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おわりの後、はじまりの前
切り札の一人語り
しおりを挟む__________こんにちは。
ここは不思議の世界。こんなところに単身で迷い込んでしまった君はさながらアリスといったところかな?
せっかくだし暇つぶしだと思ってこの世界のことを教えてあげよう。
申し遅れたね、ワタシはジョーカー。全ての切り札だよ。
さて、まずはこの不思議の世界の国の説明をしようか。国は全部で四つ。ハートの国、スペードの国、クラブの国、ダイヤの国。どの国もキングとクイーンが治めているよ。
キングとクイーンといっても王族の血筋とかで選ばれるわけではないんだけどね。性別で決められるわけでもないから、キングなのに女だったりクイーンなのに男だったりもする。要するに各国にそれぞれそういう役割の席があるってことさ。
君達の世界で言えばソウリダイジンとかダイトウリョーにあたるのかな? かくいえ、キングとクイーンにはその国で暮らしている国民全てになれる権利があるんだよ。
とは言っても、キングとクイーンの代替わりなんて滅多にあるもんじゃないからほとんどないに等しいんだけど。
え? なんだい、どうしてキングとクイーンがいるのにジャックはいないんだって? 逆に聞きたいが何故君はワタシが今教えてもいないのにジャックという存在を知っているんだい? 何、トランプ? 君の世界にはそんなものがあるのか。ではこの世界はそのトランプとやらから作られているのかもしれないね。
話が逸れてしまったな。君の言った通りジャックは元々席があったんだよ。でもある時消えてしまった。ここら辺の説明をするには四つの国の説明をして、それぞれのキングとクイーンの話をしてからの方が分かりやすいだろう。では説明していこうか。
まずはハートの国。この国は一番歴史が長い。とはいえ、歴史が長いってだけでそれ以外に特に何かあるわけじゃないっていうのが代々、ハートのキングの言い分だけどね。
無論、実際そんなことはないよ。ハートの国の歴史は凄まじいもので、その兵力は他の国とは別格の強さを誇っている。全てにおいて積み上げられ続けた伝統がそれを物語っているのさ。今も尚、ね。
ああ、そうそうこれは各国に言えることだけど、キングとクイーンは国によってそれぞれ一つだけ魔法を使う事が出来るんだ。各国のキングとクイーンが魔法を使う時、その瞳には各国のマークが浮かび上がる。例えばだけど、ハートのキングとクイーンが魔法を使う時は瞳にハートのマークが浮かび上がり、スペードのキングとクイーンが魔法を使う時はスペードのマークが浮かび上がる、といった感じにね。
ハートの国は女が強い。だから基本的には、キングもクイーンも女がなる事が多い。なんでかっていうと、ハートの国の魔法は『魅了』なんだ。人々を自分に心酔させ、意のままに操る……それがハートの国の魔法なのさ。
だからキングは必ずハートの杖を持っている。ハートの杖は国に伝わる国宝なんだ。国宝っていうのはキングだけが持つことを許されている、国に伝わる宝のことで、どの国宝も国の魔法に関係したものになっているんだよ。
他の国には魔法の適性なんてものはあんまりないんだけど、ハートの国の魔法の適性は女の方があるってわけだ。
でも、だからといって女尊男卑なわけではないよ。だって今のハートのキングは男なんだもの。彼は魔法の耐性がとっても強かったんだよ。それに加えて武力も強い。頭もいいしね。国としてはこの上なく上質なキング候補だったんだ。
そんなわけで、他にも女のキング候補は何人かいたけど、満場一致でハートのキングは彼に決まったってわけ。
次にスペードの国。この国は完全な弱肉強食、実力主義の国なんだ。だから国民にも野心家なものや傲慢なものが多い。
それ故に、キングもクイーンもかなり激しく入れ替わるんだけど……今ではそれも昔の話なんだ。
ちょっと前に、まぁちょっとと言っても君達とは時間の感覚が違うから数百年前くらいのことなんだけど……ああ、ここは不思議の世界だからね、殺されない限り生き続けるのさ。そう、殺されない限りはね。
またまた話が逸れてしまったね、それでちょっと前にクイーンが入れ替わって、その後にキングが入れ替わったんだ。その二人はスペードの国全体を震わせるほどの強さを持っていてね、君には分からないだろうけど今では彼らに歯向かって成り代わろうとする者たちが、あのスペードの国にほとんどいなくなるほどの強さを示したのさ。
