上 下
35 / 47

35話:ハチミツの森

しおりを挟む
 「ここがはちみつの森……」

 リオの故郷であるナットウはこの森を抜けた先にある。甘い匂いでもするのかと思いきやそんな事はない。外見は普通な感じだ。

 「ここを抜ければナットウよ」

 道中何事もなくここまで来た。最近は盗賊に襲われるような事もなくなったがまたいつ襲われるかわからないから気を抜いてはいけないな。

 「そういえばこの森の由来は?」
 「ここの森の守護獣がはちみつって言葉を発する事から名づけられたらしいわよ」
 「なるほど」

 どんな守護獣だよ!ってツッコみを入れたいところだが、この世界にははちみつという物がないみたいだからな。これで黄色い熊さんが守護獣ってのはなしにしてくれな。

 「襲ってきたりする?」
 「自分から攻撃しない限りはそういった事はないわ。ジンほどじゃないけど結構強いしね」
 
 そんないい感じの相手なら是非四人と戦わせたかったがリオがNG出してるから、その提案はしないでおく。

 「早速入りましょう。ふかふかのベッドが私を待っているわ!」
 「そうだね。私もベッドが恋しいかも」

 シーラの言葉にミーナが反応する。所詮デラックステントと言っても宿のベッドには勝てないからな。

 「この森はどれぐらいで抜けれるの?」
 「あら、セーブルはここ来た事ないのね」
 
 リオは意外そうな顔を見せるとセーブルは少し暗い表情を見せる。

 「ほら……私体の火傷痕のせいで外出出来ない期間が結構あったから」
 「あっ……ごめんね」

 リオが申し訳なさそうな顔で謝る。

 「ううん、今はこうして外出れるから大丈夫だよ。ただ引きこもりの時代を思い出しただけだし」
 「それなら良かった。この森は一日もしないで超えられるから大丈夫よ」


 ◇


 森の中を入り進んでいく。道が整備されているので馬車でも問題なくいけそうだ。

 「なんか気味が悪いような……」

 ミーナは少し不安気に言う。するとシーラもそれに続き不安をあらわにする。

 「そうね……私も少し不安ね」
 「リオ本当に大丈夫なの?」
 「そのはずよ」

 何が不安かというと森の中で全く魔物と遭遇しないのだ。森を通れば少なからず魔物と出会う事が多々あるがそれがない。ここまで静かなままだと、不気味で不安になるのだろう。確かに適度に魔物と遭遇してくれた方がこっちとしても安心する。

