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淡いミントグリーンを基調とした室内。小花をや小動物をモチーフにした家具類。この部屋は何となく落ち着く。他の部屋が兎も角ゴージャスだから、余計に感じてしまうのかもしれない。

中央には薄いレースのカーテンの引けるベッド。起きたばかりだと言うのに、シワ1つ無い真っ白なシーツ。明け方まで続いた事が嘘みたいな…。

天窓からは柔らかな陽射しが差し込み、外が既に朝で有る事が解る。

いい加減に外に出たい。しかしこの腰にまわされた腕に、しっかりホールドされてて身動き出来ない。

「何だ?まだ足りんのか?ならほら来い。遠慮するな。」

あ!腕が弛んだ。今の内に抜けよう。

遠慮何てしてません!ノーサンキューです!知らんぷりしてベッド端へ進む。しかし下りるまでが遠い。

「この部屋はシャインの好みに変えさせた。寝室は特に長く居る部屋だからな。趣を変えたいなら私の部屋に来るか?悪魔らしき寝室だぞ。城の部屋と同じタイプだ。何なら客間には趣向を凝らした部屋も有る。そちらで楽しむか?」

は?はぁぁ…。
 
「ねえ?いい加減に外に出たいわ。もうそろそろ1週間になるわよ。流石に使用人や、仕事関係の人達が変に思わなくて?」

大丈夫だ。コイコイと手招く様が憎たらしい。でも結局行っちゃうのよ。アブソルートの腕の中は安心するから。

*****

私達は悪魔の国で結婚式をした後、永き命の契約をした。まあぶっちゃけ初夜よ。真っ白な部屋で真っ白なリネン。兎も角真っ白な部屋。ドデカいやはり真っ白なベッド。この儀式の部屋で、私達は夫婦になった。その証としてシーツをはがされ持ち去られた。直ぐに新しいのに代えてくれたけど、正直恥ずかしすぎて死にそうだった。

儀式の終了の合図と共に、アブソルートの漆黒の4枚羽が出現した。ベッドに横たわる私の上を覆う翼。まるで私を私を守り包み込む様に、真っ白な空間に舞い散る黒羽が壮観だった。

結婚式の後に天使軍に踏み込まれ、私は天界に連れ去られそうになった。それをアブソルートは一刀両断で捩じ伏せてくれた。そんな感動の後だから、尚更感激しちゃう。

漸く終わりかと目蓋を閉じる。しかしベッド上で不敵にも胡座をかくアブソルート。何故かまだ寝るなとばかりに、再度向かい合う形で抱き抱えられた。ドクンと衝撃が走り背が仰け反る。下から来る激しい衝撃と共に背中に激痛が走る。私はアブソルートにしがみつきながら、その衝撃と激痛に耐えた。突如周囲に声が反芻する。

「大悪魔誕生!」

「悪魔伯爵シャイン様万歳!」

「シャイン様の更なるお力をお示し下さい!」

何なの?背中の激痛で意識が朦朧とする。何が起こっているのかが理解できない。混乱する私の耳もとで、アブソルートが囁く。

「2枚出た。後2枚だ。もう少しの我慢だ。シャインになら出来る。私に全てを委ねろ。身を楽にし無になれ。私の全てを受入れ己を解放しろ。」

胎内に放たれる熱と共に、私の体が更に作り替えられてゆくのが解る。細胞の1つ1つが研ぎ澄まされて行く。抉られる体が熱い。何がが溢れ出そう。

「シャイン逝け!これでお前は私の永き命を結ぶ伴侶だ。しかも同等のな。眷属の隷属も無い。元の種族の柵も無い。死ぬ時も一緒だ。」

「んぅーぅぅー。い、痛いの。もうぃやあぁー。やだ!いっいやああぁ…ぁぁ…あ…んあぁ…。」

大丈夫だ。頑張れと、背中を撫でてくれる大きな手のひら。安心はするけど、時折変な所を弄るのは止めて!

私の絶叫と共に、残る2枚の翼が出現する。漆黒の4枚羽。アブソルートと同じ物が、私の背中に出現して居た。

「悪魔公爵シャイン様ご誕生!」

「おめでとうございます!」

「これにて永き命の契約は無事終了です。我々は新たなる悪魔族の誕生と、儀式の滞りなき成功を王にお伝えに参ります。」

この人達誰?儀式の見届け人って!何時から見てたの?最初から?儀式だから仕方無いの?