そんなスペードの国の魔法は『時間操作』 時間操作といっても、時を止めたりとか時を戻したりとかする大掛かりなものじゃなくて、自分の流れる時を速くして攻撃を避けたり、逆に相手の時を遅くして攻撃を当てたりするものなんだ。
スペードのキングはスペードの懐中時計を国宝として持っているんだよ。
ちなみに完全な余談なんだけどね、ハートのクイーンがいるだろう。そのハートのクイーンは、スペードのクイーンにお熱なんだよ。
なんでも、はじめて四国の会議で顔合わせした時に一目惚れしたとかなんとか。その時は国中で噂になったものだ。それからは護衛もなにも付けずに一人でスペードの国に行ってスペードのクイーンに会いに行ったりとか、ストーカー紛いのことをやったりしててね。ハートのキングがスペードのキングとクイーンに土下座しに行った、なんて話もあったくらいだ。
ハートのキングはハートのクイーンにあんまり逆らえないからね。キングの方が身分は上だけど、クイーンの方が年上なんだよ。ハートのキングは優しいからね~。
どうしたんだい? そんな顔をして。スペードの国は嫌いかい? ふぅん……まぁいいや。じゃあ次はクラブの国の説明をしようか。
クラブの国は、正直言って謎に包まれた国なんだ。国中が霧で覆われていて、別名では霧の国、なんて呼ばれている。クラブの国もスペードの国程まではいかないけど結構な実力主義の国なんだよ。そして、絶対王政の国でもある。
ここだけの話、これはジョーカーであるワタシだから知っている極秘情報なんだけどね。今のクラブのキングは、ちょっと前にダイヤの国を乗っ取ろうとしたんだ。しかもその時はちょうどダイヤのキングが入れ替わって間もないときでね。
ダイヤのキングはまだ、無知が服を着て歩いてるような子供だったんだ。
まぁ、だからこそ、このタイミングで乗っ取ろうとしたのかもしれないけど、結果は惨敗。
ダイヤのキングを舐め切ってたクラブのキングには制裁が下されたんだ。
けど、ダイヤのキングもハートのキングと同じくらい、いやそれ以上に優しかったんだ。クラブのキング風に言うのであれば「あまりにも甘すぎる」
最終的な結果としては今後、クラブのキングはダイヤのキングの監視下に置かれる程度で済んだのさ。
ハートのキングはダイヤのキングととても仲が良かったからクラブのキングに思う事があったみたいだけど、なんだかんだでクラブのキングがダイヤのキングに絆されてることを知ってるからなにも言わないでおいてあげてるんだって。
クラブの国の魔法は『サトリ』 その名の通り、相手の考えていることを読むことが出来る。とは言っても、ハートの国の魔法みたく一度に沢山の人にかけることは出来ないんだけどね~。一度に一人が精一杯なんだってさ。
国宝は、鏡。クラブの鏡がこの国の国宝だよ。
さっき、クラブのキングがダイヤの国を乗っ取ろうとしたって話をしただろう? アレ実はね、クラブのキングが魔法を使って乗っ取ろうとしたから失敗したって言われてるんだよ。
なんでかっていうとね、手っ取り早く、一番最初に狙ったダイヤのキングにはクラブの魔法が効かなかったんだ。いや効かなかった、は間違いかな。正確には効いてはいたけど意味がなかった、って感じさ。
ダイヤのキングは、馬鹿……といっては失礼か。考えるより先に殴るタイプの素晴らしい頭をお持ちの方でね。
クラブのキングが魔法をつかったにもかかわらず、ダイヤのキングの動きは全く読めなかったんだ。クラブのキングも魔法発動中じゃなかったら避けるなり受けるなり出来たはずなんだけど、魔法発動に集中しすぎて、ダイヤのキングの一撃をまともに喰らってノックアウトさ。
彼もなかなか強いはずなんだけども……そんなわけでなかなか可哀そうな事件だったんだよ。クラブのキングに対してはね。
そして、この事件は内密に処理されて、現在にいたるってわけだ。
最後にダイヤの国。この国は元々、ハートの国だったんだ。でもはるか昔、ある時、ある地域にダイヤのマークがついた国宝が生まれた。
国宝が生まれたということは、新たなる国が生まれるということ。まぁ、逆に言えばだけど、国宝が万が一にでも壊れてしまうと、その国が消滅してしまうんだ。
当時のハートのキングは、すみやかに自身のハートの国の国土を半分程その地域に分け与え、すぐに国の役職者を決めなさいとその地域の人々に仰った。
そうして生まれたのが、ダイヤの国なんだよ。
だから、ダイヤの国とハートの国はとても交流が深い。ダイヤの国はハートの国に恩義があるからね。
