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①男大悪魔(伯爵)をファサネイト。

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これは町の古き言い伝えである。双子は悪魔を呼び寄せる。特に同性の双子は、必ず1人を処分せねばならぬ。何故なら双子は、本来は1人だった者。

生まれ出る無垢な魂を地上へと解き放つ天使達。それを垣間見、それらに混ざる煌めく魂に魅せられた悪魔達。まるで天使にも近い尊き輝き。通常の悪魔達では、生きたままでは奪えない。成長したならなおのこと。

ならば生まれ出て直ぐに、それらの魂を見付け奪おう。ならば目印が必要だ。その魂に呪いをかけよう。魂は腹に宿れば半分に分かたれる。双子になれば輝きは半分になる。それでも悪魔達にはまだまだ十分な煌めき。

人間の世で英雄になるべき煌めく魂達。運悪く悪魔に見付かった魂は、目印の呪いをかけられ双子となる。力は2つに分けられ、もはや真の英雄にはなりえない。

これなら悪魔にも手に入る。

半分の魂は人として。残りの半分は悪魔の掌へ。悪魔が村へ呼び寄せられる前に、1人を町の裏の魔の森の祠に打ち捨てよ。さすれば悪魔に拾われる。半分の1人で満足した悪魔ならば、決して再び町には近付かぬであろう。

悪魔は囁く。甘い声で誘惑する。双子は禁忌。1人は悪魔に捧げよ。ならば道は開かれる。

人の世界と悪魔の世界に別れた輝き。どちらが幸せかは、本人達のみが知りえるお話である。

*****

「おんぎゃー。おぎゃぁー。」

「おんぎゃー。おぎゃぁー。」

元気な産声が室内にこだまする。とても元気な女の子。それに反して静まり返る室内。産婆が後から生まれた1人の赤子を、無造作におくるみにくるむ。

「お願い。殺さないで!私の赤ちゃんを返して…。」

産後の体を支えながら、母親が産婆に抱かれた赤子に手を伸ばす。

「村の掟は破れない。生まれた子は1人だけだ。産声も1人だっただろ?全てお前の勘違いだ。ほら見なさい。可愛らしい女の子だ。初乳を飲ませてあげなさい。お前にそっくりだよ。」

産湯につかり綺麗にされた赤子が母のお乳をグングンと飲む。その仕草に室内が和む。隙を見て産婆が外にでた。

続いて双子の父で有る町長が出て来る。

「この子はババが魔の森に置いてこよう。後は知らぬ存ぜぬを貫き通すんじゃ。双子だったのを知るのは、お産の現場に居た者のみ。やがて生みの母さえ忘却する。町の為じゃ。後は頼みましたぞ。」

「おばば…。嫌な事をさせてすまん。我が娘よ。すまんな。悪魔の元では幸せにはなれんだろうが、我が町の為に我慢してくれ。その次の世では幸福になれよ。」

・・・・・。

産婆は赤子を抱え裏の魔の森へと向かう。少し奥まった所に祠があった。

「まあ明日までは持たんだろうね。だが我々を恨むで無いぞ。双子で生まれ、後から生まれたお前の運命だ。良い悪魔に拾われるが良い。」

・・・・・。

産婆は赤子をおくるみにくるんだまま、祠の窪みへと放置した。

カサカサと祠から足音が遠のく。

「バブー!(ふざけんなー!)」

「バブブー!(クソ悪魔出てこい!)」

「バブー!バブブゥー!ブー…。」

ダメだ疲れた。体力が無い。赤子だから?私ってばこのまま死ぬの?どうせ死ぬならお腹いっぱい食べたかったなぁ。またろくに食事も出来ずに死ぬのか…。

1日3食粗食で良い。最低限の衣食住が賄えれば贅沢は言わないのに。何でそれさえも叶わないの?しかもこれは悪魔への生贄みたいなものじゃ無い!悪魔って何食べるんだろう。やはり私の魂なのかな?美味しく無いと思うよ?うっ、お腹すいたよー。

「バブー!(乳くれー!ギブミーミルクー!ミルクくれー!)」

でも良く考えたら悪魔を恨むのは筋違い?町が勝手に不吉だと考えてるとか?しかし寒いな。

うあぁ!突然視界が眩しくなった!もしかして悪魔の降臨?どわっ!

