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第十二章

第160話 ぶりーふぃんぐ

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 日曜日の深夜、武藤ら警察や大豪院らも含むマジボラ関係者全員に久子の携帯からメールが届く。
 
 それは『異界へ飛ぶ境界門ゲートの解析が完了したので、沖田救出作戦に参加する有志を募る』といった内容の物だった。
 またそれには『作戦の成功率は未知数であること』や『かかる時間も未定なら五体満足で帰れる保証も無い』事なども併記されており、冗談抜きで決死隊の様相を呈していた。
 
「さて、何人集まるかしらね? 最悪命の危険もあって、いつ帰れるか、そもそも本当に帰れるかどうかも分からない作戦に…」

 睦美らのアパート、睦美が自虐的な笑みを浮かべて楽しそうに言う。当初の想定とは違って来ているが、十数年の歳月をかけて準備した反撃の第一歩だ。昂ぶらない訳が無い。

「睦美さまぁ、こんな脅しみたいなメール送って、もし誰も来なかったらどうするんですか?」 

 メールを関係者全員に一斉送信した久子も不安げな表情を隠せない。
 今この六畳一間の狭い部屋に居るのは2人だけ。後輩たちの前では元気に気丈に振る舞っていた久子だが、きたる戦いに不安を隠せないでいた。

 その久子の不安を感じ取ったのか、睦美も普段以上に険しい顔をしている。

「どうもこうもそうなったらアタシらだけでやるしか無いでしょ。つばめは行きたがるでしょうけど、これ以上は…」

「はい、つばめちゃんにはメールを送っていません… でもつばめちゃんが来なかったら大豪院君も来ないかも知れないから、戦力大幅ダウンになりますねぇ…」

「…とりあえず今回は沖田を救出する事を第一に考えて派手な行動は避けましょう。そう考えると目立つ大豪院は連れて行かないオプションも十分ありえるわ」

「なるほど。そうしたら私達とアンドレ先生の3人で行くのが現実的ですかねぇ…? ところで睦美さま、大豪院くんがガイラムさまの生まれ変わりって本当なんですかねぇ?」

 久子の唐突な話題変更に驚く睦美。睦美自身、まだ兄のガイラムの魂が大豪院に宿っているとはにわかに信じられないでいた。

 魔法が盛んに使われていたアンコクミナゴロシ魔法王国でも『生まれ変わり』等の現象及びその存在が信じられてはいるものの、体系建てて理論が構築されてきた訳ではない。

 ただ、アンドレの言うようにガイラムにしか使えなかった技を、何の訓練もなく使ってみせた大豪院がガイラムと全くの無関係であるとも断言出来ないという浮わついた状況だったのである。

「…今は大豪院あいつの正体を気にしている暇はないわ。あいつがお兄様であっても無くてもやる事は変わらない… でもアタシ達の感じた懐かしさが『そういう事』ならば少し勇気が出るわね」

「はい! ガイラムさまが見守ってくれているなら勇気100倍ですね!」

 睦美と久子は見合って、2人同時に笑顔をこぼした。

 ☆

 翌日放課後、マジボラ部室に集まったメンバーは、睦美、久子、アンドレ、御影、野々村、武藤、不二子、そして大豪院と鍬形の9名だった。

 最終的なミーティングと各員の意思確認の為の集まりであり、出発は今日の深夜であると睦美が説明をする。

「メールにも書いた通り冗談抜きで命懸けのミッションになるわ。覚悟の無い者は帰ってもらって結構よ」

 睦美の言葉に、その場にいる者達がそれぞれの反応をする。
 御影は相変わらず飄々とした笑顔を浮かべているし、野々村は考えがまとまらないのかトイレに行きたいのか、終始モジモジしている。
 武藤と不二子は今回の作戦に疑義を申し立てるつもりで同席しているのだろう、共に険しい表情をしており、『どちらが先に口火を切って睦美にツッコむか』で牽制している様だった。

 大豪院はいつも通り目を閉じて腕を組んだまま無言であったし、大豪院に付き添ってきた形の鍬形もクラスメイトの沖田救出への熱意はそれなりの物を抱えていた。
 
「まず作戦の概要を教えて欲しいわね。『どこへ』『何をしに』『いつ行って』『いつ帰って』来るのか?を。明確な目標も無く生徒達を危険な目に晒す行為は教育者として看過できないわ」

 参加者側の第一声は不二子だった。不二子とて沖田が誘拐されており、日本の国内法が通用しない相手に対し、警察等に頼れない事情は十二分に理解している。その上で危険な魔界で生徒らの二次被害を避けようと『抑え』に回っていた。

 何より今の状況を一番もどかしく思っているのは他でもない、かつて『爆発』の特性を持ち、今回の作戦に極めて有用と思われる破壊の力を既に失って久しい不二子自身である。
 力が提供できないのなら、知恵で少しでも単細胞で鉄砲玉な睦美と久子を補強したいと考えていた。

 武藤も不二子同様に警察組織としては治外法権である魔界事案に対して『個人的に』協力出来はしないかと考えていた。
 今回の件を放置すると魔法少女や怪人に関する事件はまだ起こるであろうし、それらを根絶する為なら多少の無茶は覚悟の上で臨んでいたのである。

「ふん、『魔界』に『沖田ってガキを助けに』『今晩から』行って『いつ帰れるか分からない』作戦ね。ついでに言うなら境界門ゲートの向こうにくだん沖田くんおうじさまが居るかどうかも未確認よ…」

 予想の遥か下を行く、あまりにも場当たり的な睦美の発言に不二子が絶句する。

 そのわずかに空いた静寂の間に大豪院が口を開いた。

「芹沢つばめが居ないな。あいつはどうした…?」
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