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ペッして来なさい!

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うーん。朝だ。爽やかな朝だ。昨晩の雷雨が嘘の様な良い天気だ。毎朝小鳥の囀りで目を覚ます、目覚まし無しで起きられる。日本に居た頃は昼頃に起き出してた。テーブルの上の弁当の包みと水筒。母さんは俺が引きこもりになってからも、毎日弁当をかかさなかった。朝早くから仕事にでかけてて、毎日作るの大変だったろうにな。

でも今は自然に早起きして、出来立ての朝メシが食える。俺の早起きに最初は母さんもびっくりしてた。魔王討伐の旅で苦労したからかしら?何て要らぬ心配させたけど、正直それは無い無い。だって旅の途中も、便利スキルでぐっすり寝てたからね。

その名も見張りも要らぬ異空間ハウス。ついつい寝過ごして、仲間に叩き起こされた。お風呂までついてて最高!だって俺勇者だよ。貰えるチートスキルは吟味したからね。

魔王を倒すのが心理的にキツかっただけで、旅の途中とかは魔法で楽チン。唯一我慢出来なかったのが飯だから!まあ結局は我慢したんだけどな!因みにこの世界には、日本と同様の調味料が全てある。過去に喚ばれた召喚勇者達が、やはり飯マズに我慢できずに開発したらしい。何と米に味噌に醤油にみりん。小豆や心太や寒天まで有る。

なのに何故?どうしてこの世界の人達は使わないの?そして激マズな飯を食ってるの?それは歴代勇者が皆男性だったから。開発は出来ても料理が出来ない。出来ても男の料理だ。たかが知れていた。俺的には開発の方が、難しい気がするぞ?不思議だよな。

実は俺には複製スキルが有る。これはその名の通り、物を複製するスキルだ。使用した魔力量により、1日に使える回数は変化する。簡単に説明すれば、等価交換で同一の物を作り出す。使用魔力が少なければ沢山出来、多ければ不可能な時も有る。そして通常ならざ魔力のみでOKだが、不足が出ればお金や素材その物を追加出来る。

魔力のみで出来る品が無ければ、所謂錬金術の様な物だ。因みにこの世界に錬金術は無い。

例えばこの世界でポピュラーな料理。ウサギのミルク煮こみだ。これを1皿複製するなら、俺の魔力で十分。しかし野営等で大鍋ごと複製したい等。この場合は材料の一部を用意したり、対価としてお金を追加する。すると少ない魔力で大鍋の煮込みが出来上がる。

勿論料理だけとは限らない。

凄いでしょ?便利だよね?更にこれね?魔力は食うけど、実物が無くても複製できるの。つまり脳内でイメージしたものでも可能な訳。但し具体的なイメージが必要。例えばあんパン。小豆を甘く煮込んだ餡子をパンの中にうんねんみたいな感じにね。しかしこれが魔力食うんだわ。しかも餡子の具体的な作り方を俺は知らない。だからあんパンらしきものは出来ても旨くない。カレー何て何度か試したけど、魔力ごっそり持ってかれて失敗。悲しすぎる。

でも俺頑張った。試行錯誤してじゃむパンは成功した。こちらにもパンとジャムは有る。全てを脳内イメージに頼らず、こちらのパンとジャムを食材として追加したのだ!そして成功!こちらの世界のパンはハードパンばかり。しかし出来上がったジャムパンは柔らかかった。魔力で補正したのか?試しに同じハードパンを食パンのイメージで複製してみた。もっちり食パンが出来た。同様に、ロールパンもクロワッサンも出来た。クロワッサンはかなり魔力を使用したので、バターを素材として追加したら魔力使用量が激減した。クロワッサンにバター多用位は、俺でも知ってるからな。

日本の食品の一例ね

ふんわり食パン=異世界のハードパン+俺の魔力。魔力量とイメージの違いで、他のプレーンパンも可能。

ジャムパン=異世界のハードパン+ジャム+俺の魔力。

ってな訳よ。

結局あんパンは無理だったが、直ぐに成功するだろう。何せ母さんが来たからな。母さんはおはぎもお汁粉も手作りしてくれる。餡子のスペシャリストだ!待ってろよ。あんパン!

桜の塩漬けの魔力はどの位になるかな?塩は有るが流石に桜は無い。こちらに無いものの場合は、魔力量が跳ね上がる。でも桜の塩漬け欲しい…。お土産で貰った桜あんパンが忘れられない。

しかし…。

やはりスキルで作ったのは味気ないんだ。母さんの手料理が1番だね!

*****

寝室を出てダイニングへ向かう。居住区の生活区域は、全て1階で済む設計だ。ど真ん中に共用の広いダイニングキッチン。続いて応接間にランドリールーム。どこからも中庭を望める。これを挟んで2世帯にしている。各々のスペースには、風呂にトイレに洗面所に台所完備。全てを広くスペースを取っている。将来どちらが結婚しても、一緒に過ごせる設定だ。

2階にはど真ん中に広い浴場。やはり中庭を望める。他は部屋を沢山用意した。将来増える家族の部屋になるかもしれないし、お客様を泊める事になるかもしれない。今の所は客間のつもりは無い。

勿論お邪魔な様なら出てくけどね。何故か俺も母さんも、そうはならないと感じている。何となくだけどな!

