上 下
21 / 29

〈神様たちの井戸端会議❶〉

しおりを挟む
 
 天使の見習いがテーブルの上に、温かい紅茶とスコーンを用意してくれる。二人ほぼ同時にイスにドサリともたれ掛かった。

〈はぁ…………疲れたねぇ……〉

〈ふぅ…………疲れたよぉ……〉

 いつもなら喜んで飛びつくスコーンにも手をつけない。見習い天使はなにか粗相をしたかと、心配しながら二人をチラチラと覗いている。

〈ふぅ。なんとか無事転生完了。バレなくて良かったよー。しかし純愛だね~〉
 
〈ホントだよねー。見付かったら今度こそ、僕たち消されてたかも。純愛に免じて許してくれたのかも。なんちゃっててね〉

〈正直追加のお願いにビクビクしたけど、無理難題じゃなくて良かったよ。来世は必ずいろはちゃんの伴侶にしろ!とか言われたら、どうしようかと心配したよ〉

 〈そうそう。運命を結び付けるだけは、僕たちでも出来ないからね。ストーカーモドキにも言われなくて良かった。どちらもマトモなヤツだったわけだ。まあ腐れた魂は、例えミスで殺しても救わないからね。即刈るよ〉

〈そりゃそうだ。神だってばんのうじゃないんだよ。まあこれ聞かれたらヤバイけど。ねえ。確か彼が第一発見者でしょ?愛する人の死がトラウマになっちゃったんだね。看取るのが辛いから必ず先に逝きたいか~〉

 〈看取りたくないから愛を諦める。やはり純愛だね~〉

 〈つまり追加の願いは、クレハに長生きして欲しいで良い訳ね。まあ寿命で死ぬなら、クレハの方が間違いなく後だよ。だから僕達の神の加護と祝福付けちゃおう。これで病気も怪我も事故も殆ど無し。有っても加護で守られるから大事には到らないし、祝福で直ぐに完治に治癒だ。一応絶対防御も付けとこう〉

 〈それなら万全だね。でも彼がクレハの幸せを見届ける前に死んだら可愛そうだよ。彼にも同じの付けようよ。寿命なら間違いないからサービスだよ。でもそれなら伴侶候補の医者にも付けるべき?〉

 〈あのストーカー擬きには要らないよ。自分で何とかしちゃいそうだ。でもそうだね。彼にはサービスしちゃおう。僕達を見分けてくれたし気に入ったよ〉

 〈だよね~。僕も気に入ったよ。だからスペシャルプレゼントしちゃわない?〉

 〈何か良いの有るの?〉

 彼の転生した市政のギルドマスターは、実は蒼白の魔術師だ。しかしアプリ版での彼は名のりを上げていない。特に隠してた訳ではない。誰にも聞かれなかったし、わざわざ言わなかっただけ。

 〈一応、アプリではそう言う設定だよね。別に魔術四天王うんねんは、恋愛ゲームの本編には絡まないし、ストーリー的にも関係無い事だからね。でも彼なら、クレハがピンチで必要になれば絶対に名乗るよね?〉

 〈彼らが転生した世界は、あの物語と似てはいるけど違う世界。そして住む者達にはそれぞれ意思が有り、決して物語通りには進まない。ストーリー補整や強制力と言うものも働かない。あの物語は基本の話なんだ。だからアプリなんてのもごっちゃになってる。つまり将来を選び掴むのは本人なんだ。彼の知ってるエンディングは数ある可能性の一部。それは理解してるみたいだけど、充分な理解ではない。確かにアプリではバッドエンドはなかった。でもゲームじゃなくて現実だ。バッドエンドも有りうるんだ。先に転生した医師に見せた未来視もその一つ〉

 〈だからね。彼が蒼白の魔術師だと名乗らずを得なくなったらプレゼントしちゃおう。クレハがギルマス溺愛の軟禁ルート解放ね。世話焼きおかんにクレハが惚れちゃうけど、ギルマスは親代わりだからと答えてはくれない。思い余って襲っちゃう。最後はほだされ激甘ルートね〉