「ご苦労。任せた。善きに計らえ。」

もうどうでも良いや。兎に角疲れた。終わったなら寝よう…。

翼が邪魔だ。これどうやって仕舞うの?俯せで寝てたので、よいしょとよつん這いになる。

「ん?羽の仕舞い方か?しかし勿体無いな…。」

背後に忍び寄るアブソルート。後ろから抱えられ身の危険を感じる。

「止めて!変な人達が見てた部屋でする気なの?デリカシー無さすぎ!私は疲れたからもう寝る!」

「・・・・・。初夜に1回のみか?それも酷いだろう。では部屋を変えれば良いな。このまま人間界の屋敷へ行く。おい!誰か窓を開けろ!」

いやー!毛布にくるまれ夜空を滑空。バンジージャンプじゃ無いのよー。

わたしの抗議の声は、空しく夜空に吸い込まれて行った。

*****

悪魔には下級から上級までのランクが有るという。ランクに入れぬ魔獣に魔物。これらは悪魔とは認められない。また下級と呼ばれる悪魔には、ほぼ知性と理性が無い。半身が人型になりきれぬ半獣状態。魔獣や魔物が這い上がり辿り着く最終形態。理論上はこれ以上も可能だが、殆どの魔物が人食いの中毒により倒れて行く。

中級悪魔は1番数が多い。完全に人型になれる悪魔。種族的なものも含まれる。吸血鬼やサキュパスやインキュパス。人狼などの半獣も含まれる。

上級悪魔とは完全なる人型。人で言う美形程力が強い。力=美となる。悪魔の王を頂点に、悪魔公爵が5人。シャインを加え6人となった。以下、侯爵と伯爵が上級悪魔となる。因みに公爵は王の血筋の者。侯爵は力は公爵と同等だが、王の血筋では無い者。シャインは単独なら侯爵にあたる。しかしアブソルートの正式な伴侶の為、公爵を名のる事になる。

悪魔が他種族を仲間にする場合、相手を己の眷属か眷族とする事が出来る。これはどちらも、相手に己の生命力を分け与え行う。

眷属は従属を意味する。生命力を与えられた者は、与えた者に従わねばならない。その代償として通常よりも長い寿命と、強靭な身体を与えられる。能力譲渡は無い。欲するならば、更なる代償が必要。下僕や配下を増やす場合に行われる。

眷族には従属関係は無い。眷属と同様生命力を与えられ、永久に近い命と強靭な身体を与えられる。代償は個々に異なる。お気にいりや配偶者を側に置く為に行われる。

眷属も眷族のどちらも、元の種族の柵からは逃れられない。成長しかり、寿命も悪魔の様に永遠には近付けない。

永き命を繋ぐ儀式とは、相手が成人後の無垢な女性(男性は不可)の場合のみ。この儀式を行う事により、眷属より進化し完璧な悪魔となる。

命を繋ぐ。つまり魂の半分を交換し合う。やがて混じり合い、能力その他全てを共有出来る。勿論寿命も同じくなり一心同体。同時に死ねる。

奔放な悪魔が伴侶に選ぶ女性は、ほぼ眷族止まり。シャインは久々の儀式との事で、かなりアブソルートの周囲で騒がれて居た。

***

つまりシャインは…。

赤子のシャインは階段から転げ落ち瀕死の状態だった。アブソルートに前世からの曖昧な記憶を全て返され、瀕死のシャインは、1度人間として死亡した。

アブソルートは直ぐにその魂を捉え、己の生命力を分け与えた。この事によりアブソルートの眷族として生き返った。これ等の代償が、死亡し無に返り再度無くした記憶。プラス涙。シャインは涙を流す事が出来なくなるが、アブソルートの前でのみ泣く事が可能。

そしてこれ等を再度シャインに戻す代償が、眷属で有りながら普通の人間の赤子として暮らす年月。眷属となりながらも人間の赤子同様。アブソルートはそんなシャインを心配し、コクヨウとレイジュを親代わりとした。

あまりにもシャインに都合が良すぎる。アブソルートはシャインに掛かりすぎる代償を、少しでも減らせればと思考を練っていた。

いきなり地上へ下りた2人。

明日からシャインとアブソルートの、人間としての生活が始まる。

*****


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