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【城下町編。フロックス国境でダービー開始】
◆城下町から1週間と1日目・朝食。
しおりを挟む不審者をタルバに任せ、聖獣をベッドに寝かし付けに行く。バスタオルをシーツの上に敷き寝かせ、私の腕をゆっくりと外す。かなりキツく噛まれた様だ。深くまで歯形が食い込んでる。歯が抜けた事により溢れ出始めた血液が、敷いたバスタオルを赤く染める。取り替えようとすると、聖獣は引きずり込む様似抱え込んでしまった。バスタオルを吸ってる?もしかして血を吸ってるの?赤ちゃんの安心感みたいな物かしら?ならこのままで構わないわね。サイドに華麗なバスタオルを置き、タオルケットをかけた。血も止まったみたいだし、後はタルバに任せよう。
部屋に戻りタルバと交代した。
もしもしルードさん?扉に凭れ腕と脚を組み、こちらを胡散臭げに見るのは止めてくれませんか?何故ソファーに座って無いのですか?長い脚を見せびらかせてるのですか?歩くのに邪魔なんですよね。傷口を洗いに洗面所へ。傷の具合を確認し、大丈夫だからとルードを見る。目が合った途端、にこりと笑うその笑みも怖いです。その笑い滅茶苦茶腹黒いですよ?やはり貴方はあのルードなの?そのニヤリを見たら、何だか自分に自信が無くなってきたわよ。私の思考はぐるぐる回る。この間無言です…。
取り敢えず座って下さいませ。
*****
さてさて目の前にはルード。タルバはベッドに寝かせた聖獣に付いています。レインとラスはまだ戻りません。向かい合い、無言でソファーに腰掛ける私達。沈黙が辛い。はよ喋れ。
〈全く。女性が深夜に出歩くのは感心しませんね。下から報告が来て飛び起きましたよ。隣国については我々も調べて居ました。先日砦に間者が忍び込み戦闘となったのです。その際首領格を1人逃しました。捕らえた者を尋問しましたが中々隣国も尻尾を出しません。正直貴女の入手された書類は大変助かりました。有り難うございます。しかし明日の戦闘は任せて下さい。貴女は危ないですから下がって居て下さい。〉
文官さん達、キチンと報告したんだね。ルードが指揮官として慕われてるのか軍がキチンと機能してるのかは微妙だけど、一応安心したよ。内部がバラバラでは私も安心出来ないからね。
《調べては居たんだ?気づきもしないのかと思ってた。それは良かったわ。明日の隣国の兵士との戦闘はお委せするわ。でも先の対魔物の方は私も出張るわよ。ギルマスからの依頼だからね。報告は言ってる筈よね。》
ルードは嫌そうな顔をして居る。しかし頭は働いて居る様だ。
〈そうですね。心配ですが、聖獣様方もいらっしゃいます。リョウは大丈夫でしょう。先の魔物は宜しくお願いします。我々は貴女の脇に控えますので、指示をお願いします。〉
《指示はラスに頼むから宜しくね。心配してくれて有り難う。貴方に心配されるなんて、正直くすぐったいわ。でも嬉しい。同じ顔の王太子に愛の告白なんてされたんだけど、どうしても王太子が貴方に見えるのよ。だから振っちゃった。見分けられなくてご免なさいってね。だから伝えといてくれる?本来の自分は何時見せてくれるの?とね。貴方は何だか違うのよ。私の事誉めてくれるけど、社交辞令よね?最初はルードの皮肉なのかと悩んだけど、やはり何かが違う。まあ私の考えすぎかもしれない。その内に2人で並んで見て。お願いね。》
〈そうですね。王太子は振られましたか。まあ諦めないでしょう。私も社交辞令では有りませんよ。リョウが魅力的だからガードしてるのです。〉
(ルードの為に周りに牽制してるんですよ。)
明日の昼の約束をして私達は別れた。
*****
るんるんる~ん。お早う。う~ん可愛い。ナデナデスリスリちゃいたい位の可愛さだわ。でも体に障るから今は抱っこで我慢ね。ん?お目め開いたの?タルバは若草色だけど、パンちゃんはモノクロね。パンダに似てるからパンちゃん呼びだけど我慢してね。モノクロだからモノクロームちゃんの方が良いかしら?ん?どしたの?私の顔に何か付いてるの?じっと見詰めるパンちゃんの瞳を覗き込む。
〈モノクがいい…。〉
《パンちゃん喋れる様になったの!凄い!パンちゃん可愛いけど嫌?》
〈・・・。〉
《無理しなくて良いわ。じゃあ貴方はモノクね。私はリョウよ。暫く宜しくね。》
〈リョウ?違うの!違うよね?〉
《う~ん。本当は教えちゃ駄目なんだよ?でもモノクは悪い事に使わないわよね?私はすずよ。皆には内緒ね。ご飯食べてもっと元気になって、やり残した事を全て終わらせましょう。ね?》
さあ朝ごはんに行きましょう。昨晩城に瞬間移動し、食材をたんまりせしめて来た。少しは食生活も改善してるだろう。危険な任務であの夕食は有り得ないわ!
