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9話:エリンギへ

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 「どうしたんだい?」
 
 リオはさっきからジッとこちらを見る。俺の顔に何かついているとでも言うのか……

 「話は聞いたし知識はあるのはわかったけどどうにも信用できなくて……」
 「信用って……ほら俺少し変わってるから」
 「おかしいわ……」

 そりゃもう人間じゃないから人とは違うからな。というか俺からすると魔法に制限かかってる、この世界の人達の方がおかしいって感じなんだが。

 「はぁ~ジン言ったら?」
 「何を?」
 「あれよ、あんた元○○でしょ?」
 「ああ、それね」

 あんまり言いたくはないが、こんな奇異な目で見られるのも嫌だからな。元勇者と言っておけばそれである程度は納得してくれるだろう。

 「そうだね……俺元勇者だからさ」
 「えっ……」
 「ジンさんは煙たがられ追い出されて、ギルドに入って私達と出会ったんですよ~」

 可愛らしい声でミーナが言う。そうそう二人に会ったお陰でまた楽しく旅が出来てるんだよな。

 「あ、そうだったんだ~だから少し人とは違うのね~」
 「まぁそういう事かな」

 流石に神として勇者に紛れてましたなんて言えないからな。

 「それで私達と世界を周る旅に出たんです」
 「そうなんだ。でも男入れてあなた達は大丈夫なの?」
 
 確かに。俺が鬼畜王だったらとっくに二人は傷物にされていること間違いなし。紳士たる俺はそういう事はしないからな。

 「ああ、ジン凄く強いから、その気があったらとっくにやられているわ」
 「そうですね。でもまぁ責任取ってくれるなら……」

 顔を赤くしながらボソッとそんな事言われたら心が揺らぐじゃないですか~

 「なるほど……まぁ強くて色々指導してくれる紳士を気取ってハートを掴むと……策士ね」

 俺は断じて策士などではないんだがな……うん、俺は紳士だ。
 
 「なんでそうなる……全くリオは疑り過ぎ。でもその方が賢いけどね」

 どこの馬の骨かもわからない俺にいきなり心を許すなどするべき行為ではないからな。

 「でしょ。まぁパーティ組んだしそれなりには信用するわ。そんなこと親切に言ってくるぐらいだし」
 「えっ?パーティはお金を返してくれる間までじゃないのかい?」
 「そう思ったけど私もあなた達と組んでみたくなったわ。いいかしら?」

 俺はシーラの方に目をやる。こういう時はリーダーの意見だ。

 「私は構わないわ。たくさんいる方が賑やかだし、四属性揃えたいっていう願望はあるからね」
 「私も構いません。一緒に頑張りましょう」
 「決まりね~改めてよろしく」

 今この瞬間正式にリオがパーティに加入する事が決まった。

 「そろそろ森を出る頃よね?」
 「ああ、今見えてくるよ」

 地形を魔法で分析したところ、あと数分で森を抜ける予定だ。森を抜けた瞬間、光が射しかかり、一瞬目を隠す。

 「ついたわね」

 森を抜けたその先は関所が見える。エリンギ王国に入ったのだ。

 「リオの街は?」
 「ここからは少し離れているし、先に王都を通ることになるわ」
 
 王都か……リレイルと比べどうなっているかを見てみたいな。あっちは勇者の召喚で士気が高まりある意味活気があったが、こっちはどういう感じか見てみたい。

 「こっちから抜ける時はあそこを通るだけだしすぐよ」

 逆に向こうから通る時は、リレイル同様人が並んで軽く混雑している。こっちは空いているので、そのまま通り村に入る。最初は森に入るなんて聞いたものだから、もっと魔物が出るものだと思っていたがそうでもなかった。国境で行き来が多い場所だけにそんなに強い魔物もいないという事なのだろう。

 「ここで少し休憩するかい?」
 「そうね。何か食べましょうか」
 「賛成です」
 「賛成よ」

 皆の意見が一致したところで、馬車を収納一時預かり所に持っていき、近くの食事屋に入る。

 「そんなに混んでないね」
 「あそこにしましょうか」

 だが席に向かうとリオだけが立ち止まる。

 「どうした?」
 「いたのね……」

 リオの目線の先には男が二人と緑髪の目付きの悪い女がいた。リオは訝し気な表情で近づいていく。

 「成程……」
 
 あれが恐らくリオを置き去りにしたパーティだろう。リオはそのままそいつらの元に行く。

 「私の荷物返してくれないかしら?」
 「はぁ?あんた誰?」
 「とぼけないでモコナ!私の大事な物を返して!」
 「ああ?これ拾ったのよ~綺麗な石でしょ?」
 
 見ると小さな緑色の綺麗な水晶のようなものだ。

 「返して!」

 手を伸ばすが、モコナと呼ばれた女性はそれをすぐに隠す。

 「これがあんたのだって保証はあるのかしら?確かあなたの家の大事な家宝に似ているのかもしれないけど、これは違うわ。ねぇ二人とも?」

 二人の男は頷く。これは穏やかじゃないな。しかもあの石……

 「ガイ!リンド!あなた達まで!」
 「随分と酷い事言われちまったもんな~」
 「そうそう、それにお前なんかもう知らないしな」

 そういえば結構酷くフッてましたな。あれはリオもいけないな。男にもプライドがあるからな。

 「酷い……」

 そんな状況を見ていた二人が俺の腕を引っ張る。

 「あいつらウザいわね……」
 「何とかならないのかしら……」

 二人は俺の方を見る。はいはい何とかしろって話ね。全くあんまりパワープレイはしたくはないが、これならしょうがないな。荷物泥棒を見過ごすわけにもいかないからな。ましてリオはもうパーティの一員だ。

 「オーケー。二人は見ててね」

 さてやりますかね……

 
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