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第十三章(最終章)
第205話 きかん
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「ね、あの光の柱、野々村の光じゃないかな?」
見覚えのある光につばめが蘭に顔を向け確認を求める。
「う、うん… どうだろう…?」
蘭は未だに居心地の悪い思いをしていた。つばめとの勝負に敗れ、颯爽と去ってこの世から消えようとしてすらいた所を秒でアグエラに連れ戻されたのだから、バツが悪いにも程がある。
「アグエラさん! きっとあの光の下にみんな居ると思います。あそこに飛べますか?」
「OK、見えている所なら朝飯前よ…」
つばめの提案にアグエラもしたり顔で応える。
アグエラが空中に手で紋様を描く仕草をして2、3の言葉を唱えたら、ぼんやりとそこに《転移門》が出現した。
最初にアグエラが入り次に沖田が入る。つばめが入ろうとするタイミングで、自分も入って良いものか未だ逡巡している蘭の方を振り向き、ニコリと笑って手を差し伸べた。
「蘭ちゃん、一緒に帰ろう!」
蘭はつばめの笑顔を直視出来ない。そんな風に手を差し出される資格なぞ無いと分かっている。
新しい蘭の『人生を仕切り直す』という話は、友人関係も全てリセットしてという意味でもある。蘭は別の高校に転校して、つばめや沖田とも物理的に距離を取るつもりでいたのだ。
『今回の件、もしも立場が逆だったら私は絶対につばめちゃんを許せない。それなのに、何故つばめちゃんは酷い事をしてきた私にそんな顔が出来るの? 手を伸ばせるの? バカなの? ……それとも天使とか神様なの?』
蘭の頭もまとまらない。つばめの事は変わらず好きだが、もう馴れ合って友達面出来る間柄では無いと思っていた。もう二度と親しい会話など交わせる日は来ないだろう、それほどまでにつばめの恨みを買ったと覚悟していた。
だがしかし、つばめは屈託のない笑顔で蘭に「帰ろう」と手を伸ばした。まるで何事も無かったかのように……。
『本当に私の完敗だ… つばめちゃんは私なんかの器で測れる様な子じゃ無かったよ…』
蘭は完全に脱力しきって疲れ果てた様な笑顔を浮かべ、「うんっ!」とつばめの手を握り返した。
☆
「ようやく来たわね。アタシを待たせるとか後で折檻決定ね! …それでカタは着いたの…?」
つばめを迎えた睦美が懐かしい感じで悪態をつく。睦美への回答には、つばめと沖田が手を繋いで現れた事で一目瞭然であった。次いで現れた蘭の表情も予想していた程に深刻な物ではなかった事に、睦美だけでなく(大豪院を除く)他の面々も安堵の表情を覗かせた。
「ちょっと良いかしら…?」
全員集合し『さぁ帰るか』となったタイミングでアグエラが挙手する。何か言いたい事があるらしい。
「この転移の輪に私達『淫魔部隊』も入れてもらって平気なの? もし向こうで魔族狩りに遭うとかなら少し考えないと…」
アグエラの注意に淫魔部隊の顔色が一斉に曇る。地獄を抜けた先でまた別の地獄に見舞われるのであれば、そもそも睦美の作った《転移門》を抜けない方が良い。
たった今、《転移門》の魔法で魔力を使い切っているアグエラが次の《転移門》を開ける様になるまでに、世界が崩壊せずに間に合えば、の話だが。
「アンタ達の処遇は後で考えてやるから、今はさっさとこの中に入りなさい。少なくとも後ろからいきなり襲う様な事はしないわよ」
睦美の言葉もにわかには信じ難いものがあるが、今この場に残っても待っているのは『確実な死』だけである。
《転移門》を抜けた先で『不確実な死』が待っていたとしても、現状よりはまだマシな話だろう。
「…感謝するわ。行くわよアンタ達」
アグエラを筆頭に次々と淫魔部隊の面々が《転移門》の奥に消えて行く。
「えーと、私も乗っかって良いんですよね? 残されたら死んじゃうし…」
お次の議題提供はユリである。ユリは現代日本から転生転移してきた人物であるが、そもそも転生した世界がここ魔王ギルの世界ではない。
魔王デムスの世界の住人であったユリが、マジボラと合流した淫魔部隊を監視する為に同行してきたのである。
当初は明確に淫魔部隊への敵意を見せていたユリだったが、ギルの世界に来て淫魔部隊と寝食を共にしてきた事で、若干彼女らへの棘は丸くなった様にも思えた。
もしこのまま転移してアグエラ達を「もう用済みだ」とばかりに襲いかかる可能性が最も高いのはユリであるのだが……。
