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❪わたし15さい❫
▪リアーナ嬢とお義兄さま。
しおりを挟む現在私とカインを乗せた馬車は、リアーナ嬢の領地を走っている。二つの領地を繋ぐ街道はしっかりと整備されていて、途中には宿場町まで出来ていた。領地を跨ぎ往来する人々のためだろう。私たちは簡易転移門で領地の境まで飛べるため、馬車には領地境を越えてからになる。
「簡易転移門っていうか、もうこのサイズになれば門では無いわ。転移装置とかでも良いんじゃない? 」
私の魔道具作りはかなり専門的な分野にまでやり込んでいた。転移門は座標を入力すれば、同じく転移門のある場所に移動できる。さらに扉をくぐるタイプなので、扉を閉めるまでは複数の人間が移動できる。簡易はその劣化版で、己の魔力を使い、運んで貰う形になる。移動できる人数も込める魔力量によるが、二、三人が限度になっている。
今回私たちが使用したのは、掌に乗るくらいの箱型の転移用魔道具だ。一度訪れた場所を登録すると、次回からはその場所に飛ぶことが出来る。もちろん私が作った魔道具よ。王家にも見本として一つ献上したんだけど、皆さん転移の道具だからと、門と呼ぶのよ。たしかに扉は無いけど、違う場所に道を繋ぐ意味では門だけど……
「しかし何だよそれ……それがお土産なのか?せっかくの素晴らしい機能が、見た目で台無しじゃないか? 」
ちょっと!何を仰るんですか!
「カインにはなぜ、この可愛らしさと有能性の合体が理解できないの? 本当はもう少し小さく出来れば、アクセサリーにも出来たんだけど……どうしてもこれ以上は無理だったのよ。でもこれなら持ち歩いても変では無いわ! 」
「リアーナ嬢はお前より年上だぞ。そのクマを抱えて歩くのは恥ずかしいと思うぞ……」
「へー。良くそんなこと解るわね。ふーん。カインはリアーナさんの性格を熟知しているのね。女性なら可愛いものは好きなはず。恥ずかしいならカバンに入れて歩いても構わないわ」
実はこの転移の魔道具を、テディベアの中に内臓したの。魔道具は行き先を確認するために、外気に触れる必要が有るから、お腹の部分から見えてはいるの。でも上からフリルエプロンをしているから大丈夫。反応が悪ければ捲ればオーケーよ。
「これをペロリと捲るんだな。見ちゃいやーんってか? 」
「カイン……このクマは男の子です」
「はあ? 男の子ならフリルは要らんだろ? 」
「要るんです! 王子さまなどは、フリルブラウスを着用していますよ? なんならカインも着てみますか?ちなみに公爵領のテディベアはすべてオスです。ウサギさんがメスなんです! 」
「……変なところに拘るな……解った。もうなにも言わん……」
リアーナさんは、領内に転移門を設置したいと頑張っている。それまでの繋ぎになれば良いと思うのです。
「ほら。そろそろ領主邸だ。こちらで一週間お世話になる。そのあとの一週間は、湖畔の別荘を貸してくれるそうだ。お前は料理は出来るのか? 」
「失礼ね! って言いたい所だけど、手の込んだものは出来ないわよ。もとの世界ではお手伝いさんが作ってくれたし、料理教室には通ってたけど、実際に作ったのは少ないからね」
「そうか……まあなら買えば良いか……私も簡単なものなら作れるしな」
湖畔の別荘には、料理をしてくれる人はいないのかしら? まあ普段使用していないなら、使用人が集まらなかったのかもしれないわね。
馬車が大きな門の手前で一時停車した。馭者が門番らしき人に、何かを手渡し話をしている。すると大きな門が開き始め、馭者が戻り再度走り出した。長々と続く綺麗に舗装された石畳の道を走る。道の両脇には鮮やかなグリーンで彩られている。今は花の時期ではないけど、清々しい緑が目を楽しませてくれる。やがてお屋敷の前に馬車が停車すると、お屋敷に続く階段をリアーナさんが下りてきた。
「マリアレーヌさん。カインドルさん。ようこそいらっしゃいました。短い間ですが、寛いでくださいね」
「リアーナ嬢。お言葉に甘えて連れてきた。よろしくお願いする」
「リアーナさん。お言葉に甘えて来ちゃいました。よろしくお願いしますね」
私たちは挨拶を交わしながら、リアーナさんに促されて邸の中に移動する。中に入ると左右にはズラリとメイドさんたち。その中の一人に案内され、客間へと通された。
部屋に入り窓を開ける。カインのところよりやは緑が多い感じがする。冷たい空気が美味しくて気持ち良い。お隣なのにずいぶん違うように見える。やはり鉱山であるあの山々が、分断しているからだろうか?
お疲れでしょうから、夕食までは休んでくださいと言われたけど……軽く湯浴みして、少しお昼寝でもしようかしら?やはり馬車に乗るとお尻が痛いし、節々も軋むのよ……
バスルームはここかしら?部屋のドアノブをガチャリと回す。え?うぇ……えーなんでー!!
