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しおりを挟む「結局来てしまった……」
土曜日、午前8時。池田はハルヒコに渡されていた商店街チームのユニフォームを身につけ、学校近くの河原のグラウンドにやって来ていた。試合にはまったく参加する気のないサラもハルヒコに無理やり連れてこられ、応援席のベンチでベンチコートをかけられて眠っていた。
「やあ池田くぅ~ん、いいのかねえ?週明けから中間だというのに草野球なんかしてえ~」
「くっ……来なけりゃヒドイ目にあわせると君が脅しをかけてきたんだろ」
「まーまー、試合が終わったらまたサラに勉強見させてやるから」
「先輩爆睡してるじゃないか」
「そのうち起き出す。昼を過ぎるまでエンジンがかからないんだ」
「はあ……ていうか相手チームの人たち、けっこー強そうだね」
今日の対戦相手は「廃棄物リサイクル組合」と記されていたが、こちらの商店街チームよりも、ハルヒコと池田を除いての平均年齢は恐らくずっと若く、いやに体格が良かった。
「まあ甲子園とセンバツ出てる奴が何人かいるからな」
「え、そんな強い人たちとやるの?!無理無理、無理だよそんなの!完全試合させられるよ!」
「はん、あくまでも出場しただけだ。地方大会をギリギリくぐり抜けりゃ誰だってあの土を踏める。調べたところ名を残してる奴はひとりもおらんし、今やみんなただの勤め人の中年どもだ」
「いや何言ってんだ、進出しただけでジューブンすぎるスペックだよ」
「馬鹿者、やってもないのに気合いで負けるんじゃない」
「やらなくてもわかる試合ってのはあるんだ」
「さ~て、勝ちにいくぞお池田くぅ~ん」
「どっから出てくるんだその自信……」
しかし嬉々として相手チームと対面して整列したハルヒコの顔は、目の前に並んだ男を見てとたんに蒼白の色に変わった。彼の方でも、驚愕の表情でハルヒコを見ていた。
「……ほ、星崎先輩……もいたんですね。知らなかった」
廃棄物リサイクル組合のユニフォームをまとった天音に挨拶をしつつ池田が言うと、「俺だって知らんよぉ。」とハルヒコが弱々しくうなるように言った。
「おい、なぜお前がここにいるんだ?」
「こっちのセリフだ」
「俺は転校してからすぐに、このチームの監督をやってる金物屋のジジイにスカウトされたんだ」
「僕は親がここの組合長をやってるから、空いてる日はいつも試合に出させられるんだ」
「組合長だあ?何だそりゃ、お前の親父はヤクザでもやってんのか?」
「黙れ◯◯◯◯が。ついでだからシンナー中毒の兄弟も連れてこいよ。サラから聞いてんだからな」
「ちょっと池田くん今の聞ーーた?!この男いまとんでもないこと言ったわよ!!」
「……いいから、試合前から喧嘩しないで。ただでさえふたりとも気が短いんだから」
「池田くん、君は誤解してるぞ。僕は基本的に誰にも怒ったりすることはないのに、いっっっつもこいつの方からおもしろがって突っかかって煽って焚き付けて怒らせてくるんだ。僕は不必要なことで毎日毎日イライラさせられてるだけだ」
「池田、こいつはいつもこーして被害者ヅラしてやがるけどな、ごらんのとおりただのイグアナヅラした取るに足らん童貞男だ、人間の言葉もまだ覚えたてだからマジメに聞いてやる必要は……アグっ!!」
天音に股間を蹴り上げられ、内股でブルブル震えながら崩れ落ちる。
「野郎ぉぉぉまたやりやがったなァ……」
すると「何だおめえら、仲悪いのか?」と審判に問われ、ハルヒコが「この状況を見てもわざわざ聞かんとわからんのかクソジジイ」と苦しげに答えた。
ー「で、やきゅーってこんな怪我するスポーツだっけ?」
9時半。全身を土まみれにした天音とハルヒコは、高鷹たちにその姿で入るなと止められて玄関前でユニフォームを脱がされ、下着姿で灰と化しぐったりとしゃがみこんでいた。
試合は池田の予想どおりズタボロにされたが、それよりもハルヒコが天音のグローブを川に投げ捨てたことで彼の怒りを買い、報復として天音が本意気のデッドボールをハルヒコに喰らわせ、ふたりはとうとう乱闘騒ぎを起こして試合どころではなくなったのだ。やがてヒートアップして土手を転がり落ちていったところで、ふたりとも両監督から強制退場を言い渡され、池田とサラを引き連れおとなしく帰ってきたのである。
「池田くんは残ってりゃよかったのにな」
「いやあ、あんな強いチーム相手じゃ、いる意味ないです」
「そんな強かったんだ。じゃあたぶん天音チームの勝ちだな。今日は天音の勝ちってことだ」
うなだれる天音に励ますように高鷹が言うと、「……どっちも負けですよ」と池田が情けなさでシクシクと泣きながら言い、その横で珠希もうんうんとうなずいた。サラは寝て起きたらすでに試合から追放されていたので状況はよく分かっていなかったが、落ち込む池田の背中をとりあえずポンと叩いてやった。
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