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夏休みスタート!

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「ハルヒコの島、大っきいね」

陽射しの中、船のデッキで強い海風に吹かれ髪をなびかせるサラは、夏休みに入ってから調子が安定しているせいか、振り返った笑顔もめずらしく晴れやかだ。退屈な大海の景色からようやく島の岸壁が一面に広がり、またそこへの上陸を目前にしたことで、柄にもなくはしゃいでいた。

高速船はシーズン中とあり料金が高く混雑しているが、ハルヒコの伯父である渦川笑一が2人分の乗船券を島から送ってくれたのだ。

「俺の島ではないが俺の暮らした島だ。あとまったく大きくはない」

沖に出てからなぜかずっと同じ海鳥に目をつけられ、何度もウエスタンハットを奪われそうになるのに必死で抵抗しながらハルヒコが言った。海鳥はおそらくハットバンドの装飾を狙っている。

「でもほとんど君の家が、ここのレジャー関係の仕事を請け負ってるんでしょう」

「ジジイがなんだりかんだり手広くやりたがるタチでな。そのぶんダメにして潰したモンだっていくつもある。お前の栄養源のサブレも相変わらずまったく売れてないしな」

「楽しみだなあ、おじさんに会うの」

「なんだお前、人見知りのくせに」

「だって僕の未来のお義父さんだから」

「……」

「冗談だよ」

ハルヒコが一瞬動揺して固まったのを、海鳥は見逃さなかった。

「あっ……」

「ぬお!!この野郎やりやがった!!」

水面に接近した魚を狩るように、すさまじい速さでハルヒコの頭から帽子を奪い取ると、海鳥はそれを爪でしっかりと掴み空高く舞い上がってった。

「クソ!おい返せバカ鳥!!こらーー!!!」

「あーあ……」

「野郎ォとうとう強奪しやがったなァ……あのバンド特注なんだぞちくしょう」

「また作ればいいじゃん」

「バカ言うな!あれはメキシコで俺にルチャを叩き込んだ師匠から、継承者の証にと譲り受けた世界にひとつだけのシロモノだ」

「じゃあまた師匠にちょーだいってお願いしなよ。死んでないなら」

「カンタンにほざきやがってぇ……」

すると上陸を知らせるアナウンスが流れ、座席に着くようにと指示されたので、サラは恨めしげな顔で空を睨みつけるハルヒコの手を取り、座席に引っ張っていった。

だがその瞬間、帽子を掴んだ海鳥が挑発するように旋回し、またしてもふたりのすぐそばまでやってきたのだ。ハルヒコはそのチャンスを逃すまいと、サラの手からすり抜けた。

「ハルヒコ、だめ!」

「返せこらぁーーー!!」

手すりに足をかけると、ハルヒコは海鳥に向かって高く飛んだ。だがそれは誰の目から見ても単なるデッキからのダイブに過ぎず、海鳥になどかすりもせずハルヒコはまっさかさまに落ちていき、ザブンと海に沈んでいった。

「何してんのもう……」

サラはうんざりした顔で水面を眺めるが、しばらく待っても彼は浮かんでこない。だんだんと揺れが激しくなり、いいかげんさっさと座席につかなくてはならぬので、まあいいかとそこから去っていった。
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