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第十三章(最終章)
第175話 やぼう
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『まさかこんな形で魔王と大豪院が出会うとは… ここにはユリの勇者もいるし、アンコクミナゴロシ王国の生き残りもいる。イレギュラーが多すぎて流れが読めん。万が一にも魔王が討たれる様な事があっては長年温めてきた私の計画も全て水の泡だ…』
油小路は冷徹に事態の推移を観察する。彼の考える通りここで魔王が敗れてしまったら、彼の野望はここでそのまま無惨に潰える事になる。
☆
油小路の野望、それは『魔王の持つ強大な肉体を乗っ取って自らの物とし、無敵の力を手に入れる』事である。
その為にただの魔族の若者に過ぎなかったギルを焚き付けて、最初は山賊の真似事をさせた。
その当時のギルの世界では、魔族は人間の奴隷の様な位置に置かれて労働力や各種欲望の捌け口として消費され続ける立場にあり、魔族達の人間への憎しみはただならぬ物があった。
人間の商人や旅人を襲って身ぐるみを剥ぐ、或いは殺して食料として食べてしまう。
そんな凶暴な魔族の山賊団が近くに住み着いたのでは人間側としては堪らない。初めは『冒険者』と嘯く数人のならず者集団が何度となく山賊討伐の為に送られてきたが、山賊の頭目となったギルは難なく彼らを撃退した。
業を煮やした当該地方の領主は100名近い数の配下の兵士を送り込んで山賊団の鎮圧を目指したが、既に要塞化された山賊団の砦を攻略する事が出来ずに撤退を余儀なくされた。
事ここに至って世界中で『人間を撃退し続けている魔族の部隊がいる』という噂が流れ、人間からの保護を求めて来たり、配下となるべく馳せ参じた者や頭目のギルを倒して成り代わろうと画策する者らが集まってくる。
彼らを保護し兵として訓練し、ヤンキー漫画よろしくギルに挑んで降した相手を配下に加え、と徐々に勢力を拡大していくギルの山賊団。
その中で油小路はフィジカルに100%振り切って頭脳労働の苦手なギルの参謀として、その地位を確立させていた。
やがて団の規模は非戦闘員を含めて1万に達し、ちょっとした《国》を名乗れる程にまでなっていた。
いつまでも山賊団では外面がよろしくないと考えた油小路は、これを機にギルに《魔王》を名乗らせる。
はれて『魔王軍』となったギルの軍勢は周辺の国々を襲撃、その卓越した腕力で人間の国を次々と滅ぼして版図を広げていく。
そして油小路は魔王に仕立て上げた青年の力を育成するかの様に慎重にギリギリ勝てるレベルの難敵をぶつけ続けた。
その世界での人間の領域がかつての1割ほどにまで縮小し、魔王ギルが世界の王となる直前で転機が訪れた。
『勇者』と呼ばれる少年が何処ともなく現れて、魔王軍に戦いを挑んできたのだ。
最初期の『冒険者』の様な数人のゴロツキ連中と高を括っていた魔王軍は、拠点を持たない『勇者』のゲリラ作戦に悩まされ、幹部を1人、また1人と失っていった。
終いには魔王ギルの居城にまでも攻め寄られるもギル本人の戦闘力のおかげで何とか事無きを得た。
勇者とその一党に甚大な被害を受けながらも魔王ギルは世界を掌握し、その世界ではついに魔族の敵である人間は絶滅させられた。
油小路はこの強大な『勇者』の存在の裏に天界の神々の影を見る。いずれ第2第3の勇者が異世界から現れて、いつの日か魔王ギルが討たれる日が来るかも知れない。
そうなってはせっかく何年も育て続けた計画が無駄になる。そう考えた油小路は『他の世界』にも魔王軍を『輸出』する事を考える。
