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父さんの涙。

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と…父さん…。夫婦の感動の再会が、その一言で全てが台無しだよ。何だか父さんのイメージが、段々と残念勇者になってゆく。

お願いだから空気呼んでくれ…。

「全く…。正行さんは相変わらずね。初めて会った頃は、私の事小学生だと思ってたのよ。でもその小学生の子供の家に転がり込み、子供作って結婚までしちゃう。婚姻届けの保証人の欄の記入を、土下座しながら泣き落としで迫る。私の法廷後見人の方も驚いたわよね。懐かしいわ。」 

母さん…。息子の前でそう明け透けにぶっちゃけるのもちょっと…。父さんは泣きすぎだろ!

父さんや会場にいる皆に、母さんがこちらに来た経緯と、何故若い姿なのかを説明する。

「つまりね。時系列で言えば、私は未来から来たわけよ。若返ってね。だからね。宰相さんには私の気持ちを軽く考えて欲しくない訳。私は1人で祐太郎を育てた。その祐太郎が居なくなり、更に1人で25年近く生きたの。貴方にはほんの少し前の事でも!私には長かったのよ!!」

母さん…。

「後ね。今回の結果は有る意味良かったのよ。もし私がこちらに来なければ、また勇者召喚をするつもりだったわよね?でもしてたらどうなってたかしら?多分私が出てきたわよ。」

「まさか!先代勇者と貴女には、血縁関係はないだろう!あっ…。」

「気付いた?ソフィさんが生んだ子供達の魔力よ。彼等の半分は正行さんの遺伝子。つまりは私と血縁は無くとも、祐太郎とは有るわけよ。魔方陣はなるべく与えられた魔力と近く等しいものを引き寄せる。私と正行さんには、既に他に血縁者は居ない。だから正行さん側から血縁者は喚べない様に感じるわ。直接私を喚べないとね。」

しかしそうでは無かったんだね。

「因みに私と血縁関係が無くとも、貴方の孫達は私の息子の弟妹なの。弟妹から息子。しかし息子は既に異世界にいる。だから次に近いのは私。また見逃してるけど、正行さんから息子。そして私という逆も成立する。私と息子は血縁よ。そこの血の繋りから呼ばれるわよ。後ね。血は直接繋がらなくとも、近親を優先するそうよ。」

魔力は遺伝する。魔力量の大小もだが、質も同様だ。魔力とは血液に近い。血液は血液型に分類できる。魔力も同じく、属性の扱い易さ等で質に差がでる。これは血液型が遺伝子による物の様に、魔力も遺伝子により伝わるパターンが有るのだ。

「つまりね?補給した魔力を号算すれば、どんなに甘く見積もっても、赤の他人よりも私を喚び出す確立が高くなるのよ。神様が言ってた。だから今回、狭間の私を助けたんだって。どちらにしろ喚ばれるなら、早い方が良い。また私が狭間で消滅すれば、また全く違う人間の人生を歪めるからって。私達家族は、宰相さんの行為の生け贄になったんだって。異世界人に力を借りる為に喚ぶのに、その代償たる魔力までケチるからよ。それ位は己の世界で賄え!ケチり過ぎだ!!」

・・・・・。

母さんが一気に捲し立てた。やはりかなり腹が立ってるんだよね。平気な訳無いじゃん。

それに魔王復活が早まれば現勇者、つまり俺の魔力をも使うつもりだったそうだ。宰相はこっそりと、魔力を搾取するブレスレットを発注していた。

「俺は鑑定MAXだぞ。変な魔道具何てつけないぞ。でも足りないからと頼まれたら、あげたかもしれない。俺の魔力が媒体になれば、喚ばれる血縁は確かにもう母さんしか居ないな。どうせ金のかかる、他の魔力を混ぜるつもりなんて無かったんだろ?何故国民で出しあうとか出来なかったんだ?無償が無理。魔力持ちだけが損になると言うのなら、魔力で税を支払うとかも出来ただろ?その集めた魔力は動力にもなるんだ。魔道具を作動させたりと、公共でも役に立つだろう?上下水道の動力にもなるしな。少しは頭使えよ!」

宰相ははっ!とした後、ガックリと項垂れていた。もしかして、こんな簡単な事にも気付けなかったの?でももう遅いよ。召喚は2度とさせないからね。

母さんと色々考えてはいるんだ。先ずは教会だよ。この世界の神様は、キチンと見てくれてるんだ。だから皆もお礼をしようよ。魔王の脅威が無くなった今こそ、神様にお礼も色々と出来る筈なんだ。