「あたしの世界でゴタゴタ起こさないって約束できるなら良いわよ?」
「約束しますよぉ、アグエラ達もこれ以上悪さをしないなら見逃すから…」
手を合わせて赤べこ人形の様にコクコクと頷くユリの懇願に、指でOKマークを作る睦美。ユリはほっとした表情を浮かべて《転移門》に入っていった。
次いで御影、久子、野々村、鍬形が《転移門》に入り、蘭の番となった。
「何か言いたい事はあるかしら…?」
「ご迷惑をおかけして、申し訳ありませんでした…」
蘭は睦美にゆっくりと、そして深々と頭を下げた。睦美は蘭の裁定は始めからつばめに任せるつもりだったので、つばめの方へ目を遣る。
つばめも睦美の思惑を分かっているようで、ニッコリと笑って大きく頷いた。
「…行きなさい」
つばめの裁定に従い、睦美は蘭を《転移門》へ通した。蘭は再度頭を下げて《転移門》の奥へと消えて行く。
「さて、つばめ達はリア充罪で居残り決定ね。達者で暮らしなさい」
「今そんなボケ要らねぇんですよ! コントにもTPOを考えて下さい!!」
つばめ達を残して《転移門》に入ろうと背を向けた睦美に、つばめの激しいツッコミが炸裂する。
プンスコと睦美を無視してつばめは沖田を引っ張る様に《転移門》へと消えて行く。
『つばめ、強くなったわねぇ… 何かやりにくいわ…』
つばめ達を見送った睦美はつまらなそうに口を尖らせていた。
「…………」
「アンタにも世話になったわね。アンタのお陰で魔王も倒せたし、お兄様にも会えた…」
最後に残った大豪院にしみじみ語る睦美。だが大豪院は睦美を無視して後方を気にしていた。
「…どしたの?」
「いや、まだ何かありそうでな…」
大豪院は周囲を見回して、まだ見ぬ何かを警戒する素振りを見せる。
「ちょっと、不吉なこと言うのやめて。フラグ立ったらどうすんのよ? さっさと帰るわよ」
睦美の言葉に促される様に、大豪院も憂いを払って《転移門》に入って行った。
睦美は最後に崩れゆく魔王ギルの世界を目に焼き付ける。極めて危険な作戦にも関わらず完全にやり遂げた。しかも誰も死なせずにだ。
束の間の勝利の余韻を味わった睦美は、鼻でフッと笑って《転移門》に消える。睦美に続いて近衛のアンドレが殿として帰還の途に着いた。
睦美らの去った後、彼らの居た場所のすぐ近くにあったはずの掌サイズの水溜まりが、いつの間にか無くなっていた……。
見覚えのある光につばめが蘭に顔を向け確認を求める。
「う、うん… どうだろう…?」
蘭は未だに居心地の悪い思いをしていた。つばめとの勝負に敗れ、颯爽と去ってこの世から消えようとしてすらいた所を秒でアグエラに連れ戻されたのだから、バツが悪いにも程がある。
「アグエラさん! きっとあの光の下にみんな居ると思います。あそこに飛べますか?」
「OK、見えている所なら朝飯前よ…」
つばめの提案にアグエラもしたり顔で応える。
アグエラが空中に手で紋様を描く仕草をして2、3の言葉を唱えたら、ぼんやりとそこに《転移門》が出現した。
最初にアグエラが入り次に沖田が入る。つばめが入ろうとするタイミングで、自分も入って良いものか未だ逡巡している蘭の方を振り向き、ニコリと笑って手を差し伸べた。
「蘭ちゃん、一緒に帰ろう!」
蘭はつばめの笑顔を直視出来ない。そんな風に手を差し出される資格なぞ無いと分かっている。
新しい蘭の『人生を仕切り直す』という話は、友人関係も全てリセットしてという意味でもある。蘭は別の高校に転校して、つばめや沖田とも物理的に距離を取るつもりでいたのだ。
『今回の件、もしも立場が逆だったら私は絶対につばめちゃんを許せない。それなのに、何故つばめちゃんは酷い事をしてきた私にそんな顔が出来るの? 手を伸ばせるの? バカなの? ……それとも天使とか神様なの?』
蘭の頭もまとまらない。つばめの事は変わらず好きだが、もう馴れ合って友達面出来る間柄では無いと思っていた。もう二度と親しい会話など交わせる日は来ないだろう、それほどまでにつばめの恨みを買ったと覚悟していた。
だがしかし、つばめは屈託のない笑顔で蘭に「帰ろう」と手を伸ばした。まるで何事も無かったかのように……。
『本当に私の完敗だ… つばめちゃんは私なんかの器で測れる様な子じゃ無かったよ…』
蘭は完全に脱力しきって疲れ果てた様な笑顔を浮かべ、「うんっ!」とつばめの手を握り返した。
☆
「ようやく来たわね。アタシを待たせるとか後で折檻決定ね! …それでカタは着いたの…?」