《転移門》の魔法を使い異世界で既に力を奮っている魔族や、虐げられている魔族と同様の被虐存在に軍勢や魔法の知識を与えて人間界への決起を促した。
更に異世界間で『勇者』に打撃を受けた時は互いに兵を出し合って救援する取り決めや、普段は互いの世界には不干渉である事などを決めて、「魔王ギルドラバキゴツデムス」という連合体を作り上げた。
同時に多数の世界で同一の魔王が暴れだした事態に神々も混乱し、幾つもの勇者が散発的に生み出されては玉砕していった。
そんな状況の中で天界の神々の決戦兵器として命を授かったのが大豪院覇皇帝という訳である。
『究極に育った魔王ギルと、神の最終兵器である大豪院覇皇帝を戦わせて、互いに体力を削り合ってもらい、弱ったギルの体を乗っ取り、返す刀で同じく弱った大豪院を抹殺、最終的に天界に攻め込み私が世界を統べる神となる』
これこそが油小路の目的であり、野望である。
油小路自身は液体の体を持ち物理攻撃にはとても高い耐性を見せるが、攻撃力や魔法の力は魔王や神々と比較できる物ではない。
自身の持つ『知能』と魔王の『体』を合成させ、最強の魔族となって神をも凌駕する事が油小路の本懐であった。
『まだ勇者としての資質を持たない大豪院では魔王ギルは倒せない。だが大豪院によって傷を追わされてからユリの勇者にトドメを刺される事は十分にあり得る。それだけは回避したい…』
油小路にとって幸いな事に、ユリのやらかしによって蘭とユリの戦いは一進一退を繰り返しながらも未だ続いていた。
そして大豪院と魔王ギルの力比べは、伯仲したまま両者ともにその場を動かない。
睦美達も魔王の存在感に圧倒されながら手を出せないままでいる。
誰もが魔王達に注目し油小路への視線が途切れた今、先程仕留め損なった睦美を殺すには絶好の機会と言えるだろう。
静かに右腕を刃の形にした油小路が睦美との距離を詰める。だがその瞬間に油小路の右腕は肘から先がボトリと地面に落ちた。
攻撃があったと思われた方向に目を遣る油小路。その視線の先には、指鉄砲の仕草をした怒りに燃える瞳を備えたアグエラが立っていた。
油小路は冷徹に事態の推移を観察する。彼の考える通りここで魔王が敗れてしまったら、彼の野望はここでそのまま無惨に潰える事になる。
☆
油小路の野望、それは『魔王の持つ強大な肉体を乗っ取って自らの物とし、無敵の力を手に入れる』事である。
その為にただの魔族の若者に過ぎなかったギルを焚き付けて、最初は山賊の真似事をさせた。
その当時のギルの世界では、魔族は人間の奴隷の様な位置に置かれて労働力や各種欲望の捌け口として消費され続ける立場にあり、魔族達の人間への憎しみはただならぬ物があった。
人間の商人や旅人を襲って身ぐるみを剥ぐ、或いは殺して食料として食べてしまう。
そんな凶暴な魔族の山賊団が近くに住み着いたのでは人間側としては堪らない。初めは『冒険者』と嘯く数人のならず者集団が何度となく山賊討伐の為に送られてきたが、山賊の頭目となったギルは難なく彼らを撃退した。
業を煮やした当該地方の領主は100名近い数の配下の兵士を送り込んで山賊団の鎮圧を目指したが、既に要塞化された山賊団の砦を攻略する事が出来ずに撤退を余儀なくされた。
事ここに至って世界中で『人間を撃退し続けている魔族の部隊がいる』という噂が流れ、人間からの保護を求めて来たり、配下となるべく馳せ参じた者や頭目のギルを倒して成り代わろうと画策する者らが集まってくる。
彼らを保護し兵として訓練し、ヤンキー漫画よろしくギルに挑んで降した相手を配下に加え、と徐々に勢力を拡大していくギルの山賊団。
その中で油小路はフィジカルに100%振り切って頭脳労働の苦手なギルの参謀として、その地位を確立させていた。
