異世界漂流記

稀人

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家を作ってみよう

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近場だけでの探索ではあまり効果がなく、わかったことは大きなフンがありどうやら大型の動物がいるらしいということだけだった。


「ただいま」


戻ってみると沖田が見たことがあるような道具で火を起こそうとしていた。


「お帰りー、こっちはこの通りまだまだよ。知識だけじゃ難しいもんねー」


まっすぐな木を糸で結びキコキコと回し続けるもなかなか火種すらつかないらしい。


「だはー!むっずいわこれ、悪いけど疲れたから変わってくんねー?」


「僕がやるよ」


なんかの番組で時間がかかると聞いたことがあるし、根気よくやってみるしかないだろう。


「回しながらでいいからなにかあったか教えてくれー。食い物がなかったのは見てわかるけどさ」


「ん、それなんだけど」


大型の動物がいるらしいことを伝えると寝転がっていた修二が飛び起きた。


「移動するぞ」


「え?もう暗いよ?」


「大型のフンがあったってことはこの辺が縄張りの可能性がある。俺たちじゃ遭遇したらどうにもできないだろ」


言われてようやくことの大きさに気がつく。日暮れが近く、もし夜行性の動物だったら遭遇率はグンと高くなる。


「やべえじゃん、荷物まとめて撤収しよう」


それから一時間ほど歩いただろうか。まだまだ森の切れ目は見当たらないが日が完全に落ちてしまった。


「今日は俺のスマホで照らしながら歩こう、充電が切れたら誰か次を頼む」


「わかった。んじゃ修二の次は俺が照らすわ」


地面を照らしながら歩くことさらに一時間ほど、みんなバテて来た辺りで2つ目の洞穴が見えた。


「修二、どう思う?」


「…俺が行こう。みんなは少し離れててくれ。もし俺になにかあったら迷わず逃げろ」


「そんなわけ行くかよ、俺も行く。2人ならなにかあっても生存率は上がるだろ」


「なら僕も行くよ、僕だって男だからね」


「…行くぞ」


女子を少し離れた場所に隠れさせ僕ら3人で洞穴の中を確認する。



「3数えたら中を確認するぞ」

「1、2、3!」

緊張しながら全員で洞穴を確認すると、洞穴の中はどうにか全員入って寝転がれそうなスペースがあり、中に動物の毛などはなかった。

しっかり見渡して安全なことを確認しほっとしたら少し力が抜けてしまった。

「ひとまずここで良さそうだな」


「あー、怖かったー」


「みんな、大丈夫みたいだよ!」


女子を呼び戻し全員で洞穴に隠れて食事を取る。


「こうやってるとキャンプみたいなのにね」


「まあ、なんとかなるっしょ」


「明日、どうしよう」


「明日…僕は水を探したほうがいいと思う」


「俺も同じくだ。水があれば魚くらいいそうだし」


「ここまで歩いても森が途切れないということはしばらくはこの森の中で暮らすことになるだろうな。水は必要だ」


「はいはーい。私は水場を見つけて家を作った方がいいと思いまーす」


「毎日これじゃ安心出来ないし、家は必要かもね」


「地面、固い」


確かに毎日地面に雑魚寝では体が持たない気がする。寝心地も良くないし体力が回復出来なければ意味がない。


「じゃあ、明日は水場、川かなんか見つけて安全そうなところに家を建てるのが目標で」


「おー」


それからしばらく話してこの崖沿いに歩くのをやめて森の中を探索しながら進もうということになり、話終わったあたりで疲れ切って寝てしまった朱奈を静流が抱きかかえるようにして寝てしまったところで全員が倒れるように眠りについた。


