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第十三章(最終章)
第185話 してんのう
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倒れたまま動きを止めたゲルルゲスを前にして、満身創痍ながらもすっくと立ち上がり大きく息を吐くアンドレ。
「大義よアンドレ、よく勝ってくれたわ。でもどうやったの?」
主君である睦美がアンドレを祝勝する。立ち上がったアンドレは再び睦美の前で膝を付き頭を垂れる。
「ありがとうございます睦美様。足の裏の装甲は薄いと踏んで地面から気を流し込む一か八かの作戦だったのですが、成功して良かったです」
「ホントですよぉ。もしあの技で倒しきれなかったらどうなっていたことやら…」
アンドレの報告も久子には冷や汗物でしか無かったらしい。心配しすぎて半泣きになっていた。
「何にせよ無事で良かったわ。さて…」
睦美の残忍な視線は残った魔族兵の残党に向けられる。
精神的支柱である四天王ゲルルゲスのまさかの敗北と、更に睦美の殺気を感じ取った兵達は戦意を喪失し、一気に崩壊して悲鳴を上げながら我先にと蜘蛛の子を散らす様に逃走を始めた。
逃げる敵兵士に向けて睦美が追撃を掛けようとした所で、兵士らに異変が起こる。
皆一様に足を止め、その場で胸を押さえながら苦しそうに倒れていったのだ。
「お前達それでも映えある魔王軍の兵士なの? 情けない…」
兵士達が逃げ去って行った道の向こう、門を超え魔王城へと続く暗い山道に若い女の様な声が響く。
やがて何者かの影が山道の奥から姿を現してくる。ゴシックロリータ調の赤黒い衣装に身を包んだ若い女と、杖をついた身長1m程の子供かと見紛う程の老人である。
よく見れば女の頭には牡羊の様な巻いた角があり、老人の背後にはその身長よりも長そうな、鱗を纏った爬虫類の尻尾が生えていた。
「あんた達、『あの』ゲルルゲスを倒すなんて大したものだね。でも変な鎧に頼らなきゃ禄に戦えない奴なんて…」
「四天王の中でも最弱じゃよ、ほっほっほ…」
女の後に老人が話を続け笑い声を上げる。新たな敵の出現に身構える睦美達。
「まぁでもあたし達が来るまで時間を稼いだ所は評価してあげても良いかなぁ…? ねぇ御爺?」
「ほっほっほ、そうじゃの御嬢。さすがの儂でもこやつらの狼藉にすぐ対応できる素早い転移は出来んかったわ」
2人は余裕の笑みを浮かべたまま睦美達に向き直る。
「自己紹介が遅れたわね。あたしは魔王軍四天王のバ…」
魔族女の言葉が途切れる。その直後物言わぬ女の首がグラリと揺れたかと思うと、そのまま地面に落下した。
「敵の前でグダグダとくっ喋ってんじゃないわよ…」
睦美の声が魔族女の背後から聞こえた。睦美が魔族女の名乗りの瞬間に、神速の剣技で彼女の首を斬り落としたのだ。
すぐ隣で相棒を斬首された魔族翁であるが、「ほぉ」と一言放っただけで恐らくは魔法の類であろう、素早く空中に飛び上がって行った。
動きを見せた魔族翁へ睦美達の視線が集まるが、それは睦美達への陽動であった。
睦美達3人は目に見えない糸の様な物で一瞬にして手足を拘束されてしまう。
「人が名乗りを上げている所を攻撃するとか野蛮ねぇ。どんな教育を受けてきたのかしら…?」
地面に落ちたはずの魔族女の首が声を発する。人間の常識ではあり得ない事であるが、油小路の例もあって魔族の生態は一様には語れないものがある。
魔族女の体は大の字になり、両手共に大きく開かれている。横を向いていた頭は首は不自然に飛び上がり、体の上、本来頭のあった正位置に帰還する。
「では改めて自己紹介するわ。あたしは魔王軍四天王のバララ。空に浮いてるお爺ちゃんは同じく四天王のドレフォザよ」
バララが悠長に口上を述べていられるのも、睦美達が全く身動きが取れないほどに拘束されているからだ。
当然大人しく捕まっている睦美達ではないが、彼らを捕らえている糸状の物は睦美の剣でも久子の怪力でもアンドレの気でも切れない強靭さを持っていた。
「このままあたしの『糸』で微塵切りにしてやっても良いんだけど、御爺の魔法で焼死するなり凍死するなり感電死するなり選ばせてあげる。下っ端とはいえゲルルゲスを倒したんだもの、そのくらいの慈悲は与えてあげるわ…」
