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「じゃあつぎ俺!」

早くもアイスを食べ終えた高鷹が手を挙げる。

「ううむ……お前の家族はなあ……まず何となく、母親は服の色がハデで化粧が濃くて声が高くてスナックのホステスとかやってそうだ」

「おおー、ホステスはしてねーけど当たってるわ!ちなみに地元の美容師な。親父は?」

「タマキンの父親と同系統の匂いがするな。腕っぷしが強くて怒ると手がつけられない荒くれ者だ。仕事はダンプの運転手とか鳶職とかのガテン系じゃないか?若いうちに地元の不良同士で出来婚してお前を生んで、たびたび壮絶な夫婦ゲンカをして近所から通報されてそうだ」

「あはは、すごーい!」

「お前すげーな、占い師なれんじゃん」

「当たってるか?」

「当たってるよ、親父職人やってるし。ケンカは今はもうあんまりしなくなったけど、昔は母ちゃんが親父に殴られて、ブチ切れて包丁振り回したりとかあったもんなあ」

「お前の場合はな、背後というよりも、日頃からにじみ出る育ちの悪さで親の程度がわかるのだ。テニスという高尚なスポーツをやっていても隠しきれないほどのな」

「よせやい、俺は向かいのおばちゃんからも、コウちゃんはいつもいい子で礼儀正しいのね~って言われてたんだぞ」

「あの親から生まれたわりには、というババアなりの皮肉だぞ」

「なんだ、そういうことか」

「それからお前は弟だ。父親に似た兄貴か、母親に似た姉貴がいないか?」

「どっちもいる!」

「ハルヒコくん、ほんとすごいね」

「タマキンは予想外だったが、俺はこの手の分析が得意だ。じゃあ最後は~……」

天音に視線をうつすと、彼はみずからあっさりと告げた。


「僕は工場経営の父とその副社長の母のあいだに生まれたひとりっ子です」

「……お前ひとりっ子か」

「え~、天音はガラパゴスでたくさんの兄弟と共に一斉に孵化したんだろお?」

「それもうさっきハルヒコが言った」

「お前の親も粗暴なのか?」

「とんでもない、高鷹くんトコといっしょにしないでください。ふたりとも性格が似ててね、まともに相手してると疲れるくらい無駄に元気でよくしゃべるんだ。だからこうして離れて暮らしてるのがちょうどいいよ。たまに帰るともーうるさいうるさい」

「君んちは江戸っ子家系だもんね」

「そんな親のわりに、お前はどちらかと言うとドライだな」

「反面教師的なものだよ。僕はうるさい人が苦手で、静かに過ごしてるのが好き。祭りだって、神輿をかつぐよりも屋台でなんか食べながらのんびり見てるのがいい」

「じゃー高鷹よりもゴローが好きってことだ」

「おい、たびたび俺を引き合いに出すな」

「友達は選ばないし、好きに差はないよ。みんな平等に好き。良いこと言うだろ」

「ただし俺に対する豹変ぶりは見逃せんな」

「お前は友達じゃないもん」

「おお……ド直球だな天音くん……」

「おい聞ーたか?!良いこと言った数秒後に平気でこーゆーこと吐ける奴だぞ!!こんなサイコ野郎を信用してはならん!!」

「まあ落ち着けよカイザーくん、俺はちゃあんと友達と思ってるよ。世界中で俺と池田くんだけだろうけど」

「地味に傷つくフォローをするんじゃない!」

「よかったね、味方がふたりもいて」

「ふたりとは何事だ!メキシコに戻れば貧民街の赤ん坊から麻薬カルテルのドンまですべて俺の味方だ!!」

「へーへー、ご立派なこってすなあ」

高鷹が鼻の下をぽりぽりと掻きながら言うと、耀介がおもむろに尋ねた。

「あのさ……サラは?」

5人の空気がぴたりと止まる。

「サラもお前の味方なんじゃないの?だって何か……特殊な関係みたいだし」

「よーすけー、サラがこんな奴の味方なわけないだろ?からかって面白がってるだけだから!突然変なこと言わないで」

ときおり空気を読まない耀介と大吾郎のサラをめぐる発言に、天音はたびたびヒヤリとさせられる。なぜヒヤリとするのかと言えば、大吾郎はサラに対して友達とは違う好意をいだいているのを、うっすらと感じているからだ。

それは耀介も同じはずなのに、彼は根が大雑把なのかあるいは大吾郎の真の気持ちを汲み取っていないのか、あまり触れたくないことに対して余計なことを口走るときがある。

「サラと俺は赤い糸でがっちり絡まりあったキケンな関係だ。断ち切ろうとすれば寝首を掻かれるだろう」

「君も変なこと言わなくていいよ」

横目で大吾郎を見ると、やはり彼は複雑な表情で肩を落としていた。だがハルヒコ自身が突如立ち上がって「寝る」と言い出したので、どうにかその気まずい場は解散の流れとなった。

だがハルヒコが「おい伴高鷹、ちょっと」と手招きし、それ以外の面々はさっさと談話室を去っていった。

ー「お前、タマキンの親父と兄貴があんなだって知ってて、写真の件に乗ったのか?」

いかにも密談といった風情で、高鷹の肩を組み声をひそめて尋ねる。

「親父と兄貴?」

「彼奴ら、メキシコでもそうそうお目にかかれない相当凶悪なナリをしているじゃないか。写真のことがバレたら魚のエサにされるんじゃないか?」

「なに、ビビってんの?めずらし~い」

「ビビってなどいない!だがお前、よくあんな狂犬だらけの家から出てきた奴に手を出そうと思えたな?しかもどうやら末の双子で、たいそう可愛がられてるそうじゃないか」

「まーなあ。でも親父さんにはいちばんの友達って紹介してくれてるから、俺めっちゃ信用されてるもん」

「お前はイグアナとは違うベクトルで危機感が薄いからな」

「そんなに気にすんなよ、万が一写真がバレたらふたり仲良く海で心中しよーぜ」

「お前と死ぬのなんか死んでもごめんだ」

「うまい!……いやうまくはねえな。はー、アイスもう1本食っちゃおう」

「俺にもよこせ」

「みかんとパイナップルが残ってる」

「パイナップルだ」

「えー俺もパイナップルがいい。じゃーふたりで端っこからぺろぺろする?」

「どっちがたくさん舐められるか競争だな」

「くちびるが触れ合っちゃったらどうする?」

「舌を噛んで死ぬ」

「その前にベロチューして阻止してやるよ!」

「……やっぱいらん。寝る」

「想像しちゃった?」

「吐きそうだ」

ペタペタと裸足で去っていくハルヒコに、高鷹が「おやすみー!」と珠希のマネをして無邪気に手を振った。
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