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 紅葉はキスの意味が解らないのか、私の顔を覗いて不思議そうな顔をしていた。私は慌てて言い訳をした。

 〈このキスは大好きな人にするんだよ。また会えたら良いねって言うおまじない。私を忘れないでね。紅葉ちゃんが大好きだよ〉

 紅葉は恥じらいながら、チュッとお返ししてくれた。

 《お兄ちゃん大好き。またね。 あ!この本あげるね。児童書ではなくて大人も読めるの。初めて会った時に読んでたでしょ? 》

 私が紅葉から受け取った本は……

 【勇者は魔王と結婚しました。~子沢山は世界を救う~】

      では無く、

 【勇者に堕ちた魔王。~ハーレムを築いた
勇者は子をどれだけ成したか~】

 先の本のの児童書版ではなく、なんと成人版で有った。しかも18禁ではないか。勇者は性別に拘らず子を孕ませハーレムをつくる。更には自身も子を孕むだと?児童書版でさえどうかと思ったが、この本は更に上を行くな。この女性の出生率の低い現在での夢物語なのだろうか?もしそうなら確かに興味深いな。

 《お兄ちゃん大丈夫?ご本要らなかった?あのね。その本が実現したら国が幸せになれるんだって。結果が出れば、きっと私も解放される。今の勉強も終了したから魔法も習える。研究頑張るよ。お兄ちゃんも頑張ってね》

 〈ああ。本を有り難う。魔法が習えるのがそんなに嬉しいのか?〉

 《うん。前に父に頼んだら、女には必要無いって言われたの。でも今は勉強出来るから嬉しい。魔法が使えれば私も役に立つでしょ?要らなくないよね?私は自分の居場所が欲しい》

 〈頑張れよ。また必ず会おうな〉

 私はそれ以上はなにも言えなかった。この幼い子に課せられた重圧。しかしなぜ紅葉に研究を託すんだ?しかも自らが検体だろ?さらには王妃教育だ。確かに研究が実現したら世間の反響は凄まじいだろう。開発に関わった紅葉の価値も上がる。しかしそれだけか?何かが引っ掛かるんだ。それが解らない。俺は自身の紋章入りの指輪に鎖を通し、紅葉の首にかけた。

 〈もしなにかどうしようも無い事があったなら、この指輪を持って帝国へおいで。その魔力量ならお城のゲートを突破出来る筈。握りしめて私を思い出して。直ぐに助けてあげるからね〉

 紅葉が不思議そうに瞳を瞬く間に、私はそっとその場を立ち去った。

 *****

 帝国へ戻ると私は父王への挨拶もそこそこに、本格的に紅葉の周囲を探りだした。そして漸く辿り着き理解した。あの時引っ掛かったなにかをだ。キーワードはあの勇者の本だった。紅葉は勇者と同じなのだろう。勇者と同じく、体内に宿す膨大なまでの魔力量。その魔力量が体内に子を育む器官に影響し、子供が出来やすくなる。これは古の始祖竜の血とやらの影響だろうか?

 紅葉の愚兄である公爵家嫡男と接触した諜報からの情報によると、紅葉は母親と共に死産扱いをされていた。しかし膨大な魔力量と、肩に浮き出た紋様に目をつけた公爵が、研究者たちに紅葉を実験体として与えた。紅葉は私と出会うほんの少し前まで、屋敷に監禁状態だったという。

 紋様とは公爵家に口伝として伝えられている、始祖竜の血の証らしい。先祖返りでこの紋様が体のどこかに現れると、その者は相愛である人の子を、欲しいと願えば十割の確率で得ることが出来るらしい。眉唾だが凄いな。紅葉の肩には、その紋様が浮き出るそうだ。

 しかし……あの愚兄は知っているのだろうか?貴様の汚い尻にもその紋様が浮き出たそうだぞ。まあ鏡で己の尻などは見まい。知らぬが仏だな。体温の上昇で浮き出るそうだが、情事の最中に女もヤツの尻など見たくはないだろう。

女性たる紅葉が祖先の勇者のように、男性を孕ませることは不可能だろう。だがあの愚兄ならばどうだ?それこそあのボンクラと、監禁して実験してみたらよい。少しは紅葉の気持ちがわかるだろう。

 しかし紅葉は……そんな環境だったから、あんなに勉強が出来ることを喜んでいたのか……王妃教育など、大人でも根を上げる代物だ。なのにそれたった一年で完璧にしあげだなあんなに勉強が出来ることを喜んでいたのか……王妃教育など、大人でも根を上げるようなスパルタだ。それでも嬉しいと……

 そして研究されていたのが、あの勇者の本の内容だった。勇者は公爵家の先祖らしい。まああの本の理屈は私には解らない。しかしそれを解明する為に、見捨てられたと同然だった紅葉は拾い上げられた。だからこそ居場所を欲っしていたのか……

 月日は流れ紅葉が十歳になったころ、女性側の受精率を五割増しにするという、画期的な薬が発表された。同時に王太子とその薬の開発者の一人、紅葉との婚約発表もなされた。私はやはりと頷くしかなかった。しかしかの国は、紅葉の体質の事を隠して発表した。あくまでも紅葉は、薬の開発の第一人者としての発表だ。まあ世間に紅葉の体質が知られたら大変な奪い合いになるだろう。それは私も本意ではない。しかも王太子の傍らで、紅葉は微笑んでいたと言う。ならば私は見守ろう。あの子の幸せの為に。

 しかし面白い。やはりついつい、愚兄の紋様が気になってしまう。紅葉の兄は勇者と同じになり得るのか?しかし相愛でないと駄目なのか……あのボンクラと試したら楽しそうだが……

 ボンクラと愚兄を後継から外せば簡単だが……

 今は紅葉の自由の邪魔になる。

 よし!

 紅葉を不幸にしたら試してやろう。

 勿論、最新情報の入手には抜かりは無かった。

 *****

 あれから五年後。ボンクラ王太子からの婚約破棄で、紅葉は市政に降りた。諜報として潜り込ませていた、偽の神子姫役も案の定紅葉を追った。偽の神子姫をかの国に潜り込ませ、王太子その他を籠絡させたのは私の指示だ。神子姫が現れた後紅葉が市政のギルドに登録し、魔術師の資格を取ったのも調査済みだった。実践を詰めば直ぐにでも、S級冒険者になれることも、魔術四天王に取って変わったこともな。

 王太子は側近たちと神子姫に侍り、公務も放棄し享楽に耽っていた。そんな中でも紅葉は学園に通いがてら魔道具と魔法の研究をし、たくさんの研究結果を上げていた。さらには公務を放棄した王太子の代わりに、外交をこなしたりもしていた。

 ここで隣国の王は紅葉に惚れたそうだ。全く忌々しい。更には国営図書室に通い、諸国の勉強をする。そんな中、図書館に特別室が有る事を知る。魔術師専用の高度な魔術書が閲覧できる部屋だが、閲覧をするには魔術師としての資格が必要。その為に紅葉は魔術師の資格を取り、しかも最高ランクにまで上り詰めた。

 正直、紅葉を女王にした方が国は良くなるな。しかしそうはさせないぜ。紅葉は二度と国には戻らない。もしも国に戻りたいと言うのなら、私が合法的に女王として凱旋させてやろう。多分こう思っているのは私だけでは有るまい。紅葉の血筋ならば、王の首をすげ替える事も出来るのだからな。

 *****
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