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しおりを挟むー「お前、ずっとどこ行ってたの?」
昼休みが終わるとようやく林田に問われた。ハルヒコは月曜から昨日の木曜までゆくえをくらましており、今朝になってしれっとした顔で登校してきたのだ。
「メキシコに里帰りだ。エル・サウサルで金脈を探していてな」
「池田から聞いたけど、今日帰らなかったら捜索願い出すとこだったらしいぞ。星崎くんたちが」
「……むしろ丸4日音信不通なのに、先生に風邪としか報告してない先輩たちに驚きだよ」
「仕方ねーべ、こいつの日頃の行いのせいだ」
「俺が裏庭で縛られて放置されてもシカトしてる連中だぞ。ほんの数日消えたくらいで騒ぐわけがなかろう」
「そうならないように、もう少しふだんの態度を改めるべきだと思う」
池田が言うと、「さすが池田くん、いいこと言うなあ」と、汗だくのTシャツを脱いだ天音が背後からやってきた。
「お前少しは見習え」
左手に持ったTシャツでハルヒコの頭をばさりとはたくと、水道でタオルを濡らして身体を拭いた。ハルヒコは何かを言いたげな顔でその背中を見つめていたが、そっと背後に忍び寄ると、おもむろに天音の身体に腕をまわして両方の乳首をつねった。天音は「ひいぃぃ!!」と奇声をあげ咄嗟のまわし蹴りをしたが、ハルヒコはそれを回避してそこから走り去っていった。天音は「一生帰ってくんなクソガキ!!」と叫び、こめかみをピクピクと痙攣させながら「くっそ……あいつ本気でムカつく……」と恨めしそうにつぶやいた。
日曜日、ハルヒコは川から上がって一旦は寮に帰ったが、いつものジャージに着替えるとサラに「しばらく出かけてくる」と言い残し、ギターケースにしまってあった金を持ってそのままあてもなく電車に乗った。そのうちなんとなく海を見たくなったので、いちばん近場の海に出てボーッと海を眺めて過ごしていた。そのまま近くの安い民宿に部屋を取り、翌日は道具を借りて釣りやサーフィンをして1日をだらだらと過ごし、気がつくと木曜の夜になっていたので、今朝の始発の電車で帰ってきたのだ。
「あの光景」を海に捨ててくることはできなかった。魚を釣り、ボードから落下して波にのまれながら、何度も何度も電柱から目撃したモノについて考えた。天音といっしょにサッカーはできても、もうあの日のことに触れることはできない。ただでさえ普段から犬猿状態のふたりのあいだに、決して乗り越えることのできない大きな壁が隔たったのを強く感じている。
ひとりきりの宿で試しにオナニーをしてみたが、あの光景がよぎるせいで気分が萎えて、結局4日間1度も抜けなかった。長い脚が三国の両脇から伸び、細い腕がたくましい肩に絡みついている、あの光景。水曜には夢にも出たが、夢の中の天音は現実のように驚愕せず、三国の肩越しにこちらを見てニヤリと笑っていた。サラに似た魔性の笑みだった。
つくりものの成人誌やアダルト動画は観られても、生のセックスにはアレルギーに近い感情がある。クラスメイトたちが語る、各々の彼女との生々しい経験談などもってのほかだ。サラが吹いていたシャボン玉のように、都合よくいらない記憶が消えればいいのだが、脳というのは嫌なことほど強く繰り返しその光景を映し出してくる。幼いころの母親の像が、いつまでも茶渋のようにこびりつく。あの女はまちがいなく淫魔にとりつかれていたし、引き込まれる男たちも理性などハナからもたないケダモノとなんら変わらなかった。
だが、親を愛することがなかったのは幸いだ。もしも母親を親として慕っていたのなら、きっと壊れていた。母親を親と思わず、彼女も自分を子供と思わなかったから、彼女が何をしていようとも心を痛めることはなかった。だからセックスに対してはまだ嫌悪感を抱く程度で済んだのだ。
しかしハルヒコは、もしも欲望に従いサラを抱いたら、彼が自分の母親のようになってしまうのではないかと恐怖していた。サラのことは嫌いになりたくないが、自分の中で母親と重なってしまえば、きっと彼のことをまともには見られなくなる。あるいは、もしも自分の中に淫魔に引き寄せられる汚い男どもの気持ちが乗り移ったら、きっとこれまで保ってきた大事な何かが死に絶えてしまう。
彼らと自分たちが同じなわけがないのに、「もしもそうなってしまったら」という漠然としたドス黒い恐怖の渦に、いつまでも支配されているのだ。サラは元来の勘の良さか、そういうところを無意識に掬い取ったから、自分に対して「弱い」などと言ってきたのだろう。
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