「ちょっと! なんでカインがここにいるの? 隣の部屋とは聞いたけど、なぜ繋がっているの? それよりも! 早く服を着てよ! なんでパンツ一枚なのー!! 」
「うるさい! 風呂に入ろうとしていたんだ! 見たくないならサッサと扉を閉めろ! バスルームなら違うドアだ。私はこのまま入る。だから早く閉めろ! 」
慌てて扉を閉めた。左の扉を開くとバスルームがあった。ではこのさらにお隣の扉は……ウォークインクローゼットとかかしら?まさか客間にキッチンは無いわよね?気になりドアノブに手をかけ開閉する。
……また寝室……しかも巨大な天蓋つきベッドが鎮座してるし……もしかしてこの客間って……
「おい! どうやらリアーナ嬢が気を回してくれたらしい。この部屋は夫婦や恋人用だ。この部屋の大きなベッドが、二人で寝る奴だな……」
リアーナ……たしかに本当のことを話していない私たちが悪いのかもしれないけど、これは気の回しすぎよ。本当の恋人でも、まだ結婚をしていません!私のジト目にきづいたカインが慌てて手を振る。
「大丈夫だ! なにもしないわ! 地の神龍様に抹殺されるわ! 心配ならこのドアを、開かない様にしておけよ」
急いでお風呂から出てきたらしいカインは、紙をガシガシタオルで拭きながら、巨大ベッドの後ろの壁にある扉から顔を出していた。
やはりそちらの部屋からも繋がっているのね。
「はいはい。了解です。カインはサッサと乾かしなさいよ。風邪をひくわよ。そうだ……はいドライっと。これで大丈夫よね? 」
「サンキュー。私は少し昼寝する。何かあったら起こしてくれ」
「私も寝るわ。おやすみなさい」
「あぁ。おやすみ……」
カインが部屋に戻り、私も軽く湯浴みをしてから、フカフカなベッドに潜り込んだ。
*******
ドンドンドン!と、何かを叩く音がする。あーもう煩いわね……ハッ!やだ起きなきゃ!
案の定、カインが続き扉を叩いていました。私は急いで着替えて、扉を開きます。
「遅い! いったい何時間昼寝をしているんだ! 外を見ろ! すでに暗くなっているぞ」
……解っているわよ。でも案外疲れていたんだから仕方がないじゃない。
「まあ良い。とにかく夕食に行くぞ。すでに皆さまお待ちだそうだ」
リアーナさんの家族を待たせてしまったのね。私とカインが会食場に到着すると、執事の様な方が、扉を開き席まで案内してくれた。私は遅れたお詫びとお招きいただいたお礼をして着席する。腰を落ち着け、グルリと周囲を見渡す。今日の夕食に参加するのは、リアーナさんの家族だけと聞いています。でもあれ?
「えー! どうしてお義兄さまがいるの? しかもリアーナさんのお隣に座ってるし! 」
なぜかお義兄さまが、素知らぬ顔をして座っています。
「マリアさん。実は彼には、私たち一族がこちらに移転する際にお世話になったのです。主に書類の手続き関係をですが、国を跨いでいるため複雑でした。彼のお陰で慰謝料はたんまり貰えましたし、移住もすんなり通り助かりました」
お義兄さまは第二王子さまの側近だったけど、もとは優秀な文官で、若いのに出世頭だと言われていた。だから手続きは万端だったのね。
「……もしかしてカインも知っていたの? 」
隣で飄々とした顔をしているカインに声をかけた、
「ああ。どうせ家族にも話さなければならないことだろ? お前は家族にもなにも言わずに消えるのか? 義父母には多少のわだかまりは有るだろうが、現在の関係は良好なんだろ? 」
義父母へのわだかまりの点で、お義兄さまの肩が揺れた。お義兄さまは私が幼いころから、義父母に被験体にされてきたことを知っている。
「わだかまりはもう無いよ。王妃さまには逆らえなかった。その王妃さまも辛い思いをしていた。でもすべてが解決したじゃない。だから良いのよ。あとはこの世界の人たちが幸せになることを、私は願っているわ」
リアーナさんのお父さまの挨拶のあと、私たちは食事を始めた。こちらの領地にも、かなりの海鮮などが流通していた。フルーツと海鮮をあわせた、カルパッチョは絶品でした。またそば粉を使用したフルーツパンケーキ。そば団子のお汁粉。リアーナさんも色々と工夫し、領地を盛り上げているそうです。
夕食を終え私たちはサロンへ移動します。お茶を用意していただき、私は部屋に強固な結界をはりました。
「これからここで話すことは、現時点では国のトップシークレットとなります。すべては私の成人の儀の時に明らかになり、神龍様と女神様を信仰する国々に発信されます。それまでは絶対に誰にも漏らさないでください。これは王よりの勅命となります」
私は王よりの書状を、リアーナさんのお父さまに手渡した。それを開封し目を通し、私に向かい頷いた。
「了承した。我々は絶対に外部には口外しない。話を始めてくれて構わない。よろしく頼む」
私は覚悟を決め、両手でこぶしを強く握りしめた。
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