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「背中痛くないの?」

「ぜんぜんへーき」

寝室には行かぬまま、まだ興奮冷めやらぬ敬吾がラグの上で仰向けになり、天音に騎乗位でまたがらせた。天音に少しずつ挿入するが、半分ほど入ったところで敬吾に腰をつかまれて下から突き上げられ、彼はそのまま腰を上下させた。

「体重かけて」

「んっ……まだ待って……」

「ほら、もっと奥まで」

「あっ、や……」

敬吾が気持ちよさそうに眉を寄せ、再び完全に戦闘態勢を取り戻したペニスでゴリゴリと内部を掻き回す。彼の力強い手に腰を固定され、天音は上にいるのに自由を半分奪われている。するとたまらなくなったのか、敬吾はそのまま上体を起こし、対面してぴたりとくっつきあい、抱き合ってキスをしながら深く突き上げた。

天音は敬吾の肩越しに、カーテンを開けっぱなしにした窓をさっきからずっと気にしていたが、となりの建物の窓と向かい合っているわけでもないので、3階のふたりの情事が覗き見られることはない。だがカーテンから射し込む光がまぶしすぎるし、なぜだか外がいやに気になって、集中できなかった。

セックスは外界から遮断された環境で、本当ならできればもっと暗い部屋でしたいのだ。しかし敬吾は明るい部屋で、天音の姿をあますところなく眺めながらするのが好きだった。外で触れあうことができない分を埋めるかのように、敬吾は何度もしつこくキスをする。だんだんと窓の外の景色がどうでもよくなってくるが、くちびるを離されたときに、天音はもう一度「外」を見た。その瞬間、目に入ったものに天音はぴたりと動くのをやめた。

「………えっ………」

「ん?なに?」

「ケイちゃん……ちょっと……止まって……」

「どした?」

敬吾が動きを止め、天音が「背後の何か」を見ているのに気がついた。だから敬吾もそっと後ろを振り向こうとしたら、天音にガッと顔を抑えられた。

「天音?」

「なんでもない、なんでもないけど、ちょっとストップ」

天音は敬吾の肩越しに、電柱にしがみつくハルヒコと見つめあった。互いに蒼白の顔をして、徐々に魂が口から抜けていくようだった。

「あ、あのさ、……すぐ戻るから、このまま待ってて」

「へ?」

「お願い。あと、カーテンは閉めていい?やっぱり気になるから。」

「うん……なあ、ホントにどうした?何か外にあった?」

怪訝な顔で天音の両手をつかむと、敬吾はそのまま力づくで後ろを振り向いた。しかし外にはなにも異常は見えない。天音はまだ勃起したままの敬吾のペニスから身体を離すと、下着は履かずにジーンズだけ履き直して、すぐに部屋から飛び出していった。

「天音?!」

「すぐ戻るから!!」

「待て!……おい、天音!」

バタンと玄関を閉め、エレベーターも使わずに階段を降りていく足音が響いた。


ー「池田!携帯返すぞ!」

電柱から飛び降りて池田にスマホを押し付けるなり、ハルヒコはそこから脱兎のごとく走り去っていった。

「へ?ねえ、どうしたの?!」

「お前は捕まっても平気だ!あとはひとりで帰ってくれ!!」

「ええ?!ちょっと!!ハルヒコくーーん!!」

するとその数秒後に背後からすさまじい足音が聞こえ、バッと振り返ると鬼のような形相でこちらに走ってくる天音の姿があった。

「う……うわああああ!!先輩!違うんです、僕は、僕は……」

だが天音はすべての事情を察しているのか、怯える池田の両肩をつかみ「あいつどこいった?!」と尋ね、池田がハルヒコの去った方角を指すとすぐに後を追っていった。残された池田は腰を抜かしたように、へなへなと地面にへたり込んだ。

全速力で大通り沿いを走り、チラリと背後を確認する。すると早くも50メートルほど後方を、凄まじい剣幕で追いかけてくる天音の姿があった。

「くそっ、さっきまでチンコをハメられていたとは思えぬ健脚ぶりだ」

ガードレールを飛び越えるとクラクションを鳴らされながら大通りを横切り、塀を乗り越えて人の家の庭を通り抜ける。それでも天音はどんどん距離を詰めてきて、泥棒と警察のごとく本気の逃亡劇を繰り広げるが、公園に逃げ込む少し手前でハルヒコは背中に渾身の飛び蹴りを喰らい、とうとう地面に倒れこんだ。そのままガッと短い髪をつかまれて顔を上げさせられると、「お前、覚悟できてんだろうな」と今まで聞いたことのない天音の低い声が耳に突き刺さった。彼の息はまったく乱れていなかった。

それから10分後、池田が位置情報を頼りにふたりのもとまでやってくると、疲れて地面に座り込む天音の前にある池で、ハルヒコが水死体のようにぷかぷかと浮いており、今度は本当に腰を抜かした。

「せ、せせ先輩、と、とうとう、こ、殺し……」

「いや。たぶん生きてる。」

そう言って天音が落ちていた小石を投げてハルヒコの頭にコツンとぶつけると、水面にぶくぶくと泡がたち、やがて彼は無様なカエルのように手足をばたつかせ、「ぶはあ!!」と顔を上げて水を噴き出した。

「……ここは?」

「しっかりしろハルヒコくん!」

「池田……と……」

「何だお前、気絶して記憶飛んでるのか?」

しゃがみこむ天音の顔をみたとたん、すべてを思い出したのかハルヒコは顔を真っ青にして、またしても逃走をはかろうとした。だが池田に「もう逃げてもムダだ」と取り押さえられ、蒸し暑い炎天下の中、3人は池の前でしばらくへたり込んでいた。

事情を知らない池田にはふたりが頭を抱えてうなだれる理由がわからなかったが、だんだんとその重苦しい雰囲気にいたたまれなくなり、「……のど渇いたんで、コンビニ行ってきます」と一旦その場から離れていった。
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