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─女神の騎士─

月読命

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「はぁ……」

初っ端からのつまづき異世界生活をスタートさせた俺は、途方もなく落ち込んでいた。

俺を想像した女神ヨルシカ、そのヨルシカと共に送るはずだったハッピーライフが、まさかのそのヨルシカに俺がなってしまうとは……。

「何の冗談だよこれは、はは、笑えねぇ」

湖の側で座り込み、一人異世界で体育座り。
地面に転がった小石を手に取ると、水面目掛けて石を投げた。

「くそっ……」

──ズババババババン!

突然、目の前の水面が弾け飛んだ。

何か隕石でも降ってきたかのように、俺の前方目掛けて大量の水が弾け空に舞った。

大粒の水滴が、豪雨のように降り注ぐ。

「ぶあっ!」

気付くと全身はびしょ濡れ。

「冷たっ!あ~もうびしょ濡れだよまったく」

というか何だったんだ今の……ん?

いや、待てよ……。

「ひょっとして……」

ふと考えが浮かび、俺はもう一度近くにあった適当な小石を手に取り、もう一度小石を投げてみた。

水面めがけてでは無い、俺の前方、真っ直ぐに。

──ブン!!

音が投げた後やってきた。

豪快な風切り音と共に。

そして次の瞬間、

──バキバキバキバキバキズズーン。

湖の先の森林で、巨大な衝撃音が鳴った。
前方にある幾つもの木々が次々になぎ倒され、膨大な砂煙が舞っている。

「ははは、これってつまり……」

思わず乾いた笑み。

この力はあれか?見た目だけじゃなく、力も女神様と同じになったって事でOKなのか?

"それこそ、我が主、ヨルシカ様の御力"

「へっ?な、なななんだ今の声?ど、どここら??」

突然聴こえた女性の声。

これは普通に耳から入ってきた声じゃない。

もしかしてあれか?
漫画やアニメでよく見る、頭の中に直接話し掛けてくるってやつか?

思わず自分の頭を両手で抱えていると、

"落ち着き下さいませ、我が名は月読命つくよみ、創造神、ヨルシカ様の命により、貴方をサポートさせて頂きます、以後、お見知り置きを……"

間違いない、やはり頭の中で響いてる。

にしても何か無感情というか、機械的な喋り方をする女性の声だ。
サポートって言ってたけど、本当にナビゲーションみたいだぞ。

「え、ええと、つまり色々と俺の手助けをしてくれるって事?ぐ、具体的には?」

"はい、その様にとって頂いて結構です。ただし、私はあくまでも間接的なサポートしかできません。その世界はヨルシカ様が創造した世界。理を曲げるような事はできないのです。私の存在は……そうですね、貴方の世界で例えるなら……取り扱い説明書……とでも思ってくださいませ"

「と、取説……ま、まあ何もないよりはましか……あっそうだ!!ヨルシカ、ヨルシカと連絡は取れないかな!?」

"はい可能です、少々お待ちを……"

「よし!これでこの体を何とかしてもらえるかも」

が、何故か押し黙る月読命。

しばらくして……。

"お待たせしました、ヨルシカ様は何やら盛大に勘違いしてしまったため暫くショックで立ち直れそうにないとの事です、よって今現在お話する事は叶わぬ、だそうです"

「おおい!」

なんだ盛大にって、俺の願いを間違って叶えたって理解してんのかよ!ていうか何落ち込んでんだ女神のくせに、落ち込みたいのは俺の方だっての!

"脈拍、血圧共に上昇、体内温度の上昇も認められます"

「いや、俺の体内状態なんて報告しなくていいから!」

"失礼致しました"

「どうどうどう!」

──ヒヒーン!

突然、丘の方から男の声が聞こえた。
振り返り丘を見上げると、一台の荷馬車に乗った男が、此方をジッと見ている。

「なんだ?」

"馬車です"

「見れば分かるよ!」

"王国の制装飾が施されています、一般の馬車ではないようです"

「王……国?」

月読命に言われ、馬車をもう一度よく見てみると、確かに所々高価そうな装飾が施されており、手綱を持っている男も、どこか仰々しい格好だ。

俺の世界で例えるなら中世の執事みたいな?

「こんな時に、ほ、本当に宜しいのですか?」

手綱を持った男が、突然後ろの荷馬車に話しかけた。

「構わん、民が困っているかもしれないのだ、見捨てておけるか」

荷馬車から女の子の声が返ってきた。

民が困っている?

「は、はぁ……」

女の子の言葉に、何故か不服そうにしながら男は頷いてみせた。

男は俺の方を見ながら何やらイライラした様子だ。

な、何なんだ?

