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40 ローレンス商会

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『おや、叔父上。お帰りなさいませ。叔母上も。…叔母上?』

 商会の店奥、あまり外部の客を通すことのない、どちらかというとプライベートで使う応接室に、長らく行商に出ていた叔母夫婦が帰ってきたと報せを受けてやって来たローレンス商会のホーソン商会長だったが、叔母の心ここにあらずといった様子に、

(珍しく長旅でお疲れでいらっしゃる…。さすがの叔母上も寄る年波には…)

 と思っていた。そろそろ引退か、と。
 しかし突然立ち上り、ただいまも言わずに『5日後に行商に行くから準備しなきゃ!』などと言い出す叔母に、叔父が宥めて再びソファーに座らせているのを見て、いつも通りだったと安心するのだった。

『まあまあ。今帰ったばかりじゃないか。それにもう夜になるよ。ほら、お茶でも飲んで。それとも少し早いけど食事にするかい?ちょうどホーソンも来たことだし』

『そうですよ、叔母上。せっかく長旅から帰って来たんですから、少し休んでください』

 夫婦の向かいのソファーに座り、入口の脇に立っていた護衛のアレックスとロイにも座るように促す。
 こういう報告の場に、護衛チームのリーダーであるアレックスだけでなくロイまでいるのは珍しいが、今回は長旅だったので報告事項も多いのだろうと思いながら。

『アレックスとロイも山脈2度越えの往復は大変だったろう。しばらくはゆっくり休んでくれ』

『そうしたいのは山々なんだが…』

『なんだ?ああ…そう言えばさっき5日後とかなんとか』

『天使に会いにいくのよ!』

 “5日後”と聞いたとたんに身を乗り出すファーナに、ホーソンは目線でアレックスに事情を尋ねる。アルベルトに訊かないのはファーナを落ち着かせる係りだからなのだが、その係の人もファーナの言葉にうんうん頷いている。

『あ~。まずこれを見てくれ』

 アレックスがソファーとセットのテーブルに置いてある布の包みを開けた。

『これは…。蛇の皮?でかいな』

『山脈固有の落ち化蛇って蛇の事は聞いたことがあるだろう』

『…おとぎ話でな。東の…盾の皇国にいる翼のある蛇の幻獣の翼が落ちて魔獣化したっていう…。これがか?』

『山脈の最後の休憩場所にいたちっこい女の子から買い取った物だ。奥様のいうところの“天使”からな』

 ホーソンはアレックスの顔をまじまじと見る。
 ふたりは子供の頃からの付き合いだが、この男の口から“天使”などという単語が出てくるなど、想像したこともなかった。どんな顔して…と見ていると、ホーソンの思っていることが分かったのか不機嫌になっていく。

『言っておくが“天使”だなんの言い出したのは奥様だからな!名前は“ハナ”。せいぜい10歳そこそこにしか見えないちっさい女の子が山脈の休憩場所に独りでいたんだ。本人は17歳だって言っていたがな。5日後に約束しているのはその娘なんだよ』
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