 「まぁ直近に気配はないし問題はないはずだよ」

 胞子を出す毒キノコ的なやつや毒の実が成る木なんかは注意しないとだが、リオの話ではそんなモノななかったはずだと言っている、果たしてどうか……

 「うん?」
 「どうしたの?」
 「いや、ちょっと離れたとこに動く気配を感じていてね」
 
 その例の守護獣って奴かもしれないな。一応警戒しておくか。


 ◇


  気配が近くなるにつれてちょっとした好奇心が期待を膨らませる。

 「そういえばリオはここの守護獣見た事あるのかい?」
 「ええ、供え物した事あるから」
 「ナットウ市民だもんね」

 するとミーナが声をあげる。

 「ジンさん……あれ!」

 ミーナが指を指した方向には何やら大きく動く影が……あいつが守護獣に違いないな。

 「ちょっと見て来るね」
 「あ、ちょっと……」

 リオの制止を無視し、一人先導し大きな影を見に行く。すると黄色い毛並の大きな魔獣がそこにいた。

 「こ、こいつか」

 三メートルは超えているであろうその身体……熊っぽい感じだな。こっちに気付いたのか振り向く。

 「なっ……」

 振り向き拝んだその顔はとてもいかつく、おでこの部分に十文字状の傷のようなものがついている。

 「ハチミツ!」

 クマがおっさんボイスで叫ぶとこちらに襲い掛かってきた。

 「なっ……」

 咄嗟にシールドを貼り防ぐ。

 リオから聞いてたのと話が違うんだが……

 「そっちがやる気なら……」

 戦闘態勢に入り構える。魔法を発動しようとしたその時だ。

 「駄目!」

 リオが後ろから止めにはいる。

 「気をつけて!こいつ襲ってきたよ」
 
 するとリオ以外の三人は身構えるがリオだけは変わらない。

 「これはジンが悪いわ……」
 「どういう事だい?」

 リオがそのまま守護獣の所に行くと頭を下げた。

 「お着換え中失礼しました……どうか怒りを鎮めてください」
 「ハチミツ~」

 リオが頭を下げると上機嫌になったらしく、敵意がなくなった。

  「どういう事ですか?さっきまで敵意むき出しっぽかったのに……」

 ミーナの言う通りだ。リオ以外は全員?マークが頭によぎっている状態だろう。

 「さてジンも謝って」
 「えっ、俺?」
 「そうよ、ほら」

 リオに無理やり頭を下げさせられる。

 何故俺がいきなり襲われてきた相手にこんな事を……何かの間違いではないのか。

 「リオ訳がわからないよ。事情を説明してよ~」
 「ああ、そうだったわね。見ての通りこれは守護獣、蜜熊(ハチミツベアー)。温厚で襲って来る事は滅多にないんだけど、今回は特別ね」
 「どういう事だい?」
 「蜜熊は上に赤い服を好んで着る習性があるんだけど、それがないと人前に出ることはないの。凄く恥ずかしがり屋だから」

 赤い服……どこのぷーさんの真似事だっての!全然似ても似つかないし。というかその顔とガタイで恥ずかしがり屋とか……大体獣のくせに服着るとかどういう事だよ。ペットの犬じゃないんだから……

 存在自体がふざけてる。本家はもっと可愛くて温厚で愛嬌あるんだがな。

 「どうしたのジン?随分顔が引きつってるけど……」
 「な、何でもないよシーラ。ちょっと頭を下げたのが腑に落ちないだけだから」

 この四人に本家のハチミツ舐めるあの熊を見せてあげたいが、それが出来ないのでこの想いをぶちまける事が出来ないのが非常に悔しい……

 「それじゃあ俺達はもう行こうか」

 ここにこれ以上いるのは耐えられんな。

 「待って!」
 「まだ何かあるのかい?」
 「この蜜熊服がなくてここから動けないみたいなの……ジン何とかならない?」

 こいつの服なんざ知りませんよ。ない方が熊らしくていい気がする。こんだけいい身体してるんだし、むしろこの方が絶対いい。

 「いや、何とかならなくはないと思うけど……」
 「蜜熊の服がないと、他の魔物が騒ぎ出してしまうわ。蜜熊のハチミツって叫ぶ声が他の魔物が嫌がって力を弱めるの。それで森は平和を保ってるからこのままだと……」

 確かにあの声は多少の不快感があったな。人間には感じないが、魔獣に効果絶大の超音波のような効果があるのかもしれないな。

 「なるほどね……」

 なんかムカつくけどそれを聞いたら助けない訳にもいかないか……

 「了解」

 リオの頼みなので仕方なく助ける事にした。
しおりを挟む
感想 69

あなたにおすすめの小説

公国の後継者として有望視されていたが無能者と烙印を押され、追放されたが、とんでもない隠れスキルで成り上がっていく。公国に戻る?いやだね!

秋田ノ介
ファンタジー
 主人公のロスティは公国家の次男として生まれ、品行方正、学問や剣術が優秀で、非の打ち所がなく、後継者となることを有望視されていた。  『スキル無し』……それによりロスティは無能者としての烙印を押され、後継者どころか公国から追放されることとなった。ロスティはなんとかなけなしの金でスキルを買うのだが、ゴミスキルと呼ばれるものだった。何の役にも立たないスキルだったが、ロスティのとんでもない隠れスキルでゴミスキルが成長し、レアスキル級に大化けしてしまう。  ロスティは次々とスキルを替えては成長させ、より凄いスキルを手にしていき、徐々に成り上がっていく。一方、ロスティを追放した公国は衰退を始めた。成り上がったロスティを呼び戻そうとするが……絶対にお断りだ!!!! 小説家になろうにも掲載しています。  

異世界ハズレモノ英雄譚〜無能ステータスと言われた俺が、ざまぁ見せつけながらのし上がっていくってよ!〜

mitsuzoエンターテインメンツ
ファンタジー
【週三日(月・水・金)投稿 基本12:00〜14:00】 異世界にクラスメートと共に召喚された瑛二。 『ハズレモノ』という聞いたこともない称号を得るが、その低スペックなステータスを見て、皆からハズレ称号とバカにされ、それどころか邪魔者扱いされ殺されそうに⋯⋯。 しかし、実は『超チートな称号』であることがわかった瑛二は、そこから自分をバカにした者や殺そうとした者に対して、圧倒的な力を隠しつつ、ざまぁを展開していく。 そして、そのざまぁは図らずも人類の命運を握るまでのものへと発展していくことに⋯⋯。