「宰相さん。貴方の罪は理解できた?以前母さんが言ったよね。貴方に責任を取らせるなら、王様にも責任が生まれるって。貴方は1人で全ての責任が負えるのかって。でも考えたら王様にも責任は有るよね。貴方は部下何だからね。」

俺は立派な蝋封で止められた、白い封書を取り出す。宰相はその蝋封を見てビクリとする。

「これは国王としての正式な親書では有りません。あくまでも、国王個人からの親書です。」

内容は宰相のした事についての、我々異世界人へ対するお詫び。また先代勇者の子達を引き取った義父母へのお礼。それらは己の不甲斐なさによるものだ。兄が失踪し己がいきなり王となった。その重圧にたえられ無かった。兄の魔法(呪い)を解除する。兄を探し出す。頑張って勇気を振るってくれた、先代勇者の体を治したい。

王様はそれらを調べる事が、単なる自己満足だと気付いてはいた。しかし何かをしていなければ、重なる重圧に耐えられなかった。ついつい宰相に任せ、甘えてしまったのだ。

此度の件は宰相の独断ではない。全ては不甲斐ない私のせいである。だから宰相だけを責めないでくれ。私が責任を取る。そう綴られていた。

「王様はキチンと理解してる。己が現実逃避してた事。突然転がり込んできた王座。しかも己が望んだ訳じゃない。それまで帝王学を学んで来た訳でもない。本当に突然の事。かなりの重圧だ。しかも伴侶は既に亡くなっている。子は1人娘のみ。周囲は再婚しろとせっつく。だから召喚の全てを任せろと言ってくれた宰相さんを頼っちゃったんだよ。宰相だって、最初は王様の負担を少しでも軽くしてあげたかったんだよね?」

・・・・・。

ふと気付くと、ワンコがウンウンと首を縦に振っている。宰相と王様は所謂幼馴染み。王妃さまと宰相の奥さんも仲良しだった。しかし先の魔王との戦いの中、慰問に訪れていた孤児院を魔物に急襲された。孤児院は全滅し、慰問していた方々も亡くなったそうだ。

「勇者が…。勇者がもう少し早く魔王討伐に出発してくれていれば…。」

バーコードがバレて恨んでたんでは無いんだ?でもそれは逆恨みだよね?宰相は多分もう理解はしてるのだろう。

「今なら理解できます。私が間違っていました。でも!歴代の勇者は討伐まで、長くとも1年かからなかった。なのに今回は2年立っても出発できない!何故今回はハズレを引いたんだ!妻達の命の犠牲を支払い、漸く討伐を終えた。しかし今度は王兄だ!アホな呪いにはかかる。何もかも放り出し失踪はする。責任感という物は無いのかとつい…。」

しかも討伐早々に、魔王復活の兆しが現れた。やはり今回の勇者は、討伐に失敗したのではないのか?疑心暗鬼になり、勇者が信用できなくなる。再度召喚する為の魔力を直ぐにでも補填しなければならない。しかしまたかなりの予算をくう。復興にもかなりの予算をさいている。これ以上は…。

「つい魔がさしました。原因で有る勇者に責任を取らせようと。次いでに次代も産ませよう。1から育てれば、今回の様な失敗は起こらない筈だと。」

勇者の魔力量を受けつげは、魔方陣への魔力補充にも使える。鍛えさせておけば、次回の魔王討伐に直ぐに出発させられる。

成る程ね。だから俺の時は、直ぐに出発させたんだな。メンバーも決まってたからな。

「さて!では宰相さん!取り敢えずパーティー始めようか?後はバースデーケーキとお茶で話そう。勿論プレゼントもあるぞ。宜しく!」

宰相は初めてしっかりと、俺達をみて謝罪した。そして約束した。召喚は必ず止める。己もしっかりと反省し、実現させる為の努力をすると。

*****

「雪恵…。すまない。祐太郎。情けない父さんでごめんな。」

ボロボロと泣きながら、母さんと俺に頭を下げる父さん。やはりそうなるよな。こればかりは仕方無いよ。母さんも解ってる。勿論俺もね。

でも泣くなよ。父さん…。

*****
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