19 / 154
18 遭遇 その1
しおりを挟む
3日目の朝。
目覚めたときには既に辺りは明るくなっていた。
昨日と同じように川へ行き、早速お魚の罠を仕掛けてみる。
(お魚捕れるかな…。今日来なくても明日とか明後日でもお魚来るとうれしいな…)
顔を洗って水筒に水を汲んでいる間にも仕掛けた罠をちらちらと見てしまう。
によによしながら手拭いを洗い終わって立ち上がった瞬間、心臓がはねた。
数メートルの川幅の向こうで、鹿のような灰色の動物がじっとこちらを見つめていた。
鹿にしては毛が長くもふっとしていて脚も短い気がするが、華は本とはく製でしか鹿を見たことがないのでやはり鹿の仲間なのかもしれない。ゆるくカーブした二本の角もある。
突然の遭遇に驚いて動きが止まってしまった華だったが、向こうも戸惑っている様子に見えるのは気のせいではないと思われる。
そもそも華がその動物に気付いたのは、華が立ち上がった時に驚いた気配が川向こうからしたせいだった。驚いた相手がぴょこたんと動いたから華も気付いたが、相手も華が立ち上がるまで気付いていなかったのだろう。
「あ…」
華が吐息のような小さな声を出したのと同時に脱兎のごとく逃げ出したその動物は、竹藪に阻まれて奥には行けずに川下の方へ走って行く。
(なにもしないのに…)
怯えられて逃げられた華は、なんだか悪いことをしたような気分にさせられて肩を落とした。
そのまま竹藪が途切れた辺りで木々の奥に入っていくのかと思われたが、少し落ち着いたのか、走るのをやめて歩きながら後ろ、華の方を振り返りちらっ、少し歩いて振り返りちらっとやっている。
(なにあれ和む~)
遠くの木の陰に入っても顔だけ出してこちらを伺っている様子に、いつか仲良くなれるといいなと思う華だった。
今日も岩に腰掛けて乾パンで朝ごはんにする。
硬い乾パンを口の中でころころしながらゆっくりいただいていると、いつの間にかあの動物の姿が見えなくなっていた。もしかしたら奥の木の隙間からこちらを伺っているのかもしれないが。
(人間に遇ったことがないんだろうな…。天狗様のお山だから人がいないのかな?脅かすのも悪いし、今日は竹はいいかな。昨日採った竹で壁を完成させよう。明日は遠慮しないけどね!)
朝ごはんを終えるとまた石をお土産にして藤棚さんへ戻る。
来るときに持ってきた竹槍は階段の横に置いていく。
ここまでの行来で槍は持ち歩かないけれど、川原と藤棚さんに常備しておくことにしたのだ。もちろん今後の探索には持ち歩くつもりだが。
今後の探索はこの川原へ来たときのようには行かないと予想している華は、まず拠点となる藤棚さんとその周辺を調えることを優先しようと考えていた。
それには竹石粘土が大量に必要で、どれもこの川原で調達している。
あの隣人には今後も顔を合わせることがあるだろうと思うと、華の川原へ足を運ぶ楽しみが増えるのだった。
目覚めたときには既に辺りは明るくなっていた。
昨日と同じように川へ行き、早速お魚の罠を仕掛けてみる。
(お魚捕れるかな…。今日来なくても明日とか明後日でもお魚来るとうれしいな…)
顔を洗って水筒に水を汲んでいる間にも仕掛けた罠をちらちらと見てしまう。
によによしながら手拭いを洗い終わって立ち上がった瞬間、心臓がはねた。
数メートルの川幅の向こうで、鹿のような灰色の動物がじっとこちらを見つめていた。
鹿にしては毛が長くもふっとしていて脚も短い気がするが、華は本とはく製でしか鹿を見たことがないのでやはり鹿の仲間なのかもしれない。ゆるくカーブした二本の角もある。
突然の遭遇に驚いて動きが止まってしまった華だったが、向こうも戸惑っている様子に見えるのは気のせいではないと思われる。
そもそも華がその動物に気付いたのは、華が立ち上がった時に驚いた気配が川向こうからしたせいだった。驚いた相手がぴょこたんと動いたから華も気付いたが、相手も華が立ち上がるまで気付いていなかったのだろう。
「あ…」
華が吐息のような小さな声を出したのと同時に脱兎のごとく逃げ出したその動物は、竹藪に阻まれて奥には行けずに川下の方へ走って行く。
(なにもしないのに…)
怯えられて逃げられた華は、なんだか悪いことをしたような気分にさせられて肩を落とした。
そのまま竹藪が途切れた辺りで木々の奥に入っていくのかと思われたが、少し落ち着いたのか、走るのをやめて歩きながら後ろ、華の方を振り返りちらっ、少し歩いて振り返りちらっとやっている。
(なにあれ和む~)
遠くの木の陰に入っても顔だけ出してこちらを伺っている様子に、いつか仲良くなれるといいなと思う華だった。
今日も岩に腰掛けて乾パンで朝ごはんにする。
硬い乾パンを口の中でころころしながらゆっくりいただいていると、いつの間にかあの動物の姿が見えなくなっていた。もしかしたら奥の木の隙間からこちらを伺っているのかもしれないが。
(人間に遇ったことがないんだろうな…。天狗様のお山だから人がいないのかな?脅かすのも悪いし、今日は竹はいいかな。昨日採った竹で壁を完成させよう。明日は遠慮しないけどね!)