うーん。懐かしい匂い。炊き立てご飯の香り。此方にも米は有る。しかし炊いては食べない。スープに入れたり、茹でてサラダにして食べる。つまり炊飯ジャーは無い。母さんは早速魔術師達に研究させてた。何時か出来るだろう。母さんは土鍋で炊けるから大丈夫だけどね。電気止められた時に炊いてくれたんだよ。火加減は、はじめチョロチョロ中ぱっぱ。赤子泣いても蓋とるなってね。

土鍋ご飯は美味しいぞ。茸の炊き込みご飯なら最高だね!その内に松茸採取に行こう。異世界には沢山生えてるんだよ。

「母さんおはよう!」

「祐太郎もおはよう。ご飯出来てるわよ。お味噌汁よそうわね。」

「なら俺はご飯よそうよ。」

・・・・・。

「祐太郎と朝ごはん一緒に食べられるだけでも嬉しいのに、お手伝いまでしてくれるなんて…。」

母さん…。

確かに親不孝したけど、泣くほどじゃ無いだろ?恥ずかしいよ。

「こら!泣かすな!」

?????

誰か居るの?誰か喋ったよね?

「早くよそえ。」

・・・・・。

やはり誰かいる!慌ててテーブルの方を見ると、ホカホカの肉じゃがと鮭が!お漬物はカブだね。ってそこじゃないわ!何だよあのテーブルに突っ伏してるモジャモジャ!熊じゃ無いよな?まさか魔物?

「母さん!魔物をテイムしたの?でも家に入れちゃ駄目だよ。ギルドで登録してないよね?」

「魔物では無い!」

「喋った?このモジャモジャがさっきから話してるの?」

「祐太郎ったらイヤねー。良く見なさいよ。子供じゃない。」

「こんなモジャモジャ怪しすぎるわ!母さん!何処で拾って来たの?拾った場所に戻してきなさい!」

「えー。だって可愛相じゃない。」

「可哀相じゃ無い!ペッしなさい!おれが子供の頃拾って来た犬も、土手の段ボールに戻したじゃないか!コイツも戻せ!不潔なモジャモジャを、さっさとペッしてこい!」

「子供では無い。犬でも無い。」

確かに人間だな!2本足だし、ヨレヨレだけど服も着てる。しかし怪しすぎるだろうが!

「祐太郎…。」

母さんが悲しげに見ている。う…。その目は止めて。俺が悪く感じてくるよ…。くぅぅ…。

「クソッ!お前!母さんに恩知らずなことしたら半殺しにするからな!でも何でそんな格好のまま何だ!母さん!飯より先にせめて風呂に入れろ!」

母さん曰く…。

このモジャモジャは、朝方家の前に倒れてたそうだ。昨晩の雷雨の為、屋根のあるアーケード内で雨宿りしていた。寒くて徐々に奥に入り込み、気付いたら路上で寝ていた。しかも母さんが出入りする、勝手口の裏の壁によりかかって。母さんはゴミを整理していて気配に気付いた。

声をかけたらお腹が返事をしたと。だから朝食をご馳走すると?

だから何でそんな事するんだよ!

はあ?父さんとの出会いと似てて、ついつい拾ってしまった?えー。父さんも行き倒れてたの?

確か母さんは中学卒業時に、両親を事故で亡くしたんだよね?親戚が居なかったから、相続した古い一軒家に一人で暮らしてたって。少女の一人暮らしならもっと危機感持てよ!行き倒れ何か拾うな!しかもお世話してる内に、ぼだされちゃったの?なし崩しに俺が出来た?両親の保険金で高校に行く予定が、結婚出産に早変りってか!

・・・・・。

母さん…。典型的な男に騙されるタイプじゃん。今の母さんからは信じられないよ。父さんも死亡し、働きながらの育児は苦労したけど楽しかった。でも俺も死亡し、もう2度と寂しい思いをしたくない。だからモジャモジャは拾わない事にした。

その気持ちは解るけど、父さんもモジャモジャだったのかい!せめてモフモフにしろよ。母さんは世話焼き女房タイプだったんだな。全く自分から貧乏くじ引く必要ないのに…。

しかもなら何故また拾う!

「2人共生きてたから、また拾っても良いかなと思ったのよ。でも父さんはキチンと働いてくれてたわよ。家には転がり込んで来たけど、私の両親の保険金には一斎手を付けなかった。教会でささやかな結婚式もあげてくれたし、指輪もくれたわ。育児が落ち着いたら、高校卒業資格を取りなさいと勉強も教えてくれた。」

・・・・・。

「だから悪く思わないであげて。甲斐性無しではなかったの。後は運命の悪戯よ。祐太郎には悪かったわね。」

俺は構わないよ!でも母さんが!

「宰相め…。そう言えば、祐太郎に謝ってないな…。」

母さんってばそこなの?

「母さん。取り敢えず、このモジャモジャ綺麗にして来るよ。飯より先に風呂と着替えだ!こんなバッチいモジャモジャと、母さんの飯が食えるか!」

ほら行くぞ!とばかりに、モジャモジャの手を引く。大人しく連行されるモジャモジャ。

・・・・・。

「母さん母さんと連呼してたが、まさかマザコンなのか?」

このモジャモジャが!モジャモジャの上から、こめかみをグリグリしてやる。悶絶するモジャモジャ。

ドサリ。

!?おい!?うぎゃぁー!モジャモジャの頭がぶっ飛んだー!やはり魔物なのかよ!

「母さん退避しろー!」

振り向くと、真ん丸目玉でポカンとした母さんがいた。

今の見ちゃったのね?

*****
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