上 下
2 / 11

初めてした約束

しおりを挟む


「落ち着いたか?」
「………はい。」


落ち着くと恥ずかしくなってきた。
冷静になって自分の痴態を思い返してみると、走って人前で大声で泣くなんて。
淑女にあるまじき痴態だわ。

恥ずかしい恥ずかしい。

しかも初対面だと言うのに。

あああああああああああああああああああああ

恥ずかし過ぎる!!!!
消えてしまいたい!!!!!!


「あ、あの、本当にご迷惑をおかけしました。ありがとうございました。」
「…。」
「?」

何?何か黙って私の顔を見てくる。

やることが無いから私も観察してみる。
やっぱり見たことが無い顔だなー。
髪の色は漆黒。瞳の色は光り輝く金色。
金色の眼って珍しいイメージ。

そういえば前読んだ小説にこんな感じの話あったな。
あの話は確か…森で迷った主人公が男の人に会って男の人に向かって綺麗って言っちゃうんだよね。それで男の人が主人公に興味を持って色々あって、婚約破棄された主人公が仕返しして男の人と結婚するって話だった気がする。

 はあ、何で小説みたいにいかないのかな。
何で主人公ちゃんは綺麗なんて言えたんだろう。私には助けてくれた人の顔さえちゃんと見ることが出来なかったよ。余裕なんてなかったよ。

そういえば、最近読んだ小説は主人公ちゃんが自分を捨てた婚約者にざまぁ?する話だったな。
何でそんなに直ぐに婚約者を切り捨てられるのかな。
私には無理だったよ。だって好きだったんだよ。婚約者だったから、情が湧いちゃったんだよ。そういうものじゃないの?婚約って。

こんな私は重いのかな。

「おい。」
「はい?」
「何かあったのか?話してみると楽になるかもしれない。話してみろ。」
「は、はあ。」

高圧的だな。王族みたい。
「残念ながら、さして面白い話ではありませんが。」
「良い。話してみせよ。」

「………………………はあ。よく有る話ですよ。可愛げの無い女が婚約者に浮気されて捨てられるだけです。」
「大分省略したな。」
「本当につまらない話なんですって。」
「まあ、良い。」

なんか自分勝手で気分屋な人だな。

「それより、帰るか?」
「ああ、はい。」
「そうか。ドアはあっちだ。送ろう。」
「ありがとうございます。」

改めて見ると、壮大な部屋だな。
大きなシャンデリアに大きな扉。
無駄に大きい………。

「何から何までありがとうございます。本当にお世話になりました。」
「…。おい。」
「?はい。何でしょうか?」
「また来い。」
「はい?」
「また1人になりたくなったら来い。慰めてやろう。」
「あ、ああ。有難い申し出でございますが、ここへの来方が分かりかねます。」
「そうだったな。我の名を呼べ。我の名はヴァンピィア。」
「ヴァンピィア様ですか。私はシュリエル・ミルネシアルです。」
「エル。」

いきなりあだ名か。馴れ馴れしいな。

「またな。」
「また来ることなんて無いといいのですが。お世話になりました。失礼致します。」

淑女の礼をとって帰路に着く。



帰り道で考える。

そういえば、私、約束なんて初めてしたな。

というか、あんな場面見ておいて婚約者様方の顔が見れるかしら。
それに噂になっているかもしれない。






…………明日は休もう。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

頑張らない政略結婚

ひろか
恋愛
「これは政略結婚だ。私は君を愛することはないし、触れる気もない」 結婚式の直前、夫となるセルシオ様からの言葉です。 好きにしろと、君も愛人をつくれと。君も、もって言いましたわ。 ええ、好きにしますわ、私も愛する人を想い続けますわ! 五話完結、毎日更新

許婚と親友は両片思いだったので2人の仲を取り持つことにしました

結城芙由奈 
恋愛
<2人の仲を応援するので、どうか私を嫌わないでください> 私には子供のころから決められた許嫁がいた。ある日、久しぶりに再会した親友を紹介した私は次第に2人がお互いを好きになっていく様子に気が付いた。どちらも私にとっては大切な存在。2人から邪魔者と思われ、嫌われたくはないので、私は全力で許嫁と親友の仲を取り持つ事を心に決めた。すると彼の評判が悪くなっていき、それまで冷たかった彼の態度が軟化してきて話は意外な展開に・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました

Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。 順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。 特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。 そんなアメリアに対し、オスカーは… とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。

悪役令嬢を演じて婚約破棄して貰い、私は幸せになりました。

シグマ
恋愛
伯爵家の長女であるソフィ・フェルンストレームは成人年齢である十五歳になり、父親の尽力で第二王子であるジャイアヌス・グスタフと婚約を結ぶことになった。 それはこの世界の誰もが羨む話でありソフィも誇らしく思っていたのだが、ある日を境にそうは思えなくなってしまう。 これはそんなソフィが婚約破棄から幸せになるまでの物語。 ※感想欄はネタバレを解放していますので注意して下さい。 ※R-15は保険として付けています。

十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!

翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。 「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。 そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。 死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。 どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。 その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない! そして死なない!! そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、 何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?! 「殿下!私、死にたくありません!」 ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼ ※他サイトより転載した作品です。

婚約者の浮気相手が子を授かったので

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ファンヌはリヴァス王国王太子クラウスの婚約者である。 ある日、クラウスが想いを寄せている女性――アデラが子を授かったと言う。 アデラと一緒になりたいクラウスは、ファンヌに婚約解消を迫る。 ファンヌはそれを受け入れ、さっさと手続きを済ませてしまった。 自由になった彼女は学校へと戻り、大好きな薬草や茶葉の『研究』に没頭する予定だった。 しかし、師であるエルランドが学校を辞めて自国へ戻ると言い出す。 彼は自然豊かな国ベロテニア王国の出身であった。 ベロテニア王国は、薬草や茶葉の生育に力を入れているし、何よりも獣人の血を引く者も数多くいるという魅力的な国である。 まだまだエルランドと共に茶葉や薬草の『研究』を続けたいファンヌは、エルランドと共にベロテニア王国へと向かうのだが――。 ※表紙イラストはタイトルから「お絵描きばりぐっどくん」に作成してもらいました。 ※完結しました

男装の騎士に心を奪われる予定の婚約者がいる私の憂鬱

恋愛
私は10歳の時にファンタジー小説のライバル令嬢だと気付いた。 婚約者の王太子殿下は男装の騎士に心を奪われ私との婚約を解消する予定だ。 前世も辛い失恋経験のある私は自信が無いから王太子から逃げたい。 だって、二人のラブラブなんて想像するのも辛いもの。 私は今世も勉強を頑張ります。だって知識は裏切らないから。 傷付くのが怖くて臆病なヒロインが、傷付く前にヒーローを避けようと頑張る物語です。 王道ありがちストーリー。ご都合主義満載。 ハッピーエンドは確実です。 ※ヒーローはヒロインを振り向かせようと一生懸命なのですが、悲しいことに避けられてしまいます。

処理中です...