圧倒的強者の余裕であろうか、バララの言葉はこれから行われる惨劇の光景を予想して恍惚感すら得ている様であった。
「ざっけんな…」
睦美は呪い殺そうかという勢いでバララを睨みつけるが、現状何の抵抗も出来ずにいる。その無念が睦美の目に涙を滲ませていた。
「あははははははっ! 良いねその精一杯突っ張って無理している顔。大好き! じゃああんたは最後に殺してあげる。最初はアンドレを丸焼きにして、それから小さい女を八つ裂きにしてあげるよ!!」
徐々に狂気を帯びるバララの声。そして地上より10m程浮き上がったドレフォザは、両手を上に掲げ魔法の詠唱らしきものを始める。
やがてドレフォザの頭上に彼の体と同規模の火球が発生した。後は彼が上げた両手を振り下ろせばその火球が降ってくる仕組みなのだろう。
ここで睦美は決して「仲間を殺すなら自分から殺せ」などと感傷的な事は言わない。例え長年連れ添ってきた家臣である久子やアンドレを切り捨ててでも、自身は生き残って王国復活の礎とならねばならないからだ。
もちろんそれは久子やアンドレも了解している。自分を犠牲にする事で睦美を救えるならば、彼らは喜んで命を捧げるだろう。
だが今は最悪すぎた。3人ともが身動きを封じられて火球に焼かれるのを待つしかない状況では、誰かが犠牲になっても睦美を助ける事は出来ない……。
「ほっほっほ、ではご機嫌よう。地獄で会おうぞ」
ドレフォザの両手が振り下ろされる。しかも狙った先はアンドレではなく睦美の足元だった。
まず睦美を半殺しにしてから家臣の処刑を見せつけるというドレフォザの悪趣味なアドリブであったが、逆にそれが功を奏した。
迫る火球に覚悟を決めて目を閉じる睦美。しかし予想された熱波は睦美へは届かずに直前で消滅した。
『何事か?』と恐る恐る目を開けた睦美の前には巨漢が立っていた。
その左手は焦がした人の肉の焼臭を放っており、睦美に向けて放たれた火球を握り潰したものと思われた。
「全く、お前はいつも無茶をして俺を困らせる。そんなんじゃ立派な姫にはなれんぞ、ムッチー…」
そこに立っていたのは紛れもなく大豪院だった。だが大豪院とは明らかに違う優しい眼力を持った別の男が睦美には見えていた。
「大義よアンドレ、よく勝ってくれたわ。でもどうやったの?」
主君である睦美がアンドレを祝勝する。立ち上がったアンドレは再び睦美の前で膝を付き頭を垂れる。
「ありがとうございます睦美様。足の裏の装甲は薄いと踏んで地面から気を流し込む一か八かの作戦だったのですが、成功して良かったです」
「ホントですよぉ。もしあの技で倒しきれなかったらどうなっていたことやら…」
アンドレの報告も久子には冷や汗物でしか無かったらしい。心配しすぎて半泣きになっていた。
「何にせよ無事で良かったわ。さて…」
睦美の残忍な視線は残った魔族兵の残党に向けられる。
精神的支柱である四天王ゲルルゲスのまさかの敗北と、更に睦美の殺気を感じ取った兵達は戦意を喪失し、一気に崩壊して悲鳴を上げながら我先にと蜘蛛の子を散らす様に逃走を始めた。
逃げる敵兵士に向けて睦美が追撃を掛けようとした所で、兵士らに異変が起こる。
皆一様に足を止め、その場で胸を押さえながら苦しそうに倒れていったのだ。
「お前達それでも映えある魔王軍の兵士なの? 情けない…」
兵士達が逃げ去って行った道の向こう、門を超え魔王城へと続く暗い山道に若い女の様な声が響く。
やがて何者かの影が山道の奥から姿を現してくる。ゴシックロリータ調の赤黒い衣装に身を包んだ若い女と、杖をついた身長1m程の子供かと見紛う程の老人である。
よく見れば女の頭には牡羊の様な巻いた角があり、老人の背後にはその身長よりも長そうな、鱗を纏った爬虫類の尻尾が生えていた。
「あんた達、『あの』ゲルルゲスを倒すなんて大したものだね。でも変な鎧に頼らなきゃ禄に戦えない奴なんて…」
「四天王の中でも最弱じゃよ、ほっほっほ…」
女の後に老人が話を続け笑い声を上げる。新たな敵の出現に身構える睦美達。
「まぁでもあたし達が来るまで時間を稼いだ所は評価してあげても良いかなぁ…? ねぇ御爺?」
「ほっほっほ、そうじゃの御嬢。さすがの儂でもこやつらの狼藉にすぐ対応できる素早い転移は出来んかったわ」