つばめを迎えた睦美が懐かしい感じで悪態をつく。睦美への回答には、つばめと沖田が手を繋いで現れた事で一目瞭然であった。次いで現れた蘭の表情も予想していた程に深刻な物ではなかった事に、睦美だけでなく(大豪院を除く)他の面々も安堵の表情を覗かせた。
「ちょっと良いかしら…?」
全員集合し『さぁ帰るか』となったタイミングでアグエラが挙手する。何か言いたい事があるらしい。
「この転移の輪に私達『淫魔部隊』も入れてもらって平気なの? もし向こうで魔族狩りに遭うとかなら少し考えないと…」
アグエラの注意に淫魔部隊の顔色が一斉に曇る。地獄を抜けた先でまた別の地獄に見舞われるのであれば、そもそも睦美の作った《転移門》を抜けない方が良い。
たった今、《転移門》の魔法で魔力を使い切っているアグエラが次の《転移門》を開ける様になるまでに、世界が崩壊せずに間に合えば、の話だが。
「アンタ達の処遇は後で考えてやるから、今はさっさとこの中に入りなさい。少なくとも後ろからいきなり襲う様な事はしないわよ」
睦美の言葉もにわかには信じ難いものがあるが、今この場に残っても待っているのは『確実な死』だけである。
《転移門》を抜けた先で『不確実な死』が待っていたとしても、現状よりはまだマシな話だろう。
「…感謝するわ。行くわよアンタ達」
アグエラを筆頭に次々と淫魔部隊の面々が《転移門》の奥に消えて行く。
「えーと、私も乗っかって良いんですよね? 残されたら死んじゃうし…」
お次の議題提供はユリである。ユリは現代日本から転生転移してきた人物であるが、そもそも転生した世界がここ魔王ギルの世界ではない。
魔王デムスの世界の住人であったユリが、マジボラと合流した淫魔部隊を監視する為に同行してきたのである。
当初は明確に淫魔部隊への敵意を見せていたユリだったが、ギルの世界に来て淫魔部隊と寝食を共にしてきた事で、若干彼女らへの棘は丸くなった様にも思えた。
もしこのまま転移してアグエラ達を「もう用済みだ」とばかりに襲いかかる可能性が最も高いのはユリであるのだが……。
「あたしの世界でゴタゴタ起こさないって約束できるなら良いわよ?」
「約束しますよぉ、アグエラ達もこれ以上悪さをしないなら見逃すから…」
手を合わせて赤べこ人形の様にコクコクと頷くユリの懇願に、指でOKマークを作る睦美。ユリはほっとした表情を浮かべて《転移門》に入っていった。
次いで御影、久子、野々村、鍬形が《転移門》に入り、蘭の番となった。
「何か言いたい事はあるかしら…?」
「ご迷惑をおかけして、申し訳ありませんでした…」
蘭は睦美にゆっくりと、そして深々と頭を下げた。睦美は蘭の裁定は始めからつばめに任せるつもりだったので、つばめの方へ目を遣る。
つばめも睦美の思惑を分かっているようで、ニッコリと笑って大きく頷いた。
「…行きなさい」
つばめの裁定に従い、睦美は蘭を《転移門》へ通した。蘭は再度頭を下げて《転移門》の奥へと消えて行く。
「さて、つばめ達はリア充罪で居残り決定ね。達者で暮らしなさい」
「今そんなボケ要らねぇんですよ! コントにもTPOを考えて下さい!!」
つばめ達を残して《転移門》に入ろうと背を向けた睦美に、つばめの激しいツッコミが炸裂する。
プンスコと睦美を無視してつばめは沖田を引っ張る様に《転移門》へと消えて行く。
『つばめ、強くなったわねぇ… 何かやりにくいわ…』
つばめ達を見送った睦美はつまらなそうに口を尖らせていた。
「…………」
「アンタにも世話になったわね。アンタのお陰で魔王も倒せたし、お兄様にも会えた…」
最後に残った大豪院にしみじみ語る睦美。だが大豪院は睦美を無視して後方を気にしていた。
「…どしたの?」
「いや、まだ何かありそうでな…」
大豪院は周囲を見回して、まだ見ぬ何かを警戒する素振りを見せる。
「ちょっと、不吉なこと言うのやめて。フラグ立ったらどうすんのよ? さっさと帰るわよ」
睦美の言葉に促される様に、大豪院も憂いを払って《転移門》に入って行った。
睦美は最後に崩れゆく魔王ギルの世界を目に焼き付ける。極めて危険な作戦にも関わらず完全にやり遂げた。しかも誰も死なせずにだ。
束の間の勝利の余韻を味わった睦美は、鼻でフッと笑って《転移門》に消える。睦美に続いて近衛のアンドレが殿として帰還の途に着いた。
睦美らの去った後、彼らの居た場所のすぐ近くにあったはずの掌サイズの水溜まりが、いつの間にか無くなっていた……。
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