なんなら、現在のダイヤのキングの教育係として、一時期はハートのキングがついていたくらいだ。
だからダイヤのキングは、ハートのキングに強い憧れを抱いていてね。何でもかんでも彼の真似をしてしまうものだから、お淑やかじゃない! っていってダイヤのクイーンはほとほと困り果てているんだよ。
ハートのキングが野蛮なわけじゃないけど、淑女が紳士の真似をしたらまずいだろう? そういうことさ。
ダイヤの国の魔法は『テレパシー』 声を出さずに人と意思疎通が出来る魔法だ。ただし、完全に初対面の相手には使うことが出来ない。最低でも一回は会話したことがある人じゃないと繋がらないんだ。仲が良ければ良い程、途中で切れにくくなるらしいよ。一度切れてしまうと再び通じるまで時間がかかってしまうんだって。
国宝はダイヤのチョーカーで、ダイヤのキングは基本的にいつもそれを身につけてるよ。
そういえばだけどかなり昔から、ハートの国、スペードの国、クラブの国、ダイヤの国の四国は和平同盟を結んでいて、クラブの国がちょっと前にやったトラブルはありつつも、特に対立することもないから各国、武力を維持する必要はないんだ。
それなのに、各国どれも役職持ちになるための一番の条件は武力で、どの国も常時、兵士や騎士などの戦力を城で集っている。知性なんかも見られるけどやっぱり一番に見られるのは武力なんだ。
ねぇ、なんでだと思う? なんで武力を維持しつつさらにそれを向上させていくんだと思う?
他国から舐められないようにするため? いつ他国が裏切っても大丈夫なように?
……違うよ。そんな考えしか出ないなんてやっぱり君も異世界人だね。
君は異世界人だよ? だってここは不思議の世界なんだから! 最初に言ってただろう、君達の世界ではねって。
まぁいいや、さっきの質問の正解はね、他に戦うべき相手がいるからなのさ。
言っとくけど、この他に国があってそこが攻めてくるとかじゃあないからね。そんなありきたりな答えはつまらないだろう?
他に戦うべき相手っていうのはね、迷惑なことに君たちの世界から来ているものなんだよ。
君たちの世界の多種多様な様々な人間たちの抱えきれなくなった感情が、日々こちらに落ちてきているんだ。本当にはた迷惑な話だよ! ワタシ達は毎日のように君たちの世界の尻拭いをしているってわけだ! 君に怒っても仕方がないけどね。
あっちの世界の感情は、こっちの人々が理解できるものではないからな。物体であったり、ベトベトした粘液みたいだったり、たまには荒れ狂うモンスターみたいなのだったりするものを、ワタシ達は必死で破壊して処理しなくちゃならないのさ。
君達にとってはどんなに強くこっちの世界と繋がったつもりでも、精々夢の中でひとしきり暴れてスッキリして目覚める程度のもんなのさ。そんなのに命を掛けてるなんて、まったくもってふざけた話だよな!
でもね、ごくごく稀に、君みたいにあっちの世界の人間がそのまま落ちてくることがあるんだ。
そういう奴の大体は死んでたりとかするんだけど、君は珍しく生きたままこんなところまで来ちゃったんだ。幸運だと喜ぶべきか不幸だと嘆くべきかは分かんないけどね。
落ちてきた人間は、翼がないから元の世界に戻ることは出来ない。
だからどっかの国に引き取られて、そこの国で暮らすのさ。勿論、了諾は取るよ。この世界に住みたいって言ったやつだけだ、国に引き取られるのはね。……住みたくないって言った奴はどうなったかって? 知らないなぁ、ソレはワタシの管理下じゃないからね。
さて、それでだ。ようやくだが、ジャックの話をしよう。
ある時、おんなじようにあっちの人間がこっちに落っこちてきちまった。彼は変わっていて、この世界で生きることを強く望んだ。そして、ハートの国に引き取られてそこの国で暮らし始めた。
彼はこの世界が楽しくて楽しくて仕方がないようで、技術を磨いてとうとうハートの国のジャックの座まで昇り詰めてしまった。
そこで彼はハートのキングと再会を果たした。実は彼がハートの国に引き取られたのは、彼自身がハートの国を強く希望したからなんだ。
彼はハートのキングにとても執着していた。なぜかは分からないけどね。
ワタシが思うに、ハートのキングは''そういうの''に好かれやすいからだと思うな、多分。一眼見ただけでここまでの執着心を起こした彼は異常だったのかもしれない。だけどそういう性質の奴だからこそ、ハートの国に惹かれたんだろうね。