 〈それってクレハが襲うの?彼大丈夫?〉

 〈だからね。彼にはさらにおまけで、医者とクレハと同じ絶倫付けちゃう。これで彼らも朝までラブラブね〉

 〈ねぇ。僕もおまけして良い?二人でのラブラブは、必ず一緒にイケちゃう祝福ね。先に逝くのが嫌なら一緒にイケば良いじゃん〉

 〈確かに。先にイカれるのも嫌なんだよね。ニヤリ〉

 〈〈僕達だってやられるだけじゃないもんね~〉〉

 僕達の追加の祝福も喜んでね~。気付いた時には捕まってるだろうけどね。ストーカーも頑張れ~。僕達ストーカー押しだったけど、大分傾いちゃったな。どうなるかな~。

 〈〈楽しみだね~〉〉

 〈ねぇ。頭使いすぎて甘いものが欲しくなちとちゃった。天使さーん! スコーンのジャムたけど、ビンごとちょうだい〉

 〈あー! それならラズベリージャム一瓶と、イチゴジャムも一瓶ちょうだい。ツプツブまるごと果実入り、特大瓶詰めのヤツね。そんなにどうするのかって? 食べるに決まってるじゃない。天使はジャムを美肌パックにでも使うわけ? 蜂蜜じゃないんだから、気持ち悪いこと言うな! ジャムを食べる以外になにするのさ!〉

 〈…………〉

 〈そうだよ! 紅茶にもたっぷり入れちゃおう。やはり疲れると糖分が欲しくなるよね〉

 天使の見習いは慌てて、ジャムを瓶ごと貰いに走る。

 〈あーちょっと待ってー! スコーン一人三個じゃ足りません! 追加と缶入りクッキーもよろしく。ケーキがあればケーキも追加ね。クッキーには、ジャム挟んで食べちゃおうっと〉

 見習い天使に我が儘ざんまいの双子神。二人を探し回るこの世界を創世した転生神が、足音を早目刻々と近付いて来ます。

 二人の頭に巨大な雷が落ちるまであと少し。

 知らぬは本人たちばかりなり……

 *****
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄してたった今処刑した悪役令嬢が前世の幼馴染兼恋人だと気づいてしまった。

風和ふわ
恋愛
タイトル通り。連載の気分転換に執筆しました。 ※なろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、pixivに投稿しています。

虐げられ令嬢の最後のチャンス〜今度こそ幸せになりたい

みおな
恋愛
 何度生まれ変わっても、私の未来には死しかない。  死んで異世界転生したら、旦那に虐げられる侯爵夫人だった。  死んだ後、再び転生を果たしたら、今度は親に虐げられる伯爵令嬢だった。  三度目は、婚約者に婚約破棄された挙句に国外追放され夜盗に殺される公爵令嬢。  四度目は、聖女だと偽ったと冤罪をかけられ処刑される平民。  さすがにもう許せないと神様に猛抗議しました。  こんな結末しかない転生なら、もう転生しなくていいとまで言いました。  こんな転生なら、いっそ亀の方が何倍もいいくらいです。  私の怒りに、神様は言いました。 次こそは誰にも虐げられない未来を、とー

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~

つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。 政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。 他サイトにも公開中。

異世界営生物語

田島久護
ファンタジー
相良仁は高卒でおもちゃ会社に就職し営業部一筋一五年。 ある日出勤すべく向かっていた途中で事故に遭う。 目覚めた先の森から始まる異世界生活。 戸惑いながらも仁は異世界で生き延びる為に営生していきます。 出会う人々と絆を紡いでいく幸せへの物語。

男の娘チート転生者

八頭 鶏
ファンタジー
 前に書いていた異世界物のリメイク  ⚠ 17まではチート感が無いです。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

処理中です...