すると、荷馬車の扉が急に開いた。

「ああ、お開けします」

「良い、これぐらい自分でできる」

毅然とした声の後、扉をくぐり少女が一人降りてきた。

そしてこっちを見て、丘を降り駆け寄って来る。

「えっええっ?な、何?」

少女は西洋に出てくる貴族の様な制服を身にまとっていた。
胸には幾つかの勲章と、腰には宝石をあしらった短剣が添えられている。
どこをどう見ても只者じゃない格好だ。

というかこの子凄く……綺麗だ……。

淡く輝くブロンドの長い髪、整った顔立ちは言うまでもなく、どこか気品に溢れている様にもみえる。

少女は、意志の強そうな真っ直ぐな目で俺を見ながら口を開く。

「そこの者大丈夫か?何か困っているのではないか?」

「へっ?えっ?」

目の前までやってきた少女に、俺は思わず間抜けな返事を返してしまった。

「いや、荷馬車からそなたの姿が見えてな、どうやらびしょ濡れのようだし何か困った事でも……と……お主、」

「お主?」

「ふむ、お主、び、美人だな……」

「は、はいぃ?」

「あ、いや、唐突にすまん、我が国でもそなたのような美しい者はあまり見ないゆえ、ああ、そんな事より、こっちに来るがいい、そのままでは風邪を引いてしまうぞ」

少女はそう言って俺の手を取ったかと思うと、そのまま荷馬車の方へ俺を引っ張り出した。

「えっ?あ、ちょっと」

美人と言われてもピンとこなかったが、こんなに綺麗な女の子に手を繋がれて普通でいられるはずがない。

思わず顔を赤らめてしまい少女から顔を逸らしてしまう。

前の世界じゃ、周りの女子は皆俺の事をゴミでも見るかのような扱いだったから……。

あーだめだダメだダメだ。

首を横に振って過去を吹き払う。

今は別の世界にいるんだ、今更振り返ってどうする。

「おい」

「へっ?」

「大丈夫か?」

少女が心配そうに眉を八の字にして俺の顔を覗き込んでいる。

気が付くと、俺は荷馬車の前まで連れてこられていた。

「あ、ああ、うん」

「そうか、ほらこれを使うがいい」

「あ、ありが」

「ミネルバ様!」

と、俺が言い終わる前に、突如荷馬車の窓から声が響いた。

見上げると、荷馬車の窓から、赤毛の眼鏡っ子がひょっこりと顔だけをだして、さっきの少女に口を尖らせていた。

幼い顔だがこの子もかなり可愛い。
大きな翡翠の瞳が印象的だ。

「カーラ?」

ミネルバ様と呼ばれた先程の少女は、俺にタオルを手渡しながら、眼鏡っ子の少女を見上げ、カーラと呼んだ。

「何をなされてるんですか!早くお戻りください!我々が今どういう立場なのかご存知なのですか!?」

「わ、分かっているカーラ、だがな、困っている民を放っておく訳にはいくまい」

「はぁ、全くあなたって人は……ん?そこのあなたが、ミネルバ様が言ってた困ってる民?」

「えっあ、ああ俺?」

「俺?」

言った瞬間、カーラは首を傾げて見せた。

しまった、今の俺は女の容姿だったんだった……。

「え、えーと、わ、私はその……」

「あーもう何でもいいわ!」

そう言うとカーラは窓から頭を引っ込めると、荷馬車から降りてきて、俺とミネルバって子の背後に回り、そのまま荷馬車に押し込んできた。

「ちょ、ちょっとカーラ何を」

「少しお黙りくださいミネルバ様!時間がないんです!ほら、あなたも乗って!」

「ええ?ああ、は、はい!」

思わずカーラの勢いに押され、俺とミネルバは荷馬車に乗り込んだ。

「出して!」

「はっ!はいやっ!」

──バシッ!

カーラに言われ、手綱を持った男が馬にムチを入れた。

荷馬車がガクンと大きく揺れ、思わず正面に座っていたカーラが俺に倒れ込む。

すかさずその華奢な体を支えるとカーラは、

「あ、ありがと……あなた……すっごい美人ね……本当に平民なの?」

「ええっ?あ、いやその……」

言われて慌てていると

「なあ!カーラもそう思うだろ!?このものの容姿、只者ではないと私も思っていたところなのだ」

隣に座っていたミネルバが食い気味に身を乗り出し、何故か一人納得したように頷いている。

対して正面のカーラは、何やら俺を怪しそうにジッと見つめてくる。

き、気まずい………。

耐えられず、俺は渡されたタオルを頭から被り、顔を隠した……。
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