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4章

104話:安堵の夜

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 「立花ちゃん!?」

 ゲートで宿の中の九兵衛さんの部屋に帰還すると驚いたのか間抜け面を見せる。

 「遅くなったわ、ちょっと情報収集をしていてね」
 「なるほどね~後ろにおぶっているのは誰だい?見た所日本人だね~」

 大きな欠伸をしながらいつものと変わらぬくだけた声をだす。

 「私の中学の時の同級生にして連邦に召喚された勇者よ」
 「なるほどね~それで君は無理やりその子をお持ち帰りしたわけだね」

 「そういうことよ、とりあえずこの隷属の腕輪を破壊してくれるかしら?」
 「ほいほい~」

 里菜の腕にある隷属の輪に手を触れるとリエンダの時のように輪が破壊された。

 「ご苦労様~流石物理攻撃のスペシャルリストである巨人王ね」
 「ははっ、でもこういうの破壊する時はうまく力をかければ余裕だよ~」

 隷属の輪も奴隷を拘束するためにあるのでかなり高い物理耐性があるが、九兵衛さんの前では無意味だという事だ。

 「フフッ、みんな九兵衛さんみたくそんな簡単にはできませんよ」

 しばらくすると里菜が目を覚ます、眠り姫のお目覚めだ。

 「あれ?ここは……確か立ちゃんと再会して……」
 「そうよ、改めて久しぶりね里菜」

 頭の中で整理が付いていないのか私を見ながら少し考えているような表情を見せる。

 「あ、そっか……私立ちゃんに助けてもらって……はっ!」

 里菜はキョロキョロして辺りを見る。

 「ヘクター達は?」
 「あいつらなら石像にしてバーに放置してるわ。砕いて殺してやってもよかったけど使い道考えてまだ生かしているわ」

 尋問すれば色々聞きだせるかもしれない。何より里菜にひどい事をしてタダで死ねるほど甘くはない。

 「あいつらを石像って……立ちゃんは相変わらず規格外なんだね……周平君がファーガス王国で再会を待ち望んでるはずだよ」

 里菜は苦笑する。

 「もうとっくに再会してるわ。前世は夫だったし今は夫であることを再認識させているとこよ」
 「前世が夫って話飛びすぎだよ~私の記憶だと告白の準備をしていた周平君とそれを待つ立ちゃんっていう生徒会名物相思相愛焦らし夫婦の記憶で止まってるから」

 懐かしい……中学の時は私が生徒会会長、周平が副会長で里菜が書記だった。当時私は周平に告白させようとあえて焦らしていた。といっても二人で行動することが多く二人で一緒にどっか行ったりとやっていることはカップルそのものだったが。

 「フフッ、何があったか簡単に話してあげるわ」

 失踪した理由や前世の話などを簡単に話した。

 「相変わらず夫婦揃ってアブノーマルだね~」
 「そうかしら?普通だと私は思ってるけど」
 「それ凄まじい勘違いだよ。中二病患者並みに酷い勘違いだよ」

 里菜の声のトーンが上がる。元気な声が聞けて何よりだ。

 「でも昔の仲間の周りもそんな感じよ。ねぇ九兵衛さん?」
 「そうだね~別に人生色々だしさ~俺も昔怒りに任せて星一つ陥没させたりしたからね~普通普通~」
 「ここにも変態が……立ちゃん五百円ではねるしか覚えない鯉を売りつけるおじさん達にこの鯉は凄いっていわれても安易には信じないでしょ。常識人の意見を聞いたほうがいいよ……」

 里菜が何やら某有名ゲームのネタを入れてきた。でもその鯉は育てれば強くなるので五百円以上の価値があると言ってもいいだろう。

 「フフッ、突っ込む気力が出てきたようね」
 「立ちゃんといるとツッコまずにはいられないないからね~でも立ちゃんさらに増してアバンギャルドだからツッコみきれるか……」
 「昔のキレを取り戻せば余裕よ」

 中学時代里菜は私の抑え役で一番仲のいい友達でもあった。

 「そうだといいけどね……周平君は大変ね。他の子と仲良く話して時の立ちゃんの顔とか怖くて見れないからね~」
 「そんな怖かったかしら?それは私の旦那だから許可なく話す奴は目障りだったけど」
 「それはもう鬼の形相だよ~鼠が怖くて癇癪おこして地球破壊爆弾だす青い狸並だよ~」

 また微妙な例えを……

 「私ってけっこう嫉妬深いからね」
 「知ってるよ。思えばあの頃から記憶と力があったなら行動の数々も納得だよ」

 地球にいた頃から要所要所で魔法や異能を使用していたので、子供の時から邪魔な奴は誰であろうと黙らせていた。

 「お話盛り上がってるとこ悪いんだけど……ちょっといいかな?」

 空気と化していた九兵衛さんだ。

 「どうしたの?」
 「里菜ちゃんに聞きたいことがいくつかあるんだがいいかい?」
 「ああ、はい」

 たぶん私が聞きたいことを聞くのだろう。

 「改めて、俺は高天原九兵衛。冒険者ギルドの総長にして創立者だ、ファラモンドにはギルドがないからよくわかってないことも多くて君達の状況を聞かせてもらっていいかな?」
 「あ、そうでしたね……ってあれ腕輪が……」