やがて団の規模は非戦闘員を含めて1万に達し、ちょっとした《国》を名乗れる程にまでなっていた。
いつまでも山賊団では外面がよろしくないと考えた油小路は、これを機にギルに《魔王》を名乗らせる。
はれて『魔王軍』となったギルの軍勢は周辺の国々を襲撃、その卓越した腕力で人間の国を次々と滅ぼして版図を広げていく。
そして油小路は魔王に仕立て上げた青年の力を育成するかの様に慎重にギリギリ勝てるレベルの難敵をぶつけ続けた。
その世界での人間の領域がかつての1割ほどにまで縮小し、魔王ギルが世界の王となる直前で転機が訪れた。
『勇者』と呼ばれる少年が何処ともなく現れて、魔王軍に戦いを挑んできたのだ。
最初期の『冒険者』の様な数人のゴロツキ連中と高を括っていた魔王軍は、拠点を持たない『勇者』のゲリラ作戦に悩まされ、幹部を1人、また1人と失っていった。
終いには魔王ギルの居城にまでも攻め寄られるもギル本人の戦闘力のおかげで何とか事無きを得た。
勇者とその一党に甚大な被害を受けながらも魔王ギルは世界を掌握し、その世界ではついに魔族の敵である人間は絶滅させられた。
油小路はこの強大な『勇者』の存在の裏に天界の神々の影を見る。いずれ第2第3の勇者が異世界から現れて、いつの日か魔王ギルが討たれる日が来るかも知れない。
そうなってはせっかく何年も育て続けた計画が無駄になる。そう考えた油小路は『他の世界』にも魔王軍を『輸出』する事を考える。
《転移門》の魔法を使い異世界で既に力を奮っている魔族や、虐げられている魔族と同様の被虐存在に軍勢や魔法の知識を与えて人間界への決起を促した。
更に異世界間で『勇者』に打撃を受けた時は互いに兵を出し合って救援する取り決めや、普段は互いの世界には不干渉である事などを決めて、「魔王ギルドラバキゴツデムス」という連合体を作り上げた。
同時に多数の世界で同一の魔王が暴れだした事態に神々も混乱し、幾つもの勇者が散発的に生み出されては玉砕していった。
そんな状況の中で天界の神々の決戦兵器として命を授かったのが大豪院覇皇帝という訳である。
『究極に育った魔王ギルと、神の最終兵器である大豪院覇皇帝を戦わせて、互いに体力を削り合ってもらい、弱ったギルの体を乗っ取り、返す刀で同じく弱った大豪院を抹殺、最終的に天界に攻め込み私が世界を統べる神となる』
これこそが油小路の目的であり、野望である。
油小路自身は液体の体を持ち物理攻撃にはとても高い耐性を見せるが、攻撃力や魔法の力は魔王や神々と比較できる物ではない。
自身の持つ『知能』と魔王の『体』を合成させ、最強の魔族となって神をも凌駕する事が油小路の本懐であった。
『まだ勇者としての資質を持たない大豪院では魔王ギルは倒せない。だが大豪院によって傷を追わされてからユリの勇者にトドメを刺される事は十分にあり得る。それだけは回避したい…』
油小路にとって幸いな事に、ユリのやらかしによって蘭とユリの戦いは一進一退を繰り返しながらも未だ続いていた。
そして大豪院と魔王ギルの力比べは、伯仲したまま両者ともにその場を動かない。
睦美達も魔王の存在感に圧倒されながら手を出せないままでいる。
誰もが魔王達に注目し油小路への視線が途切れた今、先程仕留め損なった睦美を殺すには絶好の機会と言えるだろう。
静かに右腕を刃の形にした油小路が睦美との距離を詰める。だがその瞬間に油小路の右腕は肘から先がボトリと地面に落ちた。
攻撃があったと思われた方向に目を遣る油小路。その視線の先には、指鉄砲の仕草をした怒りに燃える瞳を備えたアグエラが立っていた。
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