凄い風だね。寒くて凍えちゃう。

目前に超美形悪魔が現れた!何故悪魔だと解るかって?だってどう見ても人外だもの。でも漆黒の翼がキレー。

でも来たって事は、やはり悪魔が悪いわけ?生贄求めてるわけ?

「ほう。久し振りの双子の片割れか。しかし魂が既に全修復されてる?半分に欠けてない?本当にコレか?間違いはなさそうだな。どれ、町の片割れは?キチンと欠けとるな。だが全く修復が始まっとらん。随分極端だ。普通は完璧に半分の筈。此方が異常なのか?」

「バブ!バブブー?ブブゥ!(異常とは何だ!この悪魔が!)」

・・・・・。

「バブバブ煩いな。異様に動くしやはり可笑しいな。生まれたばかりの筈だが?」

「バブブブバブブ!バブー!アブーアバババ!バブゥブブー!アブブブウ!(赤子に煩いとは何だ!泣くのが仕事だ!しかも異様に動くって、軟体生物じゃ無いわ!このボケ悪魔!)」

・・・・・。

「まさか?コイツ話が通じてるのか?」

「バブブ。バブゥブブ!ブブブゥー!ブブ!アブブゥ。アブ…アブブゥ…ゥゥゥ…。(此方こそ聞きたいです!通じてるなら何としてくれ!いや、何とかして下さい。可笑しいなら食べないで。お腹が空いて死にそうなんです。もうダメ死にそう…。)」

必死に動かしていた手足がもう動かない。ダラリと転がる。

悪魔が右手を天に振りかざすと、その掌に哺乳瓶が出現した。ほれと投げ寄越す。おでこにクリーンヒット!

「バブブ!バブ!ブー!(赤子が受け取れるかボケ!)」

落ちた哺乳瓶に手を伸ばし、ゴクゴクと飲みきる。

「ゲフー。バブブ!(おかわり!)」

「赤子がそれを掴み拾う事自体が異常なのだが…。貴様は人間の子であろう?」

エルフや獣人にも見えぬ。いったい…。

「バブブ!バブブ!アブ!(おかわり!おかわり!はよ!)」

・・・・・。

「何だか異常にムカつくのだが…。」

悪魔は再度右手を天に振りかざし、哺乳瓶を取り出し投げ寄越す。

「バブブ!(ナイスキャッチ!)」

再度イッキ飲み。呆れた様な顔をした悪魔が、祠に胡座をかきながら、頭をガリガリしこちらを見ている。

美形なのにおっさん臭いな。

「ゲフー。あぶぅー。(眠い)」

しかし肌寒い。良く考えたら私ってばすっぽんぽんじゃ無い。いやん。おくるみごとコロコロ転がりながら、座る悪魔の膝の上にコロン。うん。ここなら温かいな。ではではお休みなさい。

起きたら夢から覚めてると良いな。でも私何処で居眠りしてるんだろ?深夜バイトのお給料を貰ったその足で、お母さんに届けに行く所だった筈。早く届けないとお兄ちゃんの学費も払えない。妹の給食費も払えない。

私…。何日お昼食べて無かったっけ?何日寝てなかったっけ?多分睡眠不足が祟ったんだよ。

深夜バイトから帰って少し寝て、コンビニで廃棄で貰ったお握り食べて学校へ。お昼のお弁当は、お米も無くなりここ暫くはお握りも無し。夜はやはりコンビニで貰った廃棄の菓子パン1つ。ほぼ毎日がこの繰り返し。

ふわぁー。お腹いっぱい。幸せだわ。温かくて気持ち良いや。安心したら何だか…。

「のわー!このくそガキ!ションベン漏らしやがった!服も着てないから、俺までションベンまみれだ。ふざけんなよ。この!」

・・・・・。

ガキの癖に泣いてる?赤子が夢を見ながら涙を流すのか?やはり人間離れしてるな。コイツは何だか面白そうじゃ無いか?食べても不味そうだし、魂も変な事になってる。

なら良し!

暫くは面倒見てやるよ。その代わり俺を楽しませてくれよな?

代償はそうだな…。

成長してから考えるか。

じゃあいくぞ!

あ…。

先に何か拭くものと服が必要だな。

*****
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