 やっとないことに気づいたか。

 「それは俺が破壊しといたから」
 「破壊って……いくら魔法攻撃しても物理的に力加えても破壊出来なかったんですが……」
 「いや、あんな脆いの余裕だよ~」

 里菜はそれを聞いた途端何かを察したらしく普通の顔に戻る。

 「これはもう驚いてツッコんだら負けってことだね。うん……その人も立ちゃんも周平君も二十柱とかいうのの一角でチート級に強いなら納得しとく」
 「ははっ、了解~それで君達がやられたことを教えてほしい」  

 里菜は話し始めた。

 召喚された初日から拘束され隷属の輪をつけられ戦うことを強いられたが、幸いなことに全員の命と女性陣への性的乱暴はされてないようだ。隷属の輪に関しては召喚された勇者が逆らわないよう、両国ともにダーレー教団から特別に支給された腕輪をつけているので連邦側に危害を加えないことや戦わせるぐらいしかできないらしい。獣人族に使っているような従来の輪の使用は人には禁止されているのさすがに全人類を敵に回すようなことはしないらしい。

 「迷宮攻略三百層の後は各地で他の部隊と交流させられて今じゃみんな色んなとこにいます……」
 「ファーガスとは真逆な感じね、分散させて逃げないようにしてるのね……」

 ファーガスはみんなで力を合わせてなのでまだマシだが連邦は噂通り最悪らしい。

 「それで一人逃げたってのは?」
 「周平君とは特に仲良かった宗田陣君という人です」
 「その名前は周平から聞いてるわ」

 周平の親友ってだけあって見込みがありそうね。

 「宗田君は最初は従ってるふりをしながら脱走しようと考えてたの。でもクラスメイトの一人が誘惑に負けて密告したの」
 「それで宗田君は?」
 「罰を受ける形で拷問され、独房の最奥に一人閉じ込められたわ。みんなで許してくれるように言ったけど駄目でそれから二週間が経つ頃……」
 「脱走?」
 「うん、それも変な力を手に入れて輪も無効化した状態で引き連れて出てきたの。一部の連邦の要人たち殺して首都ファラモンドを脱出。最近の報告だと連邦を完全に脱出したみたいだね」

 それがインフィニティシールド発動の原因になったわけだ。

 「なるほどね~あなた自身はどんな感じだったの?あのヘクターとかいう男に操られていたみたいだけど?」

 里菜は苦々しい顔に変わる。

 「迷宮攻略までは何グループかに分かれて行動していたんだけど、それが終わってからはそれぞれみんな別々のグループに配属されたわ。私の異能は怪音波(A)っていう精神錯乱系の異能だったからヘクター達の隠密部隊に所属されたわ」

 怪音波……王の書によると脳を刺激し錯乱状態にさせることができ洗脳を助長する能力がありとのことらしい。

 「操られたきっかけは?」
 「ヘクター達と出会ったその日からよ。あいつの目を定期的に見させられて徐々に感情と意思を出せなくなっていったの……」

 里菜の顔が徐々に怒りに変わる。

 「酷いわ……これからしっかり仕返ししていきましょう」
 「うん、後で協力して立ちゃん。ひどい目に合わせないと気が済まないし!」

 怒りから殺意がにじみでている。私としても石にした程度ではまだまだ足らない、

 「フフッ、後で仕返ししましょう。里菜はこの街であいつらと何をしていたのかしら?」
 「私達は反抗する獣人族を探っていたの。各地で奴隷化していない獣人族が独立しようと動いているんだけど奴隷化している獣人族を人質にすることで抑えているの」

 シスオンバイが言っていたわね。裏でやっている事とはいえ動いていることがバレているぐらい大掛かりなのだろう。

 「そうだったのね。獣人族の動きが活発なのは知っているわ」
 「うん、それで連邦内はごちゃごちゃでさ~だから遠征もなかなか進まなくて」

 今後のことを考えたらちょっとでも遠征させて少なくとも首都ファラモンドは手薄にさせておきたい。

 「連邦も思った以上に大変みたいだね~獣人族が活発的になってきてるのは支援している身として知っていたけど」
 「九兵衛さん支援していたのね?」

 昔のことがあるし独立支持派である以上支援していて当然といえば当然か。

 「立ち上がるその時の為にずっとね~ギルドで支援すると角が立つから個人で支援させてもらってるよ~」
 「ならそれはもうすぐね。里菜この後はどうする?私達と来る?」
 「うん、もう戻るのは御免かな。友達はいるけど分散してて会うのが困難だし」

 即答だ、まぁ地獄に進んで戻るようなことはしないだろう。

 「了解したわ。連邦を解体させる事案はある程度浮かんだけどまだ早いわね」
 「えっ、立ちゃんまさか連邦と戦うつもり?いくら立ちゃんでも……」
 「たぶん大丈夫よ、ねぇ九兵衛さん」

 別に今私一人でも首都に乗り込んで壊滅させるのは造作もない、ただそれをしないのはそれじゃあ意味がないからだ。

 「ははっ、そうだね~」

 九兵衛さんは苦笑いだ。

 「それと里菜、私一度言ったことはある場所は転移魔法陣を設置すればどんなに遠く離れてても移動できるんだけど首都は行ったことなくてね~今回も首都に穏便に入るのが目的なんだけどなんとかならないかしら?」
 「私ならたぶん怪しまれずに検問突破できるけどヘクター達なしだと……」
 「だったら魔法で私がヘクターに化ければいいわね」

 顔バレせずに怪しまれることなく侵入できれば問題ない。

 「それならたぶん入れるし出入りも自由にいけると思うよ。もう解除の方に向かっているから関係者なら検問も緩いし。特に隠密部隊は余計にね」
 「フフッ、それで行きましょう」
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