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間違い訂正!最初の1つ。

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俺達の目前には、まるで生気の抜けた様な宰相様。落ち込んでる?落ち込んでるみたいだよね?それでもお隣さんの様に、大口を開けずにいた事を感心するよ。

見ろよ。剣士なんて、ポカンと大口開けて呆けてるわ。尊敬する祖父様のマヌケな真実。頑張って受け止めろ。

確かに節約は美徳かもしれない。しかしやりすぎは駄目だろう。やり過ぎて10年近く脱力状態ってどうよ。

でもこれでハッキリした事も有る。異世界での俺の弟や妹は、生まれた宰相候補をあわせて5人。一人っ子のつもりが、いきなりの6人兄弟姉妹。まあ俺は母さんと暮らす。だから先々増えたとしても関係は無い。

母さん側に増えるのは歓迎だ。母さんには幸せになって欲しいからな。ハメられ軟禁されてた父さん。確かに同情はする。しかしこちらでは既に、ほぼ解決してるみたいだよな?後は召喚魔方陣の問題だけだ。

正直俺も驚き呆れている。俺なら逃げ出してるよ。それでも全てを捨て行けなかったんだろ?生まれたばかりで顔も見れなかった俺と、生まれたての赤子をダブらせたのかもしれない。ハメられたのに、責任を取った度量は認めてやらぬ訳でもない。俺も父さんを恨みたくない。母さんが良く言ってた。父さんは優しすぎて人が良すぎるんだって。だからハメられたのも仕方無かったんだよ。

そう思わなきゃムカつくわ!恨みまくりそうだ。でもそれは母さんが悲しむしな。苦労した母さんが許すなら、俺も許すしかないよな?

しかし宰相は許せんな。

当の宰相様は何も言えないだろう。

目は座ってるけど…。

眉間の皺が凄すぎる。

更には母さんの、一気に言い終えた感が凄すぎる。そのどや顔止めてー!

真実は1つ!

だから仕方無いよね?

*****

この世界では、20年程の単位で魔王が生まれる。魔王と呼ばれる生命体は、穢れと呼ばれる目には見えぬ物質に長年晒された魔物達。その突然変異種だと言われている。生きている生物には、必ず幾ばくかの穢れが有るという。また悪意の有る気持ちや思考の歪みが、更なる穢れを生み出す。その穢れが集り凝り、近くの生物を変容させてゆく。やがてその生物が知性を得てしまうと、己で穢れを取り込み始める。己を強くし仲間を増やす為に。

たまたま変容した生物が人間の場合、魔王発生の時期は早まる。更には元々知性が有る為、前世の柵も合わされ討伐が困難になる。

やがて魔王の勢力は拡大され、徐々に人の国を蹂躙して行く。勿論人々も戦った。しかし穢れだけから生れた魔物に、穢れ以外を持つ人間が勝てる筈もない。力押しだけで勝負するならば尚更だ。穢れから生まれ殺戮を何とも思わない。感じない。人より遥かに強く強靭な肉体を持ち、知性を全く持たぬが故に、何者も恐れない。そんな魔物を従える魔王に勝てる筈もない。

ただただ蹂躙されるのみ。

唯一知性が有る魔物。それが魔王。そして魔王に次ぐ者達。魔王や側近には知性だけでなく、理性も有る場合も有ったという。しかしその理性は人には向けられなかった。

「俺達が討伐したのがこのタイプだよ。しっかり理性が残ってた。後味悪いぞ。元は人間だったからな。亡国の逃がされた王子と側近達だ。逃亡先で悉く裏切られ、魔の巣窟と呼ばれる森に逃げ込んだ。側近は王子の為にと、剣となり盾となる。そして次々と死んで行く。王子は最後の側近が死に、この世界に絶望した。そこに悪魔が囁いたんだ。こんな世界は滅ぼしてしまえとね。森には穢れが蓄積されていた。それらが彼等の魂を蝕んだんだ。生きながら王子はリッチに堕ちた。死亡していた側近達はレイスになった。どちらも生半可な絶望や怨嗟ではなり得ない。それほど業が深い。」

