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❪わたし3さい❫

▪他の人では嫌なのー!

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 くっ、悔しい……天下の宝刀が効きやしない。さすがににこの御願いは無理だっただろうか?

「 いやぁなのー。おじさまが良いのー。師匠なのー。お義兄様ってば!ねえってばー! 」

 うーん。さすがに王弟さまを家庭教師には、無理がありましたか?家族皆で恐れ多いとか、あの方は多忙だからとかクチを濁しおって……しかしお茶会情報では、王弟さまはあの事件以来は本当に名前だけの役職で、なーんの役目も与えられていないって。【昼行灯なボウフラ】なんて陰口を言われてるんだよ!ならお仕事をあげても良いじゃない。

 お義お兄さまも、 王子さまに姫さまたちも、とうぜん義父母ももう反対だって!

 心配してくれるのは解るけど……私情の方が多くはありませんか?いわゆるハニートラップのビッチによる、婚約破棄事件。表立っては揉み消されているんだよ。もう何年経つの?少しは王弟さまにも挽回の場をあげようよ。

 私の家庭教師では挽回になんてなりませんか?

 でもそれではこの国にも悪いはず。働かざる者食うべからず。キチンお仕事を割り振るべき。てな訳で私がちょいとお邪魔をしようかと。だってみーんな王弟さんをバカにしてるの。でもね。じつはしっちゃったんだ。人には適材適所があるのよ。王弟さんにだって……

 あ!巫女さまたちが来たよ! わー綺麗な衣装がキラキラしている。これから神様と女神さまへの、奉納の舞も行われる。一大イベントだね。あ!王弟さまいた!やっぱり……彼は然り気無いんだよね。だから邪な気を感じない。それってつまり純粋なの。だからビッチのハニートラップに乗せられたつもりが、これ幸いと手駒にされまんまと嵌められてしまった。

 ハニトラに引っ掛かったのは本当。でも最初の動機は違ったの。現王妃さまのお姉さまが亡くなり、彼女が王太子の婚約者に繰り上がる。それに気を遣わせたくはなかった。己れより兄と結婚して、王妃となったほうが幸せだからと身を引く決心をした。

 しかしもしかしたら大丈夫かもしれない。誰か良いご令嬢が存在するかもしれない。王弟さまはそう考えたのだけど……

 婚約者の選定は暗礁に乗り上げていた。

 ねらばやはり……

 それだけ政略結婚とはいえ、王弟さまは現王妃さまである婚約者が大切だった。愛していたかは解らないけど、好きだったのは本当のこと。そして王弟さまは気付いたの。周囲は己に遠慮をしている。

 どうしようもない真実を言い出せないだけ。

 己れの婚約者が繰り上がるしかないこと……

 ならば己が道化になろう。彼女のため。兄のため。そして國のために……

 そうよね。少し考えれば解ること。この国の王子さまやお姫さまたちは、他国との政略結婚の絡みもあり、男子は二十歳、女子は十八歳位での婚姻が主だ。自国内での貴族間の婚姻より遅い。他国と婚姻平均年齢が違うことなどを考慮している。しかしこれが仇となった。王太子さまの婚約者にちょうど良い年回りの令嬢が、国内ではほぼ結婚しており全滅。実は周辺諸国では見付からず、国内で婚約者を決定した経緯もあり、やはり国外では駄目。そうなると……

 内々に婚約者の繰り上がりは決定していた。それを知った王弟さまは、良かれと思い辛い決断をしたの。しかしそれが裏目に出てしまった。

 王弟さまは純粋すぎたの……

 王妃さまへかける言葉を間違えてしまった。

 そして王さまは言葉が少なすぎた。

 王妃さまには拒否権はなく……それでも王妃たろうと頑張った。

 屑ビッチは本当にビッチだった……

 最後に王弟さまが自力で魅了の魔法を解除したら、すべての罪を王弟さまに押し付けて、自らの奥歯に仕込んだ毒で自決した。しかし自決に気付いた者に無理矢理延命され、その場では死ななかった。いえ、死なせて貰えなかった。しかしビッチもプロだった。処刑まで口をいっさい開かなかったという。

 捕らわれた他国の間者の末路ってものすごいの。あれでは人間としての尊厳すら失ってしまう。死んだ方がマシだよね。

 ビッチはとある大国の間者だった。大国はビッチに王弟を惑わせ傀儡として、この国に内乱をおこそうとしていた。王弟を王として担ぎ上げ、自国から妃をだし、内政に口を出す。

