっという間に華の近くまで迫って来て飛びかかってきた。
「ガアアッ」
(冬眠明け?お腹すいてるの⁉)
べしっと初撃を槍先でいなし突きを放つ。
(イケる。重いけどっこんなのぜんぜん速くない!)
野性動物相手に斜面の上にいるというのがどれ程のアドバンテージになるのかはわからないが、兄たちの速い剣に比べたらなんてことはなかった。
しかし、華より大きな熊の振り上げる爪は、剣と違って力が直接乗っているせいか、すこぶる重い。
なるべく下の方から、首回りを狙ってダメージを与えていく。胴に入れてもそれほど効きそうになかったからだ。
(こんなの、手負いのまま逃がしたら駄目だ)
鉄の槍のお陰で勝てそうではあるが、斜面の下に逃げられては堪らない。
華は少しずつ後退して熊を街道へ上げた。
「ガアアアーッ」
「やぁーーーっ‼」
街道に上がった途端に一気に飛びかかってきた熊に、華は一度槍を地面に打ち付け低い姿勢のまま勢いよく踏み込み、大きく開いたその口の中に槍を突き刺した。
そのまま素早く槍を抜く筈が、熊の後頭部に深く貫通していてするりと抜けない。
「くっ…、にゃー⁉」
力を入れてもう一度槍を引くと、力を失った熊の体が前に、華の方に倒れてきた。
慌てて思わず奇声をあげてしまった華は、上段に蹴りを入れつつ素早く槍を抜いて跳びずさることで、ぎりぎり熊の下敷きにならずに済んだのだった。
「ふー。…危なかった…」
(この熊どうしよう)
『ハナっ』
華が倒した熊をどうするか悩む前にロイが馬で駆けて来ていた。
華は街道沿いの下に生えている八朔のような実を採ろうと奮闘していた。
ここ数日、昼間は竹藪の道から街道へ下りる階段を作っていた。
そんなに立派なものでなく、華が通れる程度の段差だが、階段を作ったことで格段に登り下りがしやすくなった。
その階段作りの最中、何度かこの木の実をおやつに採って食べていたが、当たりはずれがあるのだ。
当然の事ながら、日のたくさん当たっていた実の方が甘くて味が濃く美味しい。
華が狙っているのは南側の高いところに生っている実なのだが、南側は山の斜面の下側で、足場も悪く華の背では届かない。
届かないので、貰った槍で何とかならないものかと奮闘しているのだが…。
「あっ」
槍の先端を実の上部に突き刺して落とすことには成功したが、落ちてきたのをキャッチする予定が実を弾き飛ばしてしまった。
「あぁ~」
ころころと斜面を転がっていく実を見送って、もう一度、と槍を構えたとき、実が落ちた斜面の下から何かが突進してきた。
咄嗟に木の陰に移動したが、相手を見たとたん、ここでは駄目だと思い直し、すぐ上にある街道へ登って槍を構えた。
(熊に見える…けど、熊ってあんな大きな牙あったかな)
華は上野の動物園に行ったことはあるが、行った記憶がうっすらあるだけで、何の動物を見たとかは覚えていない。兄が小さな頃に行ったので華はもっと小さかったからだ。
初めて見る生熊だが、何となくあちらの世界の熊とこの世界の熊は別物な気がした。
突進してくる熊を観察していられたのは僅かな時間だった。
下から登って来るというのに、熊はあっという間に華の近くまで迫って来て飛びかかってきた。
「ガアアッ」
(冬眠明け?お腹すいてるの⁉)
べしっと初撃を槍先でいなし突きを放つ。
(イケる。重いけどっこんなのぜんぜん速くない!)
野性動物相手に斜面の上にいるというのがどれ程のアドバンテージになるのかはわからないが、兄たちの速い剣に比べたらなんてことはなかった。
しかし、華より大きな熊の振り上げる爪は、剣と違って力が直接乗っているせいか、すこぶる重い。
なるべく下の方から、首回りを狙ってダメージを与えていく。胴に入れてもそれほど効きそうになかったからだ。
(こんなの、手負いのまま逃がしたら駄目だ)
鉄の槍のお陰で勝てそうではあるが、斜面の下に逃げられては堪らない。
華は少しずつ後退して熊を街道へ上げた。
「ガアアアーッ」
「やぁーーーっ‼」
街道に上がった途端に一気に飛びかかってきた熊に、華は一度槍を地面に打ち付け低い姿勢のまま勢いよく踏み込み、大きく開いたその口の中に槍を突き刺した。
そのまま素早く槍を抜く筈が、熊の後頭部に深く貫通していてするりと抜けない。
「くっ…、にゃー⁉」
力を入れてもう一度槍を引くと、力を失った熊の体が前に、華の方に倒れてきた。
慌てて思わず奇声をあげてしまった華は、上段に蹴りを入れつつ素早く槍を抜いて跳びずさることで、ぎりぎり熊の下敷きにならずに済んだのだった。
「ふー。…危なかった…」
(この熊どうしよう)
『ハナっ』
華が倒した熊をどうするか悩む前にロイが馬で駆けて来ていた。
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