「王子は魔王じゃ無いの?」

「魔王は地位の名称だよ。後から付いて来るんだ。強者が魔物の王になるかどうかなんだよ。つまり1番強い者が魔王になる。亡国の王子は魔物達を纏め上げ、己達を裏切った者達を蹂躙し始めた。そして魔王と呼ばれた。これが今回の魔王の真実ね。」

穢れにのまれた魔王。魔王は古の聖女が祝福を与えた聖剣でないと倒せない。その聖剣はとある遺跡の地下に突き刺されている。これを抜いた者が勇者となる。また聖女は異世界の女性だった。その為聖剣は、異世界の血を引く者にしか抜けない。台座の聖剣を封じる、聖なる呪文が異世界語なのだ。

「だから勇者を召喚するんだって。界を渡る際に魔王に勝つ為にと、神様がチートをくれるからね。俺もこの聖剣を抜きに行ったよ。討伐後に元に戻したけどね。」

【はーい!ストップ!ここ良く聞け!間違い訂正!最初の1つ!】

聖剣は台座に戻す必要は無し。何故毎回台座に戻す?しかも突き刺す?抜けなくなるなら元に戻すな!まさか勝手に突き刺さる訳じゃ無いのよね?後、台座の聖なる呪文が異世界語?なら翻訳しなさいよ!異世界人は自動翻訳で聞き取りは完璧。少し勉強すれば翻訳位出来る筈。毎回大変だと文句を言いながら召喚するなら、喚ばれる異世界人の事を少しは考えなさい!元の世界に戻さない何て、誘拐や拉致と変わらないのよ!聖なる呪文が翻訳できれば、毎回毎回召喚する必要は無いのでは?まあこれはその内に私がしてあげましょう。

それから穢れよ!宮廷魔術師達は何をしてるの?穢れを浄化する魔道具を作れば良いじゃない。それを溜り易い所に配置するだけで、かなり現状は良くなる筈よ。この世界には教会も有るんでしょ?聖職者の祷りでも穢れは浄化出来る。この世界は神に対する信仰心が少なすぎる。だから魔王が発生するんだ!と、神様は大変に憤慨しておりました。神様はキチンと見てるそうです。教会をキチンと整備し、神への信仰を深めなさい。

「それからね?界を渡る際に神様がくれるチートは、勇者になる為じゃ無いそうよ。いきなり召喚された異世界人が、この地で困らぬ様にと、身体と精神を操作しチートをくれるそう。祐太郎しっかり思い出して?勇者として喚んだと神様が言ったの?違うでしょ?」

・・・・・。

うん。確かに言わないな。いきなり文明が落ちる国。更には魔法が有り魔物がいて身分制度も有る。なれない異世界で大変だろう。苦労するかもしれない。だからと俺の欲しいスキルを選ばせてくれたんだ。

「そうだ。俺はたまたま戦闘系スキルも取ったけど、生産系ばかり貰ってたら、勇者何て無理だわ。死ぬわ。」

宰相に戦士は目を見開き驚いている様だ。もしかしてスキルを選ぶとか、知らなかったのか?今まで召喚された勇者は、皆戦闘系ばかりなのか?元から俺がこんなにチートなわけないだろうが!魔物殺すなんて、日本にいた頃なら無理だ!この辺が精神の操作か?そう言えば、自然とこちらの世界に馴染んでる?

背後が何だか騒がしい。

振り返ると話し合いを聞く様にと呼び出した、宮廷魔術師達が白熱な議論をしている。穢れを浄化する魔道具!?について騒いでいる。しかし何でまるっきり思い付かない?この国の富裕層では、上下水道の浄化を既に魔道具で行っている。穢れも目に見えない訳じゃない。貯まれば陽炎の様に見える。また溜り易い場所が有るそう。なら浄化も可能な筈。少しは頭を使うべき。

結局、勇者に頼りきりだった訳だ。 

さあ。ここからが本題よ。宰相様?これ位で項垂れてたら駄目じゃ無い。

さあ。大切なお話しを致しましょう。

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