昨晩城に転移したら、まだ明かりの付いてる部屋を発見!覗くとクリス王子が居た!思わずお邪魔しちゃったの?何て下世話な事を考えてしまいました。ごめん。クリスは夜中まで執務をしていた。
コンコン。
〈こんな夜更けに誰だ?急用か?〉
《突然すみません。元婚約者の聖女です。》
いきなりドアが開く。まんまる眼のクリス。私はクリスに事情を話した。クリスがかなり真面目になった噂は聞いてたけど、こんなに遅くまで政務をこなしてるとは驚きだ。噂は本当だったんだね。アニー、本当に良かったね。クリスは厨房に掛け合い、かなりの食材を用意してくれた。私はそれをインベントリに入れ輸送したわけ。
《夜中に有り難う。そろそろ行くわ。》
〈いや。此方の認識不足だ。助かった。感謝する。既に私の名は知ってるよな。私はクリスだ。アニーを幸せにする。本当に有り難う。〉
《2人で幸せになってよ。私はリョウ。今更だけど宜しくね。そう言えば、王妃様は亡くなったの?金髪の王太子を見た後に、茶髪のルードを見たら何だか似てるのよ。神様に体験させられた聖女の子供達にね。弟も金髪青目だった。クリスも金髪青目だしね。まあ良いわ。本来の自分で現れた時に本人に聞くわ。》
〈伝えときます。リョウ有り難う、〉
《何故私がお礼を言われるの?ではまたね。クリスこそ有り難う。アニーに宜しくね。》
*****
朝食は鶏肉とトマトとチーズのリゾット。ポテトサラダ添えの厚切りハムエッグ。兵士の方々には少なそうだが、普段よりは格段に質は向上した。今日上手く行けばお肉てんこ盛り!皆ファイトよ!
ダンジョンの魔物は倒すと消えちゃうんだって。でもドロップ品と言う物を落とす。低層の魔物はその魔物の素材が多い。今回は肉が多いそうだ。なら張り切らないと!砦の人員は多い。私の手持ちでは行き渡らないからね。
モノクちゃん、リゾット美味しいでちゅか?スプーンでお口に運ぶとごっくんする。今朝起きたら聖獣は 、タルバと同じ形態になっていた。しかし色彩は白黒のパンダみたい。しかしまだ体力も魔力も少無く、まだ人型にはなれない。どうやら昨晩私の腕を噛み、血液から魔力を摂取したらしい。バスタオルからもだ。波長が有った様で良かった。おかげで姿が戻ったみたい。タルバに聞くと、アネモネのカーバンクルだと言う。アネモネ?あ!確か白と黒の花が有ったわね。花言葉は確か…。まあどちらにも取れるわ!
さあモノクちゃん!体力付けて元気を出すの!主の最後の願いを叶えましょう。
私達も協力するわ。
*****
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