勇者、追放される ~仲間がクズばかりだったので、魔王とお茶してのんびり過ごす。戻ってこいと言われても断固拒否。~

秋鷺 照
ファンタジー
 強すぎて勇者になってしまったレッグは、パーティーを追放され、一人で魔王城へ行く。美味しいと噂の、魔族領の茶を飲むために!(ちゃんと人類も守る)

目覚めたら地下室!?~転生少女の夢の先~

そらのあお
ファンタジー
夢半ばに死んでしまった少女が異世界に転生して、様々な困難を乗り越えて行く物語。 *小説を読もう!にも掲載中

クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される

こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる 初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。 なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています こちらの作品も宜しければお願いします [イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]

二人分働いてたのに、「聖女はもう時代遅れ。これからはヒーラーの時代」と言われてクビにされました。でも、ヒーラーは防御魔法を使えませんよ?

小平ニコ
ファンタジー
「ディーナ。お前には今日で、俺たちのパーティーを抜けてもらう。異論は受け付けない」  勇者ラジアスはそう言い、私をパーティーから追放した。……異論がないわけではなかったが、もうずっと前に僧侶と戦士がパーティーを離脱し、必死になって彼らの抜けた穴を埋めていた私としては、自分から頭を下げてまでパーティーに残りたいとは思わなかった。  ほとんど喧嘩別れのような形で勇者パーティーを脱退した私は、故郷には帰らず、戦闘もこなせる武闘派聖女としての力を活かし、賞金首狩りをして生活費を稼いでいた。  そんなある日のこと。  何気なく見た新聞の一面に、驚くべき記事が載っていた。 『勇者パーティー、またも敗走! 魔王軍四天王の前に、なすすべなし!』  どうやら、私がいなくなった後の勇者パーティーは、うまく機能していないらしい。最新の回復職である『ヒーラー』を仲間に加えるって言ってたから、心配ないと思ってたのに。  ……あれ、もしかして『ヒーラー』って、完全に回復に特化した職業で、聖女みたいに、防御の結界を張ることはできないのかしら?  私がその可能性に思い至った頃。  勇者ラジアスもまた、自分の判断が間違っていたことに気がついた。  そして勇者ラジアスは、再び私の前に姿を現したのだった……

貞操逆転世界に無職20歳男で転生したので自由に生きます!

やまいし
ファンタジー
自分が書きたいことを詰めこみました。掲示板あり 目覚めると20歳無職だった主人公。 転生したのは男女の貞操観念が逆転&男女比が1:100の可笑しな世界だった。 ”好きなことをしよう”と思ったは良いものの無一文。 これではまともな生活ができない。 ――そうだ!えちえち自撮りでお金を稼ごう! こうして彼の転生生活が幕を開けた。

剣ぺろ伝説〜悪役貴族に転生してしまったが別にどうでもいい〜

みっちゃん
ファンタジー
俺こと「天城剣介」は22歳の日に交通事故で死んでしまった。 …しかし目を覚ますと、俺は知らない女性に抱っこされていた! 「元気に育ってねぇクロウ」 (…クロウ…ってまさか!?) そうここは自分がやっていた恋愛RPGゲーム 「ラグナロク•オリジン」と言う学園と世界を舞台にした超大型シナリオゲームだ そんな世界に転生して真っ先に気がついたのは"クロウ"と言う名前、そう彼こそ主人公の攻略対象の女性を付け狙う、ゲーム史上最も嫌われている悪役貴族、それが 「クロウ•チューリア」だ ありとあらゆる人々のヘイトを貯める行動をして最後には全てに裏切られてザマァをされ、辺境に捨てられて惨めな日々を送る羽目になる、そう言う運命なのだが、彼は思う 運命を変えて仕舞えば物語は大きく変わる "バタフライ効果"と言う事を思い出し彼は誓う 「ザマァされた後にのんびりスローライフを送ろう!」と! その為に彼がまず行うのはこのゲーム唯一の「バグ技」…"剣ぺろ"だ 剣ぺろと言う「バグ技」は "剣を舐めるとステータスのどれかが1上がるバグ"だ この物語は 剣ぺろバグを使い優雅なスローライフを目指そうと奮闘する悪役貴族の物語 (自分は学園編のみ登場してそこからは全く登場しない、ならそれ以降はのんびりと暮らせば良いんだ!) しかしこれがフラグになる事を彼はまだ知らない

処理中です...