幸いにも夜でもそれなりに暖かく、凍えながら眠るということにはならなかった。


死んだように眠り、目を覚ますと沖田が先に目を覚ましていた。


「おはよ、早いね」


「ん、昨日のリベンジってね」


どうやら火を起こす練習をしていたらしい。


「ちょっとコツ掴めたみたいだわ」


昨日は着かなかった火種が早くも着いて誇らしげにする。


「火があるとないじゃ全然違うからね。助かるよ」


「おう、火は任せとけ」


沖田は楽しそうに笑うと洞穴の外へ出る。


なんとなく着いて行ってみると外はすっかり明るくなっていた。


「俺さ、異世界転移ってもっとこう簡単にうまく行くと思ってたんだわ。異世界チートってやつ?けどやっぱそううまくはいかないよなー」


「そうだね、食べ物もないし動けなくなる前になんとかしないと」


「だな。でもさ、なんかちょっと楽しいって感じてるんだよな」


気持ちは、わからなくもない。日常から非日常へ急に変わってしまったが、それでもどこか面白いというかワクワクする。


「まあ今はとりあえず水だ水。火が起こせても使うものがなきゃ意味ねえしな!」


「そうだね、出来れば魚とか焼きたいね」


「塩とかがないのが残念だけどなー」


「確かに」


なんとなくおかしくなって2人で笑っていると鹿波が起きて来た。


「あんたら早いわねー。おはよ2人とも」


「そろそろみんなも起こそうか」


朱奈を抱いたまま寝ている妹を揺すると二ヘラと笑いながらふわふわだーとか寝言を返して来た。


「静流、起きて。そろそろ動くよ」


揺すり続けると静流より先に朱奈が目を覚ました。眠そうな目をこすりながらこちらを見ると


「ん…ナギ、夜這い?」


「違うよ!起こしに来たんだ!」


急にあらぬ疑いをかけられ焦る。


「ほら、静流も起きて!」


強く揺するとようやく目を覚まして寝ぼけながら


「おにぃ、夜這いはよくないよー」


なぜそこは聞こえているのか。静流にデコピンをして目を覚まさせ、修二を起こしに行った沖田を見る。


「おい!修二ー!起きろー!おま、朝どんだけ弱えんだよ!」


「う、ぁ、後10分…」


まるで漫画のようなことを言っていた。てか修二朝弱いんだ。意外な弱点を見つけた。

なんとか全員が目を覚まし朝食のかわりに飴を2つほど舐めながら移動を開始した。


「とりあえず川を探しに行こう。もし歩きながら食べられそうなものとかを見つけたら教えてくれ」


「了解」


こうして2日目が幕を開け、森の奥へと侵入していく。10分ほど歩いたところで3mほどの木の上に果物が生っているのを見つけた。


「修二、これ林檎みたいじゃない?」


「確かに林檎に見えるな。木の棒でも落ちてないか?」


残念ながら近くに手頃な木の棒は見当たらず男3人で肩車をして取ることに。


「うぉぉぉぉ重てえ…!」


「耐えてくれ、この中じゃ一番お前が力があるんだ」


木に手をついてなんとか踏ん張っている沖田と修二によじ登り林檎らしきものを人数分採取することに成功した。


「取ったか!?取ったなら頼むから降りてくれ…!」


林檎を静流たちに投げ渡し自分も飛び降りる。


「だぁ、きっちぃ!」


「お疲れ様。ちょっとカッコよかったわよー」


「沖田、力持ち」


「そうかー?よっしゃ力仕事は任せとけ!」


女子に少し褒められただけでこれだ。調子のいいものである。

「とりあえず、僕が見つけたし毒味は僕がやるよ」


現状一番役に立ってないと思うのでこれくらいはと毒味役を引き受ける。


「なにか違和感を感じたらすぐに吐き出せよ?」


「わかった。じゃあ食べてみるよ」


恐る恐る林檎もどきにかじりついてみると、口の中に瑞々しい甘みが広がる。


「甘いっ!けどこれ林檎っていうか、梨?でも、食べられそうだよ!」


「…ほんとだうめえ!それに水分も沢山ある!」


全員で林檎もどきにかじりつき、夢中で食べ尽くした。

こうして2日目にして初めてこの世界での食料を手に入れることができた。
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