あともう一つ、あっちの世界の住人だったって理由もあるかもしれない。感情が毎日こっちに落ちてくるくらいの激情を持った奴らなんだろうからな。
さっきも言った通り、彼はハートのキングにご執心だったわけだ。
ハートの国は他の国なんかと馴れ合わなくていい。特にあの忌々しいスペードの国とは。
それが当時の彼の考えだ。ハートの役持ちはスペードの役持ちと特に交流が深かったからからだろう。……キング同士なんて特に、ね。
そこで一つ教えたいんだけど、ジャックもキング、クイーンには劣るけど国の魔法が使えるんだよ。
ハートの国の魔法は『魅了』という名の脳操作。
ワタシの言いたいことがなんとなく分かったかな。彼は魔法を使って、各国のジャックを操作した。妥当な案だと思うよ。役持ちの中ではジャックが一番弱いし、操作しやすかっただろうから。ワタシだったらそうしてたかな、まぁでもワタシだったらもっといいやり方をするけどね。
それで彼は反逆を起こした。彼は一番最初にあろうことかハートの国に牙を剥いた。しかも、各国のキングが国の兵と共に出払っているときにだ。勿論その時、国を守ってるのはどの国もクイーンしかいなかった。今となってはハートのジャックだったから出来る芸当だね。その時のハートの城には大勢の人がいて、そいつらを守ることが出来たのはクイーンだけだった。
ハートのクイーンは素晴らしい鞭使いだ。だが、いくら相手が弱く、クイーンが強いとはいえ各国の役持ちが相手ではクイーン一人で全てを守ることなど出来なかった。
一番最初にハートのクイーンが潰された。女王の玉座は自らの血と守れなかった民達の血でハートらしく赤く染まった。
彼はその後、ダイヤ、クラブと城を潰して、最後にスペードを落とそうとした。
各国のクイーンとの戦いで彼らはボロボロだったけどきっと執念で動いていたんだろうね。特にスペードを落とすときは。本当に彼はスペードが憎くて憎くて仕方がなかったんだろう。でも、彼らはスペードの国で終わった。
彼にとって最も嫌な終わり方だったろうな。敗因は二つだ。
一つ目は魔法を酷使し過ぎてどのジャックもまともに戦えなかったこと。もう一つは、スペードのキングが城に帰ってきたことだ。キングはテリトリーを荒らされたことを非常に怒って……彼らをぶちのめした。文字通りね。
それくらいにスペードのキングの力は圧倒的だった。スペードのクイーンは不服そうだったけれど。
彼にとっては一番の屈辱だろうな、最も忌み嫌ったスペードのキングの前で、スペードの城で、平伏させられたんだから。ワタシとしてはいい気味だと言うがね。
そのあと彼は、国に牙を剥いた大罪人として捕らえられた。そして、四国が誇る最下層の独房にぶち込まれたんだ。記憶を消されてね。
でも面白いことに、長らく閉じ込めてるとだんだん記憶の封印が綻びはじめて、件の事件を思い出してしまうんだそうだ。
彼が事件のことを思い出すのはいいけど、もしまたハートのキングのことを思い出してしまったら、再び取り返しのつかないことが起こるかもしれない。そう考えた役持ち達は、非常に厄介な役目をある人に押し付けた。
そのある人とは、この世界の理が一切通用しないえら~い人物。
で、その厄介な役割っていうのは、記憶の封印が解けそうになったら、その前に全てのことを彼に教えて、そしてまたその記憶を抹消するって言うやつなんだよ。なんでそんな回りくどいことをするかっていうと、それしか方法がないからだ。
封印は二重にはかけられない。だから一回それを解いてからまた丸ごと封じるのさ。だからそういうことを効率よくこなす為に、最下層の独房はある一定の時期になると道が開かれる。
そして、その役割をこなせる人物がいる''ジョーカーの森''へと彼を誘うんだ。
もう理解したかな、大罪人よ。ここに来た意味が分かっただろう。お前は、愛しい人を思い出した瞬間にその屈辱に塗れた記憶をも呼び覚まし、そのまま全てを消されるのさ。
このワタシがまた全てを封じてやる。今この瞬間だけでもワタシ達の世界にしたことを思い知ればいい。そして、またなにもかも忘れちまいな。
そうすれば、また数百年後くらいには思い出せるだろう。二度と会いたくないけどよ、またな。ざまぁみろ!
あーあ、本当に人使いが荒いな。あいつらはもう会わなくて済むのに、いつまで後悔を続けるつもりなんだろうね? いい加減立ち直ればいいのになぁ。まぁワタシは干渉しないけどね!
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