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20 周辺の探索その2
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囲炉裏予定地を掘り下げたところで周りを石で囲おうとしたが、すでに石を使いきってしまっていた。
外の焚き火周りの石を移してもいいが、焚き火は焚き火でできれば竃が出来るまでは残しておきたい。とりあえず穴に落ち葉や小枝を入れて火を付けたら探索及び採集に出かけることにした。
扉が付く予定の出入口から出た華は、カバンを肩に掛けながら確実にお家になっていく藤棚さんを見て再びによによしながら探索に出掛けるのだった。
「行ってきます!」
今度の探索では頂上を目指すルートを探りながら採集もするので、短時間で戻るつもりだった。
川へのルートはほぼ真っ直ぐ進めたが、西側は他方向に比べると木々はまばらだが茅が群生していて進めない。そして麓側と山頂側は、華が直接降りたり登ったりするには急過ぎた。
しかも川原の先を見る限り、麓側は真っ直ぐ進めたとしても深い渓になっていることが予想される。渓を渡れないのはともかくとして、うっかり落ちでもしたら藤棚さんに戻れる気がしない…。
(ああでも、川を遡れば滝のところまで戻れるかも?…でもそういえば流木で塞がってた…)
麓側へ行くのなら藤棚さんの下を降りるのではなく、いちど川向うへ行ってから降りるルートを探った方がいいだろうと思われる。
山頂へのルートは、まずは北西方向に見える蔦の絡まった木を目指して進む。
どうせ道も茅も使うのだからと、茅を分け入るのではなく踏み倒しながら。
茅は今後回収するので、前ではなく左右に踏み倒しながら進んでいると、時折バッタが跳ねる。蝗の佃煮を思い出したがバッタを食べる気はさらさらない。
乾パンがまだあるお陰か、この山に来てから華は食べるものの事で不安になった事がない。そこかしこでドングリが転がっているし、これから緑が増えてくれば他の食べられるものも見つかるだろうし、お魚の罠も仕掛けた。お魚の罠に関しても、いつか入ってくれればうれしいなくらいのものだ。
戦争が始まっても華の家ではあまり食べるものには困っていなかった。
元々半地下式の倉庫に蓄えがあったので、節約はしたが食べるものがなくなるまではいっていなかったのだ。
配給の黄色い玄米も家にあった白米と混ぜて嵩増しに使っていたので、よそ様のお家では子供の仕事だと聞いている、棒でついて白く精米するという作業を華はしたことがない。兄が面白がって一度していたことはあるが。
それも戦争が長期化すればどうなるかわからない。
もし空襲で倉庫が焼けてしまっていたらと考えると母のことも心配になる。
(考えても仕方がない…)
仕方がない事は考えない。
今まではそうやって過ごしてきた。
戦争中だから、仕方がない。
でも今は。
考えても仕方がないのは変わらないが、離脱した華は想う。
想うだけだけど、想うことは好きなだけ、気が済むまで想うことにしたのだ。
ひとりきりになって3日目。国も戦争も関係無くなったことにようやく心が慣れ始めてきた華の僅かな変化だった。
目指す蔦の絡まる木は、元は2本なのか二股なのか華の膝の辺りから分かれてまっすぐ高く伸びていた。
振り返ればまだ藤棚さんの姿が余裕で見える距離だった。
離れたところから竹製の壁のある藤棚さんを見てまたによによする華だったが、ふと藤の木が一緒に来なくてよかったと思う。
(藤の花が咲いたら変に目立っちゃいそう…。屋根も葺けなくなっちゃうし。魔除けの木とか言うけど毒もあるって聞いたような気がするし。まだ枝蔓伸びる前で良かった~)
学校に残っているだろう切り株の横に出たまだ小さな藤の木を思い出す華は、攻撃目標…つまるところ爆撃の的にならないようにと無意識に考えている自分に気づいて複雑な気分になってしまったのだった。
外の焚き火周りの石を移してもいいが、焚き火は焚き火でできれば竃が出来るまでは残しておきたい。とりあえず穴に落ち葉や小枝を入れて火を付けたら探索及び採集に出かけることにした。
扉が付く予定の出入口から出た華は、カバンを肩に掛けながら確実にお家になっていく藤棚さんを見て再びによによしながら探索に出掛けるのだった。
「行ってきます!」
今度の探索では頂上を目指すルートを探りながら採集もするので、短時間で戻るつもりだった。
川へのルートはほぼ真っ直ぐ進めたが、西側は他方向に比べると木々はまばらだが茅が群生していて進めない。そして麓側と山頂側は、華が直接降りたり登ったりするには急過ぎた。
しかも川原の先を見る限り、麓側は真っ直ぐ進めたとしても深い渓になっていることが予想される。渓を渡れないのはともかくとして、うっかり落ちでもしたら藤棚さんに戻れる気がしない…。
(ああでも、川を遡れば滝のところまで戻れるかも?…でもそういえば流木で塞がってた…)
麓側へ行くのなら藤棚さんの下を降りるのではなく、いちど川向うへ行ってから降りるルートを探った方がいいだろうと思われる。
山頂へのルートは、まずは北西方向に見える蔦の絡まった木を目指して進む。
どうせ道も茅も使うのだからと、茅を分け入るのではなく踏み倒しながら。
茅は今後回収するので、前ではなく左右に踏み倒しながら進んでいると、時折バッタが跳ねる。蝗の佃煮を思い出したがバッタを食べる気はさらさらない。
乾パンがまだあるお陰か、この山に来てから華は食べるものの事で不安になった事がない。そこかしこでドングリが転がっているし、これから緑が増えてくれば他の食べられるものも見つかるだろうし、お魚の罠も仕掛けた。お魚の罠に関しても、いつか入ってくれればうれしいなくらいのものだ。
戦争が始まっても華の家ではあまり食べるものには困っていなかった。
元々半地下式の倉庫に蓄えがあったので、節約はしたが食べるものがなくなるまではいっていなかったのだ。
配給の黄色い玄米も家にあった白米と混ぜて嵩増しに使っていたので、よそ様のお家では子供の仕事だと聞いている、棒でついて白く精米するという作業を華はしたことがない。兄が面白がって一度していたことはあるが。
それも戦争が長期化すればどうなるかわからない。
もし空襲で倉庫が焼けてしまっていたらと考えると母のことも心配になる。
(考えても仕方がない…)
仕方がない事は考えない。
今まではそうやって過ごしてきた。
戦争中だから、仕方がない。
でも今は。
考えても仕方がないのは変わらないが、離脱した華は想う。
想うだけだけど、想うことは好きなだけ、気が済むまで想うことにしたのだ。
ひとりきりになって3日目。国も戦争も関係無くなったことにようやく心が慣れ始めてきた華の僅かな変化だった。
目指す蔦の絡まる木は、元は2本なのか二股なのか華の膝の辺りから分かれてまっすぐ高く伸びていた。
振り返ればまだ藤棚さんの姿が余裕で見える距離だった。
離れたところから竹製の壁のある藤棚さんを見てまたによによする華だったが、ふと藤の木が一緒に来なくてよかったと思う。
(藤の花が咲いたら変に目立っちゃいそう…。屋根も葺けなくなっちゃうし。魔除けの木とか言うけど毒もあるって聞いたような気がするし。まだ枝蔓伸びる前で良かった~)
学校に残っているだろう切り株の横に出たまだ小さな藤の木を思い出す華は、攻撃目標…つまるところ爆撃の的にならないようにと無意識に考えている自分に気づいて複雑な気分になってしまったのだった。
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