朝ごはんを終えるとまた石をお土産にして藤棚さんへ戻る。
来るときに持ってきた竹槍は階段の横に置いていく。
ここまでの行来で槍は持ち歩かないけれど、川原と藤棚さんに常備しておくことにしたのだ。もちろん今後の探索には持ち歩くつもりだが。
今後の探索はこの川原へ来たときのようには行かないと予想している華は、まず拠点となる藤棚さんとその周辺を調えることを優先しようと考えていた。
それには竹石粘土が大量に必要で、どれもこの川原で調達している。
あの隣人には今後も顔を合わせることがあるだろうと思うと、華の川原へ足を運ぶ楽しみが増えるのだった。
0
お気に入りに追加
44
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
虐げられた令嬢、ペネロペの場合
キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。
幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。
父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。
まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。
可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。
1話完結のショートショートです。
虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい……
という願望から生まれたお話です。
ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。
R15は念のため。
三年目の離縁、「白い結婚」を申し立てます! 幼な妻のたった一度の反撃
紫月 由良
恋愛
【書籍化】5月30日発行されました。イラストは天城望先生です。
【本編】十三歳で政略のために婚姻を結んだエミリアは、夫に顧みられない日々を過ごす。夫の好みは肉感的で色香漂う大人の女性。子供のエミリアはお呼びではなかった。ある日、参加した夜会で、夫が愛人に対して、妻を襲わせた上でそれを浮気とし家から追い出すと、楽しそうに言ってるのを聞いてしまう。エミリアは孤児院への慰問や教会への寄付で培った人脈を味方に、婚姻無効を申し立て、夫の非を詳らかにする。従順(見かけだけ)妻の、夫への最初で最後の反撃に出る。
〈完結〉妹に婚約者を獲られた私は実家に居ても何なので、帝都でドレスを作ります。
江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」テンダー・ウッドマンズ伯爵令嬢は両親から婚約者を妹に渡せ、と言われる。
了承した彼女は帝都でドレスメーカーの独立工房をやっている叔母のもとに行くことにする。
テンダーがあっさりと了承し、家を離れるのには理由があった。
それは三つ下の妹が生まれて以来の両親の扱いの差だった。
やがてテンダーは叔母のもとで服飾を学び、ついには?
100話まではヒロインのテンダー視点、幕間と101話以降は俯瞰視点となります。
200話で完結しました。
今回はあとがきは無しです。
欲しいのならば、全部あげましょう
杜野秋人
ファンタジー
「お姉様!わたしに頂戴!」
今日も妹はわたくしの私物を強請って持ち去ります。
「この空色のドレス素敵!ねえわたしに頂戴!」
それは今月末のわたくしの誕生日パーティーのためにお祖父様が仕立てて下さったドレスなのだけど?
「いいじゃないか、妹のお願いくらい聞いてあげなさい」
とお父様。
「誕生日のドレスくらいなんですか。また仕立てればいいでしょう?」
とお義母様。
「ワガママを言って、『妹を虐めている』と噂になって困るのはお嬢様ですよ?」
と専属侍女。
この邸にはわたくしの味方などひとりもおりません。
挙げ句の果てに。
「お姉様!貴女の素敵な婚約者さまが欲しいの!頂戴!」
妹はそう言って、わたくしの婚約者までも奪いさりました。
そうですか。
欲しいのならば、あげましょう。
ですがもう、こちらも遠慮しませんよ?
◆例によって設定ほぼ無しなので固有名詞はほとんど出ません。
「欲しがる」妹に「あげる」だけの単純な話。
恋愛要素がないのでジャンルはファンタジーで。
一発ネタですが後悔はありません。
テンプレ詰め合わせですがよろしければ。
◆全4話+補足。この話は小説家になろうでも公開します。あちらは短編で一気読みできます。
カクヨムでも公開しました。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる