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15 ティレル
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あれから海辺の港町、ポルトガルドに着いた私は、長期逗留用の宿を拠点に定めた。
宿は海沿いの崖の上にあり、部屋の窓からは一面に拡がる海と、夕方には水平線に沈む夕日を見ることが出来る。夜には砂浜を洗う、静かな波音が子守唄代わりだ。
食事は基本、自炊することにしている。
でも、港町だけあって、船員向けのお弁当やお惣菜を扱うお店が近隣に多かったので、それを持ち帰って食べることも多い。
たまに新鮮な魚貝類の料理が食べたくなって飲食店に行くと、隣りに座った男性から握手ついでに“にぎにぎ“されることが多々あったけど、
「私、奥手なんで」
と言うと、みんなすぐに手を離してくれることが分かり、今では“にぎにぎ”には前ほどの煩わしさを感じることもなくなっていた。
今日は少し遠い、港に近いあたりの飲食店に入ってみた。
ここの刺身料理がピカイチだ、とギルドのお姉さんから教えてもらったからだ。
空いてるカウンター席に腰掛けると、右隣りにはいぶし銀の髪に薄い菫色の目をした線の細い男性が座っていた。
ちょっとヴィーオを思い出せるような色だったからか、水を飲みつつ、私はついつい挨拶の為に右手を差し出していた。
「私はファロヴェストから来たアリーシャ。よろしく」
「俺はこの近くで菓子屋をやってるティレル。よろしく」
にっこり笑ってサッと握手をすると、ティレルはすぐにパッと手を離した。
肌感チェックをする暇も与えぬその早業に、私はかえってびっくりしてしまった。
その気持ちが、私の顔に現れていたのだろう。私の顔を見たティレルは、すぐにそのワケを教えてくれた。
「ごめん。実は俺、勃たなくて」
飲みかけていた水が変なところに入ってしまって、私は盛大にむせてしまった。
「ごめんごめん、大丈夫?」と言いながら、ティレルが私の背中をさすってくれるけど、勿論その手付きには何の欲も滲んではいなかった。
「ゴホッ。だ、大丈夫、ちょっと直裁すぎてビックリしただけ。それに私も“奥手”だから、安心して?」
私は思わずにっこりと、心からの笑顔でティレルに笑いかけていた。
一緒に刺身料理に舌鼓を打ちながら話している中で、ティレルはパティシエで、自分の作った菓子に魔法を付与して提供しているのだと知った。
菓子に魔法付与だなんてファロヴェストでは聞いたことがなかったので、そこから魔法付与の話題で盛り上がった。
そのままその流れでティレルの店に行き、実際にティレルが菓子に魔法を付与するところを見せてもらった。
彼が付与するのは、“護り“だとか“天候に恵まれる“のような、船員向けの魔法が多かった。
試しに私も回復魔法をクッキーに付与しようと試してみたのだけれど、ものの見事にクッキーが弾けてしまい、何度やっても上手くはいかなかった。
どうやら菓子への魔法付与は、繊細な加減が必要らしい。
その後、港近くに行った時にティレルを見かけたら、声をかけて一緒に食事をするのが習慣になった。
そしてその後は彼のお店に行って、菓子への魔法付与の練習をさせてもらう。
何度か試しているうちに、私の魔法はクッキーには不向きだけど、フィナンシェやマドレーヌのような柔らかい系の焼き菓子になら、僅かに付与出来ることが分かった。
匙加減が難しいこの繊細な作業は、私にとって付与魔法を調整する良い訓練になった。
そうして回復魔法を付与した焼き菓子をお店で提供すると、それを求めてやってくる客が多くなってきた。
ティレルは回復魔法系の付与はあまり得意ではなかったので、自然と私が手伝うようになり・・・。
「宿から通うのも面倒だろうから、よかったらうちの2階を使って」
と言うティレルの申し出をありがたく受けて、私は宿を引き払い、ティレルの家に住むことにした。
狭い調理場で一緒に作業をしていると、自然とふたりの距離感も近くなる。
だけどティレルは勃たない人だから安心、と思っていたのだけれど・・・。
とある日の夜、一日の作業を終えて2階に戻ろうとしていたところ、横で作業をしていたはずのティレルに不意にそっと手を取られ、にぎにぎされた。
初めてしっかりと触れた彼の肌感は、パティシエらしく柔らかで、つい先ほどまで洗い物をしていたせいか、ひんやりとしていた。
拒否感はないけれど、正直ドキドキもしない。
戸惑ってティレルの顔を見上げると、彼は潤んだ目でこちらを見つめていて
「ごめん、アリーシャ。キミが奥手だって知ってるけど、でもなんか、キミとなら出来そうな気がして」
そう言うと、触れるだけのキスをしてきた。
・・・拒否感は無かった。やっぱりドキドキも無いけど。
すると、今度はギュッとハグしてくる。
私のお腹に、彼の固いモノが当たった。
宿は海沿いの崖の上にあり、部屋の窓からは一面に拡がる海と、夕方には水平線に沈む夕日を見ることが出来る。夜には砂浜を洗う、静かな波音が子守唄代わりだ。
食事は基本、自炊することにしている。
でも、港町だけあって、船員向けのお弁当やお惣菜を扱うお店が近隣に多かったので、それを持ち帰って食べることも多い。
たまに新鮮な魚貝類の料理が食べたくなって飲食店に行くと、隣りに座った男性から握手ついでに“にぎにぎ“されることが多々あったけど、
「私、奥手なんで」
と言うと、みんなすぐに手を離してくれることが分かり、今では“にぎにぎ”には前ほどの煩わしさを感じることもなくなっていた。
今日は少し遠い、港に近いあたりの飲食店に入ってみた。
ここの刺身料理がピカイチだ、とギルドのお姉さんから教えてもらったからだ。
空いてるカウンター席に腰掛けると、右隣りにはいぶし銀の髪に薄い菫色の目をした線の細い男性が座っていた。
ちょっとヴィーオを思い出せるような色だったからか、水を飲みつつ、私はついつい挨拶の為に右手を差し出していた。
「私はファロヴェストから来たアリーシャ。よろしく」
「俺はこの近くで菓子屋をやってるティレル。よろしく」
にっこり笑ってサッと握手をすると、ティレルはすぐにパッと手を離した。
肌感チェックをする暇も与えぬその早業に、私はかえってびっくりしてしまった。
その気持ちが、私の顔に現れていたのだろう。私の顔を見たティレルは、すぐにそのワケを教えてくれた。
「ごめん。実は俺、勃たなくて」
飲みかけていた水が変なところに入ってしまって、私は盛大にむせてしまった。
「ごめんごめん、大丈夫?」と言いながら、ティレルが私の背中をさすってくれるけど、勿論その手付きには何の欲も滲んではいなかった。
「ゴホッ。だ、大丈夫、ちょっと直裁すぎてビックリしただけ。それに私も“奥手”だから、安心して?」
私は思わずにっこりと、心からの笑顔でティレルに笑いかけていた。
一緒に刺身料理に舌鼓を打ちながら話している中で、ティレルはパティシエで、自分の作った菓子に魔法を付与して提供しているのだと知った。
菓子に魔法付与だなんてファロヴェストでは聞いたことがなかったので、そこから魔法付与の話題で盛り上がった。
そのままその流れでティレルの店に行き、実際にティレルが菓子に魔法を付与するところを見せてもらった。
彼が付与するのは、“護り“だとか“天候に恵まれる“のような、船員向けの魔法が多かった。
試しに私も回復魔法をクッキーに付与しようと試してみたのだけれど、ものの見事にクッキーが弾けてしまい、何度やっても上手くはいかなかった。
どうやら菓子への魔法付与は、繊細な加減が必要らしい。
その後、港近くに行った時にティレルを見かけたら、声をかけて一緒に食事をするのが習慣になった。
そしてその後は彼のお店に行って、菓子への魔法付与の練習をさせてもらう。
何度か試しているうちに、私の魔法はクッキーには不向きだけど、フィナンシェやマドレーヌのような柔らかい系の焼き菓子になら、僅かに付与出来ることが分かった。
匙加減が難しいこの繊細な作業は、私にとって付与魔法を調整する良い訓練になった。
そうして回復魔法を付与した焼き菓子をお店で提供すると、それを求めてやってくる客が多くなってきた。
ティレルは回復魔法系の付与はあまり得意ではなかったので、自然と私が手伝うようになり・・・。
「宿から通うのも面倒だろうから、よかったらうちの2階を使って」
と言うティレルの申し出をありがたく受けて、私は宿を引き払い、ティレルの家に住むことにした。
狭い調理場で一緒に作業をしていると、自然とふたりの距離感も近くなる。
だけどティレルは勃たない人だから安心、と思っていたのだけれど・・・。
とある日の夜、一日の作業を終えて2階に戻ろうとしていたところ、横で作業をしていたはずのティレルに不意にそっと手を取られ、にぎにぎされた。
初めてしっかりと触れた彼の肌感は、パティシエらしく柔らかで、つい先ほどまで洗い物をしていたせいか、ひんやりとしていた。
拒否感はないけれど、正直ドキドキもしない。
戸惑ってティレルの顔を見上げると、彼は潤んだ目でこちらを見つめていて
「ごめん、アリーシャ。キミが奥手だって知ってるけど、でもなんか、キミとなら出来そうな気がして」
そう言うと、触れるだけのキスをしてきた。
・・・拒否感は無かった。やっぱりドキドキも無いけど。
すると、今度はギュッとハグしてくる。
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