2人は余裕の笑みを浮かべたまま睦美達に向き直る。
「自己紹介が遅れたわね。あたしは魔王軍四天王のバ…」
魔族女の言葉が途切れる。その直後物言わぬ女の首がグラリと揺れたかと思うと、そのまま地面に落下した。
「敵の前でグダグダとくっ喋ってんじゃないわよ…」
睦美の声が魔族女の背後から聞こえた。睦美が魔族女の名乗りの瞬間に、神速の剣技で彼女の首を斬り落としたのだ。
すぐ隣で相棒を斬首された魔族翁であるが、「ほぉ」と一言放っただけで恐らくは魔法の類であろう、素早く空中に飛び上がって行った。
動きを見せた魔族翁へ睦美達の視線が集まるが、それは睦美達への陽動であった。
睦美達3人は目に見えない糸の様な物で一瞬にして手足を拘束されてしまう。
「人が名乗りを上げている所を攻撃するとか野蛮ねぇ。どんな教育を受けてきたのかしら…?」
地面に落ちたはずの魔族女の首が声を発する。人間の常識ではあり得ない事であるが、油小路の例もあって魔族の生態は一様には語れないものがある。
魔族女の体は大の字になり、両手共に大きく開かれている。横を向いていた頭は首は不自然に飛び上がり、体の上、本来頭のあった正位置に帰還する。
「では改めて自己紹介するわ。あたしは魔王軍四天王のバララ。空に浮いてるお爺ちゃんは同じく四天王のドレフォザよ」
バララが悠長に口上を述べていられるのも、睦美達が全く身動きが取れないほどに拘束されているからだ。
当然大人しく捕まっている睦美達ではないが、彼らを捕らえている糸状の物は睦美の剣でも久子の怪力でもアンドレの気でも切れない強靭さを持っていた。
「このままあたしの『糸』で微塵切りにしてやっても良いんだけど、御爺の魔法で焼死するなり凍死するなり感電死するなり選ばせてあげる。下っ端とはいえゲルルゲスを倒したんだもの、そのくらいの慈悲は与えてあげるわ…」
圧倒的強者の余裕であろうか、バララの言葉はこれから行われる惨劇の光景を予想して恍惚感すら得ている様であった。
「ざっけんな…」
睦美は呪い殺そうかという勢いでバララを睨みつけるが、現状何の抵抗も出来ずにいる。その無念が睦美の目に涙を滲ませていた。
「あははははははっ! 良いねその精一杯突っ張って無理している顔。大好き! じゃああんたは最後に殺してあげる。最初はアンドレを丸焼きにして、それから小さい女を八つ裂きにしてあげるよ!!」
徐々に狂気を帯びるバララの声。そして地上より10m程浮き上がったドレフォザは、両手を上に掲げ魔法の詠唱らしきものを始める。
やがてドレフォザの頭上に彼の体と同規模の火球が発生した。後は彼が上げた両手を振り下ろせばその火球が降ってくる仕組みなのだろう。
ここで睦美は決して「仲間を殺すなら自分から殺せ」などと感傷的な事は言わない。例え長年連れ添ってきた家臣である久子やアンドレを切り捨ててでも、自身は生き残って王国復活の礎とならねばならないからだ。
もちろんそれは久子やアンドレも了解している。自分を犠牲にする事で睦美を救えるならば、彼らは喜んで命を捧げるだろう。
だが今は最悪すぎた。3人ともが身動きを封じられて火球に焼かれるのを待つしかない状況では、誰かが犠牲になっても睦美を助ける事は出来ない……。
「ほっほっほ、ではご機嫌よう。地獄で会おうぞ」
ドレフォザの両手が振り下ろされる。しかも狙った先はアンドレではなく睦美の足元だった。
まず睦美を半殺しにしてから家臣の処刑を見せつけるというドレフォザの悪趣味なアドリブであったが、逆にそれが功を奏した。
迫る火球に覚悟を決めて目を閉じる睦美。しかし予想された熱波は睦美へは届かずに直前で消滅した。
『何事か?』と恐る恐る目を開けた睦美の前には巨漢が立っていた。
その左手は焦がした人の肉の焼臭を放っており、睦美に向けて放たれた火球を握り潰したものと思われた。
「全く、お前はいつも無茶をして俺を困らせる。そんなんじゃ立派な姫にはなれんぞ、ムッチー…」
そこに立っていたのは紛れもなく大豪院だった。だが大豪院とは明らかに違う優しい眼力を持った別の男が睦美には見えていた。
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