 やがては国ごとのっとるつもりで……

 
 たぶん王さま側もすべてを知っていた。ただ王弟さまはすべてをしっていたが、ビッチの手管にまかれてしまった。ビッチを利用するつもりが、相手の方が一枚上手だった。このことを知っていたのか?もし王さまがすべてを知っていて、王弟さまを現状のままにしておくなら酷すぎる。一国の王としての決断だとしても、兄弟を不幸のままにしているなんて! 王さまがキチンと王妃とさまと向き合っていたのなら、王妃さまだって、大罪を犯さずに済んだかもしれない。まあこれはあくまでも憶測だけどね。

 人の心は難しいよね。

 しかしこれらって、お茶会でお話するようなことなの?ケーキを頬張りながら、すみっこで描聞き耳を立て情報を集める私。もう立派な間者じゃない。まあハニトラは無理ですけど!拷問も嫌ですけど!私ってばチビだから警戒されにくいの。間者もし放題なんだけど、やはり肉体的に無理があるみたい。今の私が早急にしたいこと。

 今はとにかく文字が書きたいよ! たくさんの情報や知識を覚えきれないの。まるで手のひらの指の隙間から漏れ出すように、すでに得た情報が消えていくのが辛い。この三歳児の記憶量ではたかがしれてるの。

 でも読み書きは出来るのよ。どうやら自動翻訳しているみたい。しっかり見ていないと解らないけど、言葉が口パクみたいになってるときがある。女神さまがこちらの世界で苦労しないようにと、加護やチートをつけてくれたらしいからね。加護はビンビンに効きすぎて、不死のバケモの扱いされてますけど……

「マリア? 大丈夫?具合が悪いの?はしゃぎすぎたの? 私も少し休憩しているわ。マリアは私が見ているから、皆は楽しんで来て」

 優しく微笑みながら、私の頭を撫でる美少女。

 聖なる魔力をもつ巫女姫さまたちの祈りの舞が終了し、神殿に預けられている娘たちは、一時両親の元へ戻る。それぞれ個室を与えられ、家族団欒で寛ぐ。明日からはまた彼女たちは神殿に戻る。十五歳で行われる、成人の儀までは婚姻もかなわない。しかし今回は年頃の王子さまも多い。こんなに綺麗で優しく、しっかりしたお義姉さまなら、王子妃にもなれそうね。

 …………やだ!私ってバカなの?巫女姫さまたちは、よくよく考えたら、私と同じ日に誕生したのよ。つまり同じ年齢じゃない。えー。あんなにしっかりした体格で三歳なの?たしかにこの世界の人々は大きい感じはしていたけど……どうりで周囲が執拗に私に食べさせようとする訳だ。私と双子設定のお義姉さま。どう見ても三歳児には見えません。下手したら二桁くらいにみえますが……

 もとの世界との三倍速設定のせいかしら? ううん。きっと私が貧弱なのもあるのだろう。

 意外に皆さん私が感じているより若いの?まあ年齢なんて関係ないさー。覚えてもいられないし、頭痛いから忘れよう。

 うーん。少し王弟さまとはしゃぎすぎたかな?眠いよ……目蓋が落ちそうなの……

 「お義姉さま……キレイねー……会場にねー聖なる魔力がピカピカして弾けとんでいるよ。それらが私の体に吸い込まれてゆくの。体がポカポカするよ。貰ってもよいのかな? 」

 『やっと見つけた……でも今は魔力として還元するわ……聖なる魔力が貴女から見つかると、また一騒動起きそうだから……お疲れさま……』

 「大丈夫よ。キチンと魔力として還元されているわ。でもあまり無理はしないの。私もこの聖なる魔力を守るわ。必ず己のものとしてみせる。単なるラッキーだなんて、誰にも言わせない。努力なしではなにも手には入らないのだから。女神さまも頑張って下さっている。私たちは一人じゃない……」

 お義姉さま?お話がむずかしすぎなの……

『王弟さまのことは任せて……貴女のサポートを頑張るわ。辛いお願いを聞いてくれてありがとう。貴女の願いを叶えます……』

 んぅん……すぅぅ……ダメ……もうねむいの……

 今のは全部お義姉さまの言葉なの?いっぱいいっぱいでわからない。ほかに誰かいたの?優しいお義兄さまにお義姉さま。悪者なんだけど……真の悪者にはなりきれない義父母たち。

 まだまだ痛いのも続くけど、かなり待遇改善され、伯爵令嬢になってしまった私。

 タイムリミットでは大団円!誰もが幸せに……は無理かもしれないけど、誰もが幸せにはなりたいはず。そのために!みんな足掻いているんだよ。

 だからね!ファイトなのー!

 頑張るぞー!

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